公務員試験の区分には「高卒区分」や「高卒程度」と呼ばれるものが存在します。これらは主に最終学歴が高校卒業で数年以内、または高校卒業見込みである受験生を対象にしたものです。公務員試験は「大卒程度」の採用人数が一般的に多いのですが、高卒程度でも受験できる試験種は数多くあります。
そこで今回は、高卒者が受験できる公務員試験の種類、受験資格、内容などについて紹介しましょう。
公務員試験の「高卒程度」とは?
公務員として国や地方自治体に採用されるには、公務員試験を受験して最終合格する必要があります。公務員や公務員試験の一般的な紹介については、他の記事がありますので、ぜひそちらも参考にしてください。
公務員試験にはさまざまな区分がありますが、原則として試験の難易度ごとに分けられていて、いわゆる「高卒程度」の試験も存在します。
なお、公務員試験は一部を除き、原則として学歴要件が存在しません。ですから、最終学歴が高卒であっても、年齢要件を満たしていれば「大卒程度」の試験を受けることが可能です。したがって、高卒程度の試験は、高校を卒業してすぐに公務員になりたいという方が受験するもの、と考えておくとよいでしょう。
高卒程度の試験は、採用される年の4月1日に原則18~21歳程度を対象にした試験になります。ですから、大学に進学していなくても、高校卒業後の数年間は高卒程度の試験が受験できるわけです。そして、大卒程度の試験は採用される年の4月1日に原則22歳以上であれば受験が可能ですから、高校を卒業してから数年経つと大卒程度試験が受験できる年齢になります。その場合は大卒程度の試験を受験するのが一般的と考えておきましょう。
このように、高卒程度は限られた年齢の間だけ受験ができる試験になっているわけです。
「高卒程度」は「大卒程度」と何が異なる?
高卒程度の試験は、高校卒業後、すぐに公務員として仕事ができるというのが大きな特徴です。では、大卒程度の試験とどのような点が異なるのでしょうか。ここでは代表的な特徴を挙げておきましょう。
1.高卒程度の試験のほうが問題の難易度は低い
公務員試験における「高卒程度」「大卒程度」というのは、一部の試験を除き、原則として学歴要件ではありません。年齢要件で分けられているので、年齢要件さえ満たせば大卒程度の試験でも受験することが可能です。ただし、基本的に問題の難易度で差をつけている点には注意しましょう。
高卒程度の試験は、高校卒業見込み、もしくは高校卒業直後の受験生が受験することになるため、試験問題自体の難易度は大卒程度に比べて低く設定されています。問題の作りが単純になっていることが多く、一般的に対策しやすいといえるでしょう。一方で、大卒程度の試験は問題の難易度を高く設定していますし、専門科目まで課される試験種もあります。対策に手間がかかることは覚悟しなければいけません。この点は高卒程度と大卒程度の大きな違いといえるでしょう。
しかし、近年は公務員型の試験ではなく、民間の採用テストなどを利用している自治体も増加していますので、筆記試験の対策の負担はあまり変わらなくなっています。試験の難易度が簡単だから…というのは、高卒程度の試験を選ぶ判断基準にはあまりならないと考えてよいでしょう。純粋に年齢要件で判断すべきだと思います。
2.年収や待遇の差があり、高卒程度ではキャリアアップしづらい可能性がある
試験問題の難易度よりもむしろ影響が大きいのが、年収や待遇の差だと思います。高卒程度で採用された場合と大卒程度で採用された場合とでは、初任給も変わりますし、キャリアプランも変わると考えたほうがよいでしょう。
参考までに例を挙げると、令和4年度における国家一般職の初任給は、大卒が185,200円なのに対し、高卒は154,600円となっています(実際にはここにさまざまな手当が加わるため、さらに上乗せされます)。他の試験種や地方公務員でも、だいたい3~4万円程度の差がつけられています。したがって、生涯年収は大卒程度より高卒程度のほうが低くなってしまう可能性があることは意識しなければいけません。
参考 https://www.jinji.go.jp/kyuuyo/index_pdf/starting_salary.pdf
また、キャリアパスについても制限が加わることがあります。例えば地方公務員の場合、自治体の政策にまつわる仕事に関われるのは原則として地方上級試験(大卒程度の試験)で採用された職員であり、この人たちが自治体の将来の幹部候補生としてさまざまなキャリアを積むことになります。
ただし、実際にどのようなキャリアプランが描けるかについては、機関や自治体によっても差が大きいため、仕事の中身と合わせて調べていくことをおすすめします。例えば、東京都の高卒程度の試験である「東京都Ⅲ類」で合格した場合、昇任試験は学歴等に関係なく、能力・業績主義に基づいて選考が行われることになっています。主任級職選考はⅢ類で採用された場合でも、採用後9年目から受験が可能です。
3.高卒程度の試験のほうが採用人数は少ない
高卒程度の試験はそもそも限られた年齢の間でだけ受験できる試験であり、受験者数もそこまで多くはありません。したがって、採用人数は大卒程度の試験と比べて絞られていることが多いです。以下は、代表的な高卒程度の試験結果をまとめたものです。
試験種によって大きく異なりますが、なかには最終倍率が大きく上がるものも存在します。特に採用予定数が安定しない試験種の場合は、注意が必要でしょう。
「高卒程度」はどんな試験?
それでは、実際に「高卒程度」の試験がどのような内容なのか、紹介しましょう。ここでは、代表的な試験種として①国家一般職(高卒・事務)と②特別区Ⅲ類の2つを取り上げます。
1.国家一般職(高卒・事務)
⑴ 受験資格
2022年度の試験であれば「2022(令和4)年4月1日において高等学校又は中等教育学校を卒業した日の翌日から起算して2年を経過していない者(2020(令和2)年4月1日以降に卒業した者が該当します。)及び2023(令和5)年3月までに高等学校又は中等教育学校を卒業する見込みの者」となっています。具体例として「高校、中等教育学校の卒業から2年を経過していない者、卒業見込み者」が挙げられています。試験案内に詳細がフローチャートで掲載されていますので、必ず確認するようにしてください。
⑵ 試験日程
2022年度の試験日程は以下のとおりでした。
例年であれば、試験日程はほぼ変動しません。例えば、1次試験は例年9月第1日曜日に実施されています。しかし、国家総合職の試験が、2023年度の試験日程を2週間前倒しすることを発表しています。これに合わせて試験日程に変更が生じる可能性がありますので、くれぐれも注意しましょう。
参考 https://www.jinji.go.jp/kisya/2209/sougousyokushiken.html
POINT 国家一般職(高卒)は、省庁ごとの採用面接も受験すること!
国家一般職は、大卒程度の試験の場合、官庁訪問を行う必要があります。簡単にいうと「採用を希望する省庁に職場訪問をすること」で、ここで内々定を得る必要があるわけですね。
一方、高卒程度の試験でも、採用面接は存在します。採用を希望する官庁の採用面接を受験して、内定を得なければいけません。人事院的には「官庁訪問」という言い方をしていませんが、各省庁では便宜的に「官庁訪問」という言い方で採用面接を実施しています。2022年度の例をいくつか挙げておきましょう。
参考 厚生労働省(厚生行政)
https://www.mhlw.go.jp/general/saiyo/kokka2/kokka2-kousei/recruit_ippannsyoku_kousotu.html
経済産業省
https://www.meti.go.jp/information/recruit/kanchohomon/07.html
なお、文部科学省の本省など、省庁によっては高卒程度の試験で採用を行なっていないところもあります。特に志望度の高い省庁がある場合は、そもそも採用を実施しているのか、事前に確認するようにしましょう。
参考 https://www.jinji.go.jp/saiyo/saiyo/ippan/saiyo_ippan02.html
⑶ 1次試験の概要
1次試験は基礎能力試験と適性試験、作文試験が実施されます(理系の試験区分の場合、さらに専門択一試験も課されます)。
基礎能力試験とは、いわゆる教養択一試験のことで、高校で勉強する内容+αについて、五肢択一式のマークシートの試験が課されるものです。内容は以下のとおりです。ちなみに、「課題処理」とは判断推理のことを指します。「課題処理」には非言語分野として空間把握も含まれています。
公務員として必要な基礎的な能力(知能及び知識)についての筆記試験(出題数合計40題) 知能分野20題 文章理解⑦、課題処理⑦、数的処理④、資料解釈② 知識分野20題 自然科学⑤、人文科学⑨、社会科学⑥ |
適性試験とは、事務処理能力を測る試験で、知識は不要です。ただし、配点割合が設定されていて最終合格にも影響しますので、市販の参考書を利用するなどして、それなりに出題形式に慣れておく必要があります。
速く正確に事務処理を行う能力についての筆記試験(出題数120題)置換・照合・計算・分類などの比較的簡単な問題を限られた時間内に番号順にできるだけ多く解答するスピード検査 |
なお、以下の記事は適性検査をメインに説明したものですが、記事の最後に適性試験についても簡単に紹介しています。ぜひ参考にしてください。
作文試験とは、「文章による表現力、課題に対する理解力」などを測る論述試験です。自分の意見を論述する試験なので、あまり文章を書く機会がなかったり、文章を書くのが苦手だったりする方は書く練習をする必要があるでしょう。
過去の出題例2021年度 国家一般職(高卒)物事を継続するために必要だと感じたことについて、具体的に述べなさい。2022年度 国家一般職(高卒)我が国の社会生活において、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前と比較して大きく変わったと感じたことを具体的に挙げ、それについてあなたの思うことを述べなさい。 |
⑷ 2次試験の概要
2次試験は人物試験(個別面接)が実施されます。ここでの面接は特定の省庁の選考ではないので、原則として「国家公務員として」の自己アピールを心がけましょう。
なお、前述した採用面接(官庁訪問)は、2次試験の前後の時期に実施されることになります。先に官庁訪問で内定を得られたとしても、2次試験が不合格になると、採用されません。油断せずに臨みましょう。
参考 https://www.jinji.go.jp/saiyo/siken/ippannsyoku_kousotsu/kousotsusya/ippann_kousotu.html
2.特別区Ⅲ類
⑴ 受験資格
2022年度の試験であれば「平成13年4月2日から平成17年4月1日までに生まれた人」となっています。純粋に年齢要件のみが設定されています。
⑵ 試験日程
2022年度の試験日程は以下のとおりでした。
例年であれば、試験日程はほぼ変動しません。例えば、1次試験は例年9月第2日曜日に実施されています。しかし、国家総合職の試験が、2023年度の試験日程を2週間前倒しすることを発表しています。これに合わせて試験日程に変更が生じる可能性がありますので、くれぐれも注意しましょう。
参考 https://www.jinji.go.jp/kisya/2209/sougousyokushiken.html
POINT 特別区Ⅲ類は、区ごとの人物試験も受験すること!
特別区Ⅲ類の選考は、Ⅰ類(大卒程度)と同様で、最終合格後に区ごとの人物試験を受験する必要があります。要するに、「最終合格だけではどの区の職員になるかが決まっていないので、さらに採用面接を受けて内定を得る必要がある」というわけです。
基本的にシステムはⅢ類もⅠ類と同じです。簡単に説明すると、区ごとの人物試験は自由に受験できるわけではないのですね。まずは、願書を提出する際に希望区を書くことになります。そして、最終合格すると採用候補者名簿に名前が得点順に掲載され、区の側から、原則として名簿が上位の受験生から順に面接に呼ぶ形になります。
ちなみに、どの区からも内定が得られず、採用漏れになる可能性もあります。最終合格したからといってくれぐれも油断せずに臨みましょう。
⑶ 1次試験の概要
1次試験は教養択一試験と作文試験が実施されます。
教養択一試験とは、高校で勉強する内容+αについて、五肢択一式のマークシートの試験が課されるものです。内容は以下のとおりです。
①知能分野(28題必須解答)文章理解(英文を含む)、判断推理、数的処理、資料解釈及び空間把握 ②知識分野(22題中17題選択解答)社会:現代社会、日本史、世界史、地理、倫理及び政治・経済理科:物理、化学、生物及び地学その他:国語及び芸術 |
作文試験とは、特定のテーマについて、自分の意見を論述する試験です。抽象的な問題が出題されますから、あまり文章を書く機会がなかったり、文章を書くのが苦手だったりする方は書く練習をする必要があるでしょう。
過去の出題例 2021年度・特別区Ⅲ類 正確に仕事を進めるために必要なことについて 2022年度・特別区Ⅲ類 5年後になりたい自分とそれに向けて実行していくこと |
⑷ 2次試験の概要
2次試験は人物試験(個別面接)が実施されます。ここでの面接は特定の区の選考ではないので、原則として「特別区職員として」の自己アピールを心がけましょう。
なお、前述したとおり、最終合格後には区ごとの人物試験も受験しなければいけません。最終合格できたとしても、区ごとの人物試験で内定が得られないと、採用されません。油断せずに臨みましょう。
参考 https://www.union.tokyo23city.lg.jp/jinji/jinjiiinkaitop/saiyoshiken/annai/r4sanrui.html
「高卒程度」の試験を目指す場合のポイント
最終学歴が高校卒業の方であっても、数年経てば大卒程度の試験を受験することは可能です。しかし、なるべく早く公務員としてのキャリアを積みたいという方もいらっしゃるでしょう。また、試験によっては大卒程度になると専門科目も課されてしまって、一気に負担が大きくなるので高卒程度の試験で合格したい、という方もいらっしゃると思います。そのような方は、ぜひ高卒程度の試験を目指すことをオススメします。
高卒程度の試験を目指す場合、対策のポイントは何より教養択一試験の対策をしっかり進めることです。公務員試験は民間企業の選考と異なり、筆記試験のウェイトが非常に大きくなっています。特に高卒程度の試験の場合、教養択一試験(基礎能力試験)の比重が大きくなりますから、ここを必ず突破しなければいけません。高卒程度の試験であっても、大卒程度の試験と傾向は同じで、特に数的処理と文章理解の出題数が多くなります。一方で、人文科学や自然科学などの一般知識分野の出題数は少なく、選択解答ができる仕組みになっているところも多いです。したがって、数的処理と文章理解の準備はなるべく早い段階で始めるようにしてください。
また、これも高卒大卒問わず、公務員試験は人物試験を重視する傾向にあります。特に地方公務員を目指している方は、人物試験の対策も油断せずに行うようにしましょう。まずは筆記試験の対策に重点的に力を入れ、それと並行して採用ホームページをチェックしたり、説明会に参加したりするようにしてください。
この記事をご覧になった方が、無事に公務員試験に突破し、公務員として活躍されることを祈っております!