英語学習において、TOEIC L&Rテスト(以下、TOEIC)は、学生にとっても社会人にとっても切っても切り離せない関係となっています。公務員試験の準備をされている皆様も、TOEICの学習をしたことがあったり、受験経験があったりする方も多いと思います。
すでにTOEICを受験したことがある方にとっても、受験経験はないものの英語力の基準としてスコアを取っておきたいという方にとっても、TOEICスコアは公務員試験にも有効です。
今回は、制度面においても、学習面においても、TOEICが公務員試験に有利であることについて、また公務員試験のための英語力アップにつながるTOEIC対策法についてご紹介します。
1.スコアが公務員試験の加点につながる
国家公務員採用総合職試験においては、「英語試験のスコア等を有する受験者には、最終合格者決定の際に、スコア等に応じて、総得点に15点または25点を加算する」としています。具体的にはTOEIC 600点以上で15点、730点以上で25点が加算されます。なお、対象は公開テストのみのため、団体受験(IPテスト)のスコアは対象外です。また、公務員試験実施年度の4月1日から遡って5年前の日以後に受験したTOEICスコアのみが対象となります。たとえば、2022年度の公務員試験を受験する場合は、対象となるTOEICスコアは2017年4月1日以降に受験したものに限ります。
参考:公務員試験に役立つTOEIC Program
(https://www.iibc-global.org/toeic/toeic_program/value/case_02.html)
加点対象となる試験において600点以上を持っているほかの受験者は、最終決定の際に15点や25点加点されます。ゲームでいえば、ゴール直前に加点されるようなものです。このアドバンテージはぜひ生かしたいですね。
なお、以前は加点対象となるものは国家公務員総合職だけでしたが、現在は一部の自治体職員採用試験においてもTOEICスコアが加点対象になります。ぜひ受験予定の方は調べてみてください。ますますTOEICスコアが重視されるようになったと言えます。
面接で有利になる
TOEICなどの外部試験を活用する理由として、一定の英語力を持っていることが望ましいことが述べられています。これは、行政の国際化が進展していることからも、一見国際業務と関係なさそうな分野であっても、国家間の関係を考慮した政策立案や国際協力などの必要があるためです。
TOEIC 600点以上を持っている場合、面接で英語に関する質問が出ることも多く、努力してきた過程をアピールする場として活用することへとつながります。
以上のように、TOEICスコアを持っていることが、英語力の証明となり、加点の対象となったり、自己PRの素になったりと、メリットは大きいのです。また、現在TOEICのスコアが加点基準に達していなかったり、受験経験がなかったりする場合においても、これからTOEICを学ぶことが公務員試験の英語に役に立ちます。
2.TOEICと公務員試験の共通点&相違点
TOEICと公務員試験の英語のわかりやすい共通点は、「攻略のコツは読解力」ということでしょう。公務員試験の内容把握・要旨把握においては、本文の内容を正確に読む力が求められていますし、空欄補充や文章整序では、話の展開を正確に把握する力が求められています。まさにこの力はTOEICのPart 6(長文穴埋め問題)とPart 7(読解問題)で求められるものと共通しています。また、短時間で英文を処理しなくてはいけないという厳しい時間制限も共通しています。
もちろん、TOEICで600点以上を取得するためには、Part 6とPart 7の学習だけでは足りません。しかし、内容理解の土台には単語力や文法力が不可欠ですし、リスニングの学習をすることで英語の語順のまま理解する処理スピードが高まります。
一方で、相違点もあります。大きく分けると、「内容」「求められる理解の深さ」「選択肢の構造」の3つです。
1つめの「内容」については、TOEICがビジネスと日常に絞られるのに対して、公務員試験に出題される内容は幅広く、どちらかといえば英検やセンター試験/大学入学共通テストに近いものです。とはいえ、必要となる英語力の土台(単語力や文法力)は共通していますので、英検準2級から2級レベルの知識をつけておくことでTOEIC・公務員試験ともに対応できます。
2つめの「求められる理解の深さ」は、全体的にはTOEICのほうがより深い理解度を求めています。これは、TOEICが10点から990点までの幅で現在地を測る役割があるために難問も含まれているのに対して、公務員試験は一定の英語力があるかどうかを測る役割のために作成されているため、難問の部類に入るものは多くありません。そのため、TOEICの学習を行うことで、公務員試験で求められる理解の深さ以上のものを身につけることができ、公務員試験の解きやすさを感じることができます。
3つめが「選択肢の構造」です。TOEICは4択(Part 2は3択)であるのに対して、公務員試験は5択です。公務員試験のほうが選択肢の数が多いという特徴はありますが、より難しいというわけではありません。内容把握や要旨把握の選択肢は日本語ですし、また選択肢1~5の順番は、本文で登場する順番と対応しているため、どこを読めばよいかがわかりやすいという特徴があります。また、空欄補充や文章整序においても、以下のように組み合わせをヒントに解答できるため、消去法を効果的に使うことができます。
空欄補充問題 選択肢の例
1: [ア]plan [イ]quit
2: [ア]plan [イ]continue
3: [ア]location [イ]expect
4: [ア]location [イ]continue
5: [ア]work [イ]expect
文章整序問題 選択肢の例
1: ア→オ→エ→イ→ウ
2: ア→エ→オ→ウ→イ
3: エ→オ→ウ→ア→イ
4: オ→エ→ウ→ア→イ
5: オ→ウ→ア→イ→エ
TOEICの場合は、組み合わせや順番を問うものは出題されないため、このような消去法を使うことができません。そのため、公務員試験よりも正確な理解が求められる問題が多いのが特徴です。
TOEICスコアアップに向けた学習が公務員試験に役立つ理由
一部形式が異なるものの、公務員試験のためにTOEICを学ぶメリットは、英語力アップと正解数の安定化です。公務員試験において、解答テクニックはありますが、それを活用する前提として必要なことは内容の理解です。TOEICの学習を通して、内容の理解度を高めることが応用力となり、その結果、公務員試験の正解数が安定してきます。
3.公務員試験につなげるTOEICスコアアップ学習法
TOEIC学習が公務員試験の英語攻略につながるかという視点から、オススメの学習法をお伝えします。まず大切なことは、「問題を解く」と「英語力を高める」を分けて考えることです。
解答練習のコツ
問題を解く練習をすることは、英語力を確実にスコアにつなげるために不可欠な取り組みです。多くの受験者は、実力がスコアに反映されていません。その理由は、練習不足です。スポーツや楽器演奏においても、実力があるのに練習不足により力が発揮できないケースがありますが、テストにおいても同様です。なお、TOEICは、1つのテストで10点から990点を振り分けるテストです。易しい問題も難しい問題も混在していますが、問題の難易度によって配点が変わるわけではありません。あくまで、リスニング・リーディングそれぞれ100問中何問正解できたかによってスコアが決まります。実力を超える難しい問題に悩みすぎず、実力で解ける問題に確実に正解することがスコアアップのコツです。解く練習をするうえで大切なことは、「パート別対策」と「時間配分」です。
(1)パート別対策
公務員試験にはリスニングがないものの、TOEICで600点や730点を取るためには、リスニング対策をしないわけにはいきません。リスニングセクションのPart 1からPart 4、そしてリーディングセクションのPart 5からPart 7をパート別に対策していくことで、すでにある英語力をTOEIC向けにチューニングすることができます。パート別対策においては、パート別に学習できる総合対策教材を活用するのが効果的です。また、特定のパートに苦手意識がある場合は、そのパートに特化した教材がよいでしょう。各パートに合った聞き方や読み方、また解き方を習得することで、すでに身についている英語力をスコアに反映させられるようになります。
なお、各パートで求められている知識やスキルは以下の通りです。
【リスニングセクション】
Part 1(写真描写問題:6問)
写真にうつっている人物や風景などの、動作や状態を正しく理解できるリスニング力。
Part 2(応答問題:25問)
質問や報告などを正しく理解し、適切な応答を聞き取るリスニング力。
Part 3(会話問題:39問)
2人または3人の会話を聞き、目的や概要、具体的な情報、発言の意図などを特定できるリスニング力。
Part 4(説明文問題:30問)
留守番電話やアナウンスなどを聞き、目的や概要、具体的な情報、発言の意図などを特定できるリスニング力。
Part 5(短文穴埋め問題:30問)
1文を読み、空欄に入る語句を特定する正確な文法力と、文脈から判断する単語力。
Part 6(長文穴埋め問題:16問)
長文を読み、4つの空欄に入る語句や文を特定する読解力。
Part 7(読解問題:54問)
長文を読み、目的や概要、具体的な情報、話の展開、発言の意図、同義語などを正確に理解する読解力。
(2)時間配分
パート別対策に加えて、リーディングの時間配分の練習がスコアアップのカギです。リーディングには75分が割り当てられていますが、ゆっくりと解く時間はありません。多くの受験者が最後までたどり着けていないのが現状です。目安となる時間配分は以下の通りです。
Part 5(短文穴埋め問題:30問)・・・10分
Part 6(長文穴埋め問題:16問)・・・10分
Part 7(読解問題:54問)・・・・・・55分
Part 7は1問1分ペースです。3問付きの問題であれば3分、4問付きの問題であれば4分を目安にしてください。時間配分の練習には、模試を利用するのがオススメです。本番と同じように75分の時間制限を設定することで、どのくらいのスピードで取り組めばよいかを体験することができます。
4.英語力を高めるための効果的学習法
すでに身についている英語力をスコアに反映させるために、上のようなTOEICテスト対策を行うことは効果的ですが、それだけで英語力が高まるわけではありません。問題を解くだけでは英語力は高まらないため、TOEICスコアが不足している場合の学習や、公務員試験に向けた学習として、解答練習とは別に英語力を高めることが必要です。ここからは、TOEICにも公務員試験にも有効な学習法をお伝えします。
限られた時間の中で学習効果を高めるためにも、ぜひ取り入れていただきたいものがあります。特に、次のような悩みをお持ちの方には大きな効果があります。
・そもそも英語が苦手。
・単語が覚えられない。
・文法が覚えられない。
・読めばわかるけれど、聞くとわからない。
・単語はわかるのに速く読めない。
単語や文法が覚えられないのは記憶力が悪いからではありません。読めばわかるけれど、聞くとわからないのは耳が悪いからではありません。このような悩みを持つ方に共通して不足しているのが、音声を活用した学習です。カラオケでいえば、メロディを聞かずに歌を覚えようとしているようなものです。
ここで、脳の働きの観点から確認してみましょう。電話番号を覚える時を想像してみてください。数字を数字のまま暗記するのではなく、頭の中で音声化して覚えようとするはずです。音声化するからこそ覚えやすく、また思い出しやすいのです。あなたは、人の名前を覚えるのは得意ですか?苦手だという方は、あることをしていないのです。それは何かというと、相手の名前を呼ぶことです。相手の名前を呼ばないから、覚えられないというだけです。まさに、名前を音声化していない、ということですね。また、掛け算九九を覚えたときにも、「ハッシサンジュウニ、ハチゴシジュウ」のように音声化して覚えたはずです。電話番号でも名前でも、また掛け算九九においても、私たちは、記憶するときに音声化を効果的に活用しているのです。
だからこそ取り入れたい学習が、音読です。音読を行うことで、次のような効果が期待できます。
(1)リスニング力アップ
「読めばわかるのに、聞くとわからない」という場合は、文字と音のギャップがあります。音読を重ねていくことで、このギャップが埋まりやすくなります。
(2)チャンク(塊)で理解する
日本語を理解するときには、単語を1つ1つ聞いたり読んだりしているわけではなく、2~5語くらいをチャンク(塊)として理解しているはずです。英語においても、Thank you very much.やI have a question.のように、何度も音声化したことがある英文やフレーズであれば、1語1語ではなくチャンクで理解できるようになります。
(3)文法を音で体得する
「揚げられた鶏肉」「凍ったヨーグルト」をそれぞれ英語で何というでしょうか。正解は、fried chickenとfrozen yogurtです。それぞれ、文法を理解した状態で言えましたか?おそらく、文法は知らないという方もいらっしゃるでしょう。文法を知らなくても、なぜ間違えないかといえば、音声で覚えているからです。friedとfrozenはそれぞれ動詞fryとfreezeを形容詞化した過去分詞です。動詞を形容詞化する場合、fryingやfreezingと現在分詞にすることも可能ですが、おそらく現在分詞か過去分詞かで悩んだ人はいないでしょう。まさに文法を音で体得しているのです。
(4)英語のまま理解する直聴直解・直読直解
英語を素早く理解するには、英語の語順で理解していく必要があります。上でお伝えしたように、音読はチャンクで理解することにつながるため、英語のまま理解できるようになります。特にリスニングの場合は、聞いたものから理解していくことが求められます。音読をしながら英語の語順に慣れていくことで、直聴直解へとつながりますし、リーディングにおいても、英文を後ろから訳しながら読む「戻り読み」をせず、英語の語順で理解できる感覚を養うことができます。
(5)リーディングのスピードアップ
「戻り読み」をせずに直読直解ができるようになることで、英語を読むスピードが上がります。また、音読を続けていくことで、英語を音声化することにも慣れてくるため、音読のスピードが速まることで、黙読のスピードも速まります。
音読にはたくさんの効果があります。なお、音読を行う際には、自己流で英語を声に出すのではなく、必ず音声を真似してください。TOEICの教材では、リーディングにも学習用の音声がついているものが多くあります。しかし、公務員試験の過去問等の教材には音声がついていないのが通常です。そこでオススメなのが、教材の英文を読み込んで、音声読み上げソフトで音声化することです。
5.まとめ
公務員試験におけるTOEICの有効性についてご紹介してきました。TOEICにも公務員試験にも効果的な解法が存在しますが、それを生かすには基盤となる英語力が必要です。TOEICの学習をすることで伸ばした知識やスキルが公務員試験における英語への応用力となり、さらに実力がTOEICスコアに反映されることで、公務員試験における加点対象となるという大きなメリットをもたらします。
スタディングにはTOEIC講座も用意してありますので、ぜひ効果的に学習したいという方はご検討ください。