地方公務員の志望度が高いという受験生の方に向けて、地方公務員試験の概要を紹介しましょう。地方公務員の職種にもさまざまありますから、まずは目指す試験を確認したうえで、試験の概要を掴んでおきましょう。
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この記事を書いた人 橋口 武英 大学時代から教育分野に関心を持ち、個別指導塾や大手受験予備校において、小学生から高校生を対象に幅広く講義を行う。その後、予備校や専門学校で行政書士試験・ビジネス実務法務検定の対策などに携わったのち、大手資格試験予備校において公務員講座の講師となる。公務員試験対策全般のサポートを行う担任講師及び数的処理の講師として、校舎や学内講座のみならず、全国に動画配信される収録講師も担当。理系科目が苦手だった自身の経験を活かした講義は、「文系の受験生でもわかりやすい」として高い評価を得る。 |
地方公務員とは、地方機関で働く公務員のことをいいます。さまざまな職種がありますが、規模の大きさによって基礎自治体職員と広域自治体職員の2つに分けられます。基礎自治体とは市町村、広域自治体とは都道府県のことを指します。
なお、警察官は原則として都道府県の職員、消防官は原則として市町村の職員にあたります。
行政事務職の区分であれば、基礎自治体どうし、広域自治体どうしで大きな仕事の違いはありません。ただし、他の道府県と異なり、東京都には上下水道機能や消防機能も帰属しています。道府県であれば、これらは原則として市町村の機能となり、市町村に水道局や消防局が置かれます。
基礎自治体と広域自治体の仕事の違いは、住民との距離の違いと思ってもらうとわかりやすいでしょう。基礎自治体は住民と近い距離で直接サービスを提供する業務が多いのですが、広域自治体はその比重が下がります。ただし、あくまで「程度問題」ですから、都道府県職員であっても、出先機関などで住民と直に接する仕事はありますよ。
POINT 自治体によってさまざまな受験区分が存在するので注意!
地方公務員試験は自治体によって千差万別といってよいでしょう。多くの広域自治体は専門科目まで勉強することが必要になりますが、基礎自治体を中心に教養科目のみで受験できる試験や、民間の採用テストを利用して筆記試験を実施する自治体も増えています。「公務員型の試験対策をした人向け」と「公務員試験の対策をしていない人向け」に試験を並行して実施する自治体も多くなっています。
志望度の高い自治体は、必ず事前に過去の試験案内を確認したうえで、どのような対策で受験を目指すか、考えておきましょう。
なお、公務員の職種(種類)全般については、別の記事で詳しく紹介しています。地方公務員の特徴、国家公務員との違いなども説明していますので、そちらも是非参考にしてください!
【地方公務員・国家公務員】公務員の職種についてはこちらから |
では、地方公務員試験の概要を紹介しましょう。地方公務員といってもそれぞれ選考が異なります。ここでは受験者の多い試験種として「大卒・一般枠」の中から、①東京都Ⅰ類B(一般方式)、②大阪府(行政22-25)、③名古屋市(行政A)、④特別区Ⅰ類(事務)の4つを説明していきます。
原則として年齢要件のみです。2022年度の試験であれば「平成5年4月2日~平成13年4月1日生まれの人」となっています。試験の実施される年の4月1日に「21~29歳」と把握しておくとよいでしょう。
2022年度の試験日程は以下のとおりでした。
例年であれば、試験日程はほぼ変動しません。例えば、1次試験は例年5月第1日曜日に実施されています。しかし、国家総合職は2023年度の試験日程を2週間前倒しすることが発表されています。これに合わせて試験日程に変更が生じる可能性がありますので、くれぐれも注意しましょう。
参考:人事院
POINT 東京都Ⅰ類Bは例年特別区Ⅰ類と日程が重複するので注意!
公務員試験は、試験日程が重複するとどれか1つの試験しか受験ができません。そして、例年日程が重複する代表例が、東京都Ⅰ類Bと特別区Ⅰ類ですね。この2つは例年1次試験の日程が重複するため、どちらかを選ばなければいけませんので、注意してください。ちなみにいうと、この2つと例年日程を重複させてくるのが三鷹市です。「東京都や特別区によそ見しない、志望度の高い受験生だけを採りたい」という意志の強さを感じますね…
1次試験は教養択一試験と専門記述試験、論文試験が実施されます。出題される科目は以下のとおりです。過去の出題例を挙げてあります。ちなみに、東京都は地方公務員で専門記述を課す、非常にレアな試験といえますね。
2次試験は人物試験(個別面接)が実施されます。例年東京都の受験生の状況を見ていますが、東京都の面接官は当たりはずれがかなり大きい印象があります(個人の感想です)。期待を裏切られるというか、しっかりした人でも不合格になったり、人物試験に苦戦しそうな人が案外上位で合格したり…というどんでん返しが多いので、なかなか難しいですね…(あくまで個人の感想です)。
原則として年齢要件のみです。2022年度の試験であれば「令和5年3月31日現在、22歳から25歳の人 ※平成9年4月2日から平成13年4月1日までに生まれた人」となっています。試験の実施される年の4月1日に「21~24歳」と把握しておくとよいでしょう。
POINT 大阪府は年齢要件で試験を細かく区分する!
大阪府の行政職の区分は全部で4つ、「高校卒程度」が18~21歳、「大学卒程度」が22~25歳、「社会人等」として26~34歳、35~49歳のように分けられています。自治体によっては、年齢要件が細かく区切られているところもありますから、必ず受験要件は確認するようにしてください。
2022年度の試験日程は以下のとおりでした。
大阪府は他の県庁と1次試験の日程がずれており、5月の早い段階で実施されます。したがって、1次試験だけを見れば、他の地方上級も併願することが可能です。ただし、2次試験の論文が6月第3日曜日に実施されており、ここが他の地方上級の1次試験とバッティングすることになります。日程がやや特殊なので注意してください。
なお、前述のとおり国家総合職は試験日程を2週間前倒しすることが発表されていますので、これに合わせて試験日程に変更が生じる可能性もあります。
POINT 早い時期に1次試験を実施する試験種は増加傾向!
県庁や政令指定都市の1次試験は、原則として6月第3日曜日に集中しています。しかし、近年は4月などの早い日程で「特別枠」として試験を実施する自治体も増加しました。公務員型の対策をしなくても受けられるような試験形式にしていることが多く、このあたりからも「民間に流れる人材を何とか確保したい」という意識が見て取れます。
1次試験はSPI3とエントリーシートが実施されます。SPI3はテストセンター形式ではないため、自由な日時で受験できません。また、エントリーシートは事前に課題が告知されますので、解答用紙をダウンロードして手書きで記入したうえで、1次試験の実施日に提出することになります。
POINT 近年は県庁でも筆記試験をSPIで実施する自治体が登場!
まだ少数派ではありますが、県庁や政令指定都市でも、筆記試験でSPIを利用する自治体が登場しています。大阪府以外にも、大阪市や4月に早期選考を行う県庁、政令指定都市などで、積極的にSPIが導入されています。筆記試験の負担が軽くなりますから、非常に受験しやすい環境といえるでしょう。
2次試験は論文と個別面接が実施されます。特に大阪府の論文の出題形式は特色があります。まず、受験申込みの際に「見識又は法律・経済分野」と「情報分野」のどちらかを選択して、受験することになります。
「見識又は法律・経済分野」とは、①見識(社会事象に対する基礎的知識や、論理的思考力、企画提案力、文章作成力などを問うもの)、②憲法、③行政法、④民法、⑤経済原論、⑥財政学、⑦経済政策、⑧経営学に関する問題が出題され、①~⑧のうち1科目を2次試験当日に選択します。つまり、該当する専門科目の知識があれば、それを活かして解答することも可能、ということですね。
「情報分野」とは、情報処理に関連する分野の論文と、情報処理の基礎的な知識を問う記述式の問題になります。
なお、2次試験の個別面接については、対面ではなくWEB面接を選ぶことも可能になっています。
3次試験は個別面接とグループワークが実施されます。個別面接は対面で同日に2回実施、グループワークは5~8人程度で与えられた課題について作業するものになっています。結果的に人物試験は個別面接3回+グループワークですから、やはり人物試験を重視した試験形式といえますね。
原則として年齢要件のみです。2022年度の試験であれば「平成4年(1992年)4月2日から平成13年(2001年)4月1日までに生まれた方」となっています。試験の実施される年の4月1日に「21~30歳」と把握しておくとよいでしょう。
2022年度の試験日程は以下のとおりでした。
例年であれば、試験日程はほぼ変動しません。1次試験は他の多くの地方上級試験と同日ですので、例年6月第3日曜日に実施されています。ただし、前述のとおり国家総合職は試験日程を2週間前倒しすることが発表されていますので、これに合わせて試験日程に変更が生じる可能性もあります。
POINT 名古屋市は通常の「行政A」の他に「自己PR方式」もある!
名古屋市は、同じ「行政A」の中でも「自己PR方式」が別途存在します。こちらは教養試験の負担を軽くしたものです。やはり受験生にとって受けやすい方式を用意していますね。
ちなみに、「行政B」は一般的な公務員型の試験で、専門択一も課されるものになっています。採用人数は「行政B」が最も多いので、他の公務員試験もそれなりに受験するのであれば、専門科目まで勉強して「行政B」を目指すのがよいでしょう。ここでは「行政A」を前提に説明します。
1次試験は教養択一試験と論文が実施されます。教養択一試験で出題される科目は、他の一般的な公務員試験と同様です。知識分野が人文科学、自然科学、社会科学(時事問題、名古屋に関する事項等を含む)から25問必須解答、知能分野が文章理解、判断推理、数的推理、資料解釈から25問必須解答となっています。
なお、論文の実施自体は1次試験ですが、評価は2次試験の段階で行われます。教養択一試験の点数が伸びずに不合格になってしまうと、せっかく書いた論文が評価されず水の泡になってしまいますから、注意してください。
2次試験は個別面接が2回実施されます。1次試験と個別面接1回目の2つの合計点で個別面接2回目に進める対象者が決まり、個別面接2回目が最も配点が高く設定されています。
原則として年齢要件のみです。2022年度の試験であれば「平成3年4月2日から平成13年4月1日までに生まれた者」となっています。試験の実施される年の4月1日に「21~31歳」と把握しておくとよいでしょう。
2022年度の試験日程は以下のとおりでした。
例年であれば、試験日程はほぼ変動しません。例えば、1次試験は例年5月第1日曜日に実施されています。ただし、前述のとおり国家総合職は試験日程を2週間前倒しすることが発表されていますので、これに合わせて試験日程に変更が生じる可能性もあります。
POINT 特別区Ⅰ類は最終合格後の区面接が正念場!
特別区Ⅰ類は、最終合格の後に区面接が控えており、ここで内定をもらうことで「どの区の職員になるか」が決まります。希望区は受験申込みの段階で第1~3希望区の上位3区を書くことができますが、区面接は自由に受けることができません。原則として最終合格の席次が上位の受験生から順番に、区の側から面接に呼ばれる形になります。また、区面接は必ず内定が出るわけではなく、なかなか内定がもらえないケースもあります。
特定の区の志望度が高い、という受験生も多いですが、そのためには単に合格するだけではなく、最終合格の席次を上げることも考えて対策しましょう。
1次試験は教養択一試験と専門択一試験、論文試験が実施されます。論文以外の試験で出題される科目は以下のとおりです。過去の出題例を挙げています。
教養択一は、数的処理と文章理解が28問必須解答、人文科学・自然科学・社会科学が20問中12問選択解答なので、一般知識分野の科目は選択の幅は大きいです。
専門択一は1科目5問の全55問から40問を選択解答します。1問ごとに選ぶことができるので、正解の自信がある問題を上位40問、マークシートに記入することになります。
2次試験は人物試験(個別面接)が1回実施されます。特別区の2次試験はあくまで人事委員会の面接であって、特定の区の面接ではありません。したがって、「特別区の職員として」の志望動機や自己PRをすることが求められます。
最終合格発表以降、順次、区からの面接の電話連絡があります。ここでどの区の面接を受けるのかが判明し、ここから新たに特定の区に合わせた面接カードなどの準備を進めることが必要になります。
スケジュールは区によって異なり、1週間程度ですぐに面接を実施するところもあれば、1か月ほど経ってから面接になることもあります。ここで内定が出れば終了ですが、内定が出ないと、2回目以降の区面接を待つことになります。
どこからも内定が出ないと、結果的に採用漏れになる可能性もありますから、油断せず準備しなければいけません。
上記では「大卒・一般枠」を紹介してきました。しかし、地方公務員試験は大卒区分しかないわけではありません。高卒区分、院卒区分、経験者区分なども存在します。簡単に紹介しましょう。興味のある試験種があれば、ぜひ採用ホームページをチェックしてみてください。
高卒区分の試験も、あくまで高卒「レベル」の試験という意味であって、年齢要件さえ満たしていれば受験することが可能です。ただし、高卒区分の場合は年齢制限が厳しく、大学を卒業すると必然的に受験できなくなることが大半です。例えば、2022年度の特別区Ⅲ類試験であれば「平成13年4月2日から平成17年4月1日までに生まれた人」という要件になっています。
ほとんどの県庁、政令指定都市、市役所において、高卒区分の採用試験があり、名称は「Ⅲ類」「Ⅲ種」「初級」などという言い方になります。なお、高卒区分で理系の採用試験もあり、例えば2022年度の東京都Ⅲ類試験であれば「土木」「建築」「機械」「電気」の区分で実施されています。
高卒で公務員に!目指せる職種や、試験についてはこちらから |
院卒区分の地方公務員試験はほぼ存在しません。したがって、院卒の受験生であれば、通常の大卒レベルの試験を受験することになります。ただし、東京都だけは院卒レベルの試験として東京都Ⅰ類Aを実施しています。国家公務員試験と異なり、学歴要件は要求されていないので、年齢要件さえ満たしていれば、東京都Ⅰ類AとBを両方とも併願することも可能になっています。なお、2022年度の東京都Ⅰ類Aであれば「平成3年4月2日から平成11年4月1日までに生まれた人」という年齢要件が設定されています。
多くの自治体で経験者区分の試験も実施しています。ただし、職務経験が要件として設定されることになります。経験年数については、試験種によって異なりますから、必ず事前に確認したうえで試験を目指すようにしてください。例えば、2022年度の特別区経験者採用試験(2級職)であれば「民間企業等における業務従事歴が直近14年中8年(平成21年4月1日以降で8年)以上(令和5年3月31日現在)ある人」という要件になっています。
なお、職歴通算ができることも多く、1か所の企業でなくても、複数の企業の経験年数を通算できる試験も多くあります。上記で挙げた特別区経験者採用試験(2級職)も「1年以上の期間について、複数の民間企業等での経験を通算できます。ただし、そのうち1ヵ所は、継続した4年以上の経験を有することが必要です」とされています。
地方公務員試験の代表例を紹介してきました。地方公務員の試験は、国家公務員と異なり、専門科目の学習まで要求されていない試験も数多く存在します。まずは試験案内などで試験の方式を確認したうえで、どこまで勉強が必要なのかチェックしましょう。
また、ほぼ全ての地方公務員試験が、筆記試験よりも人物試験の配点割合を高く設定しているため、筆記試験で点数が振るわなかったとしても、人物試験で挽回できる試験が多くなっています。ですので、筆記試験が苦手という方は、まず筆記試験の勉強に注力して、少なくとも筆記で足止めを食らうことのないように準備をしてくださいね。
なお、スタディングでは公務員の職種や試験の全体像について説明したガイダンスも配信しています。こちらも是非ご覧ください!
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