公務員試験の内容をいろいろ調べていると、筆記試験の中には「SPI」のような民間で利用されている採用テストで受験できる試験が存在することに気づくと思います。こういった試験の受験を検討すると、「SPIの対策まで必要だから、試験準備が大変になるのでは?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。そこで、ここでは公務員試験の出題内容とSPI3の出題内容の関係について、説明したいと思います。
なお、公務員試験で利用される民間の採用テストとしては「SPI」が代表格ですが、それ以外にも「SCOA」や「GAB」など、さまざまな採用テストが利用されています。ここでは特に「SPI」を取り上げて紹介しましょう。
そもそも「SPI3」とは何か?
「SPI」とは、リクルートマネージメントソリューションズが提供している採用テストです。採用テストは他にも、日本エス・エイチ・エル社が提供している「玉手箱」「CAB」「GAB」や、ヒューマネージ社が提供している「TG-WEB」、NOMA総研が提供している「SCOA」など、さまざま存在しますが、最も多くの民間企業に利用されているのが「SPI」です。2021年度には14,400社が利用しており、採用テスト界の最大手といってもよいでしょう。内容や形式にアップデートが重ねられ、現在は「SPI3」が提供されています。
受験生向けに、リクルートマネージメントソリューションズ自らがSPIの紹介をしているホームページもあります。是非確認してみるとよいでしょう。
https://www.recruit-ms.co.jp/freshers
従来の公務員の採用試験では、上記のような民間企業が利用する採用テストはほとんど取り入れられてきませんでした。しかし、近年は「民間をメインに考えている就活生にも受験を検討してほしい」という自治体側の意図、さらにコロナ禍の影響で「受験生を1か所に集めずに筆記試験を実施したい」というニーズなどもあいまって、市役所などの地方公務員を中心にさまざまな試験で導入が進んでいます。特に、従来の公務員試験の内容で受験する方式に、SPIで受験できる方式を加えて「2本立て」で用意して、受験生が選択できる形にした試験が増加しました。
SPI3の実施形式とは?
SPI3には以下の4つの実施形式がありますので、紹介しておきましょう。実施形式の違いによって、出題テーマの範囲も若干異なる部分があります。なお、公務員試験ではテストセンターやWEBテスティングが利用されるケースが多いようです。
テストセンター | 専用の会場が用意され、会場に設置されたパソコンで受検するという形式です。指定された期間内に予約を取って受検をするので、都合のいい日時に受検できるというメリットがあります。 |
WEBテスティング | 会場ではなく、自宅や学校のパソコンなどから受検するという形式です。これも都合のいい日時を予約できるため、特定の試験日に拘束されないというメリットがあります。 |
ペーパーテスト | 企業の用意した会場で、ペーパーで受検するという形式です。マークシートで実施されます。 |
インハウスCBT | 企業の用意した会場で、パソコンで受検するという形式です。 |
なお、WEBテスティングは自宅や学校での受検が可能となっていることもあり、その後の選考過程で再度確認テストを実施して、不正を防止する体制が取られているケースが多いです。
SPI3はどんな内容?
SPIの内容は大きく「能力検査」と「性格検査」に分かれています。「能力検査」とは、知的能力を測るもので、一般的な筆記試験を指します。一方、「性格検査」とは、受験生の人間性を測るもので、これを実施する場合は「人物試験の参考資料」として用いられることが多いです。ここでは「能力検査」に特化して紹介しましょう。
「能力検査」は、さらに内容が「言語分野」と「非言語分野」に分かれていて、言語分野は「言葉の意味や話の要旨を的確に捉えて理解できる力を測る問題」、非言語分野は「数的な処理や、論理的思考力を測る問題」とされています。以下のとおりです。
SPI3の内容と公務員試験の内容の関係は?
上記の内容を見て、すでに公務員試験の勉強を進めている方はおそらく「公務員試験の内容とかなり重複するのでは…?」ということに気づいたでしょう。結論から言うと、公務員試験の勉強をしていれば大半はカバーできるので、まさに「大は小を兼ねる」関係にあるといえます。ですから、「今は公務員を目指しているけど、もしかすると今後民間のほうに興味が移ってしまうかも…」という方でも、実は公務員試験の対策が無駄にはならないのです。もう少し詳しくみていきましょう。
1.言語分野は「文章理解」でカバーできるが、語句関連の出題に注意!
言語分野についてみると、「空欄補充」や「文章整序」などは、公務員試験で勉強する文章理解を単純にしたものです。このあたりは公務員試験の対策で十分にカバーできるでしょう。
公務員試験の内容から外れるのが、語句関連の出題です。特に「語句の意味」や「二語の関係性」、「語句の成り立ち」、「助詞・助動詞の使い方」など、公務員試験では見ることのない問題があります。その場で考えればわかるような出題も多いのですが、もし余裕があれば、事前に出題形式を確認しておくとよいでしょう。
ただ、私が実際に公務員受験生や合格者を見ている限りでは、言語分野に時間を割いている方はほとんど見かけないですし、それでも合格できているのが実情ですね。
2.非言語分野は「数的処理」でカバーできるが、公務員試験に出ない形式に注意!
非言語分野についても、かなり多くのテーマが公務員試験の数的処理と重複しています。以下は、SPIの非言語分野において過去に出題が確認されているテーマと、公務員試験の数的処理における出題テーマの対応を表でまとめたものです。多くのテーマが数的処理で勉強する内容とリンクしていることがわかるでしょう。網掛けで示した出題テーマは、数的処理では見ないようなやや変わった形式です。
特に非言語分野では割合関連のテーマが非常に多いのですが、そこは数的推理でしっかりカバーできるといえます。ただ、数的処理では見ないような形式がいくつかありますので、以下では代表例を3つ紹介しましょう。簡単な出題例と解説も掲載しておきます。
⑴ 料金の割引(団体割引)
割合の計算問題の一種ですが、公務員試験ではあまり見られない形式です。以下の例を参考にしてください。
出題例(料金の割引) ある遊園地における通常の入園料は1人あたり2,000円である。しかし、団体で入園すると団体割引が適用される。10人までは通常料金であるが、11人目から20人目までは通常料金の10%引、21人目以降は通常料金の15%引である。このとき、25人の団体が入園するときの入園料の合計はいくらか。 A.40,000円 B.41,500円 C.42,500円 D.44,500円 E.45,000円F.46,500円 G.47,500円 H.A~Gのいずれでもない(正解:F) |
通常料金・割引料金ごとに入園料を計算すれば、正解にたどり着けます。
通常料金は2,000円ですが、10%引になると2,000×(1-0.1)=1,800[円]、15%引になると2,000×(1-0.15)=1,700[円]です。それぞれの価格帯にいる人数を確認して、合計の入園料を求めましょう。
通常料金は10人なので、入園料は2,000×10=20,000[円]です。10%引も10人なので、入園料は1,800×10=18,000[円]です。15%引は5人なので、入園料は1,700×5=8,500[円]です。よって、合計の入園料は20,000+18,000+8,500=46,500[円]が正解です。
制限時間もありますし、シチュエーションが面倒になったりすると、ケアレスミスの可能性が高まります。くれぐれもしっかり整理して計算するようにしましょう。
⑵ 代金の計算
これも、公務員試験ではあまり見ない問われ方のテーマでしょう。いわゆる「割り勘」を題材にした問題です。
出題例(代金の精算) AとBの2人は遊園地に出かけた。Aは2人の入園料18,800円を全額支払い、Bは2人の食事代6,200円を全額支払った。その後、AとBの支払った代金を2人で同額ずつ負担するように精算することにした。このとき、BはAにいくら支払えばよいか。 A.5,800円 B.6,000円 C.6,200円 D.6,300円 E.6,500円F.6,600円 G.6,800円 H.A~Gのいずれでもない(正解:D) |
1人あたりの負担額を計算して、多く払い過ぎている人に、まだ払っていない人がお金を渡して精算するという流れになりますね。
まず、支払った代金の総額は18,800+6,200=25,000[円]です。これを2人で同額ずつ負担するので、25,000÷2=12,500[円]ずつ負担すればよいわけです。しかし、Aはすでに18,800円も支払っており、18,800-12,500=6,300[円]を多く払い過ぎています。一方、Bは6,200円しか払っていないので、12,500-6,200=6,300[円]をAに渡せばよいのですね。よって、6,300円が正解です。
問題によっては、直接お金の貸し借りをするようなシチュエーションも出てくることがあります。シチュエーションで混乱しないように、表などで整理しながら計算していくのがオススメです。
⑶ グラフと領域
以下も公務員試験ではまず見かけないような、特殊な出題形式です。
出題例(グラフと領域) 右はy=0、y=x、y=x2-2xのグラフである。このとき、y>0、y<x、y>x2-2xを満たす領域として、正しいのはどれか。 A.① B.② C.③ D.④E.⑤ F.⑥ G.⑦H.A~Gのいずれでもない(正解:E) |
一見すると、1次関数や2次関数の知識が必要に見えますが、細かい知識はいりません。まずはそれぞれの式がどのグラフと対応しているのかを見抜けるようにすること、あとは「yのほうが大きいか小さいか」、つまり「グラフより上の領域なのか下の領域なのか」さえわかれば、正解を導くことができます。
まず「y=0」というのは、xが何であろうとも常にy=0のグラフ、つまりx軸のグラフになります。「y=x」というのが1次関数の直線のグラフです。「xに2乗がついていなかったら直線」と思っておけばよいでしょう。「y=x2-2x」というのが2次関数の放物線のグラフです。「xに2乗がついていたら放物線」と考えてください。これだけで式とグラフの対応はOKです。原則として「x軸・y軸そのもの+直線+放物線」の3本セットなので、「放物線が2本だから区別がつかない…」ということは生じないと考えてよいでしょう。
あとは、yのほうが大きければグラフより上、小さければグラフより下の領域です。「y>0」は、0よりyのほうが大きいので、グラフより上の領域、つまり①②③④⑤⑥の領域です。次に、「y<x」は、xよりyのほうが小さいので、グラフより下の領域、つまり⑤⑥⑧⑨⑩の領域です。最後に、「y>x2-2x」は、x2-2xよりyのほうが大きいので、グラフより上の領域、つまり②③⑤⑨の領域です。よって、これら全てを満たす⑤が正解になります。
グラフの読み取り方と処理手順さえ理解できていれば、このように簡単に正解を選ぶことができるのです。
公務員試験の数的処理・文章理解を勉強することで対応可能!
以上のように、SPIの内容は公務員試験の勉強でほぼカバーできるので問題はありません。言語分野も非言語分野も、少なくともインプットの部分において、大きく補う必要があるテーマはありません。ですから、通常どおり数的処理・文章理解の勉強を進めることで十分に対応可能と考えてください。一部で数的処理の範囲から外れる部分がありますから、そこは試験日が近づいてから、問題演習で出題形式に慣れるようにすればよいでしょう。
ただ、一つ注意すべきことがあるとすれば、制限時間が非常にタイトになるという点でだと思います。いくら簡単で単純な問題が出題されるとはいえ、1問30秒程度しか時間の取れない問題も出てくることがあります。ですから、出題形式に慣れるためにも、試験の直前に市販の問題集などを利用して、全体に目を通しておくことは有益だと思います。
まずはご自身の志望する試験種がどのような試験の形式になっているのかを確認したうえで、今後の対策を考えていくようにしましょう!