一昔前の時事対策では、社会科学に含まれる分野として択一試験のために頻出事項を覚えておく程度の認識が一般的でした。
しかし、択一試験全体の中での配点は必ずしも高いとは言えません(約7~10%程度・・・)。
一方で、時代は大きく変わり、科学技術の進展に伴う世の中の変化は顕著であり、
時事に対応できるかどうかが合否を大きく左右するようになっています。
| 時事問題の位置付け
択一試験における出題数は、概ね国家総合職3問、国家一般職3問、国税・労基3問、都庁5問、 特別区4問、都道府県庁4問、市役所4問程度となっています。
国家一般職や国税専門官など、国家公務員の試験では3問の出題に対し、県庁や市役所、特別区などの試験では4問出題、都庁では40 題中5題も出題されています。
では何故、国家公務員では時事の出題が少なく、地方公務員では時事の出題が多いのでしょうか。
国家公務員は言うまでもなく、国家に関わる政策を実行します。
あまりにも規模が大きいため、公務員自身の時事理解の必要性はそこまで高くありません。
政治家や上役に決定権があり、新人は主にその雑務を任されます。
本人の判断はほとんど求められず、上から言われた時事資料を集める「情報処理」の役割が強く求められるのです。
後々出世をして権限のあるポジションに就けば、時事問題に直接対峙することもあるのでしょうが、まずは最低限の時事知識だけで十分であり、それよりも事務処理能力が優先されています。
一方で、地方公務員では、若い人の活気溢れる意見やアイデアをどんどん採り入れたいと考えています。
即戦力として時事への関心が高い人を採用したいので、時事の配点も高く設定しているのです。
さて、択一試験の話ばかりしていますが、時事が出題されるのは択一だけではありません。
択一試験は性質上、知識に偏った内容しか出題できないため配点が低くなっていますが、応用や思考を伴う論文、討論、面接ではかなり深く問われ、現在の公務員試験合格の大きな要となっています。
公務員試験の時事出題をビジュアル化!
時事が必要とされる試験には択一、論文、討論、面接がありますが、これらは全てが同じように出題される訳ではありません。
択一では、客観的情報としての知識が問われます。
論文も客観的ですが、知識よりも思考力が問われます。
討論では、より現場に近い視点、面接では自分を軸にした視点が必要です。
択一を主観的に解いても正解には辿り着けず、面接で客観的知識を並べただけでは評価が低くなります。
十把一絡げにせず、要求されている次元に合わせて適応していきましょう。
| 「過去志向の時事」と「未来志向の時事」
ところで、時事と言うと「語句を暗記する科目」と言う認識の人が大半だと思います。
しかし、これだけインターネットが普及し、何でもすぐに調べることができる時代に知識を溜めこんでもあまり意義はありません。
しかも暗記は苦しいものです。
知識の価値が下がった時代に暗記の苦行に明け暮れるのは、現代で剣術の稽古に励むようなものです。
精神は鍛えられるでしょうが、実用に使うことはほとんどありません。
また、一概に時事と言っても、「過去志向の時事」と「未来志向の時事」があります。
「過去志向の時事」とは、択一試験型の出題で、過去に起きた時事を理解しているかが問われます。
多くの対策本はこちらを想定していますが、配点は高くありません。
近年の公務員試験で重視されているのは「未来志向の時事」です。
これは、「公務員として未来を作って行く」当事者意識が試されています。
「未来志向の時事」は、受け身の姿勢ではなく、積極的に提言するアクティブシンキングの姿勢が大切です。
「未来はどうなるべきか」と言う指標を常に抱き、自分の頭で構築する思考力を養いましょう。
出題範囲
出題範囲については、職種にもよりますが、前年の本試験1ヶ月前〜当年の本試験の1ヶ月前の時事が目安になります。
遅くとも本試験の1ヶ月前には、試験問題の作成が終わっていなければならないからです。
但し、これは択一試験の話で、論文や面接で問われた場合は、最新の内容であればあるほど評価が高くなります。
択一試験用の参考書や問題集を完璧に覚えたとしても、実際に高得点につながる分野(論文や人物試験)で評価される時事の範囲は、参考書や問題集の出版日〜試験直前の内容です。
多くの受験生が対策本の内容で終始している中、しっかりと最新時事を網羅できれば、「付け焼き刃ではなく、真に時事に関心を持っている人」の証明となります。
| 実は「時事対策」と言う発想自体が危険!?
学校受験の際の、単なる得点のための時事問題とは異なり、公務員とはその問題を対処する役割を担う立場です。
詳しい説明をする前に、まずはこちらの会話をお聞きください。
講師「外交官を目指したいんですね。海外の出来事で何か関心のあることはありますか?」
相談者「私は外国に関心がありません。」
講師「えっ?」
外交官になりたいのに、外国に関心が無いと言われたら、当然「では何故、外交官を志望しているのか?」と疑問に思われます。
もう一つ、例を挙げましょう。
講師「医師を目指したいんですね。医療で何か関心のあることはありますか?」
相談者「私は医療に関心がありません。」
講師「えっ?」
同じように、
講師「公務員を目指したいんですね。最近の出来事で何か関心のあることはありますか?」
相談者「私はニュースに関心がありません。」
講師「えっ?」
公務員は時事問題を解決する立場ですから、そもそもニュースに関心が無い時点で「では何故、公務員を志望しているのだろうか?」と疑問に思われるのです。
外資系企業や外国語通訳を受験する際に、試験の得点が必要だからと、そこで初めて外国語を勉強する人は残念ながら職業としての適性が無いと言えます。
外資系企業や外国語通訳では、外国語は「できて当たり前」であり、わざわざ対策をしないと基準得点に満たない人は、採用されても適性が無いためストレスを抱えるだけです。
公務員も全く同様です。
時事に全く関心がない人は公務員の適性がないため、受験を再考しても良いかもしれません。
厳しい言い方ですが、いくらイメージだけで憧れの職業だったとしても、適性が無い世界で採用されたら、毎日が拷問のような状態となり、すぐに後悔することとなります。
日本では、できないことを克服することを美談として持ち上げる傾向がありますが、これは労働者に嫌な仕事をやらせるための方便であり、賢い皆さんは、こんな搾取戦略に引っ掛かってはいけません。
受験生視点と採用側の視点
受験生は試験と言うと、とにかく合格点さえ取れれば良いと思いがちです。
入学試験や資格試験など、資格を付与する試験であれば、比較的その認識は正しいと言えます。
しかし、公務員試験は採用試験です。
採用側としては、点数よりも、むしろ取り組む過程や熱意を見たいのです。
もしも「試験さえ受かればそれでいい」と言う人間を誤って採用してしまったら、全く働こうとしない給料泥棒を雇うこととなり、住民に多大なる迷惑を与えてしまいます。
受験生は試験しか見ていないのですが、この世の中は試験で成り立っているのではなく、試験の向こう側にいる出題者や採用担当と言う「人」が決めています。
学習方法を考える際は、出題者や採用側が求める人材とは何か、そして彼らが望ましいと考える学習方法とは何か、と言うところからスタートしましょう。
間違っても、試験直前だけ知識を詰め込んで採用官を欺すようなことは控えてください。
そうではなく、自分の学習習慣を公務員に合わせていくのです。
身も心も公務員になれば、全く努力をしなくても自然と公務員への道が拓けるはずです。
| 時事問題への対策
ここまで読んだ皆さんはもうお分かりだと思いますが、択一試験の時事問題の「ための」学習は不要です。
わざわざ試験前に学習しないとインプットできていない時点で公務員として不適格です。
試験前にやるとしたら時事問題の「確認」でなければいけません。
日頃から時事に関心があり、常に新しい出来事を知ることを習慣化しましょう。
これは試験対策の項目ではなく、採用後もずっと継続させるべき習慣です。
択一試験での時事は範囲が広い割に配点が高くないため、学習効率はそれほど高くはありません。
時事を完璧にするために多くの時間を費やすぐらいなら、配点の高い科目の得点を上げる勉強に注力すべきです。
もし配点の高い科目が完璧で勉強に余裕がある場合は択一の時事も勉強しておきましょう・・・と、言いたいところですが、配点の高い科目が完璧ならば、択一試験の合格ラインを超えるため、この場合は合否を分ける論文・人物試験の学習に力を入れるべきです。
つまり、どちらにしても、択一時事を完璧にする勉強はオススメしません。
一方で、論文、面接、討論における時事の学習は合格に大きく近付くため、最重要となります。
こちらは最新の動向を盛り込んでいるととても評価されます。
多くの受験生が公務員試験時事対策の参考書を用いて準備をしてきますが、参考書は主に択一を念頭において制作されているため知識としての側面が大きくなっています。
一方で、時代の最先端を担う人たちと同じようにニュースや書籍で時事の動向を追っている人は、一歩も二歩も踏み込んだ考察や分析ができます。
「公務員試験の時事のレベルは高くないから、それなりのことを対策しておけばいい」と言うのは明らかに誤った認識です。
確かに実際の公務員にはそれほど時事に関心の高い人は多くなく、受験生も時事を重要視していない現状があるのかもしれません。
しかし、その状況を憂い、時事を牽引する公務員を求めているからこそ、採用試験では論文や人物試験の結果を重視しているのです。
逆に言えば、これは絶好のチャンスです!
採用側は「時事に関心の高い人を採用したい」
受験生の多くは「そこそこで良いよね」
このギャップこそが逆転合格の要となります。
是非、最新時事までしっかり把握しておくようにしておきましょう!
時事テーマの優先順位
時事とは、「最近の出来事」と言う意味なので、テーマの範囲はかなり広くなります。
<テーマの範囲>
政治・行政
国際会議
国際経済・国際事情
経済
財政
科学・文化
厚生労働
災害対策
社会問題
地方創生
択一試験で出題されやすい分野と、論文試験や人物試験で出題されやすい分野は異なります。
近年は論文試験や人物試験が重視されているので、こちらで出題されやすいテーマを優先すると良いでしょう。
択一試験では、教養なので知識として見られますが、論文・人物試験では実務に結び付いた時事しか出題されません。
例えば、地方上級で、
「近年のアジア外交につき、あなたの意見を述べなさい。」
と言う出題はあり得ません。何故ならば、採用された後、実務でアジア外交に関与する可能性は極めて低いからです。
一方で、
「近年のアジアからの観光客の動向につき、あなたの意見を述べなさい。」
は実務で携わる可能性があるため、出題されやすい分野だと言えます。
その観点で分析すると、
厚生労働
災害対策
社会問題
地方創生
あたりを優先的に学習すると良いでしょう。
今回は時事問題対策の記事なので、択一時事の頻出テーマから選びましたが、もっと簡単に言えば、これらは「論文試験の頻出テーマ」であると言えます。
論文の学習をする際に、関連する時事テーマをチェックして、それらを自分の意見の中でどう盛り込んで行くか、と言う観点からまとめてみましょう。
〈コラム〉効果的な覚え方
私は一貫して丸暗記を否定しています。
その理由は、脳が「不要な情報」と判断して忘却させてしまう可能性が高いからです。
皆さんは、日々、視覚や聴覚など膨大な情報を取得しています。
しかし、脳に長期記憶として保持されるのは重要な事項のみです。
重要な事項と言っても、これらは、生物学的に脳が取捨選択する上での「重要」であるため、主に「喜・怒・哀・楽」の感情部分に関係した情報となります。
皆さんの「忘れたくても忘れられないこと」のほとんどは、この喜怒哀楽のどれかに深く関係しているはずです。
脳は得た情報を一時的に短期記憶として保存し、その中から喜怒哀楽に関わるものを長期記憶として保持します。
丸暗記は、短期記憶で一時的に覚えたような錯覚に陥りますが、すぐに脳の自浄作用により忘却させられます。
試験の時に、
「あ、これは覚えたはずなのに、記憶が出てこない・・・。」
となるのは、短期記憶から長期記憶に移っていないからです。
さて、長期記憶として保持されるためには、どのような工夫をすれば良いのでしょうか。
それは、もちろん「喜怒哀楽」、もっと具体的に言えば、ストーリーや意味を関連付けることです。
論文の自分の意見として時事をまとめる学習方法は、記憶の定着と言う意味でも、とても効率的なのです。
| 具体的な学習方法
論文の自分の意見と関連付けて学習すると言いましたが、こう聞くと「時事ノート」を作って、項目ごとにまとめる作業を思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし、ノートにまとめる学習は、ただ写すだけの作業になってしまい、頭に何も残らないケースがとても多くなっています。
ノートに書いた記録が残るため、勉強した気にはなれますが、頭に何も入っていなければ時間の無駄です。
紙に書くのは構想や考えをメモする程度 (この場合、ノートではなく、不要紙の裏面など書き殴って捨てるようなメモが望ましいでしょう) に留め、口頭で詳しく説明をする学習を推奨します。
従来は筆記試験が中心であり、書くことが学習であるかのように刷り込まれています。
そして、面接対策なども、回答内容を書いて、それを覚えるようなトンチンカンな学習が当たり前のようにされてきました(それでは面接ではなく単なる暗唱です)。
しかし、「書く」と言う行為は元々、口頭で伝達できないものを記録するところから生まれたものです。
つまり、記録の必要性がないものはわざわざ書かなくても良いのです。
最終的には、論文と言う形で「書く」ことも要求されるため、直前期には文章にまとめる練習も必要となりますが、構想や覚える段階では、口頭での学習が時間も短縮でき、最も効率的です。
自分の前に架空の採用官や家庭教師を設定し、会話をしているようにして学習してみましょう(但し、図書館や公共交通機関でブツブツと一人会話をすると、周囲から危ない人間とみなされるので、そこは十分に注意をしてください)。
時事のインプット方法
論文や人物試験での出題とリンクさせて学習するにも、その前に時事の情報自体をインプットしなければいけませんね。
結論から言うと、「テレビやネットの時事ディスカッション番組」「新聞社が時事をまとめた冊子」がオススメです。
公務員試験対策用の参考書は、表面的には最も効率が良さそうに見えますが、裏を返せば(当たり前ですが)視点が「試験対策」に特化しています。
前述しましたが、採用側は「試験だけ受かれば良い」と言う考えの受験生を落としたいと思っています。
試験科目には、択一試験など基礎能力を測るために設定されているものと、人物試験や論文試験など公務員として相応しいか適性を測るために設定されているものがあります。
基礎能力の試験は一定の水準を上回っているかを見るだけなので、択一式の表面的な試験です。
これは、「そこまで深く見ていませんよ」と言う意味なので、効率優先で勉強することが大切です。
しかし、近年、特に重視されている人物試験や論文試験は、口述や論述であるため、受験生の深層部分が浮き彫りになります。
よって、公務員試験受験生ではなく、実際の敏腕公務員(合格後のあなた)が時事を仕入れる時に使用する方法で取り組むことを強くオススメいたします。
とかく受験生は、試験ばかりを見て視野が狭くなりがちですが、それがかえって合格を遠退けてしまいます。
「合格後の姿」「理想とする公務員像」から今の自分の方向を常に見直す姿勢を大切にしましょう。