公務員保育士とは
公務員保育士とは、地方公務員として主に公立の保育園など自治体が運営する保育施設に勤務する保育士のことを指します。
保育士としての資格を保有している必要があるのはもちろん、公務員としての採用試験を受験し合格する必要があります。
公務員保育士と比較対象になりやすいのは、民間の保育士です。
民間の保育士は、私立の保育園などに勤務する保育士です。
当然、公務員試験を受験する必要はありませんが、それぞれの園が課している採用試験に合格する必要があります。
公務員保育士と私立保育士の違い
先述の通り、公務員保育士の比較対象として私立保育士が挙げられます。
双方の相違点について重要なポイントを確認しましょう。
- 勤務先
- 勤務時間
- 異動
- 福利厚生
- 保育方針
勤務先
公務員保育士が勤務するのは、基本的に所属する地方自治体が運営する保育園です。
場合によっては自治体が運営する託児所や学童保育施設など、関連する公営の施設への勤務も想定されます。
一方で、私立保育士の場合は採用された営利企業やNPO法人、社会福祉法人が運営する私立保育園で勤務するのが原則です。
勤務時間
公務員保育士が勤務する公立の保育園などには、保育標準時間が設定されており、勤務時間もそれに準拠します。
そのため、残業は比較的少なく、休日出勤などもあまり想定されません。
土日祝日はカレンダー通り休みになるのが一般的です。
一方で民間の保育士の場合、保育時間などを独自に設定できるため、夜間や土日などの勤務も想定されます。
異動
公務員保育士は定期的な異動が想定されます。
移動先は主には同じ自治体が運営する別の保育園ですが、公営の託児所や学童保育施設に異動になる可能性もあります。
異動のスパンは自治体により異なりますが、一般的な目安としては3〜4年程度です。
民間の保育士の場合、複数施設を運営する法人などでない限り異動はあまり想定されません。
福利厚生
公務員保育士は地方公務員であるため、他の地方公務員と同等の充実した福利厚生を受けることが可能です。
法律によって地方公務員の福利厚生は、一定の水準が保たれています。
民間の保育士の場合、福利厚生は雇用主によって大きく異なり、非常に充実している場合もあれば、不十分な場合もあります。
保育方針
公務員保育士が勤務する公立の保育園では、自治体によって共通した保育方針が定められています。
そのため、仮に異動して別の保育園で勤務する場合でも同様の保育方針で勤務することになります。
一方、民間の保育士の場合、保育方針は運営元によって大きく異なります。転職して別の民間保育園に移る場合、方針が大きく変わるようなこともあるのです。
公務員保育士の給料・年収
公務員保育士の給料・年収は表の通りです。
役職 |
給与月額 |
年収 |
施設長 | 63万2,982円 | 759万5,784円 |
主任保育士 | 56万1,725円 | 674万700円 |
保育士 | 30万3,113円 | 363万7,356円 |
※参考:令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査
※給与月額は賞与込の金額
※平均年収は給与月額×12カ月の数値
公務員保育士の給料や年収は、勤続年数や役職に応じて高くなる傾向があります。
上記の表を見ると、主任保育士は給与月額が平均56万円を超え、施設長となると月額63万円を超えます。
年収に直すと600万円、700万円といった水準を超え、国内の平均年収よりも高くなっています。
公務員保育士になるには
公務員保育士として働くにあたっては、複数のステップを踏む必要があります。
必要なステップと、ステップごとの重要なポイントを見ていきましょう。
- 保育士の資格を取得する
- 自治体の公務員保育士試験を受験する
- 試験合格後、連絡を待つ
保育士の資格を取得する
公務員保育士になるためには、まずそもそも保育士の資格を取得している必要があります。
保育士の資格取得条件は学歴などにより異なりますが、年齢やその他の制限があるわけではありません。
一定の条件を満たすと誰でも受験資格を得られ、合格することで保育士資格を取得できます。
公務員保育士になることのみを目指す場合であっても、民間の保育士を併願する場合であっても、まずは保育士資格の取得が大前提となることは同様です。
自治体の公務員保育士試験を受験する
保育士の資格を取得した上で、就職を希望する自治体の公務員保育士試験に申し込み、受験します。
募集の時期は6月~8月であることが多いですが、自治体によっても異なります。
そのため、志望度の高い自治体については事前に情報を収集し、募集要項を見逃さないように気を付けることが重要です。
また、公務員保育士試験には年齢制限が設けられていることも少なくありませんが、制限の有無や基準も自治体によって異なるため、確認しておきましょう。
試験合格後、連絡を待つ
試験に合格したら、あとは採用の連絡を待ちます。
無事試験に合格すると、合格した自治体の採用候補者名簿に名前が登録されます。
その採用候補者名簿の中から、実際に施設で採用される際に連絡が来ることになります。
注意点として、公務員保育士試験合格後の名簿の有効期限は1年間しかないことが挙げられます。
次年度に持ち越すことはできず、再度登録を希望する場合は試験を受けなおす必要があるため、注意しましょう。
公務員保育士試験の内容
公務員保育士試験の内容は、採用試験を実施する自治体によって異なります。
一般的な形としては一次試験と二次試験が行われ、両方を通過した受験者が合格とされるケースが多いです。
応募人数が多く、倍率が高い自治体においては三次試験まで実施されるケースもあります。
試験の内容としては、主に一次試験では筆記試験(マークシート、記述式)が出題されます。
内容は社会福祉や家庭福祉などの専門的な内容に加え、一般教養(高校卒業レベル)も出題されます。
二次試験は小論文や面接に加え、実技試験や体力試験が課されることも多いです。
基本的な論述力、コミュニケーション能力に加え、現場ですぐに活躍できる実技を持っているか、体力的に問題ないかといった部分も選考対象とされます。
公務員保育士になるメリット・デメリット
公務員保育士になることで大きなメリットがあるのは確かですが、一方で公務員保育士ならではのデメリットもあります。
メリットとデメリットを双方向から中立的に見ていきましょう。
メリット
公務員保育士のメリットとしては待遇面の安定性や福利厚生、さらに社会的信用の高さといった点が挙げられます。
▼給料やボーナスが安定している
公務員保育士は他の公務員と同様に、給料やボーナスといった待遇面が安定しています。
同業の民間企業従事者や他の職種の公務員と比較して目に見えて高待遇というわけではありませんが、安定して高水準の収入を得られることは大きなメリットと言えるでしょう。
民間企業と比較し、経営状態の悪化などから急にボーナスが大幅にカットされたり、支給されなかったりといった事態も想定しにくいです。
収入が安定しており、資金計画を立てやすいのは大きなメリットといえるでしょう。
▼福利厚生が整っている
公務員としての充実した福利厚生を受けられることも大きなメリットです。
公務員の福利厚生は法律により義務付けられているため、どの自治体で採用されるかによらず、高水準の恩恵が期待できます。
社会保険や労働保険などの各種保険や、有給取得の義務化、さらには各種の手当なども期待できるため、単純な収入の比較以上に経済的には恵まれていると言えるでしょう。
民間の保育園の場合、福利厚生の充実具合は企業によって大きく異なり、公務員保育士並みの福利厚生を期待できないことも十分に考えられます。
▼社会的信用がある
公務員保育士は地方公務員に分類されます。
雇用主が地方自治体であるため、社会的信用が得やすい点も大きなメリットとして挙げられるでしょう。
例えば、持ち家や車など高額な買い物をする際、ローンが通りやすかったり、有利な金利を引き出せたりといった恩恵が期待できます。
民間の保育士の場合、多くは小規模な運営元への勤務となるため、公務員保育士と同等の社会的信用を得ることは難しいでしょう。
業務内容が同様でも、民間と公務員では信用に差が出ることも珍しくありません。
デメリット
一方で公務員保育士のデメリットとしては副業ができない点や異動がある点、募集時期が限られている点が挙げられます。
▼副業が禁止されている
公務員保育士は副業が禁止されています。
公務員全体に適用される副業禁止規定に抵触するためです。
そのため、例えば就業後や休日に民間の保育施設などでアルバイトすることも、空き時間で幼児教育と異なる全く別の副業に取り組むこともできません。
民間の保育士の場合、園の規定の範囲内で、同業でのダブルワーク、異業種の副業などは柔軟に行うことができます。
保育士として働きながら副業をしたい場合、民間の保育士になるのが現実的な選択肢と言えるでしょう。
▼異動がある
公務員保育士には数年単位での定期的な異動があり、同じ勤務先でずっと勤務し続けられるわけではありません。
異動範囲は同じ自治体内の施設ではありますが、場所によっては転居が必要になるかもしれません。
民間の保育士の場合、複数の園を経営する法人などでなければ異動は想定する必要がなく、同じ園で働き続けることができます。
職場や居住地の変更に抵抗がある場合、公務員保育士には異動がある点をデメリットとして認識しておきましょう。
▼求人募集の時期が限られている
公務員保育士は求人の募集の時期が限られています。
具体的には、多くは年に1回、主に6月~8月にかけて募集が行われます。
この機会を逃すと、次のチャンスは来年の同時期となるケースも珍しくないため、注意する必要があります。
民間の保育士の場合、年度の始まりでの勤務開始を見越した求人が多いものの、求人と求職の需要と供給が合えば、年中募集の機会があるためチャンスは多いと言えるでしょう。
公立保育園で働く保育士の雇用形態
公立保育園で働くにあたって保育士の雇用形態は主に3種類あります。
- 正職員
- 会計年度職員
- 派遣職員
それぞれの働き方や待遇などの特徴を見ていきましょう。
正職員
正職員は、ここで解説している公務員保育士のことを指します。
公務員保育士としての採用試験を受け、採用された保育士が正職員として公立保育園で勤務することになります。
原則としてフルタイムで勤務し、年次の経過とともに実績が評価されると徐々に「主任」や「園長」などに役職が上がっていきます。
役職が上がるとともに、収入も上がりますが、その分責任も増え、園の運営や職員のマネジメントなどを任されるようになることもあるでしょう。
公立保育園をメインの職場とし、しっかりとキャリア形成することを前提として取る選択肢です。
会計年度任用職員
会計年度任用職員の保育士は、地方公共団体で働く非正規の公務員保育士を指す雇用形態です。
この制度は2020年4月から導入され、1会計年度(4月1日から翌年3月31日まで)を基本とする有期雇用となっています。
条件を満たせば更新も可能ですが、無期雇用への転換はありません。
フルタイムとパートタイムの勤務形態があり、給与や手当、休暇などは正規職員に準じて設定されます。
また、勤務時間に応じて社会保険にも加入します。
業務内容は正規職員と同様の場合もありますが、責任の程度や業務の難易度が異なることがあります。
採用は試験や選考によって行われ、地方公務員法に基づく公務員として位置づけられます。
会計年度任用職員の保育士は保育現場での人材確保や待遇改善を目的としていますが、正規職員との待遇差は依然として存在しています。
派遣職員
公立保育所への派遣保育士とは、人材派遣会社に雇用され、公立保育所で働く保育士のことを指します。
この雇用形態では、保育士は派遣会社と雇用契約を結び、派遣先である公立保育所で業務を行います。
通常は派遣期間が限定的で、数カ月から1年程度の短期間であることが多いですが、状況に応じて延長されることもあります。
派遣保育士の給与や社会保険は派遣会社が管理し、労務管理も派遣会社が行います。
一方、日々の業務指示は派遣先の公立保育所が行います。
この形態は、保育所の一時的な人員不足や産休・育休の代替などに対応するために利用されることが多く、公立保育所にとっては柔軟な人材確保の手段となっています。
ただし、派遣保育士は正規職員とは異なる立場であり、待遇面での差異がある点に留意が必要です。
公務員保育士になる前に知っておきたい豆知識
公務員保育士を目指すにあたって、最後に知っておいた方が良い豆知識について解説します。
- 公務員試験には年齢制限がある
- 年功序列が根付いている
- 保育園以外に異動になる可能性がある
- 保育園の民営化が進んでいる
公務員試験には年齢制限がある
自治体によっては公務員試験の受験に30歳までなどの年齢制限が設けられています。
そのため、一定の年齢を過ぎているとそもそも受験資格が得られない可能性があります。
保育士の資格取得自体には年齢制限はないため、民間の保育士には何歳からでもなることができます。
しかし、公務員試験の受験において年齢制限に引っ掛かる可能性があるため、公務員保育士を目指すのであれば自治体が設ける受験条件を確認した方が良いでしょう。
年功序列が根付いている
公務員保育士には原則として解雇がなく、また、安定した収入で長く働きやすいことから年功序列の文化が根付いています。
そのため、特に年次の浅いうちは意見が通りにくいなど、職場内での立場や人間関係において不満を抱えてしまう可能性があります。
園の運営方針に対して意見を出しづらいことや職場の人間関係が悪いことは、離職を考える原因ともなりかねない重要なポイントです。
風通しの良い人間関係を重視したい方や、自分の幼児教育の方針に強い理念を持っている方は、公務員保育士が理想の働き方ではないかもしれません。
安定して長く働くことができるメリットは、裏を返すと年功序列が根付きやすい環境を形成している点は覚えておきましょう。
保育園以外に異動になる可能性がある
公務員保育士は、自治体の保育園で勤務できることが保証されているわけではなく、場合によっては保育園以外への異動人事が行われる可能性があります。
具体的には、例えば子育て支援センターや児童福祉施設です。
公共の子育てや教育に関わる・保育士の資格を活かせる職場である点は変わりませんが、業務内容は大きく変わる可能性もあるのです。
また、保育園以外の施設の立地によっては異動に伴い転居が必要な場合も出てくるでしょう。
保育園だけでなく、保育士の資格が活かせる公共の施設全般への異動が想定される点も、念頭においた方が良いでしょう。
保育園の民営化が進んでいる
近年は保育園の民営化が進んでいる点も、公務員保育士を目指すのであれば見落とせないポイントです。
民間で運営する保育園の数が増えているだけでなく、もともと地方自治体が運営していた保育園が民営化されるようなケースも珍しくありません。
とりわけ、運営元の地方自治体が財政難に陥っている場合、施設の運営が民間企業に移るようなことも比較的高い確率で起こりうるでしょう。
保育園の民営化が進むことは、すなわち自治体が運営する保育園の数が減ることと同義であり、それに伴って公務員保育士の採用枠が減ることも想定されます。
また、勤務する施設が民営化されても継続して働き続ける場合、公務員としての立場を失い、民間企業の社員となるようなケースもありうる点は覚えておきましょう。
まとめ
公務員保育士について解説しました。
- 公務員保育士とは公立の保育園で働く保育士
- 保育士資格と公務員試験、両方を突破する必要がある
- 試験では筆記、面接、実技などの科目が課される
- 待遇の安定性や社会的信用で民間の保育士よりも優位
- 一方で副業や異動などの面での融通はききにくい
公務員保育士は保育士の中でも安定的に高水準の収入が得られ、福利厚生も充実しているため安定的な環境でキャリアを積んでいける選択肢と言えます。
一方で、働き方の自由度や収入の上限は民間の方が高いため、保育士として働くにあたってどのポイントをより重視するか考えながら働き方を選択することが重要です。
公務員保育士としてのキャリアに魅力を感じるのであれば、ぜひ試験突破を目指しましょう。