消防署は地方自治体の組織であり、所属している消防官(消防士)は、地方公務員に分類されます。したがって、消防官になるためには地方公務員試験に合格しなければなりません。ここでは、消防官の具体的な仕事内容や、消防官になる方法を説明しましょう。
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この記事を書いた人 橋口 武英 大学時代から教育分野に関心を持ち、個別指導塾や大手受験予備校において、小学生から高校生を対象に幅広く講義を行う。その後、予備校や専門学校で行政書士試験・ビジネス実務法務検定の対策などに携わったのち、大手資格試験予備校において公務員講座の講師となる。公務員試験対策全般のサポートを行う担任講師及び数的処理の講師として、校舎や学内講座のみならず、全国に動画配信される収録講師も担当。理系科目が苦手だった自身の経験を活かした講義は、「文系の受験生でもわかりやすい」として高い評価を得る。 |
消防官(消防士)は、火災や地震・台風などの自然災害の発生に際し、消火活動や人命救助活動などを行う仕事です。「消防士」という言い方もありますが、正確には消火活動や人命救助に携わるのが「消防吏員」と呼ばれる職種で、最初の階級が「消防士」となります。
消防官は火事の際の「消火活動」がイメージされやすいですが、その他にも「救助活動」「救急活動」「予防活動」など、さまざまな分野で活躍しています。
消火活動 |
文字どおり、火災が発生した際に現場に急行し、消火活動を行う仕事です。消火のみならず、周囲の住民への避難指示や、消火活動の妨げになる障害物の除去なども行います。 |
救助活動 |
災害発生時に人命救助活動を行う仕事です。火事のみならず、交通事故で自動車内に閉じ込められた被害者の救出や、河川の氾濫、土砂崩れなどの自然災害が発生した際にも救助活動が必要になります。 |
救急活動 |
いわゆる119番の対応です。現場に直行し、負傷者や急病人などの搬送活動を行います。なお、救急車には国家資格を持った救急救命士が同伴し、負傷者への手当てなどの応急処置を行います。 |
予防活動 |
建造物などの安全基準を調査し、是正や指導などを行う仕事です。建築後のみならず、建築中の建造物も安全基準のチェック対象となります。 |
では、消防官になる方法について説明しましょう。消防官は原則として市町村の職員ですから、身分としては地方公務員になります。したがって、公務員試験を受けて合格しなければいけません。そこで、消防官採用試験がどのようなものか紹介します。
消防官採用試験は、原則として筆記試験や面接などの人物試験、体力検査で構成されています。試験によって内容は若干異なりますが、以下の流れが代表的なケースです。
採用試験ですので、まずは出願を行います。近年はインターネットで出願する試験も増加しています。
1次試験は筆記試験が課されます。筆記試験の形式としては、マークシート形式の択一試験と、文章を書く形式の論文試験があります。
2次試験以降に面接試験や身体検査・体力検査などが課されます。なお、身体検査・体力検査は1次試験から課されるところもあります。
最終合格すると、内定を得て採用されます。その後、消防学校へ入校して半年~1年程度の研修を受けたのち、各自治体の消防局に配属されて消防官としての仕事がスタートとなります。
POINT 採用試験はまず筆記試験をしっかり突破できるかがカギ!
採用試験の流れを確認して、まず覚悟しなければいけないのが、筆記試験をしっかり対策する、ということです。一般的な民間企業と異なり、消防官をはじめとした公務員試験は、筆記試験のボリュームが非常に大きくなります。まずは時間を取って筆記試験対策を行うことが重要です。
なお、消防官は原則として市町村の職員として消防署で勤務することになりますが、複数の市町村が共同で消防組合を組織していることもあります。また、東京都については東京消防庁が存在します。これらの組織がそれぞれ採用試験を実施しているのですね。
では、ここから消防官採用試験の中身について詳しく見ていきます。さまざまな自治体で採用試験が実施されますが、基本的には試験の内容に大きな違いはありません。
なお、ここでは原則として大卒レベルの試験(いわゆる「上級」や「Ⅰ類」と呼ばれる試験)を前提に説明しますが、高卒レベルの試験であっても、選考の大枠は変わりません。ぜひ参考にしてください。
ちなみに、受験資格については、おおむね国籍要件と年齢要件のみとなっています。
消防官は「公権力の行使にあたる公務員」になるため、日本国籍を有していることが前提と考えてください。また、年齢要件については試験によって異なりますが、多くの試験種が30歳程度までの設定にしていることが多いといえます。
どんな試験であっても、筆記試験ではまず択一試験と論文試験が実施されます。なお、その他に適性検査なども課されることがありますが、原則として対策は不要と考えてよいでしょう。
五肢択一式で、いわゆるマークシートの「教養択一試験」が出題されます。「教養」とは、高校までに勉強した内容+αが問われるものです。
高校までに勉強するような科目がラインナップに入っていることがわかると思います。文章理解は、センター試験レベルの現代文や英文の内容合致や趣旨把握などが出題されます。人文科学は世界史・日本史・地理などの「社会」が出題範囲になっており、自然科学は数学・物理・化学・生物・地学などの「理科」が出題範囲になります。社会科学の法律・経済・政治・社会などは、高校の政治経済と同程度のレベルから出題されています。
ここからさらに「+α」になるのが、数的処理や時事などの科目です。数的処理とは、数学的な知識を使って、問題を処理する科目です。簡単にいうと、中学受験の算数のような問題が出題されます。
このように、出題科目は非常に多岐にわたります。ただし、科目のラインナップが非常に多いため、基本的にはメリハリをつけながら対策を進めることになります。以下の出題数一覧を見てください。これが過去に実施された本試験の択一試験における、各科目の出題数です。ちなみに「市役所C日程」というのは、9月に実施される試験のことだと理解してもらえばよいでしょう。消防官の採用試験は9月に実施されることが比較的多いといえます。
自治体によってさまざまな試験がありますが、どこも出題傾向はかなり似ています。基本的に出題数が多いのが、左側に列挙されている一般知能分野の数的処理と文章理解ですね。どんな試験であっても、この2科目で半分程度の出題数を占めることになります。
POINT 択一試験はまず数的処理と文章理解から対策
出題される科目が非常に多いため、一見すると何から手をつければよいかわからなくなるかもしれません。しかし、消防官試験に限らず、公務員試験の教養択一試験で大きな比重を占めるのが、この数的処理と文章理解です。どちらも問題演習が非常に重要で、出題形式に慣れることが必要です。それなりに時間を割いて取り組むようにしましょう。
ちなみに、合格ラインは試験種によっても多少違いますが、概ね6~7割程度と考えておいてください。満点は必要ありませんから、なおさら数的処理と文章理解でなるべく点数を稼ぐこと、一方で一般知識分野の科目はそこそこにとどめておくことが重要なのです。
論述式の文章を書く試験です。出題される内容は試験によってやや異なりますが、基本的には社会問題や行政課題について「消防としてどのように取り組むべきか」、自分の考えを書いていくことになります。その他、面接試験と同じように自己PRの要素を含んだ課題が出題されることもあります。
過去の出題例 2022年度・東京消防庁Ⅰ類① 都民から信頼される消防官となるためにあなたが実践することを具体的に述べよ。 |
対策方法としては、何より書く練習を積むことです。なかなか普段から文章を書く機会が少ない受験生も多いですから、書き慣れることが非常に重要です。あとは、現状の消防行政に関する前提知識も持っておく必要があるでしょう。消防にまつわるトピックなどを仕入れておくことも大切です。
面接試験は主に個別面接(受験生が1人で、内容が深掘りされる面接)がメインですが、自治体によっては集団面接(受験生が複数になる面接)や集団討論(受験生どうしで特定のテーマについて討論し、一定の結論を導くもの)などが実施されることもあります。
特に近年は人物試験が重視される傾向にあります。消防官は住民の生命や財産を災害から守る重要な役目を担っていますから、ストレスにさらされやすい職業でもあります。ストレス耐性なども大きく評価の対象になりますので、「消防官としての適性」があることを伝えられるように、準備する必要があります。
消防官として職務を遂行していくために、一定程度の体力があるかどうかも評価されます。身体検査として身長・体重制限がある試験種もあります。その他、視力や色覚、聴覚の基準を設けているところも多いので注意してください。一例として、東京消防庁Ⅰ類の身体検査・体力検査の内容は以下のようになっています。
なお、消防官試験は年に複数回実施されることも多いのですが、特に採用人数が多いのは、どの試験であってもだいたい1回目です。したがって、消防官の志望度が高いのであれば、1回目で合格できるように入念に準備していきましょう。
ここまで、消防官採用試験について簡潔に紹介してきました。消防官の試験は、最初からモチベーションが高く、仕事の意義も理解して目指す受験生が多いのですが、そうはいっても「なかなか仕事のイメージが湧いていない」という方もいらっしゃるでしょう。しっかり仕事の中身を理解したうえで、試験内容を把握したうえで効率的に試験対策を進めてほしいと思います。
採用情報のホームページには、さまざまな仕事紹介の動画や説明の情報などが掲載されています。試験を目指していても「採用のホームページをほとんど見たことがありません…」という方もたまにいらっしゃいますが、非常にもったいないです。ホームページにしっかり目を通して、まずは試験の内容を確認するところから始めましょう。ちなみに、本試験の過去問は掲載していない自治体が大半ですが、「例題」として一部掲載されているところもあります。どのような試験が出題されるのか、イメージを持つようにしてください。
最初は必ず教養択一試験の対策に力を入れてください。もちろんゆくゆくは論文の対策もしていかなければいけませんが、何よりマークシートの試験のほうが点数は伸ばしやすいです。ここでそれなりに勉強を進めたうえで、少しずつ論文対策にも取り組めるようにしましょう。すでに前述したとおり、教養択一試験の中でも重要なカギを握るのが、数的処理と文章理解です。ここである程度の点数を稼ぐこと、そして他の科目で少しずつ点数を上乗せすることで、合格ラインを越えることができます。
これは消防官試験に限らず、公務員試験全般でいえることですが、くれぐれも諦めないことです。特に勉強初期の段階では、なかなか実力が付いている実感が湧かないと思います。問題演習をしても、特に数的処理はなかなか正解にたどり着けないことが多いはずです。しかし、これは過去の多くの合格者が経験してきたことです。それを根気強く乗り越えた先に、やっと点数が少しずつ安定してくるものなのですね。消防官は特に精神力が要求される仕事だと思いますが、筆記試験の対策も精神力が試されているのだと思って、取り組んでほしいです。
なお、試験対策のコツや勉強法については、スタディング公務員講座の記事で多数紹介していますので、是非そちらにも目を通して、しっかり覚悟を決めて取り組んでいただければと思います。
この記事を読んだ皆さんが、消防官試験を突破し、消防官としての未来を実現できることを祈っております!
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