かつての公務員試験では、択一試験がメインであり、論文や面接は僅かな人数調整であったため、当たり障りのないことを答えておけば合格をもらうことができました。択一試験で採用数をやや上回る程度の合格者を出し、論文や面接では著しく問題のある人を落とすだけだったのです。
この頃は、ほとんど択一試験で合否が決まると言っても良く、公務員試験対策=択一試験対策でした。
しかし、今の公務員試験のメインは論文や面接にシフトしています。
一人一人の面接や論文をしっかりと審査するためにはかなりの労力が必要です。そのため、志願者全員見てしまうと、採用側の大きな負担になります。
よって、択一試験で最低限の点数が取れている人だけに絞るようにしているのです。ところが、ここで絞り過ぎてしまうと、本当は実力があるのに、たまたま択一試験で失敗した優秀な人材にも不合格を出してしまいます。
故に択一試験では明らかに点数が足りていない人だけを落とすことになります。最近では5割程度の正答率で一次試験を合格した、と言う報告も多くなっています。
8割を目指す場合と5割を目指す場合では戦略が全く異なります。ここでは5〜6割を確実に得点する「最新の」公務員試験教養科目突破術を伝授していきます。
教養科目の特徴
1.範囲が広い
教養試験の科目は以下のように、ほぼ全科目が出題されます。
一般知能 | 数的処理(数的推理・判断推理・空間把握・資料解釈) |
文章理解(現代文・英文) | |
一般知識 | 人文科学(世界史・日本史・地理・思想・文芸) |
自然科学(数学・物理・化学・生物・地学) | |
社会科学(法律・政治・経済・社会)時事 |
多種多様な素養のことを教養と言うので、多科目に渡るのですが、これは人によって大きく印象が変わります。
大学受験の際に1科目のみの受験や、総合型選抜(推薦入試)でほとんど科目の勉強をしていなかった人にとっては、「沢山勉強をしなければいけない・・・。」と後退りしてしまいますね。
一方で、大学受験で既に多くの科目を勉強した人が見ると、「教養試験はほとんど勉強しなくて良い!」となります。
旧帝大や国公立大学出身の人が公務員試験で楽々と合格しているのは、このスタート地点での差が非常に大きいと言えます。
これらの大学の出身者は、大学入試の際に公務員試験の教養範囲をある程度カバーしているのです。
旧帝大出身者の中には「試しに過去問を解いてみたら8割正答した」ので、教養科目は全く勉強せずに合格した、と言う人も多くいます。
スタート地点でかなり差がついているので、教養試験に不安を感じる人は、極めて計画的に戦略を練る必要があります。
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2.配点に差がある
次に、教養試験の主な配点を見てみましょう。
分類 | 科目 | 主な配点 |
一般知能 | 数的処理(数的推理・判断推理・空間把握・資料解釈) | 15前後 |
文章理解(現代文・英文) | 10前後 | |
一般知識 | 人文科学(世界史・日本史・地理・思想・文芸) | 6前後 |
自然科学(数学・物理・化学・生物・地学) | 6前後 | |
社会科学(法律・政治・経済・社会)時事 | 10前後 |
※配点は受験先の区分によって変わります。
これを見ると、漠然と「配点の高いところから勉強していこう!」と考えてしまいがちです。
しかし、知能科目と知識科目の違いや配点の意味などの背景を知らないまま闇雲に勉強しても失敗は目に見えています。
ここではまず、配点の背景をしっかりと考え、その上で効果的な戦略を吟味します。
配点の高いところは、端的に言えば、その素養が公務員に必要と言う意味です。
つまり、配点を分析することで、そこから試験の向こう側にある公務員に必要とされる能力を逆算することができます。
分析すると、数的処理・文章理解の知能科目と社会科学・時事の配点が大きいですね!
社会科学・時事は、公務員の仕事がまさにそこに含まれるので配点が大きいのは当然です。
注目すべきは知能科目の配点の高さです。
採用側としては「知能の高い人」を採用したいのです!
かつては与えられたマニュアルを覚える知識が重視されていましたが、近年はその時の状況を瞬時に把握し、臨機応変に適応できる処理能力が重視されています。
公務員試験で知能が求められている以上、まずは知能科目の攻略が最優先となります。
ここで知能の苦手な人は、どんどん遅れてしまう可能性があります。
知能科目が苦手な人は、そもそも「知能を高める」と言う学習がよくわかっていないようです。
そして、知能科目を知識科目として勉強してしまい、一切、解けるようにならず、メンタルだけがどんどん蝕まれます。
知能科目を知識科目として勉強するのは、極端に言えば、筆記対策で「長時間椅子に座るのは足腰の筋力が重要だ」とスクワットを一生懸命やるようなものです。
筋力はつくでしょうが、試験の問題は一切、解けるようになりません。
ある体育会系の受験生に、「いや、頭のトレーニングをしないと!」と言ったら、彼は頭突きの練習を始めました。
そして筋肉ムキムキになって筆記試験を受けても、一向に問題は解けず不合格になってしまいます。
受験後は「努力が足りなかった!」と、今度は腕立て伏せを始めました・・・。
これは笑い話の冗談ですが、実は知能科目を暗記学習している人は、これと同様の間違いを冒しているのです。
筆記試験で求められているのは学力であり、筋力ではありません。
よって、いくら筋トレをしても学力は伸びません。
同じように、知能科目で求められているのは知能であり、知識ではありません。
よって、いくら知能科目の問題を覚えたり、暗記したりしても、知能は高まりません。
公務員試験の受験生で挫折する多くが、この「知能科目の学習ミス」に原因があります。
知能科目で求められているのは、「その場で判断する処理能力」であり、「解法の暗記」ではありません。
重要なのは自分の頭で処理することです。
闇雲に解説を覚え、「自分一人で解けない」と嘆くのではなく、きちんと「自分の力で解く」と言う訓練をしてください。
自力で解けないのに暗記で誤魔化し、能力があるフリをするのは詐欺です。
たとえ、試験では上手く騙して採用されたとしても、「あの人は自分で何の仕事もできない」と周囲に蔑まれ、肩身の狭い思いをすることになるでしょう。
まずは知能脳になることが先決!
ここまで、公務員において知能がいかに重視されているかを確認しました。
知識を完璧に積み重ねても、知能が乏しければ「公務員として不適切」であるため、得点ができない仕組みになっています。
さて、知能には「要領良く処理する」と言う側面もあります。
実は、この能力は教養試験全体で問われているのです。
そもそも、公務員試験の教養科目は範囲が広い割に、全てを網羅する必要はなく、5〜6割が合格ラインとなっています。
教養を重視するならば、もっと高得点を合格ラインにすべきであるし、知能科目を重視するならば、科目を数的処理のみに限定して、高得点必須にすれば良いのではないか、と言う声もあるでしょう。
冒頭でもお伝えしたように、公務員試験における教養試験は、「優秀な人を選ぶ」試験ではなく、「不適切な人を落とす」人数制限のための試験であることに着目してみましょう。
ここから伺える教養試験の真なる目的は、「完璧主義の人を落とす」と言う点にあります。
賢い皆さんはもうおわかりですね!
知能科目で求められる「要領良く処理する」の対極にあるのが「完璧主義」なのです。
組織において最も障害となるのは、「仕事をしない人」よりも「仕事の妨げになる人」です。
完璧主義の人が一人いることで、些細なことにこだわってチームの仕事をストップさせてしまったり、細かい部分をやたらとネチネチ指摘をして周囲のヤル気を削いでしまったり、完璧主義者はまさにチームクラッシャーです。
そこで、公務員試験では教養試験でわざと「完璧主義の人が得点できない」ように設定し、完璧主義者が一次試験を突破できないようにしています。
また、もし万が一、一次試験を突破されたとしても、面接で低評価となるため、合格できる可能性は極めて低くなります(筆記試験で多く落とすのは、なるべく面接官も完璧主義者とは話をしたくない、と言う意図があるのでしょう)。
「完璧主義者が得点できない」仕組みをもう少し詳しく解明していきます。
まず、教養試験は科目が多いのですが、全ての科目を完璧に攻略しようとすると何年もかかってしまいます。
教養全てにおいて完璧になるためには、森羅万象を網羅する仙人のようなレベルに達しなければいけないため、短期間では無理なのです。
次に、試験当日も、完璧主義の人は全ての問題を完璧に解こうとするので、知能問題の解けない箇所に時間を過度に費やしてしまい、全ての問題を見る時間が無くタイムオーバーになってしまいます。
対策の学習計画、当日の時間配分の二重の面で完璧主義トラップが仕掛けられているのです。
この完璧主義者と逆の取り組み方をし、
1.合得点を意識した学習計画。
2.当日は解ける問題だけを解く。
を意識すれば、楽々と合格ラインに達するでしょう。
学習を始める前に
知能科目を優先する点は既にお話ししました。
ここでは、知能をある程度攻略した上で、どのような戦い方が望ましいかを詳しく解説します。
まず大前提として、勉強は「好き」「嫌い」が大きく左右します。
同じ時間だけ学習したとして、好きな科目と嫌いな科目では成果が雲泥の差となります。
先に断言しておきますが、嫌いな科目をいくら努力してもできるようにはなりません。
容器に蓋をしたまま、目一杯に蛇口をひねって水を注いでも、一切水が貯まらないのと同じです。
最初にやるべきことは、蛇口をひねることではなく、蓋を取ることです。
つまり、その科目を「好き」になることが最も重要であり、攻略への近道となります。
そして、教養試験においては知能の配点が高いことから、受験生がまず真っ先に取り組むべきは、「知能科目を好きになる」ことです。
逆に、嫌いな低配点科目は捨ててしまって構いません。
縁がなかったと割り切りましょう。
〈コラム〉多科目への対応は人間関係と同じ
皆さんは、社会生活を送る上で、様々な人と接すると思います。
いろんな人がいるため、当然、好き嫌いも生じます。
一方で、生きていく上で関わりの深い人もいれば浅い人もいます。
そして、多くの人が悩むのは「嫌いな人とどう付き合っていくか」ではないでしょうか?
これは「嫌いな科目をどうするか」と根源的には同じ問題です。
実は「好き」「嫌い」と言うのは、主観的なものであり、相手そのものよりも、それを解釈する自分の心の動きに依存しています。
最初は大嫌いだと思っていた人と結婚したり、仲睦まじかった夫婦が顔も見たくないほど仲違いしたりするケースは枚挙に暇がありませんね。
要因が自身にあるため、実は「嫌い」を「好き」にするのは、多くの人が思っているほど難しくは無いのです。
某アニメのオープニング曲ではありませんが、毎日「好き好き好き好き好き好き」と言い続ければ、あっという間に好きになります。
人間の心なんてそんなものです。
では、なぜ今まで好きになれず、嫌いな感情を頑なに持っていたのでしょうか。
それは、無意識のうちに、毎日「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い」と心の中で言い続けているからです。
寧ろ、嫌いな人のことで悩めば悩むほど、「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い」と憎悪が増長します。
苦手科目も、知らず知らずのうちに「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い」と負の反復を繰り返してしまい、どんどん蓋をしてしまう人が多いようです。
ところで、前述した完璧主義者は人間関係でも常に悩みを抱えています。
完璧主義者は、全ての人と完璧に良好な関係を築かねばならないと思い込んでいるのです。
そして悩めば悩むほど、負の感情が高まり、良好な関係が築けません。
また、自分と関わりの薄い人との人間関係まで完璧に気にしてしまい、悩んでしまいます。
もしかしたら二度と会うことがないかもしれない人のことで悩むのは時間の無駄です。
その時間を未来に対して有意義に使いたいものです。
さて、察しの良い皆さんはもうお分かりですね。
科目に関しても、配点の低い科目のことでいちいち悩むのは時間の無駄です。
高配点科目を、毎日「好き好き好き好き好き好き」と言い聞かせて、心の内側から変えていきましょう!
科目の特徴を踏まえた学習計画
さてここからは、具体的な科目への取り組み方について解説します。
多くの人が、勉強時間を均等に割り振ってしまい、上手く攻略できずに伸び悩んでいます。
知能科目を毎日コツコツ勉強したり、知識科目を1日で覚えようとしても、全く効果がありません。
まずは知能科目から見ていきます。
1.知能科目の学習
知能科目で問われている力は、「未知へのアプローチ」ができるか、と言う点です。
その場で初めて与えられた条件から、瞬時に適切な解を導けるかの処理能力を見ています。
仕事では、その時その時の状況によって、現状を見極め、臨機応変に的確な判断・行動を取らなくてはいけません。
知能科目で解けずにオロオロしてしまう人は、実際の仕事でも適切な判断ができず、オロオロして業務を滞らせてしまう人です。
知能は付け焼き刃のような短時間の学習では一切向上しません。
例えば、1日1問を毎日解くと言うコツコツ型の勉強では、全く効果が望めません。
知能を育むには、状況把握から条件を整理し、適切な方向性を導く一連の思考回路を形成します。
これにはまずはゆっくり時間をかけ、自身の内側から取り組む必要があります。
よって、休日など時間に余裕がある際に、取り組むと良いでしょう。
一度、回路が形成されれば、問題を見ただけで方向性が浮かぶようになります。
知能科目は方向性さえ発想すればほとんど解けたと同じなので、発想の段階で答えを見て、方針が合っていたかどうかを確認すればOKです。
綺麗なノートに丁寧に計算しても、残念ながら、本番での点数アップにはつながりません。
〈ワンポイントアドバイス〉計算の練習は不要!
数的推理などで計算ミスをしてしまう受験生から、「計算ドリルをやった方が良いですか?」との質問を受けることがあります。
しかし、恐らく多くの人は計算ドリルをやったらほとんどの問題で正解するはずです。
実は、本番での計算ミスは、計算ができないのではなく、その問題の解法に自信がないから、不安でいろいろ考えてしまい、手元の計算に集中できていないのです。
普段、綺麗なノートに丁寧に書いていた人ほど、本番では時間がなくて殴り書きの計算となり、いつも通りの力が発揮できないことが多いようです。
中には本当に計算ができないと言う人もいるかもしれませんが、四則演算ができない人は、残念ながら公務員試験受験の最低限のレベルに達していません。
四則演算ができない人は、公務員ではなく、数字に一切関わらない別の仕事を探しましょう!
2.知識科目の学習
知能科目が「未知へのアプローチ」なら、知識科目は「既知へのアプローチ」と言えます。
過去の先人たちが育んだ知恵を習得していく訳です。
さて、皆さんの中に、学生の頃、暗記が中心の試験の前に、何となくやる気が起きず、休日に後回しにした経験がある人はいませんか?
「週末にやれば良いから大丈夫」と言って土曜になってもなかなか着手せず、「明日もたっぷり時間があるから」と寝てしまい、日曜の午後になってやっとテキストを開いたと思ったら、すぐに睡魔に襲われ、「今、仮眠をとって、夜に起きてやろう」とそのまま翌朝まで寝てしまい、慌てて学校へ・・・。
この失敗の元凶は、知識科目を「週末にやろう」としているところにあります。
人間の脳は一気に大量の情報を覚えることはできません。
覚えては忘れ、覚えては忘れ・・・を繰り返しながら記憶は定着していきます。
よって、知識科目は、平日に分散させてコツコツ覚える学習が効果的です。
また、人間の脳は丸暗記したものはすぐに忘れるようにできています。
喜怒哀楽やストーリーを重視し、様々な事象を絡ませながら覚えていきましょう。