東京都Ⅰ類Bの志望度が高い受験生の場合、採用人数が多く倍率も下がりやすい「一般方式」を受験することが多いと思います。しかし、一般方式を受験する方にとっての悩みのタネになるのが、専門記述試験の存在です。
ここでは、東京都Ⅰ類B(一般方式)の専門記述試験はどのような試験なのか、どのように対策していくべきなのか、簡単に紹介していきましょう。なお、ここでは「行政」区分の専門記述について説明します。
専門記述試験とは?
専門記述試験とは、専門科目が論述の形式で課されるものです。国家公務員試験であれば、国家専門職や裁判所一般職などをはじめとして、専門記述が課される試験は多く存在します。
一方で、地方公務員試験で専門記述が課される試験種は、近年はほとんどありません。そんな中、専門記述を課す地方公務員試験の代表格といえるのが東京都Ⅰ類B(一般方式)です。なお、昔は東京都Ⅰ類Bでも専門択一が存在したのですが、現在は専門記述のみが課される形式になっています。
POINT 東京都Ⅰ類Bには、専門科目が課されない「新方式」も存在する!
東京都Ⅰ類Bでは、専門科目まで勉強しなくても受験できる方式があります。これが「新方式」と呼ばれるもので、平成25年度(2013年度)から実施されるようになりました。「民間企業をメインに考えている就活生にも、東京都を受験してほしい」というのが新方式を実施する意図でしょう。特に近年の公務員試験は、対策の負担を減らして受験者を増やそうと取り組む傾向が強いのですが、早い時期からこれに取り組んでいた試験といえます。ただし、採用人数は一般方式より少ないので、倍率が上がりやすい点には注意してください。
参照:https://asahi.gakujo.ne.jp/teach/jinji_real/detail…
東京都Ⅰ類Bが出題する専門記述試験とは?
では、東京都Ⅰ類B(一般方式)が出題する専門記述試験を紹介しましょう。まずは実際の過去の出題例から見ていただいたほうが早いと思います。以下は、令和4年度(2022年度)に出題された専門記述試験です。
過去の出題例 2022年度・東京都Ⅰ類B(一般方式) 次の出題分野10題のうちから3題選択のこと 1.憲 法 労働基本権及びその制限について説明せよ。 2.行政法 行政行為の付款について、付款の限界及び付款が違法な場合の効力に言及して説明せよ。 3.民 法 錯誤による意思表示について、平成29年の民法改正における改正内容とその背景に言及して説明せよ。 4.経済学 マンデル=フレミング・モデルにより、固定相場制と変動相場制のそれぞれの場合における財政政策の有効性を、グラフを用いて説明せよ。なお、資本移動は完全に自由であるものとし、固定相場制の場合には不胎化政策はとらないものとする。 5.財政学 課税の根拠である応益負担及び応能負担について、それぞれ説明せよ。 6.政治学 リーダーシップの特性理論及び状況理論について述べた上で、「伝統的リーダーシップ」、「代表的リーダーシップ」、「投機的リーダーシップ」及び「創造的リーダーシップ」について、それぞれ説明せよ。 7.行政学 日本の官僚制の特徴について説明せよ。 8.社会学 ウォーラーステインの世界システム論について説明せよ。 9.会計学 連結財務諸表に関する会計基準における三つの一般基準のうち、連結の範囲について説明せよ。 10.経営学 ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が開発したプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)について、資源配分の考え方及び指摘されている問題点に言及して説明せよ。 |
専門記述試験の出題形式には、大きく説明問題と事例問題の2つがあります。説明問題とは、何らかのテーマや用語について抽象的に説明させるもの、事例問題とは、何らかの事例が設定されて、事例を分析した上で論点や問題点などを指摘して論じるものです。
過去の出題例からもわかるとおり、東京都Ⅰ類B(一般方式)が出題するのは、典型的な説明問題といえます。事例などの前提がなく、端的に「説明せよ」という出題形式になっているので、論じる流れや構成は受験生自身が考えて記述しなければいけません。これは以前から変わっていませんので、今後も同様の説明問題が出題されると考えてよいでしょう。
また、10科目中3科目を選択することになっていますが、選択する科目は事前申告制ではないので、本試験の現場で選ぶことができます。したがって、書ける科目をその場で3つ選んで書くことになります。試験時間は120分ですので、1科目あたり40分程度で想定しておけばよいでしょう。
科目ごとにそれぞれ出題傾向がありますから、それなりに出題テーマを推測することは可能です。出題が予想されるテーマを中心に、得意な科目などを重点的に対策していくことになるでしょう。
どのように対策すればよいのか?
では、専門記述試験について、どう対策すればよいかを説明しましょう。なお、ここで紹介する内容は東京都Ⅰ類B(一般方式)に限らず、その他の試験種の説明問題などでも通じる話が多いので、ぜひ参考にしていただければと思います。
1.基本的には「暗記コンテスト」と割り切る!
身も蓋もない話になってしまうのですが、この手の出題形式は結局「暗記勝負」になってしまいます。何もヒントや手がかりのないところから書き始めなければいけませんから、覚えていなければ書きようがないわけですね。
これは専門択一試験の出題形式とは大きく異なる点です。専門択一であれば、選択肢の記述が「正しいか誤りか」を判断すればよいだけなので、極端なことをいえば「常識的に考えて妥当だろう」とか「普通に考えたらそれはさすがにあり得ないだろう」という判断で選択肢を選ぶことができる問題もあるのです(もちろんその判断が正しいかどうかは別として…)。少なくとも、何もマークできないということはないはずです。しかし、専門記述は「いっさい何も書けない」という状況が起こりかねません。これが最も怖いところです。
2.専門択一の勉強をひととおり終えてから、模範答案を覚える!
まずは原則として、専門択一の勉強はひととおり済ませましょう。科目の全体像を掴むのであれば、専門択一の対策を進めるのが効果的だと思います。科目の内容がわからないままに専門記述の対策を進めるのは非常に大変です。模範答案を読んでも、意味がよくわからないまま話が進んでしまうので、まずは専門択一の勉強を進めて、基本レベルの過去問をある程度解いておきましょう。そのうえで、専門記述の対策に入っていきます。
結論からいうと、おそらく専門記述を乗り切る最短の方法は、模範答案を覚えて、それを本試験の答案で吐き出すことです。その点でも前述した「暗記コンテスト」の色が非常に強くなってしまうのですね。そもそも説明問題は大学の学部試験と似たような出題形式で、「覚えたものをそのまま文章にする」という話にならざるを得ないのです。もしかすると、出題者側からすれば「大学の勉強をしっかりしてきた人を評価したい」という意図があるのかもしれませんが…
3.専門択一の問題演習と並行して進める!
とはいっても、模範答案をひたすら覚えるだけでは危険な面があります。何より運に大きく左右されてしまう点ですね。知識を聞く問題である以上は当然のことですが、模範答案を覚えて準備したテーマが出題されれば、そのまま書くことができますし、出題されなかったら何も書けないという「イチかバチか」になってしまいます。
ですので、最終的には模範答案をある程度覚えることが必要ですが、理想をいえば、どんなテーマが出題されても大外ししない答案を書けるようにすることが最善だと思います。そのためには、やはり専門択一のインプットや問題演習と並行して進めるべきでしょう。
特に東京都の志望度が高い受験生の場合、専門択一にほとんど時間をかけず、ひたすら専門記述の暗記に全力を注ぐケースがよく見受けられます。もちろん、東京都専願で他の試験を全く受験しないという状況であれば、そのような対策もあり得ると思います。しかし、前述のとおり、予測が外れた場合にはいっさい何も書けない状況になってしまいます。さすがにそれはリスクが大きいでしょう。
そこで、普段からさまざまな科目の専門択一を勉強していく中で、「専門記述で聞かれたらどのように論じるべきか」を意識することが効率的ではないかと思います。テーマごとに内容の全体像を把握していくイメージで進めるとよいでしょう。
例えば法律系の科目なら、専門択一の勉強をしながら、「定義・意義は何か」「制度趣旨・目的は何か」「どのような論点があるか、最高裁判例の立場は何か」のような感じで、それぞれを箇条書きにしてストックしておくのです。こうすることで、専門択一の知識としてだけでなく、専門記述になったときにどのように書くのかまで意識しながら勉強を進めることができます。本試験で仮に模範答案を覚えていないテーマが出題されてしまったとしても、専門択一の知識を使いながら、何とか書いて乗り切ることもできるわけです。
そもそも専門択一も専門記述も、専門択一でしか聞かれないプロパーの知識があったとしても、同じ科目であれば聞かれる内容の大半は変わりません。完全に切り離して勉強するのではなく、相乗効果を狙って進めるほうが得策だと思います。
4.書ける科目を5科目程度は用意しよう!
10科目中3科目を選ぶという形式なので、ギリギリ3科目しか準備しないという受験生もいます。特に法学部の受験生などで、憲法・行政法・民法だけを準備して挑むという方がいるのですが、これもかなりリスクが大きいと思います。
前述のとおり、問題は本試験のその場で選ぶことになります。ということは、仮に3科目しか準備せずに試験に臨んだとすると、準備した3科目では書けない問題が含まれていた場合、代替手段がなくお手上げになってしまいます。これは他の試験種の専門択一なども同じですが、選択する科目数ギリギリしか準備しないとなると、いざ解けない問題ばかり出題されたときに失点のフォローができなくなってしまうのですね。したがって、多少の余裕を持って準備するのがベストだといえます。
おすすめとしては、主力として3科目を準備し、万が一そこで書けない科目があったとしても、スペアとして2科目程度を準備することです。この5科目体制であれば、どんな問題が出たとしてもそれなりに対応できるのではないかと思います。
5.多くの受験生に選ばれやすい科目がある!
どの科目を選んで準備するかについては、受験生によってさまざまだと思います。例えば法学部の受験生であれば憲法・行政法・民法は準備しやすいでしょうし、経済学部の受験生であれば経済学・財政学などが準備しやすいでしょう。
しかし、どんな学部の受験生であっても、今までの学習のバックグラウンドなどと関係なく選ばれやすい科目があります。それが、憲法や、行政系科目である政治学、行政学、社会学などです。
憲法は、専門科目まで対策する受験生であれば、まず確実に勉強することになる科目です。科目自体のとっつきやすさもあるため、専門記述で準備する科目にチョイスする受験生は非常に多いです。
また、行政系科目は、理解というよりもほぼ完全な暗記科目です。そのため、どの受験生にとっても取り組みやすい科目であるため、選ばれやすい傾向にあります。
あとは、独学であれば「専門記述に特化した市販の参考書が充実しているかどうか」もポイントになるかもしれません。特に法律系科目や経済系科目は参考書がそれなりに揃っているので、対策がしやすいでしょう。一方で、行政系科目は専門記述に特化した参考書がほとんどないため、準備が難しくなるといえます。
専門記述試験にあまり振り回されすぎないこと!
東京都Ⅰ類B(一般方式)の過去の合格者を見ていると、例年専門記述の出来がボロボロでも最終合格できているケースが多いことがわかっています。配点割合は公表されていませんが、おそらく専門記述の配点がかなり低いか、もしくは多くの受験生がほとんど書けていないことが考えられます。ですので、専門記述の対策に時間をかけすぎることはくれぐれも避けてください。
よく見かける例ですが、東京都の本試験の3か月前くらいから専門記述に多くの勉強時間を割いてしまった結果、教養択一で足をすくわれて不合格になるケース、東京都は良かったとしても他の試験種の専門択一の点数が伸び悩んでなかなか筆記試験に合格できないケースなどもあります。
くれぐれも筆記試験は専門記述が全てではありません。時間を取られすぎて本試験で不合格になることのないように、全体的に点数を伸ばすことを心がけて対策を進めるようにしましょう!