公務員試験で出題される憲法は勉強の範囲が広く、膨大な暗記が必要と言われています。
さらに配点が高いことで、多くの受験生が力を入れて勉強しています。
憲法の攻略は、公務員試験の受験生にとって避けては通れない道だと言えるでしょう。
つまり限られた時間の中で憲法の得点を上げるには、憲法の勉強法を知って学習を進めていく必要があります。
今回は、カリスマ講師の寺本講師が「法律系専門科目 憲法の攻略法」を分かりやすく、丁寧に解説していきます!
1.法律系科目の基本、それが憲法
公務員試験には様々な科目がありますが、憲法は法律系科目の基本に位置づけられる科目です。では、なぜ基本と言われるのか、その理由を紐解いていきたいと思います。私は次の3つが理由だと考えております。
➀公務員試験における出題が多い
②ほかの科目に知識を応用できる
③公務員という仕事柄、知らないとまずい
まず➀ですが、公務員試験において、憲法が出題される場面は専門試験だけではありません。教養試験の社会科学(法律)でも出題されます。また、試験によっては専門記述が課される場合がありますが、その科目にも憲法は入っています。つまり、憲法は公務員試験全体を通してよく出題される科目と言えるわけですね。参考までに憲法が各試験種で何問出題されるのかを見ていきましょう。
【専門試験における憲法の出題数】
国家総合職(法律区分) | 7問(必須) |
国家一般職 | 5問 |
国税専門官 | 3問 |
財務専門官 | 6問(必須) |
労働基準監督官A | 4問 |
裁判所事務菅(総合職・一般職) | 7問(必須) |
特別区Ⅰ類 | 5問 |
地方上級(全国型) | 4問(必須) |
地方上級(関東型) | 4問(必須) |
地方上級(中部・北陸型) | 5問 |
市役所A日程 | 5問(必須) |
市役所B日程 | 5問(必須) |
市役所C日程 | 5問(必須) |
どうでしょうか?1問、2問しか出題されないというのであれば大した科目ではないかもしれませんが、ある程度まとまった数が出題されることがわかりますね。しかも、必須解答となっていることも多いため、憲法ができないと自動的に点数を失っていくことになります。したがって、憲法は公務員試験の中でも基本科目に位置づけられるわけです。
次に②についてですが、憲法は公務員試験の他科目との接点も非常に多い科目です。前述した教養試験の社会科学はもちろん、専門試験の行政法、政治学、行政学、財政学などとも接点があります。行政法や行政学とは内閣や地方自治などと関連していますし、政治学についても、各国の政治制度や選挙制度を学ぶ際に憲法の知識が役立ちます。また、財政学も憲法の財政民主主義や予算・決算が関連してきます。つまり、憲法がわかっていると、他の科目を学習していく際に有利に働きます。
最後に③について。こちらは試験に直接関係するわけではないのですが、皆さんが将来的に公務員になるにあたって、憲法を知らないとまずいという意味で基本となります。憲法は法体系的には公法に位置づけられます。公法とは、国家の組織を規律したり、国家と国家、あるいは国家と私人(国民)との関係を規律したりする法体系をさします。そして、公務員という仕事はこのような公法体系の下で仕事をしていくことになります。特に憲法は公法の中でも王様と呼ばれ、国家の暴走に歯止めをかけるための技術ですから、当然皆さんも自分たちの権力を縛る憲法のルールを知っておかないとまずいわけです。もし、公務員が憲法を知らないと、市民の人権を侵害してしまったり、権利を濫用して市民に迷惑をかけてしまったりとさまざまな問題が起きかねません。ですから、権力側に立ってサービスを提供する公務員は、自分たちを縛るルールをちゃんと熟知しておかないといけないわけです。憲法99条にはこう書いてあります。
憲法99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」 |
これは、「公務員が権力側の人間なのだから、憲法をちゃんと守ってね」という条文です。「憲法尊重擁護義務」といいます。このように、憲法自身が公務員に憲法を守れ!と要求しているのです。にもかかわらず、公務員が憲法を勉強していなかったら?もちろんダメですよね。そういった意味で、憲法は公務員試験の基本といえるわけです。
2.憲法は「人権」と「統治」に分かれている
憲法は、大きく「人権」と「統治」に分けることができます。人権というのは、人が生まれながらに当然有する権利で、自由権、社会権、受益権(国務請求権)、参政権があります。この人権を保障することが憲法の至上命題なので、試験では必ず出題されます。そして、試験的には最高裁判所の判例を学習することがメインとなります。判例の数は膨大ですが、事案を見てから判旨を読むという流れで学習を進めていくことになりますので、イメージがわきやすく、内容も覚えやすいと思います。したがって、あまり苦に感じる受験生は多くありません。しかも、試験で出題される判旨の部分は決まっていますので、その決まり決まった部分だけを覚えておけば試験では対応することができてしまいます。ただ、一点注意してもらいたいのが、「違憲審査基準」を述べた部分です。この違憲審査基準とは、裁判所が合憲・違憲の結論を導き出すために、当該事案ごとに作る基準をいいます。要するに、理由付けの核となる部分ですね。試験では合憲・違憲の結論はもちろん、この違憲審査基準もよく問われます。当該事案を解決するために、裁判所がどのような違憲審査基準を採用したのかにも目を向けてみてください。
一方、統治は権力分立を主に規定している分野です。日本は国会(立法権)、内閣(行政権)、裁判所(司法権)という三権分立を採用していますので、それぞれの組織、権限を学ぶことがメインになります。また、財政や地方自治についても補足的に学習することになります。統治の分野は判例も大切ですが、制度理解がメインの学習となります。ですから、暗記の要素が強く、淡々とした学習が続くため、人権よりも面白くない、と感じる受験生も多いようです。しかし、統治は、他の科目を学習する際の前提として必ずマスターしておかなければならない分野です。ここをマスターしておくと、行政法、政治学、行政学、財政学など他の専門試験科目に役立ちます。したがって、決して手を抜くことは許されません。学習のコツは、繰り返し問題を解くこと。一度で覚えようとはせずに、過去問を繰り返し解く中で、徐々に学んだ知識が「常識」となっていきます。そして、一度マスターしてしまえば、実は人権よりも得点が安定するようになります。苦しいのは最初だけですから、しっかりと学習に取り組んでいただきたいと思います。ここまでをまとめると次のようになります。
ポイント
✅人権は判例が重要
→結論だけでなく、違憲審査基準もしっかりと頭に入れる
✅統治は制度理解がメイン
→繰り返し過去問を解くことで自然と常識化する
✅人権よりも統治の方が点数は安定する
3.憲法は簡単?
憲法は法律系科目の基本という位置づけであるため、よく「簡単な科目」と評価されることがあります。しかし、この評価は半分あっていて半分まちがっています。どういうこと?と思うかもしれませんが、これは基本と位置づけられる科目であるがゆえのパラドックスだと考えてください。つまり、作問者は簡単な科目ほど満点を取らせないように工夫する傾向にあるため、難しい問題を織り交ぜて出題してきます。ですから、いかに基本的な科目であるといわれる憲法でも満点は取れないのです。中でも人権の分野で難しい問題が出題されることが多いので、頭の片隅にでも置いておいてください。人権は判例がメインで問われることは前述しましたが、この判例で難易度調整をしてくるわけです。難易度調整の方法は次の2つに分けられます。
➀細かい判例を出す
②細かい判旨の部分を出す
➀は、細かいマイナー判例をドドンと出題するやり方です。肢の1つがマイナーな判例ということであればまだしも、2つ3つと数が増えると正答を出しにくくなります。ただ、このパターンはそこまで多くありません。公務員試験で多いのは実は②です。前述しましたが、通常長~い判旨の中で出題される部分は決まっています。ですから、受験生はその決まり決まった部分だけをピンポイントで覚えて対応していきます。しかし、難しい問題の場合は、判旨の中の超マニアックな部分を引用して問題を作ってくるわけですね。そうすると、受験生は一体何の判例の引用なのかを把握できず、正答にたどり着くことができなくなります。このパターンが最近多いのです(もちろん試験ごとに多少傾向は異なりますが…)。ですから、多くの受験生は、人権の問題で足を引っ張られ、満点を取ることができないわけです。では、受験生としてはその細かい判旨の部分まで全部読み込むことをしなければいけないのでしょうか?答えはNOです。公務員試験は、みんなが取れる問題を自分も取り、みんなが落とす問題を自分も一緒に落とすことが基本戦略となります。したがって、試験戦略的には、人権でミスを最小限にするという方向で考えていくとよいと思います。その代わり、統治で満点を目指しましょう。このことは、誰も教えてくれない憲法の闇の部分と思っておいてください。ほとんどの受験生は憲法を「満点科目」と位置づけているようですが、実はそうでないという話でした。
ポイント
✅憲法は人権で満点を取ることが難しい
→細かい判旨の部分を出題してくる問題が最近多いから
✅統治で満点を取れるように学習する
4.頻出テーマはここだ!
それでは、ここからは憲法における頻出テーマを解説していきます。これから憲法を学習してく際の参考にしてみてください。ただ、頻出でも難易度の高いテーマがあります。その場合は、あえてカットしても構いませんので、その点も踏まえて私なりの考えを述べさせていただきます。
(1)人権
1.人権共有主体性
人権が保障されるか?という問いに答えていくテーマです。外国人、法人、天皇・皇族、公務員、刑事施設被収容者などさまざまな主体が問題となりますが、外国人と法人が出題されやすい傾向にあります。最初に扱うテーマであるがゆえに苦手にする受験生はほとんどいません。確実に一点もぎ取ってください。
2.人権の私人間効力
人権は国家権力に対して主張するものなので、私人間では人権を主張できないのが原則です。ここでは私人間の人権的問題をどうやって解決していくのかを学びます。難しい議論なので、カットしてしまう人も多くいます。試験でも超頻出とまではいえません。
3.幸福追求権
超頻出です。「新しい人権」にまつわる判例がいっぱいありますので、なるべく広く当たる必要があります。特にプライバシー関係はよく出題されています。教養試験でも頻出のテーマなので、高コスパといえます。
4.法の下の平等
超頻出です。違憲判断が6つも出てくるので、違憲の宝庫と呼ばれるテーマ。出ないわけがありません。人権の中で最頻出テーマに位置づけられると思ってください。したがって必ず学習しましょう。特に違憲の判例には要注意です。
5.自由権
精神的自由権には、思想・良心の自由、信教の自由、表現の自由、学問の自由の4つがあります。この中で出題されやすいのは、表現の自由です。たくさん判例があるので毎年どこかで出題されると思っておきましょう(ただ、違憲が一つもない…という意外なテーマでもありますね)。また、余裕があれば信教の自由も見ておくとよいでしょう。政教分離というテーマで違憲が3つあります。特に3つ目の違憲は令和3年2月24日(孔子廟違憲判決)に出たばかりなので、比較的注目が集まっています。
経済的自由権の中で重要なのは、職業選択の自由と財産権です。各テーマ1つずつ違憲判断が下されていますので(薬事法違憲判決、森林法違憲判決)、しっかりと学習しておきましょう。ただ、この2つのテーマは結構簡単なので、苦手にする受験生はいませんね。
人身の自由は、自由権の中で一番条文数が多いのですが、難しいのでカットする受験生が多いですね。もちろん出題されないわけではないのですが、直近の試験で出題されていればしばらくの間お休みだと思いますので、その場合は学習しなくて構いません。
6.社会権
社会権には、生存権、教育を受ける権利、勤労権、労働基本権の4つがありますが、優先的に学習すべきなのは、生存権です。生存権は判例の数が少ないのですが、その代わり法的性質に関する学説の理解が求められます。ただ、出題がワンパターンなので、確実に点数につなげられるおいしいテーマです。
7.受益権(国務請求権)
受益権には、請願権、裁判を受ける権利、国家賠償請求権、刑事補償請求権の4つがありますが、ほぼ出ません。スルーしましょう。
8.参政権
出題はありますが、頻出ではありません。ほかのテーマに吸収されてしまうことも多いので、固有の人権として学習することは不要だと考えてください。
【優先的に学習すべきテーマ(人権編)】
✅人権共有主体性(外国人、法人)
✅幸福追求権
✅法の下の平等
✅表現の自由
✅職業選択の自由
✅財産権
✅生存権
(2)統治
1.国会(立法権)
統治の中では最頻出テーマとなります。衆議院の優越、会期、国会議員の特権、国政調査権の4つを優先的に学習しましょう。特に衆議院の優越は、教養試験でも出題されることがありますので、しっかりと理解しておかなければなりません。日本は二院制を採用していて、衆参両院で国会運営がなされているわけですが、より国民の民意が反映されているのが衆議院です。そこで、権限の優越や議決の優越が定められているわけです。やや細かいことまで覚えておかなければ正答にたどり着くことができないこともあります。最初は苦労するかもしれませんが、ここは逃げてはだめです。
2.内閣(行政権)
周期的に出題されるテーマです。内閣のテーマは覚えることが少なく、出題のバリエーションも限られています。それゆえ、正答にたどり着くことは比較的容易です。内閣総理大臣の地位・権限、国務大臣、内閣総辞職、衆議院の解散などが主な出題ポイントとなります。
3.裁判所(司法権)
教養試験でも出題される高コスパテーマです。統治ではめずらしく、覚えるべき判例が結構あります。具体的には法律上の争訟、司法権の限界は判例学習がメインになります。ただ、結論のみの暗記になりますので、マスターするのに時間を要しません。また、裁判所の組織、違憲審査権も出題のポイントになります。裁判所の組織について「淡々としていていやだな~」と感じる受験生がいるかもしれませんが、ここは気合一発で乗り越えてください。
4.財政
予算や決算について学ぶテーマですが、頻出とまではいえません。行政学や財政学でも学習するので、そちらにゆだねてしまう受験生も多いですね。条文知識の出題がメインになりますので、難しくはありません。総じて優先順位は低いでしょう。
5.地方自治
頻出テーマですが、行政法や行政学と重複しています。憲法で学習するのはあくまでも大枠にすぎません。出てくる判例も決まっていますので、マスターするのは容易です。得点源になるテーマといえます。
【優先的に学習すべきテーマ(統治編)】
✅国会(衆議院の優越、会期、国会議員の特権、国政調査権)
✅内閣(内閣総理大臣の地位・権限、国務大臣、内閣総辞職、衆議院の解散)
✅裁判所(法律上の争訟、司法権の限界、裁判所の組織、違憲審査権)
✅地方自治
5.最後に
憲法を短期間でマスターするためには、メリハリ付けが重要です。したがって、ここまでは頻出テーマについて語ってきました。ただ、より高みを目指したい方は、頻出テーマをつぶしたあとに、隙間のテーマをつぶすことが必要になります。その場合は問題演習からインプットするという方法をとることをオススメします。受験先の過去問を5年分くらい解き、そこで出題された知識で学習していないテーマを補足的に押さえていく感じですね。時間がない中で憲法をより高いレベルに仕上げるためには、このやり方が一番効率がよいといえるでしょう。
間違っても憲法ばかりに時間を割くのはやめてくださいね。公務員試験では、憲法以外にも学ぶべき科目が山ほどあります。ですから、そちらの科目に時間を割くことを優先してください…。したがって、個人的には公務員試験の憲法は、高みを目指すべき科目ではないかな~と思いますね。そこそこの出来で全く問題ありません。