公務員試験は主に教養択一試験、専門択一試験、論文試験、人物試験で構成されています。
配点を見てみると、合否の分かれ目で最も重視されるのは人物試験ですが、論文試験も択一と同等~数倍の配点があります。
つまり、採用に最も直結するのは論文試験と人物試験なのです。
今回は、そんな合否を分ける論文試験について、一歩も二歩も踏み込んで解説をしていきます!
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教養試験 |
専門試験 |
論文 |
面接/集団討論 |
国家一般職 |
22% |
45% |
11% |
22% |
特別区(予測値) |
11% |
11% |
33% |
45% |
地方上級 |
17% |
17% |
17% |
49% |
正式に発表はされていませんが、東京特別区は特に配点が高く、論文の成績次第で大きく合否が変わります。
また、一般的に、地方公務員では論文の比率が高くなっています。
論文試験は国語科目のように単に「読解力」や「文章作成能力」を問うために設置されている訳ではありません。
読解力は論文ではなく「文章理解」と言う科目で測定しています。
文章作成能力を測りたいのなら、論文の出題ではなく、図表などを提示し、それを文章で説明させるだけの出題をするはずです。
確かに、このような不可解な出題がなされる場合も実際には存在します。
これは厳密には論文試験とは言えないので出題として不適切ですが、文章作成能力を測るために別の科目を新たに設置するのは面倒なので、既存の科目で文章作成能力測定を代替している訳です。
しかし、このような特殊な場合は例外です。
論文試験は、何らかの社会的問題や課題が提示され、それに対処する方策を論じさせる形式が一般的です。
お世辞にも「読みやすい文章」とは言えませんね。
公務員は、住民の抱える問題を解決する、行政のまさに当事者であるので、当然、その採用試験では、現代の論点となる課題が出題されます。
<公務員試験の論文でよく出題されるテーマ(例)>
女性の活躍
出産と子育て
高齢者の増加
デジタル化AIの推進と活用
ワークライフバランス
地域振興危機管理・災害対策国際化
環境問題
サイバーテロ
論文のためだけに関心を持つのではなく、公務員になるための素養として、常日頃からこれらの問題に意識を向けてみましょう。
公務員志願者には2つのパターンが存在します。
パターンA
「安定が欲しいから合格さえ勝ち取ればいい。仕事はできればしたくないから採用された後は無難に過ごすことだけを考える。」
パターンB
「公務員として住民のために仕事がしたい。合格は単なる通過点。」
しかし、論文や面接は、はっきりと違いが分かれるのです。
パターンAの答案
「とにかく無難で当たり障りのない知識を第三者的日和見の立場から型式的に埋める。」
パターンBの答案
「問題の深いところまで鋭く分析し、当事者の立場を考慮して現実的に解決に向けて提案をする。」
今や公務員はなりたい職業の最上位を占める難関となり、優秀な人が多く志願します。
昔は上っ面だけの無難答案でも点数をもらえました。
しかし、今は無難答案は逆効果となります。
※ パターンAの人は公務そのものへの意欲がないため、採用後の離職率が高くなっています。採用側としては、早めに落としたい、と言うのが本音です。
自治体によって採点基準は大きく異なりますが、優秀な人を論文試験で見極めようとする場合の主な採点方法について言及します。
<論文で一本釣りする場合の採点例(50点満点とした場合)>
設問の要求に対して、
1、論理的に妥当な結論(基礎点 A30点 B20点 C10点 D0点)
結論に対して、
2、論理的に必要な証明(減点採点)
つまり、1、2のどちらかが著しく欠けている答案は点数がもらえません。
さらに、隠れ採点ポイント
3、具体的実現性(加点20点分)
論文試験は、公務員として政策を提案し、実行できる能力を見ています。学者のような空理空論提案(実現不可能な自己満足提案)は評価されません。
では、いよいよ書き方に移りましょう!
突然ですが、今から10分間で、「SNSの問題点と対策」について語ってください。
よーい、スタート!
・・・いかがですか?
恐らくほとんどの方が支離滅裂になっていったと思います。
人間の脳は思考と表現を同時にできないようになっています。
思考しようとすると表現がストップし、表現しようとすると思考がストップしてしまいます。
数学の問題の解法を考えていると手元の計算を間違えてしまうのが前者、黒板の内容をノートに写している時、写すだけで何も内容が頭に入っていないのが後者です。
つまり、論文も考えながら書いてしまうと、上手くまとまらず、ズレた内容を書いてしまう可能性が高くなります。
見切り発車をせず、最初に構成をしっかり立てることが肝要です。
出題にもよりますが、論文では概ね以下の3点を書いていくことになります。
1、現状(背景・原因)
2、課題(問題点)
3、解決策
結果として、この順で書くことになるので、考える時もこの順番になりがちです。
しかし、高得点の論文を書く人は、むしろ解決策を先に想定し、そこと課題・現状を整合させる「逆算式」で構成しています。
まずは、自分が為政者になったつもりで、問題を解決しようと案を先に考えてください。
次に、
・提案の必要性、妥当性を構築する。
・反対派の指摘を想定し、不足点を補強。
・提案を実行するためも具体的なプロセスを考える。
そして、最後に現状と結び付け、原因や背景を逆算的に構成します。
また、字数が多い時は、最初に「アウトライン」として全体構成を端的に示し、「以下、具体的に論ずる。」と、本論に入ると良いでしょう。
本論は内容が完結したら「以上」とばっさり終わってください。
最後の「まとめ」は不要です。これは論文出題者の共通見解です。
もちろん1万字を超えるような論文であれば、最後に要旨をまとめるのは有効です。
しかし、高々2000字程度の論文試験で「まとめ」を書いて、もう一度前述の内容を繰り返しても、一切加点はされません。
「まとめ」で無駄に字数稼ぎをするぐらいなら、本論を厚くし、得点稼ぎをしましょう。
今、一人の受験生が、「ワークライフバランス」のスマホ検索で上位に出てくるぐらいの内容(問題点や論点、既に行われている施策)を全て暗記して試験に臨んだとします。
そして実際に「ワークライフバランス」のテーマで出題され、スマホ並みの知識を存分に披露し、答案用紙を埋めました。
さて、この受験生は高得点を取れるでしょうか?
答えはNoです!
受験勉強=暗記と誤認している人は、やたらと細かい事項や数字を覚えていることが高い評価につながると勘違いしています。
しかし、インターネットで検索すれば最新のデータがすぐに手に入る時代に、「細かい事項や数字を知っている」ことには何の加点もされません。
調べれば出てくる内容は検索すれば事足りるため、わざわざそれを暗記している人を雇う必要がないのです。
暗記で勝負している人はGoogle以上のことを暗記しなければ存在価値はありません。
しかし、Google以上のことを暗記するなど実質不可能なので、「暗記で勝負している人→存在価値が無い→不合格」となります。
現代の公務員試験で求められている内容は「スマホの向こう側を構築できる人」です。
知識を前提として、未来に向かってどう処理をしていくか、採用官はそこを見ています!
さて、暗記が必要とされていないのはわかりましたが、発想力や思考力はどのように養えば良いのでしょうか。
まずは、池上彰さんのニュース番組や動画で若手論客がディスカッションしている番組で時事の論点を仕入れます。
この時に注意したいのは、「他人の意見をそのまま盗んではいけない」と言う点です。
最近は「論点を覚えて自分の意見として書く」と言う書き方を提唱する人がいるようです。
しかし、自分の意見として他人の意見を書いてしまったら、それは剽窃であり、どんなに優れた内容であっても不合格となります。
コピペが当たり前のようにできるため、他人の作った音楽を勝手に自分のホームページで流したり、他人の意見をそのまま自分の論文に、自分の意見として書いてしまう残念な人が多くなっています。
他人の回答を自分の回答として盗用するカンニング行為や、他人の意見を自分の意見として盗用する剽窃行為は絶対にやってはいけません。
そして、残念ながら、それらの悪質行為を扇動する指導者が多いのも事実です。
昔はパクり放題で、「‘マナぶ’とは‘マネる’だ」と中国から伝来した大陸型学習方法が一般的でした。
しかし、今はオリジナルを大切する欧米型学習がスタンダードとなり、他人のものを勝手にそのまま自分のものとして盗用することが非難される時代です。
志望理由を参考書やネットからコピペしても見破られて低得点になってしまう、と言うのはさすがに分かっている人が多いと思いますが、論文試験も同じです。
他人の意見を丸暗記して答案に書いても、見破られて低得点になります。
そもそも暗記が必要なら、「自分の意見を書きなさい」ではなく、「有名論証を暗唱しなさい」と言う出題になっているはずです。
論文の学習云々と言う前に、倫理的に問題となる行為はやめ、必ず「自分の頭で考えて意見を出す」を厳守し、論文の本質・趣旨に合ったアプローチをしましょう!
現在の公務員試験で求められているのは「現状に+α」を生み出す力です。
他人の論文や意見を俯瞰的視点から添削してみる学習が有効です。
「添削してもらう」のではなく、自分が「添削する」のです!
単なる「いいね!」や全否定ではなく、補足や対案を出してください。
常に「もっと改善の余地があるはずだ!もっと良くするためには・・・」と言う切り口で物事をみるようにしてみましょう。
余談ですが、私は、「他人がやっていることを同じようにやっても価値が無い」を信条とし、既に誰かがやっていることはやらないように心掛けています。
それよりも、常に他の人が気付いていない盲点や全く新しい切り口などを提供するようにしているのですが、私がやるとその1年後に、何故か私の方法がスタンダードになっていたりします。
いかにこの世にパクりが多いかを実感しますが、オリジナルをパクられても私は何とも思いません。
何故ならば、パクられて浸透した時には既にその方法はあまり有効では無くなっているからです(出題者は常にスタンダードマニュアルをチェックし、その方法が通用しない出題をするため)。
そして、私はその頃には、さらに進んだ方法を実践しています。
「無から有を生み出す力」自体は、パクられることがないため一生安泰です。
皆さんには、常に後追いで交換可能なパクり人間ではなく、時代を先取りする唯一無二のパイオニアになって欲しいと強く思います。
唯一無二のパイオニア能力を持てば、公務員に限らず、どんなフィールドでも重宝されることでしょう。
過去問の解答例をそのまま引用する弊害は他にもあります。
最新の出題の解答例だったとしても、次の試験までに少なくとも1年のタイムラグがあります。
もしその解答例が最適の施策であれば、その1年の間に既に解決されているはずです。
次の年に時事課題として出題されているのは、その解決策では解決出来なかった、もしくは、その時と状況が変わったからです。
現状を無視して、短絡的にどこかに書いてあった論述をコピペして提出しても、必ず現状とは齟齬が生じてしまい、低い得点となってしまいます。
さて、コピペでそれっぽい内容を書く受験生が多い中で、効率良く能力の高い人材を見つけ出す・・・あなたが出題者ならどんな出題をしますか?
もし私が担当者なら、「典型的な論点だが、最近事情が変わったもの」を敢えて出題します。
コピペ人間は、「やった!典型問題だ!」と覚えた論証をそのまま書きます。
一方で、きちんと時事に関心を持ち、自分の頭で考えることができる人は、最新の状況をきちんと盛り込んだ論述をします。
解答に明確な差が生まれ、採点側も取捨選択がとても楽になります。
学者や評論家のように、現実には不可能な空理空論を振りかざしたり、現状の情報や知識を披露するだけの「意識高い系論文」は公務員試験では評価されません。
公務員とは、社会問題のまさに当事者であり、現実に即した判断が何よりも大切です。
もちろん、公務員として行政に対峙する時、場合によっては、過激な主張や極端な意見、奇抜な一大プロジェクトが必要な時もあります。
これらのマクロ視点の方向性を示すのは、本来は政治家の役割ですが、政局運営が中心となった現代においては、政策の提言は公務員に委ねられていると言っても過言ではありません。
故に、これらの問題解決能力はとても重要ですので、公務員としては是非養っておきたいスキルです。
しかし、残念ながら論文では字数制限があり、その字数はとても少ないものです。
風呂敷を広げ過ぎると、反対派を納得させるための十分な説明に割く字数が足りず、結果として「説明不足」と失点してしまう可能性があります。
だからと言って、当たり障りの無い知識を列挙しただけでは、失点もありませんが加点もされず、「中身の無い論文」として低い評価となります。
そこでオススメなのが、広範囲を網羅するのではなく、部分的なテーマに絞って徹底的に具体策を論じると言う戦略です。
字数が限られているため、「広く浅く」か「狭く深く」のどちらかしかありません。
「広く浅く」では高得点が望めないため、必然的に「狭く深く」になるはずなのですが、何故か多くの受験生は「広く浅く」で書こうとしてしまうのです。
まずは、当事者の立場になって問題点を見つめ直してみましょう!
深く深く掘り下げて考えることで、問題の本質が見えてきます。
以前は、ほとんどの受験生が論文が書けず、それらしいことを「広く浅く」で書いて字数に達していれば合格できました。
得点が20点だったとしても、合格ラインが15点であれば合格圏内です。
昔は論文が何かが不明だったため、誰も書き方が分からなかったのです。
残念ながら、多くの論文対策の情報はこの頃を基準としたまま安易に提供されています。
その基準で勉強し、とにかく字数を埋めるために文章を「書く」だけの練習をし、それっぽい内容で字数を埋めれば、20点を取れるでしょう。
しかし、今は、全体の論文のレベルや採点の基準が高くなり、合格ラインが例えば60点になっています。
当然、20点では合格圏内に入れず、不合格となります。
最近はやたらと「よく聞かれる論点を暗記してみましょう」「この書き方のパターンに当てはめましょう」と、面白おかしく安売りされていますが、私はこの現状に強い危機感を抱きます。
小学生を対象とした作文学習では、ある程度の型を覚えさせ、そこにそれっぽい内容を当てはめていくのは有効です。
一方で、公務員試験は社会人が対象です。
小学生レベルの小論文を書いてしまったら、残念ながら「私の能力は小学生レベルです」と言っているのと同じであり、「小学生レベルの人は採用できません」と言う現実が突き付けられるだけとなります。
また、形式に当てはめるだけなら今ではAIが自動で文章を作ってくれます。
その方法を極めたところで、AIの劣化版にしかなれません。
字数をそれなりに埋めれば合格できた時代はとっくの昔に終わり、今は論文の中身が主な採点基準となっています。
論文対策で重要なのは「それっぽい内容で字数を埋める(小学生レベル)」ではなく、「公務員として相応しい内容(公務員レベル)」である点を肝に銘じましょう。
このような無間地獄に堕ちてしまわないよう、「自分の頭で考える力」を確実に身に付けましょう!
続いて、論文学習でよくある添削について解説します。
添削の効果について、最も顕著でわかりやすいのは数学です。
よって、まずは数学の例で説明します。
数学が苦手で、朱筆で大量に直された真っ赤の答案を見た時、どんな気持ちになりますか?
「いっぱい添削してもらったから、もっと勉強しよう!」と思う人は稀で、ほとんどの人は、「自分は数学が本当にできないダメな人間だ・・・。」と、数学を避けてしまいがちになりますね。
また、論文は、主体的な提案をさせる試験です。
受け身の姿勢で、添削者の指示に自分を合わせるような学習は、論文の趣旨とは正反対となります。
「論文の学習=添削指導」と言う先入観が跋扈していますが、「たくさん添削を受けたのに自分で書けるようにならない」受験生が大半である事実をそろそろ考慮する必要があります。
「直される答案を見切り提出する悪癖」が常態化しては逆効果です。
もし添削指導を受ける際は、「直す箇所が見つからない・・・。」と相手を職務放棄させるぐらいの論文をぶつける姿勢で臨んでください。
そのアグレッシブな姿勢こそが最も論文の力を上げてくれるのです。
論文の力は、自信と相関があります。
論文学習の目的は模範答案の色に染まることではなく、模範答案を利用して自分の実力を上げることです。
そして「自分は論文が得意だ」と日々、自己暗示し意図的に気持ちを上げてください。
高得点の論文を書けるあなたは、必ず合格の栄冠を手にすることができるでしょう。
自信を持って前に進みましょう!
ここで学習計画について簡単にコメントします。
合格する受験生と不合格の受験生はどちらが多いでしょうか。
人気の高い試験では、圧倒的に不合格者の方が多くなります。
つまり、合格者は少数派です。
多数派の勉強をしてしまったら、多数派の結果(不合格)になってしまう可能性が高いと言えます。
試験は他の受験者との相対的な優劣によって合否が決まります。
少数派の合格組に入るためには、多数派の行動を予測し、その先手を打って優位に学習を進めることが肝要です。
多くの受験生は年明けから論文試験の準備をし始めます。
そこで、その先手を打って秋から論文試験の対策を始めてみてはどうでしょうか。
「問題解決は、現実には頭の良い人がやってくれるだろうから、自分はそれに従えばいいんだ。」
多くの人がこう思っています。
私も昔はそう思っていました。
しかし、東京大学や国家公務員総合職試験など、トップレベルの講座を担当して、多くの人が思っている「頭の良い人」など現実には存在しない幻だと確信しました。
「頭の良い人がやってくれる」と言う幻想は、裏返せば「自分には責任はない」との言い訳に過ぎません。
委ねるに足る人が存在しないのだとすれば、皆さんの未来は皆さん自身の手で切り拓かねばなりません。
また、公務員は、多くの住民の未来も考えていかなくてはならない立場でもあります。
「多くの人の生命や未来を預かる仕事なんだ」と言う覚悟を持って公務員試験対策に臨んでください。
覚悟を持っている人が書いた論文と、「合格さえもらえればいい」と言う気持ちの人が書いた論文は、天と地ほどの差が生まれます。
小手先の技術以前に、取り組む姿勢から実は既に勝負はついているのです。