「数的推理」はどんな分野?
1.「ほぼ数学」の分野なので、数学が苦手な方はすぐに解けなくて当然!
おそらく数的処理の対策を始めるうえで、最初に目にすることになるのが数的推理です。問題を確認すればすぐにわかりますが、「最も数学に近い科目」といってよいでしょう。特に文系の受験生が中心となる行政事務職の試験では、数学が得意な受験生はほとんどいませんから、最初から「数的処理は捨てよう…」と諦める方が続出します。しかし、数的処理はどんな試験であっても問題数が多く、数的処理を捨てることは、公務員試験自体を諦めることと事実上イコールです。ですから、何とかこのハードルを乗り越えていかなければなりません。
特に数的推理が最初からスラスラ解ける受験生はほぼ見かけません。私もこれまで多くの受験生を指導してきましたが、数的推理が最初からスムーズに解ける方は全体の1割もいないという印象です。過去に中学受験を経験したという方であっても、当時の記憶が残っていて解けるケースがごくまれにあるかな…という程度で、中学受験をしたことがあっても完全に当時の記憶がなくなっている受験生が多いのが実情です。ですから、今までの経験を気にする必要はありません。そもそもほとんどの受験生が苦手な分野なのです。
数的処理全体にいえることですが、人並みに得点できる程度に仕上げておけば十分です。無理して時間をかけて、それでも点数にならないという事態は避けてくださいね。
2.中学までの数学の知識がベースになるので、中学数学までは復習しておこう!
数的推理は「ほぼ数学」の分野ですから、数学の知識を使わないと解くことができません。基本的には小学校・中学校の算数や数学で学んだ知識があればよいでしょう。もちろん問題によっては、高校数学の知識があれば短時間であっさり解けるようなものも存在します。しかし、必須ではありませんから、無理をする必要はありません。「中学数学までの知識をいかに使って解くか」が最大のポイントになります。
したがって、中学数学の知識が完全に抜けているという方がいれば、まずはそこから復習したほうがよいということですね。特に、「方程式からして何のことだか全く覚えていない」とか「平方根って何だっけ…」というレベルであれば、まず計算で苦戦することになるはずです。このような状況にいる方は、早めにフォローしておいたほうがよいでしょう。ただ、「やれば思い出せる」という感じでうっすらとでも覚えているのであれば、忘れている部分を適宜補う程度で十分だと思います。
3.数的推理の代表的な出題テーマを把握しておこう!
では、数的推理ではどんな出題テーマが出題されるのか、簡単に紹介しておきましょう。以下の分類は私見によるものです。「場合の数・確率」は文章題の一種として分類されることもありますが、重要かつボリュームの大きいテーマなので、独立させています。
算数や数学で勉強するテーマが多く含まれていることがわかると思います。実際の出題も、ほぼ算数・数学そのままの形で問われることもあるため、数学の得手・不得手が大きく影響するわけですね。
こう聞くと、「何だか面倒くさいな…」と思われる方も多いと思います。安心してください、大半の受験生は面倒だと思っています。だからこそ、他の受験生が取れる程度の問題を確実に取れるようにする、基本問題・典型問題からアプローチする姿勢が重要なのです。
4.出題数の観点からも、数的推理を手薄にするのは危険!
数的処理自体、どんな公務員試験でも出題数が多いのですが、その中でも数的推理の問題数はそこそこな割合を占めています。以下は教養択一試験(基礎能力試験)における出題数をまとめたものです。これを見る限り、どんな試験でも5~6問程度は出題されており、無視できないレベルであることがわかるでしょう。
ただし、前述したとおり、この5~6問を全問正解しなければならないような試験ではありません。特に国家公務員試験の数的推理は難易度が高いことが多いため、全問正解するのは至難の業です。数的推理は半分程度の得点を目安にするとよいでしょう。半分を割っても合格するケースも多くあります。くれぐれもハードルを上げすぎないことですね。
「数的推理」はどうやって対策していくのか?
1.数的推理は「前提知識のインプット」と「解法パターンの理解・実践」あるのみ!
では、数的推理の勉強の進め方を説明します。数的推理は数学そのもののような出題もあるくらいですから、何より必須なのは前述のとおり、中学数学までの正確な知識です。特に図形の問題などは、知識があることは当然の前提になっていて、そこから先の知識の「使い方」がポイントになります。これは図形に限った話ではなく、数的処理ならどのテーマも共通していえることです。知識の理解があやふやな場合は、正しくインプットするようにしてください。
そのうえで、出題テーマや解法パターンを覚えること、解法パターンを使えるように繰り返し練習していくことが大事です。このあたりの話は「『数的処理』の攻略法」の記事でも説明していますから、そちらも是非確認してください。
2.過去問を使って、実際に「勉強の進め方」を紹介しましょう!
数的推理に限らず、数的処理は「問題演習が命」の科目です。問題演習を進めているのになかなか点数が伸び悩んでいる…という受験生は非常に多くいらっしゃいます。何となく問題を解いているという方は、「問題演習の意識」を変えるだけで、学習効率は上がりますし、得点力もつけることができます。そこで、ここでは実際に過去問を解いていく際に、どのような点を意識すべきかを説明しましょう。例えば、以下の問題を叩き台にしてみます。
2015年度・東京都Ⅰ類B1,000より小さい正の整数のうち、4で割ると3余り、かつ5で割ると4余る数の個数として、正しいのはどれか。 1.50個 2.51個 3.52個 4.53個 5.54個 (正解:1) |
数的推理に限らず、どんな問題であっても、まず問題文を読んだ際に考えて欲しいことは以下の3点です。
⑴ 本問の出題テーマは何か?⑵ その出題テーマにおける典型の解法パターンは何か?⑶ 典型の解法パターンに乗せて解くことができるか? |
これはくれぐれもブレないようにしてください。問題によって解く手順や思考回路を変えるとか、場当たり的なことをしていては点数が安定しません。どんな問題も同じ思考過程で解く意識を持つことが重要です。
⑴ 何の出題テーマなのかを判断する
まずは問題文を読んだら、出題テーマを確認しましょう。市販の問題集や参考書では、勉強したテーマ順に問題が掲載されることが多いので、何も考えずに出題テーマがわかってしまう形になっています。しかし、本試験ではそんなことはありません。試験種によっては、毎年同じような順番で同じような出題テーマの問題が出てくることはありますが、そういう試験種でも毎年完全に同じということはありません。ですから、自分で問題文を読んで出題テーマを判断できるようにしなければいけないのですね。
問題文を読んでも出題テーマがピンとこないのであれば、しっかりインプットをしましょう。問題文を読んでも一見して何の出題テーマか判別できない問題ももちろん存在しますが、よほど難易度が高い問題でなければ、少なくとも「手がかり」はあるはずです。まずは基本的な典型問題を通じて、出題テーマごとにどのような問題があるのかを確認していきます。
本問であれば、やはり特徴的なのは「4で割ると3余り」「5で割ると4余る」という言い回しです。この割り算をした余りに着目する言い回しは、剰余の問題の特徴です。したがって、問題文を読んだ段階で出題テーマは剰余だと判断します。 |
⑵ 出題テーマに合わせて典型の解法パターンを想起する
次に、出題テーマごとに典型の解法パターンがあるので、これを想起します。出題テーマが判別できないのと同様に、典型の解法パターンが想起できないというのも、やはりインプットが不足していると思います。まだ出題テーマであれば、難易度が高くてわかりにくいこともありますが、典型の解法パターンは「普段の勉強の中で覚えられているかどうか」しかありません。必ず思い出せるようにしましょう。
剰余の問題であることがわかったので、典型の解法パターンを想起します。このあたりは指導の仕方によっても異なると思いますが、私であれば、以下のポイントを紹介します。 【剰余の問題の典型の解法パターン】 ① 「逆算」の要領で、かけ算の式に言い換えて把握する。 ② 余りが同じであれば「○の倍数+余り」という形に揃えてまとめる。余りがずれていれば、視点を変えて不足に着目して「○の倍数-不足」という形に揃えてまとめる。 ③ まとめる際は、「公倍数+余り」や「公倍数-不足」の形にする。 ④ 数字の個数をカウントするときは不等式を使う。 このあたりを想起できれば、準備はOKです。 |
⑶ 典型の解法パターンに乗せて解く
典型の解法パターンも想起できたら、あとは解法パターンを使って問題を解いていきます。ここは多くの受験生が面倒くさがって端折ろうとするところなので注意してください。「あの解き方をすれば解けるだろう」と頭の中でイメージするだけではいけません。実際に解けるかどうか、自力で正解までたどり着けるかどうかを確認してください。
では解法パターンに合わせて解いてみます。以下の流れで検討していけばよいでしょう。簡潔に解説しますので、まだ勉強が進んでいない方は、以下の内容は気にしなくて構いません。大事なのは、解法パターンに乗せる意識と、それが実際に使えるという意識を明確に持つことです。 【STEP1 かけ算の式に言い換える】…解法パターン① まず「4で割ると3余り」から検討します。4で割ると3余る数を具体的に考えると、例えば7÷4=1…3、11÷4=2…3などが考えられます。7や11などが該当しますね。 これらをかけ算の式に言い換えます。イメージとしては「逆算する」意識です。7÷4=1…3、11÷4=2…3は、逆算して言い換えれば4×1+3=7、4×2+3=11というかけ算の式に言い換えることができますね。 同様に、「5で割ると4余る」も検討します。5で割ると4余る数を具体的に考えると、9÷5=1…4、14÷5=2…4などがあります。9や14などが該当しますね。これらの式をかけ算の式に言い換えましょう。9÷5=1…4、14÷5=2…4は、逆算して言い換えれば5×1+4=9、5×2+4=14というかけ算の式に言い換えられるのです。 【STEP2 不足に着目して「○の倍数-不足」の形に揃える】…解法パターン② では、さらに言い換えてみましょう。「4で割ると3余り」は、上記のとおり4×1+3、4×2+3…と表せますが、これは全て4の倍数に3を足した数になっていることがわかりますね。つまり、「4の倍数+3」と言い換えられるのです。 同様に、「5で割ると4余る」も5×1+4、5×2+4…ですが、これは5の倍数に4を足した数になっています。つまり、「5の倍数+4」と言い換えられるのですね。 もし余りが同じ問題であれば、ここからまとめていく作業に入るのですが、本問では余りがずれていますから、さらに言い換えます。余りがずれている場合は、ここから視点を変えます。「余っている」という見方をするのではなく、「足りない」という視点で考えるのです。 「4で割ると3余り」というのは、あと1あれば4で割り切れるということでもあります。つまり、「4で割り切れるには1足りない数」なのです。例えば、4×1+3=4×2-1ですよね。したがって、不足で言い換えると「4の倍数-1」といえます。 同様に「5で割ると4余る」というのは、あと1あれば5で割り切れるということです。つまり、「5で割り切れるには1足りない数」なのです。例えば、5×1+4=5×2-1なのですね。したがって、不足で言い換えると「5の倍数-1」といえます。 これで、本問は「4の倍数-1」でもあり「5の倍数-1」でもある数を探せばよい、ということがわかります。これだと、どちらも「-1」なのでまとめることができるのです。 【STEP3 「公倍数」でまとめて、不等式で個数をカウントする】…解法パターン③④ では、「4の倍数-1」でもあり「5の倍数-1」でもある数とは、どんな数でしょうか。ここで出てくるのが「公倍数」です。どちらも1足りない数ですから、「4の倍数でも5の倍数でもある数に1足りない数」が、どちらも満たす数になります。つまり、「4と5の公倍数-1」です。「公倍数は最小公倍数の倍数である」という知識を使って、「20の倍数-1」まで言い換えられれば、まとめ完了です。 あとは、「1,000より小さい正の整数」、つまり1~1,000の中に含まれる「20の倍数-1」の個数を数えます。個数のカウントの仕方としては、不等式を使うことを覚えておきましょう。「20の倍数-1」は言葉を使っているので、文字にして「20n-1」と表します。そして、1以上1,000以下の中で「20n-1」を探すので、以下のような不等式を立てましょう。 1≦20n-1≦1,000 これを満たすnの個数がわかればよいのです。連立不等式になっているので、左右の式に分けて計算します。「1≦20n-1」と「20n-1≦1,000」を以下のように計算するとよいでしょう。 これで、nの範囲は1以上50以下であることがわかったので、個数は1~50の50個であることがわかります。正解は1です。 |
剰余の問題のポイントは「言い換え」です。上記で何度も言い換えを繰り返していることがわかったかと思いますが、「○の倍数+余り」や「○の倍数-不足」の形に変えて検討するわけですね。これを覚えて、問題に合わせて何度も使う練習をしましょう。一見面倒ですが、繰り返していけばコツを掴めるようになりますよ。
そして、この流れで解ける問題はさまざまな本試験で繰り返し出題されています。例えば以下の問題に目を通してみてください。
2009年度・特別区Ⅰ類 6で割ると3余り、7で割ると4余り、8で割ると5余る自然数のうち、最も小さい数の各位の数字の積はどれか。 1.9 2.12 3.18 4.24 5.30(正解:5) |
2019年度・国家一般職(大卒) 6で割ると4余り、7で割ると5余り、8で割ると6余る正の整数のうち、最も小さいものの各桁の数字の和はいくらか。 1.10 2.11 3.12 4.13 5.14(正解:4) |
この2問は剰余の問題で、ほとんど出題の仕方も同じであることがわかるでしょう。このように、典型の解法パターンを覚えて使いこなすことさえできれば、類題にも対応できるようになり、少しずつ解ける問題が増えていきます。
「数的推理」は、解法手順のストックを少しずつ増やしていくこと!
実際の問題例を使って手順を紹介しましたが、基本的にどんな問題であっても、このように「解法パターンの手順を踏む」ことを意識してください。「出題テーマの判別→典型の解法パターンの想起→解法パターンに乗せる」という流れを繰り返して、自分の中にストックしていくわけです。
数的推理はこのストックを作っていくことが非常に重要です。前掲のような焼き直しの問題であれば、ストックでそのまま対応ができますよね。ひねりの加わった応用問題なども、ストックがないとゼロから考えなければなりません。どんな応用であっても、原則として「典型からどうひねられているのか」を見抜いて対応することになりますから、典型・基本の重要性を実感してほしいと思います。
数的推理は勉強を始めて間もない時期から触れる分野でもあるため、慣れないうちは時間がかかりますが、ゆくゆくは点数を安定させやすい分野でもあります。コツコツと進めていきましょう!