公務員試験 法律系専門科目「民法」の攻略法

公務員試験でほぼ確実に出題される民法は、分量が多く苦手意識を持つ受験生も多いでしょう。

しかし民法は、憲法・行政法と並んで専門科目の法律系の柱であり、受験生にとって民法を捨て科目にするわけにはいきません。

効率的に勉強を進めて、得意科目にしていきましょう!
今回は、カリスマ講師の寺本講師が「法律系専門科目 民法の攻略法」を分かりやすく、丁寧に解説していきます!

目次

  1. 法律系科目の難関科目、それが民法
  2. 民法の出題はばらつきが見られる
  3. 民法のテーマには難易度の差がある
  4. 民法の学習法
  5. 頻出テーマはここだ!
  6. 最後に

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この記事を書いた人 寺本 康之

法律系専門科目主任

売れない役者の経験を持ち、大学院在学中から講師の仕事をはじめた。以降、行政書士試験、公務員試験の分野で主に活動してきた。法律系科目が専門だが、行政系科目や小論文などの指導も得意としている。ベストセラー『寺本康之の小論文バイブル』(エクシア出版)の著者としても知られており、東進ハイスクールで大学受験向けの小論文講座を担当していたこともある。

現在は、全国大学生協主催の学内講座で活躍するとともに、2つの会社(映画制作会社、不動産関連会社)の社長を兼務している。映画制作会社ではLGBTQの映画監督飯塚花笑(自身の従妹)を代表に据え、主に社会問題を題材とした映画作りに励んでいる。ほか、不動産投資マニア、太陽光投資マニアの側面も有する。




1.法律系科目の難関科目、それが民法

民法は公務員試験の中でも、最難関科目に位置づけられます。多くの受験生が苦戦したり、あきらめてしまったりするので、ここを得意にできれば大きな強みになります。昔から公務員試験の世界では「民法・経済論争」といって、民法の方が難しいのか、経済の方が難しいのか、という議論が繰り広げられてきました。結論は「人による」ということになるのでしょうが、要はそのくらい「難しい科目」なのです。では、もう少し民法が難しいとされる理由を見ていきましょう。これを知れば攻略の糸口をつかめるかもしれません。


【民法が難しい理由】

出題範囲が広く、講義数も多い
言葉が難しく、イメージしにくい
③ アウトからインという公務員試験の王道が使えない


① 出題範囲が広く、講義数も多い

 まず➀ですが、これは民法の条文数を考えてみれば当然と言えます。民法の条文数は軽く1000条を超えてきます。また、判例もたくさんありますので、結構大変です。章立ては、第1編 総則、第2編 物権、第3編 債権、第4編 親族、第5編 相続という具合に分かれているのですが、力を入れて学習すべきところとそうでないところのメリハリを付けないと潰れてしまうと思います(法学部の方は別)。そして、このように範囲が膨大なわけですから、予備校等の講義も多くなります。テキストも分厚い、講義も多いとなれば、当然挫折する人も出てくるわけです。ですから、教える私たちからしても、どう範囲を絞り、やるべきことを減らすか、ということが最大の課題となります。皆さんの負担を減らすことに必死なわけです(笑)。


② 言葉が難しく、イメージしにくい

 次に②です。のっけから「権利能力と意思能力は異なり…」「制限行為能力者が…」「現存利益の返還で足り…」など、意味不明な言葉がどんどん出てきます。言葉が難しいと当然イメージがわきませんので、参考書を読んでいても何の話なのが分からずに、ついていけなくなってしまいます。「予備校講師が易しい言葉に置き換えて説明してくれるから大丈夫!」と言いたいところですが、これもこれで難ありです。簡単な言葉で理解・記憶してしまうと、問題文の硬い文章を読み解けずに、正答までたどり着けなくなってしまうのです。ですから、民法はなるべく難しい用語をそのまま理解して覚えることが大切になります。また、イメージをわかせやすくするためには、図や絵を使うのが効果的です。利害関係人が3人以上出てきたら、絵を描いてどんな法律関係になっているのかを把握するように心がけましょう。A、B、C…、X、Y、Z…、甲、乙、丙…と様々な呼称で出てきますので、それを絵におこしていく癖をつけてください。


③ アウトからインという公務員試験の王道が使えない

 最後に③についてです。民法は、公務員試験で多用する「アウトを意識したイン」という王道の学習法を使えない科目です。公務員試験受験生の中には、演習を行う中でインプットを併せて行うというやり方を好む方がいらっしゃいますが、民法ではやめた方がいいです。全く使えないこともないのですが、民法は法律系科目の中では論理科目と位置づけられているので、「木を見て森を見ず」の学習は基本的にNGです。演習から入るということはこのような学習に近くなるので、バラバラの知識を一つずつ押さえていかなければならなくなります。そうすると、すぐ知識が抜け落ちる、定着までに時間がかかるなどの弊害が生まれます。効率的だと思って取り組んだことが裏目に出てしまいます。これはとても悲しいことですね。ですから、民法に限っては、時間をかけてでもインプットをしっかりとやり、体系をつかんでから(あるいは同時に)演習に取り組むようにしていただきたいと思います。急がば回れという発想を持つことが大切です。これは多くの受験生が陥るトラップなのでぜひ気を付けてくださいね。




2.民法の出題はばらつきが見られる

 このように民法は難しい科目ですが、すべての受験生がまともに勉強する必要はありません。というのも、民法は他の科目に比べて、出題数にかなりのばらつきが見られるからです。皆さんがどこを受けるかによって、民法に対する力の入れ方が変わってきますので、各試験種で何問ずつ出題されるのかを把握するようにしましょう。


 【専門試験における民法の出題数】

国家総合職(法律区分)

12問(必須)

国家一般職

10問(総則および物権5問(民法Ⅰ)、債権、親族および相続5問(民法Ⅱ)の2科目)

国税専門官

6問(必須)

財務専門官

5問

労働基準監督官A

5問

裁判所事務菅(総合職・一般職)

13問(必須)

特別区Ⅰ類

10問(総則および物権5問(民法Ⅰ)、債権、親族および相続5問(民法Ⅱ)の2科目)

地方上級(全国型)

4問(必須)

地方上級(関東型)

6問

地方上級(中部・北陸型)

7問

市役所A日程

5問(必須)

市役所B日程

5問(必須)

市役所C日程

5問(必須)



 上記の表から、国家公務員(国家総合職法律区分、国家一般職、裁判所事務菅)と特別区Ⅰ類では出題数がかなりあることがわかります。いわば要の科目となっているわけです。一方、地方上級試験・市役所試験ではたいして重要科目ではありませんね。

ちなみに、出題数が多いことについては、ラッキーととらえるべきです。なぜなら、出題数が多いということは、出題予想がかなり当たるということを意味するからです。一般に、出題予想は出題数が少ないと当てづらい、出題数が多いと当てやすい、という感じになります。したがって、出題数が多い試験種の場合は、過去に出題された履歴を見ることで、出題予想が簡単にできるのです。

 そして、出題予想をすることで、学習する範囲に絞りをかけることができるようになります。つまり、民法のネックである出題範囲の広さをカバーすることが可能となるわけです。




3.民法のテーマには難易度の差がある

 これは学習する前に知っておくと得をするので教えておきます。民法は大きく総則、物権、債権、親族、相続(親族と相続をまとめて「家族」という)と分かれていることは前述しました。ここでお話ししたいのは、それぞれの分野のとっつきやすさ(=難易度)についてです。まず、民法がⅠとⅡに分かれている試験種(国家一般職、特別区Ⅰ類)は、Ⅰが総則と物権で構成されていて、Ⅱは債権と家族で構成されています。次に、ⅠとⅡに分かれていない試験種は全範囲から満遍なく出題されます。これを押さえましょう。そして、ⅠとⅡを比べるとⅠの方がとっつきやすいといえます。その理由は以下の通りです。

【民法Ⅰがとっつきやすい理由 】

➀総則は、最初の方なのでわかりやすく苦手にする人があまりいない。
②物権は、物を支配する権利なので、債権に比べてイメージしやすい
③債権は、単なる請求権なので、目に見えない。つまり抽象的な概念となるためイメージしづらい。
④家族は、条文数がとても多いので、大変かつコスパが悪い。


 というわけで、どうしても民法が苦手で困っている人は、
Ⅰの分野だけをつぶして、Ⅱは学習せず他の科目に逃げるのでも構いません(民法を教えている立場でこんなことをいうのもあれですが…)。ただ、次の条件にあてはまる人は民法をしっかりと学習することをオススメします。

【民法をしっかりと学習した方が良い人】

➀国家総合職(法律区分)、裁判所職員を受験する人

 →必須解答でしかも出題数が多いので、ほかの科目で代替できない

②経済が苦手な人
 →民法と経済が両方できないと大量失点につながる

③法学部の人
 →苦手意識があるだけで、伸びる可能性がある


 個人的には、民法はやっておいた方がいいと思います(私見)。というのも、公務員になってから民法を直接使う機会は少ないにせよ、法の一般ルールを学べる科目だからです。民法がわかると、他の法令の理屈がわかりやすくなったり、応用力が身についたりしますので、後々のことを考えるとやっておいた方がいい科目といえます。ただ、これは私個人の考えですから、無理強いをするつもりはありません。あくまでも個人の意見ということでご参考までにとどめておいてください。




4.民法の学習法

 民法は、法律系科目の中では理論系の科目に位置づけられます。条文の背後には理論的な裏付けがあることが多いので、その理屈を押さえないと(つまり体系を理解できないと)、いつになってもできるようになりません。ですから、しっかりとインプット教材を使い、時間をかけて学習していくべき科目です。

また、演習も欠かせません。民法の場合、「理解すること」と「問題を解けるようになること」は、だいぶ異なります。ですから、インとアウトをしっかりと並行してこなすことが大切になります。間違ってもアウトだけですませようとしてはなりません。この点はしつこいようですが、何度も強調させていただきます。

 そのうえで、以下の3つを意識すると効率的に学習を進めることができます。

テーマごとのブロックを意識する

②テキスト的理解ではなく、ビジュアル的理解を意識する

③誰がかわいそうなのかを意
識する


 ➀については、章立てを意識するという意味です。民法は理論系の科目ですが、場面ごとで使う理論が異なります。例えば、失踪宣告というテーマと意思表示というテーマでは、使っている理論が異なるため、相互に関連性がないのです。したがって、テーマごとに理屈を押さえていけば、それで問題が解けてしまいます。要するに、テーマごとの関連性はあまり意識しなくていいということです。

 ②については、字面から理解するのではなく、図や絵から理解しよう、ということです。暗記科目であれば、字面を追ってそのまま暗記すれば足りますが、民法の場合は「なぜそうなるのか」という理屈が大切なので、ちゃんと利害関係を把握するように努めなければなりません。登場人物を絵で書いたり、似ている概念を図で比較したりすることで、はじめてイメージができるようになります。そして、そのイメージを一つひとつ暗記していくことが重要になります。問題文を見て、パッと絵や図が思い浮かぶようになればしめたもの。簡単に正答を導けるようになります。

 最後に③について。民法では様々なトラブルケースを学びます。私人間の権利義務をめぐるトラブルを考える際、一番大切なのは保護される主体を探すことです。例えば、A、B、Cの3人の利害関係人が登場したとき、誰を保護するべきなのか?という視点で考えていくと、正答にたどり着きやすくなります。「この場合はAを保護しないとかわいそうだよな~」という感覚を持てたとき、あなたの民法対応力は飛躍的に高まるはずです。




5.頻出テーマはここだ!

 それでは、ここからは民法における頻出テーマを列挙し、ポイントを指摘していきます。これから民法を学習してく際の参考にしてみてください。


(1)総則

1.制限行為能力者

 民法の最初のテーマなので苦手にする受験生はほぼいません。一人で契約等の法律行為をすることができない人たちの類型を学習します。具体的には、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人の4人を学びます。

2.意思表示

 超頻出です。心理留保、虚偽表示、錯誤、詐欺、強迫といった、トラブルケースを見ていきます。もしこれらの事情があると、意思表示が無効になったり、取消しになったりします。虚偽表示が難しいので、ここを乗り越えられるかがカギとなるでしょう。

3.代理

 超頻出です。本人の代わりに法律行為を行う制度が代理。代理権のない者が代理人を装って法律行為をしてしまう、というとんでもないトラブルケースを学びます。これを無権代理といいます。

4.時効

 超頻出です。他人の土地にずっと居座っていると自分の土地になる、という取得時効と、誰かにお金を貸していても、請求しないとその債権は消えてしまう、という消滅時効の2つを学びます。意外とイメージしにくいので、苦手にする受験生が多いテーマです。

(2)物権

1.不動産物権変動

 超頻出です。土地や建物などの不動産を二重に売却する「二重譲渡」をどう解決するのか。これが最大のテーマです。不動産は登記をしないと「自分に所有権があるんだ」と売買をした相手方以外の第三者に主張することができません。これを対抗要件主義といいます。判例の数が多いので、受験生としては踏ん張りどころです。

2.占有権

 次の共有と交互に出題されるという性質があります。占有という状態は観念的なので、イメージしづらく、苦手にする受験生が多いテーマです。即時取得だけは簡単なので確実に点数を取れると思いますが…。

3.共有

 みんなで一緒に所有権を持ち合う状態を共有といいます。まずは条文の理解から始めるとよいでしょう。判例はやや細かいものまで出題されます。

4.抵当権

 超頻出です。担保物権の王様です。銀行からお金を借りる時に自己の所有する不動産を担保に出すことがありますが、これが抵当権です。お金を返さないと、当該不動産は競売にかけられてしまいます。物上代位、法定地上権、根抵当権など、難しい議論もバンバン出てきます。

(3)債権

1.債務不履行

 契約違反の場合の効果を学びます。メインテーマは損害賠償のルールについてです。難易度は高くありません。

2.債権者代位権・詐害行為取消請求

 超頻出です。債権者代位権や詐害行為取消請求は、債権者を守るための権利です。特に詐害行為取消請求はややこしいので覚悟してください。ここをクリア出来たら胸をはって「民法が得意」と言っていいでしょう。

3.多数当事者間の債権債務

 連帯債権・連帯債務・保証債務の3つが交互に、あるいは合わせて出題されます。連帯債権は新しく条文化された制度です。また、連帯債務がわかるようになれば、保証債務もわかるようになるという謎の相関性があります。

4.債権譲渡

 債権を売買するケースが債権譲渡です。「債権譲渡はしないでおこう」という合意を債権譲渡制限特約といいますが、これを無視して譲渡したらどうなってしまうのか?また、債権を二重に譲渡したらどうなるのか?この2つの疑問を解決していきます。

5.弁済・相殺

 頻出です。債権消滅原因が弁済と相殺です。結構複雑で細かいので、苦手にする受験生がほとんどです。特に相殺は絵を描かないと理解できないと思います。

6.売買

 頻出です。買った物が契約の内容にそっていなかったらどうする?という疑問を解決していきます。「契約不適合責任」と呼ばれる責任類型を学びます。どんな場合に何を請求できるのかを理解するのが大切です。

7.賃貸借

 超頻出です。条文の理解が重要ですが、判例もたくさんあります。さまざまなトラブルを自分事として学べるテーマなので、得意にする受験生も多いです。一人暮らしをしている人ほど得意になる?かもしれません。

8.不法行為

 超頻出です。権利・利益の侵害行為に対して損害賠償を請求するための要件について学びます。判例が多いため、メリハリをつけて学習することが大切です。問題のバリエーションが豊富なので、点数につながりにくいかもしれません。したがって、基本的な問題を得点できるような最低限の知識の習得に努めましょう。

(4)親族・相続(家族)

1.婚姻

 超頻出です。親族の中では一番出題されます。イメージがわきやすく、自分事として学習できるので、理解はしやすいでしょう。出題周期がはまって、いざ出題されたらラッキーですね。

2.相続人・相続分

 頻出です。人が死んだときに誰がいくらもらえるの?というテーマと向き合います。代襲相続や相続の欠格、廃除などやや特殊な制度の理解も求められます。

【優先的に学習すべきテーマ(民法)】

1.総則
4大テーマを攻略するのがポイント

✅制限行為能力者
✅意思表示
✅代理
✅時効

2.物権
→不動産物権変動と抵当権を優先的に押さえるとよい

不動産物権変動
占有権
共有
✅抵当権

3.債権
→債権者代位権・詐害行為取消請求、賃貸借、不法行為の3つが優先テーマ

債権者代位権・詐害行為取消請求
多数当事者の債権債務
債権譲渡
弁済・相殺
売買
✅賃貸借
✅不法行為

4.親族・相続(家族)
→親族からは婚姻、相続からは相続人・相続分にヤマをはる

婚姻
✅相続人・相続分




6.最後に

 民法を短期間でマスターするのは難しく、どうしても時間がかかってしまいます。ですから、腰を据えて長期スパンで付き合っていくようにしてください。民法を攻略できると、公務員試験の合格に一気に近づきます。大変だと思いますが、ぜひめげずに最後まで学習してください。

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