公務員試験の択一試験対策では数的処理や文章理解の知能系科目が注目されがちです。しかし、専門科目も含めると社会科学の配点は公務員試験の中で最重要であると言えます。また、教養のみで考えた場合、知能系科目が得意な人ほど社会科学に苦戦している傾向があります。
今回は社会科学の特徴を紹介し、続いて、受験生の状況に合わせた効果的学習方法を解説していきます。社会科学を単なる暗記だと思っている人ほど、その暗記に苦戦しています。
この記事を参考にしてアプローチ方法を抜本的に再考してみましょう。
社会科学とは(出題分野の内訳)
社会科学は公務員試験で初めて接する科目ではなく、学校で「社会科」として学んだ科目です。
まずは、社会科学の出題分野を紐解いてみます。
1.政治
〈政治原理・政治制度〉 | 政治思想、社会契約説、国家観、統治形態、主要国の政治制度 |
〈選挙制度・政党・圧力団体〉 | 選挙の基本、政党の類型、圧力団体の活動 |
〈行政・地方自治〉 | 官僚制論、地方自治の基本 |
〈国際連合・国際社会〉 | 国際連合の主要機関、人権擁護に関する重要な条約 |
2.法律
〈法律概論〉 | 法源、法の解釈、法の分類 |
〈日本国憲法総論〉 | 総論、基本的人権、統治機構 |
〈民法・刑法・その他〉 | 民法の基本、刑法の基礎 |
3.経済
〈ミクロ経済学〉 | 需要曲線と供給曲線、消費者と生産者の行動、市場と経済厚生 |
〈マクロ経済学〉 | 国民所得の決定、経済政策、金融政策、インフレーション |
〈財政〉 | 財政の機能、租税制度 |
〈経済事情〉 | 経済史、世界の通貨、貿易体制、経済事情 |
4.社会
〈社会学〉 | 社会学史、社会学の理論 |
〈社会事情〉 | 労働、社会保障、科学、文化、環境問題 |
どれも私たちの生活に密接に結びついたものばかりですね。
試験勉強を超えて、世の中の土台を学ぶような気持ちで学習に臨みましょう。
各試験における社会科学の配点
公務員試験は主に教養択一試験、専門択一試験、論文試験、人物試験で構成され、教養試験うち、社会科学は約20%を占めます。
これだけでもかなり重要ですが、公務員試験における社会科学にはもっと深い意義があります。
それは、他科目・公務員の職業との関係性です。
専門試験、論文、面接などと深い関わりがあり、学習の必要性が極めて高い科目です。
【参考 社会科学の配点割合】
国家一般 | 特別区 | 地方上級 | 市役所 | |
政治の出題数 | 1 | 1 | 1 | 1 |
法律の出題数 | 1 | 2 | 3 | 2 |
経済の出題数 | 1 | 1 | 3 | 2 |
社会の出題数 | 3 | 4 | 4 | 2 |
社会科学 出題数の合計 | 6 | 8 | 11 | 7 |
全体の回答数 | 40 | 40 | 50 | 40 |
※ 変動する可能性もあるので、参考程度に踏まえてください。
<重要>社会科学は知識の暗記?
社会科と言うと「語句を暗記する科目」と言うイメージを持っている人が大半だと思います。
しかし、これだけインターネットが普及し、スマホで何でもすぐに調べることができる時代に知識を溜めこんでもあまり意義はありません。
しかも暗記は苦しいものです。
知識の価値が下がった時代に暗記の苦行に明け暮れるのは、現代で剣術の稽古に励むようなものです。
精神は鍛えられるでしょうが、実用に使うことはほとんどありません。
近年は、知識に価値がなくなる時代的要請を受け、思考で解く問題がとても増えています。
もちろん、そう言った問題も「覚えましょう」で強引に進めることもできますが、それでは出題者の意図を正しく汲み取ったとは言えません。
思考力を重視する最近の傾向に合わせ、「社会科学の思考回路」を作って行きましょう。
共通の学習方法
時事の記事でも詳しく解説しましたが、人間の脳は丸暗記したものは不要な情報として処理され、すぐに忘れるようになっています。
一方で喜怒哀楽に関係した情報は長期記憶に移行されます。
効率良く記憶するコツは、一つ一つの情報を単発で暗記するのではなく、様々な情報と関連付けながら理解し、「気付いたら覚えていた」と言う状態を作ることです。
よって、闇雲に教科書や参考書を暗唱したり、赤フィルターなどを使って一問一答を無理矢理詰め込むような作業は、脳が傷むためオススメできません。
「関連付け」が最も効率が良いので、一つの本を前から順に徹底的に何度もやり込むよりも、複数の参考書を使用し、橋渡しをしながら学習する方法が効果的です。
具体的には、分野別で構成された問題集を基軸とし、その選択肢の正誤を参考書やテキストで調べながら学ぶやり方です。
できれば2つぐらいを用意してみてください。
そして「こっちはどんな説明をしているだろうか」と比べたりしながら学習を楽しみましょう。
問題集に取り組む際は、ただ闇雲に選んでみるのではなく、選択肢の正誤をチェックします。
この時に出題者の立場も想像してみてください。
出題者は、正しい選択肢から一部を変えて誤りの選択肢を作ります。
その選択肢の作り方を分析してみましょう。
どこをどう変えて誤りの選択肢を作るか。
一見、まわり道のようですが、このように、ありとあらゆる情報や立場を千変万化させて多角的に学習する方法が、実は最も記憶に定着させることができるのです。
タイプ別の学習方法
高校受験や大学受験の際に、英語、数学、国語は塾や予備校に行って対策をしたが、社会科目は「暗記は自分でやれるからいいや」と独学で済ませていた人も多いと思います。
しかし、長年、受験業界で様々な科目に従事してきた立場から見ると、それは非常にもったいないと感じます。
社会科目の学習の仕方は攻略時間の短縮につながるため、プロのアドバイスをしっかりと採り入れた場合と、独学のみで学習した場合とでは学習効果が全く異なります。
独学だと10時間かかっていたところが1時間で攻略できれば、かなりの時間の短縮につながりますよね。
ここからはプロの視点から、少し踏み込んで学習の仕方に言及していきます。
社会科学は知識科目であり、知識の記憶は喜怒哀楽の感情を喚起させながら定着させると効果的である点は既にお伝えしました。
ワクワクしたり、「なるほど!」と腑に落ちたり、自然と興味が湧いて来る方法が最適です。
しかし、どのようなアプローチをすればこれらの感情を得ることができるのかは、あなたが知能系科目が得意かどうかで大きく異なります。
いくらプロのアドバイス通りに学習したからと言って、何の感情も抱かないやり方で肝心の記憶に定着しなければ全く意味がありません。
ここで自分に合ったアプローチ方法を模索してみましょう!
【知能系科目が得意な人】
理系など、知能系科目が得意な人は、論理的・合理的に物事を考えることができるはずです。
社会科学でも、原因と結果、目的と手段など、「何故、そのような事象が必要なのか」を常に考えながら学んでいきます。
社会科学で学ぶ事象は、自明の自然現象ではなく、必ず何か理由や目的があってそのようになっています。
まるで知能系科目の問題を解くように、社会科学の一つ一つの謎を論理的・合理的に解き明かしていきましょう。
理由や目的がわかれば、「なるほど!」と深く理解することで体系的に社会科学のシステムを頭の中に構築することができ、すぐに長期的記憶に結びつけることができます。
理由や目的をしっかり理解していれば、選択肢の誤りにもしっかりと気付くことができるはずです。
一見、知能系科目と知識系科目は相反するようですが、社会科学は「科学」なので、論理や合理性など知能がベースとなっているのです。
知能系科目と知識系科目の共通項に気が付けば、バラバラで大量の試験科目があると思い込んでいたのが、実は同じことをすれば良いのだと悟るはずです。
【知能系科目が苦手な人】
多くの人は、知能系科目でなかなか得点できず、苦労をしています。
知能系科目は公務員試験で最も重視されているため、攻略は不可欠です。
しかし、知能系科目が苦手なのに、その苦手な論理や合理性で社会科学を学ぼうとしても、脳が拒否してしまうことでしょう。
知能系科目は追い追い攻略するとして、まずは自分に合った他の方法で社会科学を学んでいきましょう。
知能系科目が苦手な人にオススメなアプローチ方法はズバリ「ストーリー」です!
事象そのものの因果ではなく、周辺の具体的な出来事をイメージしながら妄想しましょう。
一つ一つの事象で「これはこんな出来事が起きそうだな」と勝手に当事者になって想像するのです。
これは覚えるための手段なので、自由に面白く友人や家族を物語に登場させ、ストーリーを展開します。
面白い妄想になればなるほど記憶は定着します。
実は妄想力は人間に備わった高度な機能なので、これをフル活用してみてください。
但し、妄想と現実世界が混ざったり、他の人に話したりすると周囲からホラ吹きだと認識されてしまいます。
あくまでも効率良く覚えるための学習ツールとして自分の中のみで完結してください。
専門科目との連携を意識
知能系科目の得意・不得意でアプローチ方法を分けましたが、他にも専門試験で使うかどうかでも学習の仕方が異なります。
こちらも状況別に分けて見ていきましょう。
【専門科目で法律や経済がある場合】
専門科目で法律や経済を使用する場合は、こちらの方が圧倒的に配点が高いため、専門科目の勉強を優先させます。
そしてある程度、基礎事項が理解できた時点で確認として教養の社会科学の問題を解いてみます。
この時に気を付けたいのは、専門科目の全範囲の勉強が一通り終わってから社会科学の問題に取り組むのではなく、並行させて取り組んだ方が効果的である点です。
先ほども言及しましたが、記憶は複数の事項を絡めながら覚えると早く定着させることができます。
一つの分野の学習が終わったら、その記憶が薄れる前に社会科学の同じ分野の学習をして確認します。
同じ分野を専門科目と社会科学の両方から二重に学習することで、より深く記憶に定着させることができるようになります。
ちなみに専門科目で使わない社会科学の分野は、そこだけ取り出すと配点比率が非常に小さいため、優先順位はそれほど高くはありません。
もし数的処理など知能系科目に不安があれば、そちらを優先させましょう。
但し、社会科学は公務員として必要な素養でもあるので、最低限の知識がないと、面接や討論で失敗する恐れがあります。
時事の補足としての学習でも構わないので、最低限の基礎事項はインプットしておくと良いでしょう。
【教養科目のみで必要な場合】
教養科目のみで必要な場合は社会科学に真正面から向き合うことになります。
高校受験や大学受験の特に公民科目を使った人は、昔取った杵柄でその時に学んだ記憶を思い出しながら問題演習に取り組みましょう。
一方で、理系の技術職志望など、全くゼロから社会科学を学び始める人も多いと思います。
単なる試験の点数のための学習と思いがちですが、社会科学はこれから従事する公務員の仕事と密接に結び付いた科目です。
よって、せっかくなので、「公務員の素養としての第一歩」と捉えて、しっかり学ぶことをオススメします。
最近は、社会人になってから社会科学の無知を恥じ、一から学び始める人も多くなっています。
どうせ必要な知識なら、試験勉強を兼ねてきちんと習得していきましょう。
実は、知識は「試験で必要なところだけを効率良く暗記する」と言った姿勢が最も覚えにくく、また忘れやすくなるため、逆に効率が悪くなってしまうのです。
これが知識科目の陥し穴で、多くの人が失敗し、なかなか知識の定着ができない最大の理由です。
試験と割り切る姿勢を改め、社会科学の内容そのものに興味・関心を向け、喜怒哀楽に結び付けながら学習を進めていきましょう。
「問題集は何周すべきですか?」
長年、講師をやっていると、
「問題集は何周すべきですか?」
と言う質問をする受験生に必ず出会います。
もし私が採用官なら、何周もやらないと理解できないような人は不採用です。
業務を教えても1回で覚えられず、何度も何度も教えないといけない人と、「1回で理解できる人」なら、どの職場も「1回で理解できる人」を採用するでしょう。
問題集を何周もやる人は、「1回では身に付かない」と言う先入観を持っているようです。
恐らく周囲から反復学習を刷り込まれたのでしょうが、もしその時に「1回でマスターする」習慣を身に付けていたら、今の何倍もの効率で力を付けることができたはずです。
元々の人間の能力に差はありませんが、こうした環境の差によって優劣が生まれてしまいます。
子どもの頃に良い先生に巡り合えるかどうかが、格差を生んでしまっています。
しかし過去を嘆いても仕方がありません!
今から習慣を変え、「1回で理解する」ように心掛けてみてください。
「この問題集は1回しか学習できない」
と言う条件を自分に課すだけで、その1回に向かう集中力が桁違いにアップします。
試験本番での戦略
教養択一試験で、知能系科目から解くか、知識系科目から解くかは意見が分かれるところです。
しかし、配点を考えると知能系科目が合否の要であることは明白です。
また、学習時には十分に解けていたにも関わらず、本番で解けずに失敗してしまう可能性があるのも知能系科目です。
(知識系科目は学習時の得点と本番の得点がほとんど変わりません。)
よって、どうすれば知能系科目の得点を上げられるかを最優先にした戦略を立てます。
まずは何故、知能科目は本番で解けなくなるのかを分析してみます。
本番で知能系科目が解けなくなる原因は「脳の硬直化」です。
人間は緊張すると、思考がストップするようになっています。
「急に大勢の前で話すことになった! いいこと言わなきゃ!」
「好きな異性と偶然、二人きりになった! いいとこ見せなきゃ!」
「試験で見たことのない問題が出た! いい点数取らなきゃ!」
これらは全て共通で、未知のシチュエーションに遭遇し焦ってしまっています。
しかし、皆さんもご承知の通り、焦れば焦るほど頭は混乱してしまい、追い詰められます。
脳は圧迫されると急激に疲弊するため、更に硬化します。
こんな時に重要なのは、リラックスして冷静になることです。
家で解く時はリラックスできているため、スラスラ解けますが、試験本番はやはり脳が疲弊します。
しかし疲れたからと言って試験時間中に休憩を挟むことはできません。
そこで、知能系科目で疲弊した脳を休める時間として知識系科目を活用します。
具体的に言うと、まずは知能系科目の回答からスタートします。
スラスラ解ければそのまま解き進めます。
しかし、必ずどこかで「うっ!」となる問題に遭遇するはずです。
ここで無理に考え込んで脳を圧迫させる前に、
「ちょっと気分転換!」
と知識系の問題に取り組みます。
そこで知識系を進め、
「ちょっと飽きてきたな」
と思ったら、また知能系科目に戻ります。
先程つまづいた問題が解けそうなら、そこに戻れば良いですし、難しそうなら別の問題に移れば良いのです。
何も順番に解かなければいけない決まりは全くありません。
知能系科目と知識系科目は使う脳の領域が全く異なります。
よって、片方の科目の休憩にもう一方の科目をやれば、時間を無駄にすることもなく、脳を活性化させ、効率的に取り組むことができるのです。
これは試験本番のみならず、学習の際にも利用できますね。
私も様々なことに従事していますが、全て「気分転換」と思って気楽に取り組んでいます。
眉間に皺を寄せて、頭を掻きむしっている人で上手く成功した人を見たことがありません。
学習も本番も、休憩中の暇潰しだと思って淡々と取り組んでみましょう。