今回はTOEICのスコアと英語力の関係についてです。
「TOEICは使えない」とか「テクニックだけでスコアが取れる」と聞いたことがあるけれど本当か。
「高いスコアが意味するもの」は何なのか。「TOEICスコアをどのように活用するとよいのか」などなど、スコアにまつわる気になる話をお届けします。
この記事を書いた人 早川 幸治
スタディング TOEIC講座主任講師。株式会社ラーニングコネクションズ代表取締役。 |
こんな話を聞いたことありませんか?
「ハイスコアが取れても話せないからTOEICは使えない」
「TOEICはテクニックでスコアを取れるらしい」
私たちは、ポジティブな情報よりも、ネガティブな情報の方が感情に響いてくるため、「もしかして、TOEICの勉強をしても意味ないんじゃないか・・・?」と不安になる方も多いかもしれません。
しかし、TOEICのハイスコアを持っていて、かつ仕事で英語を使っている方に聞くと、上とはことなる感想が返ってきます。
それは、「TOEICのスコアを取れば話せるというものではないけれど、TOEICの内容がわからないのであれば英語を使って仕事はできないですね」というものです。
ところで、テラモーターズという会社をご存知でしょうか?
バイクの製造をしている日本のベンチャー企業で、最初から世界市場を目指した会社です。ベンチャーであることから、入社後すぐに即戦力として世界で戦うために、社員に求めるTOEICスコアは800点以上であり、実際には、社員の平均TOEICスコアも約850点とのことです。
以前、私はテラモーターズ創業者で現会長の徳重徹さんに「TOEIC 800点を持っていれば、英語でビジネスできると思われますか?」と質問させていただいたことがあります。徳重会長の答えは次のようなものでした。
「スコアを取ったからといって、すぐに英語を使えるというわけではないですね。でも、最低800点はないと使える形にはならないでしょう」
まさに、仕事で英語を使っている人たちと同じような答えでした。
特にテラモーターズの社員の方は、1人で現地に乗り込んでいって売り込むという仕事スタイルのため、最低800点という高いレベルの英語力が求められているのです。
よく言われる「TOEICはテクニックで解ける」についても見ておきましょう。
確かに、テクニックを使って一部だけ聞き取れれば正解できる問題はあります。
たとえば、Part 2においてWhen will the shipment arrive?という質問が出た場合、Whenだけ聞き取れれば、正解のTomorrowを選べるという問題は出てきます。これは「疑問詞だけ聞き取る」というテクニックように見えるかもしれませんが、そういった問題はそもそも冒頭だけ聞き取れれば解けるように難易度が低く設定されているのです。
また、Part 7においても、全体の内容がわからなくても、具体的な情報を見つければ正解できる問題というものもあります。
ちなみに、私たちはこのくらいのテクニックは普段から使っています。
たとえば、大量にあるハンコの中から、自分の名前のハンコを探すときをイメージしてみてください。私は「早川」ですから、「あ」から順番に探すことはしません。まず「は」を見つけます。そして、次の文字が「や」ですから、「は」の項目の後半にあるので、「ひ」に切り替わる少し前を見ます。すると、「林」さんや「早坂」さんが見つかるので、そのあたりで少しスピードを落として、「早川」を特定します。
無意識にやっていることではありますが、ここでは50音順の知識を前提したテクニックを使っているのです。TOEICに使えるテクニックというのは、このような、知識を前提としたスキルの活用なのです。
TOEIC L&Rテストは1つのテストで10点から990点を振り分けるため、理解度が低くても正解できる易しい問題と、難易度が高く、深く正確な理解を求める問題が混在しています。確かに一部の聞き取りや読み取りだけで答えられるものがあるとはいえ、「この単語があったら即正解」のようなものはなく、聞ける/読めるということが前提のテクニックなのです。
言い換えると、「裏技」というものではなく、「取捨選択の技術」や「情報特定の技術」といった理解を促進するための方法です。難易度の高い問題については、一部の情報を特定するなどのテクニックでは解答できず、本文・選択肢ともに内容を正確に理解しないと正解することができません。
つまり、ハイスコアを取れるということは、多くの問題に正解できていることの表れであり、英語力があるということの証明になります。
ここで改めて、テストの性質とスコアの意味を考えてみましょう。
テストとは、現在地を確認するために受けるものですし、スコアとはその現在地を表す数値です。
つまり、英語学習とTOEICの関係は、ダイエットと体重計の関係と同じです。ダイエットの成果を数値として確認するための手法が、体重計に乗ることです。もしダイエットが上手くいかないからといって、「この体重計は使えない!」と嘆くのは、八つ当たり以外の何物でもありませんよね。
TOEIC L&Rテストは、リスニング力とリーディング力を測っています。よって、話されている英語を聞いて理解した度合い、そして書かれている英語を読んで理解した度合いを客観的に数値化したものが、TOEICスコアです。
なお、テストには二種類あります。1つが決められた範囲の内容の理解を測る「到達度テスト」です。学校の単語テストをイメージするとよいでしょう。決められた範囲の中の学習事項が身についたかどうかを測り、全て覚えていれば100点取れるというものです。そして、もうひとつが「熟達度テスト」といい、「何ができるか」を測るテストです。
TOEIC L&Rテストは、「熟達度テスト」であり、1つのテストで受験者が10点から990点のどの位置にいるかを測定します。
公式サイトの「レベル別評価の一覧表」では、リスニングとリーディングのスコア帯別に一般的な「長所」と「短所」が紹介されています。
それぞれのスコア帯で何を理解することができるのかの参考になります。
▼TOEIC L&Rテスト レベル別評価の一覧表(IIBCサイトより)
https://www.iibc-global.org/toeic/test/lr/guide04/guide04_02/score_descriptor.html
TOEIC L&Rテストでスピーキングやライティングなどのアウトプットの力を測っていないとはいえ、スコアはそのまま潜在的なアウトプット力と判断することができます。
たとえば、AさんとBさんの2人がいるとします。AさんはTOEIC 300点。BさんはTOEIC 600点。2人とも「英語を話せない」とします。
この2人が英語を使う環境に2カ月どっぷり浸かったら、どちらのほうが会話力が伸びるかといえば、おそらくBさんです。なお、問題の解法を中心に学習してきた方の600点と、会話力を伸ばしながらTOEICの学習をしてきた方の600点は、当然アウトプットの力は異なるでしょう。
つまり、「スコア=英語で仕事ができる力」というわけではないとはいえ、「仕事や日常で使われている英語が理解できる能力」ということができます。
考えてみれば当たり前ですが、普段英語を使っていない人が問題を解けるようになることで、英語を使えるようになることはありません。
ただ、指標として参考になりますし、企業からしても将来英語を使って活躍してほしい人材を採用する際には、最低基準としてのTOEICスコアを設定していることは多くあります。つまり、これは足切りのためと言えます。
そもそも、日本語のネイティブスピーカーの私たちであっても、日本語が話せれば日本で仕事ができるというわけではありません。やはり仕事によって特殊な単語や仕事の仕方がありますから、言語ができるかどうかだけで仕事で使えるかどうかを測ることはできないことは理解に難くないでしょう。スコアを取っただけでは英語で仕事ができるかどうかわからないからといって、TOEICの存在意義が揺らぐことはなく、やはり高いスコアを取っている人ほど高い英語力があり、仕事で英語を使える潜在能力として判断することはできます。
スコアで英語力を測っただけでは、ここまで書いた通りの判断基準となりますが、実際に仕事で英語を使っている人のスコアが気になりますね。
仕事で英語を使っている人たちの平均スコアは700点強と言われています。
平均スコアですから、実際には900点以上で英語を使っている人もいますし、500点未満でも英語を使っている人はいるでしょう。
また、英語を使う仕事といっても内容は様々です。英語で注文を受ける際に必要な英語力と、英語で交渉を行う際に必要な英語力は異なります。
そのため、一概には何点あれば英語で仕事ができるかとは言えません。
たとえば、ハワイのワイキキビーチ沿い並ぶ店では、日本語を使える店員さんが多いのですが、TOEICの日本語版があるとしたら、多くの店員さんの日本語力は200点くらいでしょう。「いらっしゃいませ」「これオススメ」「安いです」など、お客さんを歓迎したり、商品の特徴を表面的に述べたりする程度で、お客さんである日本人が判断できる基準を提供するための日本語しか使いません。
そのため、この店員さんが日本語しか話さないバイヤーさんとの交渉ができるかといえば、おそらく難しいでしょう。そのため、そのような仕事をする人たちは800点以上の日本語力が求められるはずです。
以上のことから、手続きとして英語を使う仕事であれば、やや低めのスコアを持っている人も関わっていますが、思考や判断や説得などが要求される仕事をしている人ほど高いスコアを持っているというのが現状です。TOEICに出題されるレベルの英語がわからずに、商談をまとめるように活躍している人は皆無でしょう。
社員に課しているTOEICスコアは企業によって様々です。500点レベルから800点以上まであります。
なお、設定された要件スコアは、仕事に十分なスコアというわけではなく、最低限必要なスコアという位置づけです。
500点レベルを要件にしている場合、英語を使うというよりは、「海外からの指示を理解できる力」を養成していると考えられます。指示に従うという目的であれば、コミュニケーションを取る必要はないため、500点レベルでも十分と言えます。
ANAなどの航空会社は600点程度としているところが多いです。これは、機内や空港でのやり取りには、手続きとしてのやり取りが多く、繰り返しているうちに使えるようになるため、それほど高いスコアは不要だということです。
しかし、全く英語が使えないレベルだと現場に出るまでに時間がかかってしまうため、使われている英語がある程度理解できるレベルである600点程度という設定なのでしょう。
本田技研工業などメーカーでは、海外営業には730点レベル以上のスコアが求められていることが多いようです。
また、三菱商事など商社では730点から800点が最低求められ、実際に海外企業との交渉が絡んでくる仕事では、最低860点レベルが求められます。ただし、スコアがあれば英語が使える
みずほ銀行などメガバンクでも、730点以上のスコアは求められています。それは直接海外とのやり取りが発生するということもありますが、銀行の顧客が海外進出することが増えてくると、銀行もその言語で対応することが必要になるためです。
窓口業務であれば、基本的には手続き的な英語のやり取りですから、それほど高い英語力は求められませんが、融資等の折衝などに関わる場合には当然専門性が高まるため、より高い英語力が求められます。
なかには、売上の9割が海外であることから社員に800点取得を求める日本電産や、社内英語公用語化を掲げ全社員800点必達という楽天のような企業もあります。IT企業である楽天と、モーターメーカーである日本電産の共通点は、海外企業M&Aによる事業拡大です。
多国籍の社員が増えることからも、日本人社員にも高い英語力を求めるのは当然の流れといえます。
まさに各業務で使えるレベルに育てるのに最低限必要なスコアが課されていると考えるのをお勧めします。
上でご紹介したテラモーターズの徳重会長の言葉にあるように、現地での交渉が必要となる業務の場合には、最低800点ないと使える英語に育てることは難しいということでしょう。
「TOEICスコア=英語で仕事ができること」ではないことはお伝えしましたが、スコアを取得することが英語環境へのチケットとなることはとても多くあります。最後に、英語とは無縁の仕事をしていたものの、実際にTOEICスコアを取ったことで英語環境を手にした2人の例をご紹介します。
1人目は、電機メーカー勤務のAさんです。当時50歳目前のAさんは、会社からTOEICスコアを求められていたことから学習を始めました。英語が苦手かつ当時の仕事では英語は不要だったものの、英語力をつけたいという思いで、私のTOEIC講座の受講を決めたそうです。一番前の席で真剣に取り組んでいる姿が印象的でした。
300点台前半から400点台へ、さらに飛躍して600点台と伸び、最終的に725点まで伸ばされました。その結果、異動が決まり、英語を使う環境を手にしました。喜びもつかの間、Aさんが感じたのは「部署で一番英語ができない・・・」ということだったそうです。それまでとは異なる特殊環境でしたが、業務で使う英語を学びながら使うという日々を送ることで、徐々に英語での仕事が「ノーマルモード」となりました。
学習前の300点台前半のまま「英語を使って仕事をしたい」と希望しても会社が異動に同意することはなかったでしょうし、仮に異動したとしても仕事で使えるレベルにまで伸ばすのに膨大な時間がかかったはずです。725点の英語力が、仕事で使える英語力への速い転換を可能にしたのです。
続いて、2人目の資材メーカー勤務のBさんです。Bさんの入社志望動機のひとつが「国内だけの仕事だから」という、大の英語嫌いだったそうです。入社3年目のある日、英語を使って活躍している先輩の姿を見て「自分も成長したい」と感じたそうです。
また、同じ時期に荷物を船に積み込む作業をしていた時、外国人労働者と話す機会があったといいます。その外国人に色々質問されたものの、会社のことや仕事のことを英語で何も説明できないことに気づきました。
そこで「ビジネスで使える英語を学ぼう」とのことで、TOEICの学習をスタートしました。入社時のスコアは300点台前半。そこから600点台まで上がり、さらに750点へ。このスコアがチケットとなり、会社での海外研修のメンバーに選抜されました。最初は戸惑いがあったものの、徐々に英語の使い方に慣れるにつれて、仕事で活かせる英語へと変わっていきました。
いかがでしょうか。このおふたりのように、TOEICスコアが英語環境へのチケットとなった例は枚挙にいとまがありません。
プロ野球の世界でも、ドラフトで指名されたり、テストに合格して入団したからといって、そのまま活躍できるわけではありません。
しかし、プロでやっていく素質があるとの判断から入団を許可されたのです。1年目は鳴かず飛ばずだった選手が、3年目に急に頭角を現すというのは珍しくありません。これはプロの環境に入り、練習を続けることで実力が上がったことの表れです。
同様に、TOEICスコアも「素質」の判断と考えてもよいでしょう。スコアの高低はスコア取得時の英語運用能力ではなく、その後の英語運用能力への転換の質を表すものなのです。英語環境に入って、そこでの取り組みにより「使う英語」へと変わっていきます。
バリバリ英語で仕事をしている人にとっては、TOEICスコアは不要でしょう。
そういった意味では、今は英語を使っていないけれど、使われている英語がどの程度理解できるのかを測るテスト、また今のスコアで一体どのような業務ができるレベルに転換できるのかを測るテストが、TOEIC L&Rテストと言えます。
いつか、「テストは受けたことないけれど、日々仕事で英語をバリバリ使っています」という人々であふれる状況になるとき、英語力やテストスコアの見方は、現在とは異なるものになっているでしょう。
TOEIC®L&Rテスト対策法を分かりやすく解説! |
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