中小企業診断士は転職に有利?
結論から述べると「中小企業診断士の資格は転職に役立つ」といえます。ただし、資格さえあれば転職できるわけではありません。
採用選考を行う企業側の視点に立って考えてみましょう。
資格は知識や努力の証としてプラス評価
中小企業診断士の資格を持っていると、経営全般に関する一定の知識を持っている証明になります。
転職の際は、資格を取得するための努力も含めてプラスの評価を期待できます。
特に、選考の担当者が中小企業診断士の難易度を知っていたり、勉強経験があったりする場合は「難関資格を取得した人」として一目置かれるでしょう。
資格はあくまで「プラスオン(上乗せ)の武器」
しかし、中小企業診断士の資格をよく知らない人や、知っているけれど勉強はしたことがない人にとっては、資格名を聞いても「経営に関する知識を持っているのだろう」という程度の受け止め方かもしれません。
また、中小企業診断士に限ったことではありませんが、転職、特にキャリアチェンジで未経験の業界・業種を志望する場合は、「資格さえあれば転職できる」というわけではありません。
企業は、実務経験があるかどうかを重視することのほうが多いでしょう。
中小企業診断士の資格に関連が深い職種として、経営コンサルタントや経営企画室のメンバーなどが挙げられますが、これらの職種にしても、資格を持っている=実務ができるとは見なされません。
転職において、中小企業診断士資格はプラスオン(上乗せ)の武器であると考えてください。
【体験談】資格取得→未経験業種に転職成功
前述のように、中小企業診断士の資格は基本的に「プラスオンの武器」ですが、必ずしも実務経験が豊富でないと転職できないわけではありません。
中小企業診断士の専門性を活かして未経験業種への転職を成功させた体験談を、中小企業診断士の市岡久典さんにお聞きしました。
【中小企業診断士 市岡久典氏】
ITコンサルタントとして働きながら、中小企業診断士試験に合格。 その後、ベンチャー企業の経営企画部門の責任者を経て独立。現在は独立診断士として中小企業診断士講座講師、創業支援、事業計画策定、資金調達、 経営管理、事業再生など、幅広い分野で中小企業のコンサルティングを行う。また、スタディング中小企業診断士講座では中小企業経営・政策の科目を中心に講師を務める。 |
IT コンサルタント時代に資格取得
――中小企業診断士を目指した経緯をおしえてください。
学習・取得した当時、私はソフトウェア企業にてITコンサルタントとして働いていました。
それまで情報システム関連の仕事が中心でしたので、「システム関係にとどまらず広い視野で物事を見たい」「より経営に近い立場で仕事をしたい」と思い、中小企業診断士の資格を目指しました。
ただし、そのときは明確に転職を意識していたわけではなく、漠然と考えていたという状態でしたね。
経営コンサルタントと経営企画室で内定獲得
――資格取得後の転職活動はどのように進んだのでしょうか?
「経営コンサルタント」と「経営企画室」の2つの職種で転職活動を行いました。
それぞれ、外部から経営を支援する立場と内部で経営を支える立場で、どちらも魅力的に映りましたので、絞り込まずに活動をしていきました。
その結果、どちらの職種でも内定を獲得することができ、IT系のベンチャー企業の経営企画室への転職を決めました。
――転職活動を通じて、中小企業診断士の資格はどのように評価されましたか?
あくまで私の感想ですが、評価は会社によってさまざまだったと思います。
それなりに評価してくれた会社もあれば、あまり評価していないような会社もありました。
しかし、経営企画の業務経験が豊富ではなかった私が転職してキャリアアップできたのは、その会社がIT企業だったことだけでなく、中小企業診断士の資格が大きく役に立ったと感じています。
未経験から転職するには?
これまでに経営コンサルティングや経営企画などを経験していない人が、中小企業診断士の転職を成功させるためのヒントとして、次の2つの方法を紹介します。
- 副業で経営コンサルティングを経験する
- 得意分野・他の資格と組み合わせる
副業で経営コンサルティングを経験する
本業で経営に携わったり、経営コンサルティングを行ったりしていない人は、資格取得後にいきなり転職活動をするのではなく、本業を継続しながら転職の準備を始めてみるというのも選択肢の1つです。
実は、就業後や休日の時間を使って副業で経営コンサルティングを経験するということも可能です。
主な業務としては、企業の経営診断や業務改善のための助言、新規事業の相談などを行います。
副業であっても実績としてアピールできる実務経験になりますし、自身の経験値がアップするメリットがあります。
ただし、本業とうまく両立しなくてはならないため、時間の管理が大変に感じるかもしれません。
【あわせて読みたい】中小企業診断士のおすすめ副業5選!会社員の副業実例も紹介
得意分野・他の資格と組み合わせる
中小企業診断士試験では、経営について横断的な知識を身につけますが、実際に経営に携わる上では特定の業界や業務に関する豊富な経験や深い知識が貴重な武器となります。
転職活動においても、そのような武器があれば他の応募者との違いが明確になり、転職者と企業のマッチングにも役立つでしょう。
具体的には中小企業診断士の資格と自分の得意分野や他の資格を組み合わせることが有効です。
たとえば、下記のような例です。
- 中小企業診断士×IT
- 中小企業診断士×採用
- 中小企業診断士×営業
特にITについては、近年は中小企業にもDX推進の波が押し寄せており、IT導入の助言ができる中小企業診断士が重宝される傾向があります。
独自性を高められれば転職の際に非常に有利になりますし、掛け合わせることで報酬アップも期待できるでしょう。
懸念点としては、中小企業診断士以外の資格も新たに取得したい場合、難易度の高い資格ほど希少価値が高まるものの、取得までに年単位の時間を要することです。
たとえば社労士は最低1年程度の勉強が必要です。転職を急ぐ人は別の方法を考える必要があるでしょう。
中小企業診断士の転職先
「中小企業診断士になったら、どのような会社に就職できるのだろう?」このような疑問をお持ちの方も多いでしょう。
中小企業診断士はコンサルティングや事業支援、補助金の申請など業務内容が多岐にわたります。
中小企業診断士の主な転職先について、1つずつ解説していきます。
- コンサルティング会社
- 公的機関
- 一般企業
- 会計事務所・税理士事務所
- 金融機関
- 中小企業診断士事務所
コンサルティング会社
中小企業診断士の就職・転職先として代表的なのはコンサルティング会社です。
コンサルティング会社の守備範囲は経営戦略、組織、財務・会計、ITなど幅広く、何を強みとするかは会社や個別のコンサルタントによって異なります。
大手の場合、プロジェクトに応じてチームが組織され、内容によっては税理士や公認会計士といった専門家もメンバーに迎えて対応するのが特徴です。
組織の中で上司やチームメンバーから学びながら経験を積んでいけるでしょう。
公的機関
中小企業診断士になると公的機関への転職も検討できます。具体的な公的機関には下記のようなものがあります。
- 商工会議所
- 中小企業基盤整備機構
- 都道府県の中小企業支援センター
たとえば商工会議所では「経営指導員」という職種名で中小企業診断士資格を保有する人材を募集していることがあります。
その名のとおり地域の中小企業に対して経営コンサルティングを行いますが、それだけではなくイベントや検定試験など商工会議所が扱うさまざまな業務を担います。
一般企業
中小企業診断士の資格保有者を歓迎する一般企業の求人をいくつか見てみると、「グループ会社の経営管理」「海外事業に関する管理業務リーダー」「経営企画室での広報・IR業務や事業企画」など、実にさまざまな業務内容、ポジションでの募集が見つかります。
前出のインタビューのとおり、必ずしもすべての企業が転職において中小企業診断士資格を評価するわけではありませんが、実務経験に上乗せする形で資格を保有していれば、転職を有利に進めることができるでしょう。
会計事務所・税理士事務所
会計事務所・税理士事務所でも中小企業診断士の人材を募集していることがあります。
会計事務所・税理士事務所の顧客が公的補助金の申請や、事業に関するコンサルティングを希望した際に中小企業診断士が対応します。
会計士や税理士は本来の業務だけに集中したいので、これ以外の業務を担ってくれる中小企業診断士を会社に置いておきたいケースがあるのです。
お金や税に関わる内容は、企業経営のなかで非常に重要な部分です。会計事務所や税理士事務所での勤務経験は、以後のキャリアアップにも役立つでしょう。
金融機関
中小企業診断士の資格を持っていると、金融機関で働けるチャンスもあります。
たとえば、金融機関が法人に融資する際は財務分析を行い、融資後に返済できる見込みがあるのかを正しく判断する必要があります。
こうした精査作業を中小企業診断士が担います。
会計だけでなく経営全体を把握できる中小企業診断士は、適格な判断を下すのに最適な存在です。
中小企業診断士事務所
中小企業診断士事務所には、複数の中小企業診断士が所属して、経営コンサルティング、補助金・助成金の活用支援、創業支援、事業再生など多岐にわたる業務を請け負っています。
コンサルティング会社に比べて小規模なことが多いですが、先輩の中小企業診断士から業務を教われる貴重な環境です。
中小企業診断士の年収
現役の中小企業診断士を対象としたアンケート調査では、中小企業診断士の3人に1人年収が1,000万円を超えているという結果が出ています。
(調査対象者はコンサルティング業務日数の合計が「100日以上」と回答した方)
年収区分を見ると、年収501~800万円の人が全体の2割を占めており、この層がもっとも多くなっています。
これは売上ベースの数値となっているので、ここから経費を引いた額が実際の収入です。
ただし、中小企業診断士の仕事は原価がほとんどかからないケースが多いといえます。
【あわせて読みたい】中小企業診断士の収入・年収はどれくらい?
転職希望者は実は少数派!受講生アンケート
「中小企業診断士の資格を取ればキャリアチェンジを伴う転職に役立つのか?」と気になる人にとって、見ておきたいアンケート結果があります。
それは「中小企業診断士を目指す人は、実は転職以外のキャリアビジョンを描いている人のほうが圧倒的に多い」というものです。
スタディング 中小企業診断士講座の受講生約300名を対象におこなったアンケートの結果を紹介します。
【アンケート調査概要】
調査期間:2021年12月1日~2021年12月8日
調査対象:スタディング 中小企業診断士講座 2022年度受講生
回答者数:297名
調査方法:スタディングによるオンラインアンケートを実施
現在の仕事を続けたい人が6割
アンケート結果をみると、
- 現在の仕事の中でキャリアアップしたい(34%)
- 現在の仕事を続けながら副業でスキルアップしたい(25%)
と回答した人はあわせて6割にのぼります。
もっとも多かった「現在の仕事でキャリアアップしたい」と答えた人たちの意見には、次のようなものがありました。
- 将来、管理職や幹部を目指すにあたって、肩書・実務両方に役立つ資格だと考えているから
- 現在の仕事に関連性があるので、知識を習得して仕事の幅や深さを広げるため
- 現在の仕事を遂行する上でより高いスキルを身につけ、成果を上げることを目的に本資格の取得を目指している
「本業でのキャリアアップ・スキルアップに効く資格」として期待を寄せていることが伺えます。
また、2番目に多かった「副業派」は、新しい時代の働き方として複数の仕事を持つことにメリットを見出している意見が複数ありました。
転職派より多かった独立派
また、転職派(15%)よりも独立派(21%)のほうが多いという結果も出ています。
独立すれば、行政や商工会議所などの公的機関を通じて、あるいは企業と直接契約して、中小企業のコンサルティングを行うことがメインとなってくるでしょう。
独立派のアンケート回答からは、「中小企業診断士の資格と自分の専門知識とをかけ合わせたり、さらに新しい知識を身につけたりして活躍したい」という傾向が見られました。
また、こんな意見も見られました。
- 地元の街を元気にしたいので、商店街の活性化に尽力したい
- 地域産業の活性化に携わりたい
資格取得後のキャリアとして、独立して生まれ育った地域に貢献する未来を描く人も少なくないようです。
働く場所や仕事の方向性について自由に決めることができるのは、独立の大きなメリットでしょう。
中小企業診断士は活用シーンが豊富
ここまで見てきたように、中小企業診断士を目指す人のうち転職派は意外と少ないといえます。
中小企業診断士は、転職の際に「プラスオンの武器」として使えるだけでなく、現職にいますぐ活用できる資格でもあることが、理由の1つでしょう。
現職を続けながらでも、資格取得の価値を実感できるはずです。
また、副業や独立もでき、活用シーンが豊富なことも魅力です。転職以外にも視野を広げて、自分に合う働き方を選択できるでしょう。
まとめ
今回は、中小企業診断士の転職やキャリアチェンジ、就職先や年収などについて紹介してきました。
- 中小企業診断士の資格は転職時に「プラスオンの武器」となる
- 中小企業診断士の受講生アンケートでは、転職希望者は実は少数派
- 中小企業診断士は活用シーンが豊富なので、働き方を自分で選べる
中小企業診断士の資格を取得すると、顧客の悩みを解決できるやりがい、知識や見聞が広がる喜び、社外での新しい出会いなども手に入ります。
転職などキャリアアップに役立つことにとどまらない、大きな価値を感じることができるでしょう。
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