中小企業診断士における実務従事とは、試験合格者と資格保有者にとってそれぞれ次のような意味があります。
試験合格者 | 資格の登録を行うための要件の1つ |
資格保有者 | 資格を更新するための要件の1つ |
中小企業診断士として登録を行うには、2次試験に合格した後3年以内に実務要件(15日以上)を満たす必要があります。登録要件として認められるのは下記のいずれかです。
合格者の多くは実務補習で要件を満たしますが、実務従事でも要件を満たすことは可能です。
たとえばコンサルティング会社で働いていて中小企業診断士試験に合格した場合、本業が実務従事に該当する場合があります。
実務補習の受講には費用と時間がかかりますが、本業が実務従事に該当する場合は、補習の費用や時間がかからなくなることがメリットです。
【参考】中小企業庁「中小企業診断士関連情報」>「申請・届出の手引き」>「新規登録申請」
中小企業診断士の登録には5年の有効期限があります。
更新登録には、登録日から申請日までに「専門知識補充要件」と「実務要件」の両方を満たすことが必要です。
このうち「実務要件」は下記のいずれかです(合計30日以上)
一般的に、実務要件は実務従事で満たすことが多いといえます。
経営コンサルティング業務や窓口相談業務で30日間以上業務を行えば、中小企業診断士の更新要件をクリアできます。
【参考】中小企業庁「中小企業診断士関連情報」>「申請・届出の手引き」>「更新登録申請」
実務従事に該当する業務は、次の2つです。
1つずつ解説していきます。なお、この項目で述べる内容の詳細は中小企業庁の下記資料で確認できます。
経営の診断助言業務とは、中小企業に対する経営診断・分析・課題解決の相談を行うことです。
具体的には下記の業務が該当します(有償か無償かは問われません)。
※ただ調査・分析を行うだけの業務や、講師業務、執筆業務などは該当しません。
また、経営の診断助言業務は、中小企業診断士が中小企業に直接経営者に経営診断助言を行った日数が要件の対象になります。
つまり、1日に2社への業務を行った場合も、実務要件においては「実務従事1日」と数えられるということです。
経営に関する窓口相談業務とは、公的機関などに設けられている窓口にて経営相談員として相談に乗る業務です。
具体的には下記の業務が該当します。
経営に関する窓口相談業務を1日5時間以上行ったことを証明できれば、実務要件において「実務従事1日」とカウントされます。
実務従事の対象となる会社等は次のとおりです。
個々の会社等が対象となるかどうかは、ルールと照らし合わせて確認する必要があります。具体的に1つずつ詳しく見ていきましょう。
中小企業庁の資料によると、実務従事の対象となるのは下記の中小企業者です(表の①〜⑦の事業を営む個人事業主も含む)。
業種 | 資本金の額または、出資の総額(以下「資本金」という。)及び、常時使用する従業員の数(以下「従業員数」という。) |
① 製造業、建設業、運輸業その他の業種(②から⑦までの業種を除く。) | 資本金3億円以下または、従業員数300人以下 |
② 卸売業 | 資本金1億円以下または、従業員数100人以下 |
③ サービス業 | 資本金5千万円以下または、従業員数100人以下 |
④ 小売業 | 資本金5千万円以下または、従業員数50人以下 |
⑤ゴム製品製造業 | 資本金3億円以下または、従業員数900人以下 |
⑥ ソフトウエア業 情報処理サービス業 | 資本金3億円以下または、従業員数300人以下 |
⑦ 旅館業 | 資本金5千万円以下または、従業員数200人以下 |
⑧中小企業団体の組織に関する法律第3条第1項に規定する中小企業団体(事業協同組
合、事業協同小組合、信用協同組合、協同組合連合会、企業組合、協業組合、商工組合、商工組合連合会) |
|
⑨ 特別の法律によって設立された組合または、その連合会であって、その直接または、間接
の構成員たる事業者の3分の2以上が①から⑦までのいずれかに該当する者であるもの |
中小企業庁の資料によると、下記の法人は実務従事の対象となります。
法人名 | 常時使用する従業員の数(以下「従業員数」という。) |
①医業又は歯科医業を主たる事業とする法人 | 従業員数300人以下 |
②社会福祉法人(①を除く) | 従業員数100人以下 |
③特定非営利活動法人(①を除く)
ただし |
従業員数300人以下
従業員数50人以下 従業員数100人以下 |
つまり、一定の要件を満たす医療法人(医業・歯科)と老人ホームなどの社会福祉法人が実務従事の対象に該当します。またNPO法人も対象です。
下記の法人は、実務従事の対象外です。
これらに該当する法人に対し、経営診断や助言などを行うこと自体は問題ありませんが、実務従事の対象には含まれません。
コンサルティング会社に勤務している場合は、本業でのコンサルを実務従事とするケースが多いです。
しかし、本業の仕事内容が中小企業診断士とは畑違いの人は、実務従事先を探すのに苦労することが多いようです。
その場合は、次のような方法で探してみるといいでしょう。
1つずつ見ていきましょう。
まずは中小企業診断協会を活用する方法です。
中小企業診断協会の都道府県ごとの組織では、会員に実務従事の機会を提供するための取り組みを行っていることがあります。
たとえば東京都中小企業診断士協会では、下記のようなテーマの診断実務が行われています。
コロナ禍で遠のいた客足を取り戻す為、今後の集客方法と事業戦略の策定支援」 手打そばが人気の日本食料理店の新事業、そば、うどんのEC通販を展開する 経営幹部を担う人材の採用と育成、営業力強化為の社員教育・仕組み作り等 【出典】中小企業診断協会「実務従事状況照会-募集計画一覧」(東京、令和4年度)
このほか、協会が認定する研究会の活動を実務従事に充てることができるケースもあります。
知り合いが経営する会社に協力してもらうのも、1つの手です。
知り合いの会社が、先ほど「実務従事の対象となる会社等」の項目で紹介した内容に該当するのであれば、協力してもらいましょう。
民間企業の中には、実務従事の機会をなかなか作れない中小企業診断士に向けたサービスを展開する会社があります。
費用はかかりますが、こうしたサービスを利用して実務従事の要件を満たすことも可能です。
企業へのヒアリング、資料作成、プレゼンテーションなどの各工程で先輩中小企業診断士のサポートを受けることができることが特徴です。
実務従事を終えたら、登録・更新の手続きに向けて「診断助言業務実績証明書」や「窓口相談業務従事証明書」を用意する必要があります。
診断助言や窓口相談業務の開始日と終了日、実施日数の合計などを記載し、実施機関の代表者の証明を受けるものです。
診断助言業務においては、「診断士が事業として行った場合」や「公的な機関等から派遣された場合」など業務の形式によって使用する証明書の様式が異なるので注意しましょう。
なお、実務従事先の企業名等を匿名にして証明書を作成することは原則としてできません。
中小企業診断士の実務従事について、よくある質問をまとめます。
あります。中小企業診断士の1次試験に合格したあと、2次試験に進むのではなく「養成課程」を受講・修了するルートです。
2次試験や実務補習・実務従事を経ずに登録へ進めますが、養成課程の修了には時間も努力も要するため、中小企業診断士の資格を取得するための「近道」にはなりません。
【あわせて読みたい】中小企業診断士の養成課程一覧!働きながら夜間・土日の通学で資格取得へ
実務補習とは、5〜6名程度がグループとなり指導員によるアドバイスを受ける補習です。
指導員からアドバイスをもらいながら実際の企業への経営分析・助言を行います。
資格試験合格後3年以内に15日の実務補習を受けることで、中小企業診断士の登録が可能となります。
【あわせて読みたい】中小企業診断士の実務補習は働きながら受講可!日程・内容・免除などを解説
資格の有効期間中に診断助言業務ができないといった状況に対し、猶予措置はありません。
ただし、更新登録の特例として「経営診断業務の休止申請」をすることができます。
中小企業診断士として活動できない場合に活用できる制度です。
今回は中小企業診断士の資格試験合格後に必要となる「実務従事」について詳細に解説しました。
今回は資格の登録や更新において重要な実務従事について解説しました。
これから試験合格を目指す方は、スキマ時間を有効活用して短期合格を目指せる「スタディング 中小企業診断士講座」をぜひチェックしてみてください。
監修 市岡 久典
中小企業診断士 |
1次2次ストレート合格の秘訣を大公開。
合格法冊子とスタディングを無料で試してみる |