企業経営の問題把握と診断を通じて業務改善をバックアップする中小企業診断士。経営診断の対象は、農業分野にもおよびます。
「現役世代の高齢化」「後継者不足」「休耕田の増加」「国際競争力の不足」などさまざまな問題を抱える日本の農業を、経営サポートの面から活気づける目的で発足したのが、中小企業診断士による全国組織「農業経営支援センター」です。
本センターには、これまで商工業分野を相手に経営診断を行ってきた実績とノウハウがあります。この資源を農業分野にも導入することで、マーケティングや生産管理、雇用創出、労働環境などさまざまな面において改善・改革を促す提案を実施しています。
個人の経営が主流だった農業も、昨今では市場調査・生産・販売・管理まで一括して行う農業法人が増え、その流れは今後ますます加速することが予想されます。健全な農業経営を支えるインフラを整備しながら、「安全」「品質」といった日本ブランドの維持を目指すにはどうすればよいか、その処方せんを与えるのが中小企業診断士の役割です。
これまで、「農業経営支援センター」や、センター所属の個人会員は、さまざまな取り組みを通して国内農家・農業法人の経営をサポートしてきました。
具体的には、農産物の卸売業の経営戦略に関する相談、イチゴロックウール栽培を手がける農家の経営診断、あるいは直売所の経営診断など、診断士らしく定量的に検証して経営状況を把握、問題の改善に努めています。
また、地方の農村で農業経営に関するシンポジウムも積極的に開催。「農産物栽培とマーケティング」「環境保全型農業」「農業女性起業」など、テーマも多岐にわたります。このようなセミナー・シンポジウムに会員の中小企業診断士が派遣されることで、有益な情報を提供できるとともに、農業経営者と直接意見交換する機会も生まれます。診断士と農家、診断士と農村自治体とのネットワーク形成にもつながるのです。
経営全般の知識を持つ中小企業診断士だけに、診断アプローチも専門性に富み、その着眼も極めて合理的です。
中小企業診断士が農業法人の経営状況を診断する前に、まず行うのが財務諸表のチェック。経理処理と実情がかけ離れていれば、経営分析や診断にも狂いが生じるからです。損益計算書では抜けている項目がないか厳正にチェックし、間違った経理処理が確認されれば是正を促します。
たとえば、農産物を農協や直売店、小売りマーケットに出荷した場合、販売手数料を計上するかしないかで売上高や加工高比率、機械投資効率といったさまざまなデータに違いが生じてしまいます。これでは正確な損益計算書は作成できないため、会計の基本にもとづく経理処理が重要となるのです。
地方に多くの農村や農家を抱えている現状を考えると、中小企業診断士の活躍の場は地方都市や人口過疎地にも求められるでしょう。
地方の農家は高齢化が進み、就農人口も減少の一途をたどっています。そのような現状に歯止めをかけるべく、国や地方自治体はさまざまな施策を打ち出して農業支援に取り組んでいます。
その中で、経営診断のプロである中小企業診断士の農業貢献への期待度も小さくありません。第1次産業である農業は日本にとっても重要な分野であり、農産物の保護や人材育成は国家的な課題でもあります。難しい問題を抱える中での活動は、それだけやりがい多き仕事といえるのではないでしょうか。
監修 市岡 久典
中小企業診断士 |
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