
MBA(経営学修士)と、国家資格であり「日本版MBA」と呼ばれることもある中小企業診断士。
学習範囲は似ていますが、制度や費用面での違いがあります。目的に合った学びを選択するには、これらの違いをしっかり理解しておくことが重要です。
この記事では、MBAと中小企業診断士の違いについて解説します。
MBAとは?
MBAは、Master of Business Administrationの略で、経営学修士という学位です。
MBAは、ビジネススクール(経営学大学院)を修了すると与えられます。経営に関する知識を体系的に習得するという観点から、経営戦略、マーケティング、人的資源管理、アカウンティング、ファイナンス、オペレーション管理、ビジネス法、経済学などを学びます。
ただし、ビジネススクールによって、カリキュラムや難易度などは異なります。
経営の近代化を狙って、1900年代はじめにアメリカの大学でビジネススクールが誕生し、欧米では多くの大学や教育機関でMBA課程が設けられています。
有名なところでは、アメリカのハーバード・ビジネススクール、ペンシルベニア大学ウォートンスクール、イギリスのロンドン・ビジネススクールなどがあります。
なお、欧米では、MBAを取得していると採用に有利になる、取得していないと経営幹部への昇進の対象とならないなど、企業の採用や昇進と結びついています。
日本でも、複数の大学や教育機関で、社会人向けの経営学修士課程いわゆるMBAコースを開講しています。
しかし、国際認証機関に認証されているビジネススクールはまだわずかです。
MBAを取得しようとする場合、海外のビジネススクールに留学するか、国内のビジネススクールに通うといった方法になります。
いずれにしても期間として、1~2年かかります。費用は、海外に留学する場合は1,000万円以上、国内で通う場合は200万~500万円程度かかるのが一般的です。
最近では、通信制のビジネススクールも開講されるようになってきています。通信制のため通学する必要がなく、時間や場所の制約が少なくなります。期間は1~2年、費用は250万円ほどかかります。
しかし、通信制で取得したMBAは低く評価されることもあるようです。
中小企業診断士とMBAの違いは?
中小企業診断士とMBAの違いは、以下のように整理できます。
- 中小企業診断士:国家資格
- MBA(経営学修士号):学位
それぞれの特徴や違いだけでなく、登録更新の必要性など詳しく解説していきます。
中小企業診断士:国家資格
中小企業診断士は、中小企業支援法に基づいて定められた国家資格です。中小企業診断士の取得には1次試験と2次試験に分けられた資格試験の合格が必要です。
資格の取得後は5年ごとに登録更新を行う必要があります。
【参考】中小企業支援法 第十一条 第十二条 | e-Gov 法令検索
MBA(経営学修士号):学位
MBAとは2003年に学校教育法に基づいて定められた学位です。MBAの取得には大学院で卒業に必要な単位を取得することが条件となっています。
MBAは学位ですので、中小企業診断士とは異なり登録更新の必要はありません。
【参考】大学院における高度専門職業人養成について(平成14年8月5日)
中小企業診断士とMBAの違いを項目別に比較
中小企業診断士とMBAは似ているようで違いが多くあります。
ここでは中小企業診断士とMBAの違いについて、次の項目について比較解説します。
- 取得方法
- 取得の難易度
- 学習内容
取得方法
中小企業診断士の取得方法
中小企業診断士の登録を受けるには、資格試験に合格する必要があります。
登録には1次試験に合格後、2次試験に合格して実務補習もしくは実務従事を経て登録になるパターンが一つです。
1次試験に合格後、中小企業基盤整備機構もしくは登録養成機関が実施している養成課程を経て登録になるパターンの2パターンがあります。
1次試験は企業経営に関する7科目の筆記試験を行い、2次試験では診断や助言能力を問う筆記試験と口述試験を行います。
MBAの取得方法
MBAは、資格試験ではなく学位の授与により取得を意味します。
MBAを取得するには、以下のいずれかの方法で学位を得る必要があります。
- 国内のMBA大学院に入学し、所定の単位を取得する。
- 海外のMBA大学院が日本国内で開講しているプログラムを受講し、単位を取得する。
どちらの方法でも、学位取得には大学卒業またはそれに相当する学力が必要です。
また、出願資格には、出身学部は問われませんが大卒であるか、大卒に相当する能力を持っていることが前提です。
取得の難易度
中小企業診断士の取得の難易度
中小企業診断士の合格率は、令和6年度の中小企業診断士試験に関する統計資料によると、合格率は1次試験が約27.5%、2次試験は約18.7%です。
一発合格の合格率(1次試験合格率×2次試験合格率)は4〜5%のため、中小企業診断士試験合格は非常に狭き門です。
MBAの取得の難易度
MBA学位を取得するための主な国内大学院の倍率は以下のとおりです。
- 一橋大学(経営管理プログラム):5.58倍
- 慶應義塾大学(MBAプログラム):1.63倍
- 筑波大学(経営学学位プログラム(博士前期課程)):2.92倍
国内MBAを目指す場合、一橋大学や京都大学などのトップ校では特に高い競争率となる傾向があります。
ただし、学校によっては倍率が2倍以下の比較的入学しやすい大学院もあるため、志望校選びが重要になります。

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学習内容
中小企業診断士
中小企業診断士は、経営や財務、運営管理、中小企業経営・政策など、中小企業の経営全般に特化した知識を中心に学ぶことが特徴です。
一方、MBAでは、経営戦略やマーケティング、ファイナンス、オペレーション管理など、大企業の経営全般を学ぶことが多い傾向にあります。
どちらも経営全般を学ぶ点では共通していますが、中小企業診断士は中小企業支援に特化した実務能力を重視し、MBAは大企業や国際的なビジネス環境で活躍することを目的とした内容構成となっています。
キャリアの違い
中小企業診断士のキャリア
中小企業診断士とMBAではキャリアに明確な違いが挙げられます。
中小企業診断士は主にアドバイザーとしての役割を担い、中小企業の経営改善や戦略立案のサポートに従事します。
また、中小企業支援機関のマネジャーや中小企業に対する専門家派遣や経営相談には、中小企業診断士の資格保持が必須条件の場合も少なくありません。
公的機関での仕事を希望する場合、中小企業診断士の資格が強みになります。
MBA保持者のキャリア
MBA保持者はより実践的なプレーヤーとして、自ら事業を立ち上げたり、企業内でリーダーシップを発揮したりする役割を担います。
キャリアパスの観点からは、以下の経営に直結する職種へ幅広く関与できます。
- 経営コンサルタント
- 事業開発マネージャー
- ファイナンスディレクターなど

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中小企業診断士とMBAの共通点
中小企業診断士とMBAの違いを紹介しましたが、以下2つの共通点も挙げられます。
- 会社経営に必須の知識が身に付く
- 独立の難易度を下げることができる
会社経営に必須の知識が身に付く
中小企業診断士とMBAの共通点の一つに、会社経営に必須の知識が身に付くことが挙げられます。
中小企業診断士、MBAともに財務や会計、マーケティング、経営戦略などの基本的な経営に関する知識を学習します。
中小企業診断士は実務補習を通して実戦経験を積むことができ、MBAは事例研究や倫理の応用を重視しますが、どちらも会社経営に関する基本的な知識は網羅的に学習可能です。
独立の難易度を下げることができる
中小企業診断士やMBAを取得すると、独立して経営コンサルタントとして活動する際の強みになります。
MBAは国際的に認知度が高く、特に中小企業向けのコンサルティングにおいて信頼を得やすい点が特徴です。一方、MBAは国際的に通用する学位であり、大企業やグローバルなビジネスシーンでのコンサルティングに適しています。
どちらも経営に関する専門知識を証明できるため、クライアントからの信用を得やすく、案件獲得を広げる要素となるでしょう。
中小企業診断士は1次試験合格後に「養成課程」で2次試験が免除される
中小企業診断士の1次試験合格後に、養成課程を受講し修了した場合、2次試験を免除可能です。
通常、中小企業診断士の1次試験合格後は2次試験へと進みますが、1次試験合格後に養成課程を受講することで2次試験を受けずに中小企業診断士の登録を受けられます。
養成課程は、以下のようないくつかの既定の教育機関で実施されています。詳しくはこちらの記事で解説しています。

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中小企業診断士とMBAの違いを活かしたダブルライセンスの道もある
中小企業診断士とMBAの違いを活かし、ダブルライセンスの道も選択肢の一つです。
実務的な経営スキルを提供する中小企業診断士と、理論的な視点を強化するMBAの両方を取得することでより高度な能力を身に付けられます。
国内の中小企業向けコンサルティングに強みを持つ中小企業診断士と、国内外を問わずに大企業のコンサルティングにも強みを持つMBAを取得していれば、対応できる業務の幅も広がります。
ダブルライセンス保有で専門性の高さを示せるため、クライアントからの信頼性向上にも繋がるでしょう。
まとめ:中小企業診断士とMBAの違いは資格と学位の違い
本記事では、中小企業診断士とMBAの違いについて分かりやすく紹介しました。
中小企業診断士とMBAは共通した要素を持つことから、どちらを取得しようか検討している方も多い資格・学位です。
中小企業診断士、MBAともに会社経営の基本的な知識を得られる点で共通していますが、ご自身が目指すキャリアによって選択は異なります。
国内の中小企業のコンサルティングを志す方は中小企業診断士が、国内外を問わずに活躍したい方にはMBA取得が適していると言えます。
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