
司法試験や予備試験には、試験免除や科目免除の制度はありません。
ただし、司法試験を突破して弁護士になれば、司法書士などさまざまな士業の業務について、資格を取得しなくても担えるようになったり、資格取得の際に試験が免除されたりします。
この記事では、司法試験や弁護士の「免除」について解説します。
メールアドレスを登録するだけ!
スタディング 司法試験・予備試験講座
司法試験・予備試験に免除制度はない
司法試験や、その受験資格を得るルートの一つである予備試験には、試験や試験科目の一部が免除される仕組みはありません。
他の資格試験の中には、前年の試験で合格した科目の受験が翌年は免除されたり、筆記試験に合格すれば翌年は筆記試験が免除されたり、
あるいは何か資格を持っていると一部試験が免除されたり、という免除制度を持つものもありますが、司法試験・予備試験は異なります。
司法試験では、毎回短答式試験と論文式試験の両方を、予備試験では短答式試験・論文式試験・口述試験のすべてを受験しなければなりません。
弁護士と他の士業の関係
司法試験・予備試験には免除制度はありませんが、一方で司法試験を突破し弁護士となった場合、
弁護士資格の保有によって他の士業の業務を行うことができる、あるいは登録時の試験が免除されるというメリットがあります。
弁護士の職務を定めた弁護士法第三条
まずは弁護士の職務について弁護士法で確認してみましょう。弁護士になると、試験に合格せずともほかの法律系士業資格を持つことが許されます。
その根拠となるのは、弁護士法の第一章「弁護士の使命および職務」の中の第三条(弁護士の職務)です。
(弁護士の職務)第三条 弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。2 弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。
【出典】e-Gov法令検索「弁護士法」
「一般の法律事務を行うことを職務とする」とあるとおり、弁護士には法律全般の実務処理が可能なのです。
そのため税法や社会保険法の事務も可能であり、その他の法律事務を引き受けても問題ありません。
さらに第2項にあるように、税理士や弁理士にはその資格を持つ者しか認められない独占業務がありますが、弁護士はこれらの独占業務を行うことも公に認められています。
以下、各資格について具体的に見ていきましょう。
司法書士
司法書士は法律上の手続きを行う専門家で、不動産などの登記手続きや供託手続きの代理、法務局や裁判所、検察庁に提出する書類の作成などを独占業務として行うことができます。
弁護士は法律に関するすべての法律事務に関わることができるので、司法書士の業務もその範囲に含まれ、携わることが可能です。
ただし、業務が行えると言っても弁護士資格の保有によって司法書士として登録することはできず、司法書士の資格が得られるわけではありません。
税理士
税理士は税と会計の専門家です。特に税務代理(確定申告など、税務署への申告や申請などを納税者の代わりに行う)、税務書類の作成、税務相談の3つは、法律で税理士だけが行える独占業務と定められています。
弁護士資格があれば、税理士としても登録することが可能です。税理士試験に合格して税理士登録を目指すという一般的なルートの場合は2年の実務経験が必要になりますが、弁護士は実務経験なしで登録へ進めます。
例えば相続の時、書類の作成は弁護士、相続税の手続きは税理士、というように業務が分かれていますが、弁護士だけでなく税理士としても登録してあれば、まとめて切れ目なく対応することができます。
公認会計士
公認会計士の業務は企業におけるお金の流れ全体を監査することで、監査業務は法律で公認会計士の独占業務と定められています。
監査業務は法律事務にとどまらない知識と実務スキルが必要になるため、弁護士資格を保有していても公認会計士の登録をすることはできません。
ただ、弁護士(正確には司法試験合格者)は、公認会計士試験の短答式試験が全免除論文試験も企業法と民法については免除されるというメリットがあります。
難易度は非常に高いですが、ダブルライセンスが実現すれば法務と財務の両面から企業に携わることが可能になります。
弁理士
弁理士は、知的財産、つまり人の創造的活動により生み出される技術や情報などへの対応に特化した専門家です。知的財産の創出、財産権の取得・活用をサポートするのが業務です。
特許権、実用新案権、意匠権、商標権などを取得するために、特許庁への出願書類を作成します。
弁理士として登録するためには弁理士試験に合格する必要がありますが、弁護士資格があれば試験が免除され弁理士として登録することができます。
ただし、登録のためには日本弁理士会の実務修習を修了していることが条件に定められています。
社会保険労務士
社会保険労務士(社労士)は労務問題や社会保険の専門家で、業務内容は、企業における労働問題や社会保険に関する問題の対応、年金の相談などです。
具体的には、労働・社会保険関係の書類の作成・提出代行、労務管理や人事制度の相談、就業規則作成など幅広い内容を扱います。
弁護士資格があれば、社労士の業務を行うことができ、また各都道府県の社会保険労務士会に試験を受けることなく社労士として登録可能です。
労働法の専門家である社労士の登録があれば、企業法務や労働問題に詳しい弁護士であるというアピールにつながります。
行政書士
行政書士は行政手続きの専門家で、複雑な書類の作成や提出手続きの代理を担います。
官公署に提出する許認可等の申請書類(建設業許可申請書、飲食店営業許可申請書など)の作成、権利義務に関する書類(各種契約書、入居申込書など)や事実証明に関する書類(身分証明書、車庫証明など)の作成は、行政書士の独占業務と定められています。
法律が関わってくる書類の作成なので、弁護士資格があれば業務を行うことが可能ですし、行政書士として登録することもできます。
特に、当事者間で争いがある契約書の作成などは、間に入って交渉することは弁護士にしかできません。
海事補佐人
船舶の衝突や座礁など、海で事故が起こった時、国土交通省の特別機関である海難審判所で審判が行われます。
海難審判は裁判の手続きのような流れで審判が進められますが、この時、当事者が自身の考えを適切に主張できるように手助けするのが海事補佐人です。
事故原因の調査や書類作成、依頼人に代わりに説明や弁護をしたりと、弁護士の業務と似ている部分があります。
海事補佐人は国家資格ですが、登録のための試験はなく、一級海技士の免許を持つ人や、審判官の職にあった人など、そして弁護士資格を持つ人が登録可能となっています。
まとめ
この記事では、司法試験の免除制度や、弁護士とかけ持ち可能な他の士業についてご紹介しました。
- 司法試験と予備試験には、試験の免除制度がない
- 弁護士資格を持っていると法律事務全般ができるので、他の士業の業務も可能
- 業務だけでなく、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士、海事補佐人として登録もできる
- 司法書士と公認会計士は弁護士資格では登録できない
司法試験は試験免除などの制度がなく難易度も高いですが、弁護士資格があることで他の士業の業務も行えるのが魅力の一つです。