近年の報道で、司法試験合格者、より具体的にいえば弁護士の就職難や収入減が取りざたされることが多く、司法試験合格後にちゃんと生活ができるのかが不安です。本当に弁護士の収入は減っているのでしょうか。また、同じ法曹三者である検察官、裁判官の収入も同様に減っているのでしょうか? | |
客観的なデータから見ればたしかに収入は減っているのは事実です。しかし、近年は弁護士の新しい業務領域の開拓も進んでおり、やりがいを見出す若手弁護士も増えてきています。検察官・裁判官は公務員であるため基本的に収入減はありませんが、公務員の給与体系に準ずるため、任検・任官して数年間の給与は、一般と同程度と言えるでしょう。 |
弁護士の平均年収、本当に下がっているの?
自営業である弁護士の年収そのものズバリを示す資料はありませんが、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(※1)」という資料により、ランダムに選ばれた弁護士による自己申告を基にしたおおまかな年収を算出することができます。
2005年以降のデータが閲覧できますが、確かにほぼ全ての従業員規模で減少していることがわかります。
*1厚生労働省「賃金構造基本統計調査」弁護士の欄より平成17年度から平成28年度までを抜粋し、筆者がグラフ化
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弁護士の年収はなぜ減ってしまった?
背景にあるのは司法制度改革
グローバリゼーションにより日本がアメリカのような国際訴訟社会になった場合、日本の従来の司法制度ではこれに対応できないのではないかという懸念から、わが国は裁判の迅速化、法律の簡易化、法律専門家の増加などの方策を進めました。こうした一連の動きが司法制度改革です。
制度変更で合格者増加による競争加速
しかし現実には、日本国内での訴訟数が増加したわけでもなく、法律専門家の国内需要は増加しなかったため、増えてしまった法律専門家、特に弁護士によるパイの奪い合いと言う現象が生じました。法律事務所の雇用が狭き門となり、代表弁護士から給料を支払われる「イソ弁」ではなく事務所の机だけを間借りする「ノキ弁」が増加したことは、こうしたパイの奪い合いが激しいことを象徴しています。
人材の新陳代謝が悪い弁護士業界の性質
弁護士は自営業であり定年がないことから、老齢になっても依然現役で働くことができます。法律家としての大きな仕事はこうしたベテラン弁護士に集中し、増えてしまった若手弁護士にはなかなか回ってこないという現象も生じています。こうした現象も、弁護士全体の平均収入に影響していると考えられます。
悲観してはいけない!従業員規模が少ない方が、比較的年収が高いという統計も
上記グラフの元となるデータがこちらの表です。
*1厚生労働省「賃金構造基本統計調査」平成17年度から平成28年度までの弁護士の欄より抜粋し、筆者が表にまとめた
この表を見ていただくとわかる通り、従業員規模が10名から99名までの事業所では、従業員規模の大きい事業所の平均と比べて、年収が高いことがわかります。
回答者の平均年収や勤続年数が異なるため、一概に言えるわけではありませんが、大きな事務所であればあるほど、それだけの従業員を養う必要があり、事務員やパラリーガルなどにかかる人件費、地代家賃、社内システム・設備への投資、広告費等の販促費が掛かることもあり、収益性を圧迫することも考えられます。
職域ごとに弁護士の仕事のやりがいや報酬は異なる
ここまでは客観的なデータからわかる弁護士の年収についてお伝えしました。
一方で、弁護士が得られる報酬は、果たして収入だけでしょうか?
弁護士を目指す動機は人それぞれ異なると思いますが、その仕事に魅力を感じてというケースも少なくないのでしょう。
“基本的人権を擁護”し、”社会正義を実現”することを使命とする
(弁護士法1条1項)弁護士のやりがいはどのようなものがあるのでしょうか?
弁護士の雇用形態の違いから見ていきましょう。
街弁(マチベン)
街弁とは、一般民事事件(離婚、個人の金銭の貸し借り)や刑事事件など、個人を対象とした法律問題を取り扱う弁護士の総称です。
その職域は非常に幅広く、職域の広さから、働きながら自分のスキルを多方面に伸ばしていくことができることは大きな魅力です。
大手ローファーム
企業法務を中心とした業務に従事することになります。初年度からかなりの高収入を得られる法律事務所もありますが、非常な激務であるともいわれています。
高収入であることから近年では人気が高まっていますが、仕事の幅の広さでいうと、どうしても街弁に軍配が上がることになります。
インハウスローヤー
法曹資格を持ったまま、企業で会社員として働く方も近年増えています。企業によっては資格手当がありますが、業務内容については他の法務部の社員と同じという方もいるようです。
会社員として、様々な部門と共同しながら、メンバーの一員として企業が実現したい社会を築くことへの喜びは、その事業の内部にいる人だからこそ味わえることでしょう。
検察官の年収は?
検察官の年収はこう決まる
検察官の給与は、「検察官の俸給等に関する法律」という法律により定められています。
初任給は月23万円前後、各種手当てやボーナスなども加え、年収にして500万円前後といわれています。
検察官の階級と一般的な昇格スケジュール
検察官は下から順に、副検事、検事、検事長、次官検事、検事総長という序列になっています。
司法試験に合格し司法修習を終えた方が検察官として任検すると、通常は検事(20号)からスタートします。そこからの出世速度は人により大きく異なり、業務実績はもちろんですが、司法修習での成績や、年齢なども考慮されるようです。
検察官の俸給等に関する法律を元に筆者が表を作成(*2)
裁判官の年収は?
裁判官の年収はこう決まる
裁判官の給与は、「裁判官の報酬等に関する法律」という法律により定められています。
初任給は検察官と同じ月23万円前後といわれています。各種手当てやボーナスなども加えた年収が500万円前後という点も、検察官と同じです。
裁判官の階級と一般的な昇格スケジュール
裁判官に任官されると、まずは判事補としてキャリアをスタートさせます。判事補として10年以上勤め、任命を受ければ判事となります。その後は異動により、全国各地の地裁・簡裁の判事となります。高裁長官、最高裁判事になれるのはほんの一握りのエリートだけといわれています。全裁判官の頂点に位置する最高裁長官は、ただ1人です。
裁判官の俸給等に関する法律を元に表を作成(*3)
まとめ 司法試験に合格しただけで高収入を見込めるわけではない!
ここまで、法曹三者の年収とやりがいについて確認してきました。
給与体系が法律で定められた公務員である裁判官・検察官は、司法試験や司法修習での成績によって採否を左右されます。
また、弁護士の中でも高収入の職種とされる企業法務系も、やはり採用段階で司法試験や司法修習での成績を考慮されます。
こうした高収入を望むなら、早期かつ上位での司法試験合格が必須といえるでしょう。
なお、ここで紹介した弁護士の年収は「ランダムに選ばれた弁護士による自己申告」を基にした平均年収です。
ここ数年ですべての弁護士の年収が減少しているというワケではなく、年収を増加させているという弁護士もいます。以前に比べ、年収が減少傾向とはいえ、実力や営業的努力次第で「いわゆる高収入」を実現させることも不可能になったというワケではありません。
司法試験は、合格するだけで高収入が約束されることをイメージされがちですが、合格しただけで高い収入を得られるという時代ではなくなりました(もちろん以前から努力が必要だったのですが)。
高い収入を得るためには、受験時代だけでなく、合格後にも努力も怠らないことが大切といえるのではないでしょうか。