【講師解説】なぜ司法試験・予備試験の勉強で六法を引く必要がある?

司法試験・予備試験の勉強をしながら、「六法を引く意味がわからない」と感じていませんか?

たしかに、日頃の勉強では引かなくても不便ではないかもしれません。しかし、慣れていないと試験本番で思わぬ時間ロスが生じてしまいます。

この記事では、スタディング司法試験・予備試験講座の講師が、六法の重要性や司法試験・予備試験に向けた六法の使い方について解説します。

解説

弁護士 漆原照大
漆原法律事務所 代表弁護士/スタディング司法試験・予備試験講座 講師

埼玉県庁で働きながら弁護士を目指し、2020年に司法試験に合格。自身の受験経験から、忙しい社会人が合格するには「完璧な答案」よりも「現実的な合格答案」を書く必要性に気づき、受験生に知識とテクニックを伝えるため講座開発に参画。「スタディング 司法試験・予備試験講座」2025年版より「論文対策講座・予備試験実践編」の一部を担当。

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そもそも六法って何?

六法という名のとおり、6つの法律のことを指します。一般的には、日本の法律の中で特に重要とされている、「憲法」「民法」「刑法」「商法」「民事訴訟法」「刑事訴訟法」を指しています。

市販の六法にはこれらの法律に加えて、関連する法律(民法に関連する「借地借家法」など)や関連する政省令(商法に関連する「会社法計算規則」)など、

一見するとこれら6つの法律とはまったく別物にも思える法律(行政不服審査法、独占禁止法など)もたくさん載っているため、非常に分厚く、最初のうちは目当ての条文を引くのも大変です。

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司法試験・予備試験における六法の重要性とは?

日頃の勉強では、テキストなどに該当の条文が書いてあることがほとんどです。

また、試験本番でも試験用の六法は参照できますし、司法試験・予備試験において、六法を暗記する必要がないことはみなさんもご存じだと思います。

そのため、「あえて条文を引く意味がどこにあるのか」と疑問に思う方がいるかもしれません。

私も、勉強して間もない間は、わざわざ書いてるのにあえて六法を引く意味がわかりませんでした。

しかし、日頃から条文を引いていなければ、いざというときに目当てとなる条文を探すことすらできません。

仮に探し出したとしても、時間が大幅にかかってしまい、ただでさえ時間的制約のある司法試験・予備試験においては、それだけで不利になってしまいます。

そのため、試験本番で効率よく条文を探すためには、日頃から六法を引いて条文を探し出す力を身に着けておく必要があります。

司法試験・予備試験で出題される法律は?

司法試験・予備試験の試験科目の表

短答式試験(予備試験を含む)

予備試験の短答式では、「憲法」「行政法」「民法」「商法」「民事訴訟法」「刑法」「刑事訴訟法」が出題され(法律以外に一般教養科目もあります)、

司法試験の短答式では「憲法」「民法」「刑法」のみが出題されます。ここでいう商法は、「会社法」からの出題が大部分を占めます。

また、最初に説明した6つの法律に加えて「行政法」が出題範囲になっています。もっとも「行政法」という名前の固有の法典は存在しません。

「行政手続法」「行政不服審査法」「行政事件訴訟法」「国家賠償法」など、行政に関する法律群をひと括りにして「行政法」と呼んでいるのです。6つの法律に行政法を加えたものを「基本7法」ともいいます。

なお、短答式試験の本番では、六法を参照することはできません。

論文式試験(司法試験の選択科目を含む)

論文式試験では、上記の基本7法に加え、あらかじめ選んだ選択科目1つと、さらに予備試験では民事実務基礎・刑事実務基礎が、それぞれ出題されます。

基本7法でも実務基礎科目でも、「会社法施行規則」「民事訴訟規則」「刑事訴訟規則」といった法律の適用に関する細かいルールを定めた政省令や、

「民事執行法」「民事保全法」といった裁判で確定した権利を実際に実現するための手続に関する法律を引かなければならないこともあります。

また、選択科目は倒産法、租税法、経済法、知的財産法、労働法、環境法、国際公法、国際私法の中から選ぶことになります。

口述式試験(予備試験のみ)

予備試験のみですが、民事実務基礎・刑事実務基礎から出題です。

このように、司法試験で実際に引かなければならない法令の種類は6つどころではありません。

そのため、普段の学習からよく条文を引き、目当ての条文がすぐに見つけられるようにするトレーニングが欠かせません。

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司法試験・予備試験に合格する六法の使い方とは?

ここからは、日々の勉強における六法の活用方法を、スタディング 司法試験・予備試験講座講師の漆原照大氏が解説します。

  • 周辺の条文にも目を通す
  • 六法に情報を一元化する
  • 条文を探す能力を身につける

1つずつ見ていきましょう。

【インプット学習】周辺の条文にも目を通す

条文が出てきたらその都度、六法を使って条文を引きましょう。また、その際には、目当ての条文だけでなく、周辺の条文にも目を通しましょう。

周辺の条文にも目を通すことで、条文の構造や位置づけを学ぶことができます。

【短答式試験対策】六法に情報を一元化する

問題文に関連する条文は引くことはもちろん、具体的に問題文との関係で「どの文言」が問題になっているのかを確認しましょう。

条文の文言自体が問われている場合は、当該条文や文言にマーキングなどして目立たせておくこと、再度復習する際に記憶が喚起されやすいです。

文言そのものではなく、文言の解釈が問題となっている場合は、空いているスペースに該当の判例や判例のキーワードのようなものをメモしておきましょう

六法に書き込みをすることに抵抗がある場合は、付箋などで代用しても問題ありません。

このように、六法に短答式試験の情報を一元化しておくと、直前期の復習をより効率的に進めることが可能となります。

私は、短答式試験の知識を六法にまとめていたので、試験の直前期や試験の前日など、復習用のまとめノート代わりに使っていました。

【論文式試験対策】条文を探す能力を身につける

インプット学習や短答式試験の学習とは異なり、目当ての条文を一から探す能力が求められます。そのためにも(1)や(2)の過程で土台を作っておく必要があります。

(1)で触れたように、日頃から条文の構造や位置づけを学習している方は、条文自体は思い出せなくても

「だいたいこのあたりに書いてあるのではないか」と当たりをつけて条文を引くことができますので、この時点で大きなアドバンテージとなります。

また、商法・会社法のように、問題によっては初見の条文を探さなければならないような問題が出題されることがあります。そんなときは、目次から探すということを実践しましょう。

法令の目次には「章」「節」「款」のように、見出しが記載されていますので、この見出しを頼りに目当ての条文を探しましょう。

このように、当たりをつけて検索する、目次から検索するという2つの手法を、論文式試験対策を通して身につけましょう。

各種六法を徹底比較!

六法全書(有斐閣)

六法といえば『六法全書』を最初にイメージされるかもしれません。しかし六法全書は800を超える数の法令を収録してお、非常に分厚いため持ち運びには不便です。

また司法試験に出題されないような法令まで載っていることから、司法試験受験のために使うことはおすすめできません。同様の理由から、『模範六法』『小六法』も受験生のシェアは少ないようです。

法律家になった後であればこの六法全書を引く機会も増えるので、そのときの楽しみにとっておきましょう。

判例六法(有斐閣)

『判例六法』の特徴は、条文のすぐ後ろに関連する判例が載っていることです。普段の学習の中で条文を引くと同時に判例の知識を確認することができ、学習効率が高いことから、司法試験受験生からの人気も高いです。

ただし、判例が挟み込まれている分、条文と条文の間の間隔が開いてしまっているので、目当ての条文を引く際に時間がかかってしまうという短所もあります。

判例六法Professional(有斐閣)

『判例六法Professional』は判例六法よりも多くの法令を収録したものです(判例六法が140件程度に対し、Professionalは400件程度)。

あれば心強いですが、2分冊になっており、受験生が持ち運ぶのには適していません。

ポケット六法(有斐閣)

『ポケット六法』は、判例が挟み込まれていませんが、司法試験に必要な法令を過不足なく搭載しており、もっともスタンダードな六法です。価格面でも購入しやすくなっています。

また、最近改正・新設されたばかりの条文は、条文番号に太い線が引いてあるため、どれが改正・新設条文なのかが一目瞭然で分かります。これは他の六法にはない特徴です。

以前のポケット六法には「準用先の条文が条文番号のみで書かれていて、どんな規定が準用されるのかが実際に引いてみないと分からない」という弱点があったのですが、

近年度の版ではデイリー六法同様に準用先の条文も書かれるようになり、改善されました。

デイリー六法(三省堂)

『デイリー六法』にはポケット六法と同程度の法令が載っています。また、準用先の条文がどんな条文かを括弧書きで示してくれているので、その分だけ条文の準用関係が頭に入りやすく、司法試験の勉強に役立ちます。

ポケット六法と異なり、改正・新設条文に分かりやすい目印がないのが残念な点です。もっとも、デイリー六法もポケット六法も、改正前の条文も載せているので、どのような点が改正されたのか、比較しながら勉強することができる点は強みです。

司法試験用六法(第一法規)

『司法試験用六法』は実際の司法試験(論文式)で受験者に貸与されるものと同一のものです。実際の司法試験の感覚を普段の勉強から身につけたい方におすすめです。ただし、発売される時期が実際に司法試験で配布された翌年の4月であり、直前期の受験生にとっては1ヶ月程度しか勉強で使用できないことになります。

論文式試験を最後まで受けた受験生は実際の法文の持ち帰りを許されるので、受験した直後の知り合いに頼んで譲ってもらうという入手方法もあります。

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試験直前に法改正があったらどうするの?

司法試験では試験本番日に施行されている法令に基づいて出題されます。

そのため、普段の学習の段階から、法改正情報についてはある程度アンテナを張っておくことをおすすめします。たとえば、ポケット六法を使用している場合、メールサービス(「ポケ六通信」)に登録することで、刊行後の改正情報を配信してくれます。

ただし注意しなければならないのは、「公布」と「施行」は違うという点です。

「公布」は成立した法律を公表して一般国民が知ることのできる状態に置くことです。官報に掲載して公布することが慣例となっています。一方、「施行」とは実際に法律の効力を発生させることです。

まずは1冊の六法を買い、条文を引くことに慣れよう

ここまで、六法と司法試験との関係についてご紹介してきました。

市販の六法には様々な種類があり、司法試験に向いている六法と不向きな六法があり、どれを使うかで受験勉強のパフォーマンスに差が出てしまうことは、残念ながら事実です。

ここでご紹介した情報をもとに、実際に書店等で条文を読み、引き比べてみて、あなたがもっとも使いやすいと思った六法を1冊手に入れて、勉強の際に徹底的に引くことをおすすめします。

普段の学習から六法を引いていれば、引くスピードはどんどん速くなり、その分だけ試験本番で答案を書くのに割ける時間が増えるからです。