弁護士と公認会計士のダブルライセンス
弁護士と公認会計士は、どちらも非常に難易度の高い国家試験です。
両資格を取得することで人材としての価値が高まり、キャリアアップや差別化もしやすくなります。
まずは、ダブルライセンスの仕事内容や年収、取得している人数などについて解説します。
弁護士とは
事件やトラブルが起きた際、法律を活用して依頼者の権利を守るのが弁護士の仕事です。
弁護士の業務範囲は、「弁護士法第3条」によって下記のように規定されています。
- 訴訟事件に関する行為
- 非訟事件に関する行為
- 審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為
- その他一般の法律事務
弁護士は、法律に関連する業務全般に携わることが可能です。
依頼者が個人の場合は、相続問題や交通事故トラブルなどの解決するための法務を行います。
依頼者が法人の場合は、契約書の作成、労務管理、債務整理などといった業務があります。
公認会計士とは
企業におけるお金の流れ全体を監査するのが、公認会計士の仕事です。
監査とは、企業の財務状態が財務諸表や決算書などに記載されているとおりの状態かどうかを確認することです。
公認会計士が監査をして書類の記載内容が正確であると証明できれば、株主や会社債権者はそれをもとにして投資や取引を行います。
この監査業務は公認会計士の独占業務として定められています。
ダブルライセンスでできること
ダブルライセンスを取得すると、さまざまな業務ができるようになります。中でも代表的なものは企業のM&Aに関する業務です。
M&Aにおいては、成約に先立ってデューデリジェンスという買収対象企業の事前調査が発生します。
このデューデリジェンスでは、財務、税務、法務、ITなどさまざまな分野の調査が必要となり、調査にあたっては分野ごとの専門知識が求められます。
このため企業は基本的に各分野の専門家に依頼をします。例えば財務は公認会計士、法務は弁護士が担うことが一般的です。
しかし、弁護士と公認会計士のダブルライセンス保有者であれば、複数の分野のデューデリジェンスをまとめて担当できたり、法律と会計、双方の観点から質の高い調査ができたりするのです。
またこれ以外にも、法律と会計の両方の知識を備えたダブルライセンス保有者なら、企業の不祥事対応や民事再生、損害賠償請求訴訟などの業務も、的確に効率よく対応できるようになります。
ダブルライセンスの年収
ダブルライセンス取得者の年収について、明確なデータが公開されているわけではありませんが、まずは個別の年収について見てみましょう。
弁護士については、政府の統計である「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、企業規模10人以上の企業に勤める法務従事者の平均月収は56万5,500円、賞与は292万7,900円となっていることから、年収は約971万円と推定されます。
公認会計士については、同じく賃金構造基本統計調査によると、企業規模10人以上の企業に勤める公認会計士・税理士の令和4年の平均月収は47万6,800円、賞与は174万4,800円となっていることから、年収は約747万円と推定されます。
ダブルライセンスを活用すれば、年収を上げることは可能です。
例えば弁護士として個人で独立開業をしている人なら、前述のようなダブルライセンスならではの案件を多く請けることで、年収アップが見込めます。
法律事務所などに所属している人でも、個人での案件獲得が可能な職場は多いため、ダブルライセンスを生かして年収を上げることは可能です。
【参考】政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和4年賃金構造基本統計調査」
ダブルライセンスの人数
ダブルライセンス取得者の人数について、公的なデータは公開されていないようです。参考までにそれぞれの資格の人数について見てみましょう。
弁護士白書によると、日本弁護士連合会に所属している弁護士の数は、4万4,101人です(令和4年5月末現在)。
また日本公認会計士協会によると、公認会計士の数は会員と準会員をあわせて4万2,605人となっています(2023年7月末現在)。
どちらも資格所有者の人数は毎年増加傾向にあるため、同業者との差別化は簡単ではありません。
ダブルライセンス保持者の人数はまだ少ないため、取得できれば大きな強みとなるでしょう。
【参考】日本公認会計士協会「会員数等調」
公認会計士試験における科目免除
ダブルライセンスを目指す上で知っておきたいのが、科目免除の制度です。
司法試験合格者は、公認会計士試験の短答式試験と論文式試験で一部免除を受けられます。免除の内容は下記のとおりです。
▼短答式試験の免除科目
すべての科目
▼論文式試験の免除科目
企業法、民法
このため、ダブルライセンスを目指す人は司法試験合格後に公認会計士を目指すのが効率的です。
弁護士と公認会計士 難易度が高いのはどっち?
司法試験と公認会計士試験において、難易度はどちらのほうが高いのでしょうか。
まずは両試験の概要を比較してみましょう。
弁護士(司法試験) | 公認会計士試験 | |
試験日 | 短答式試験:7月
論文式試験:7月(3日間) |
第Ⅰ回短答式試験:12月
第Ⅱ回短答式試験:5月 論文式試験:8月(3日間) |
受験資格 | 予備試験に合格する、または法科大学院を修了する(所定の要件を満たせば在学中受験も可) | 特になし |
合格率・難易度 | 30〜40%程度 | 10%程度 |
勉強時間 | 1,500~2,000時間 | 3000~5000時間 |
試験科目・合格基準 | 【試験科目】短答3科目、論文8科目
【合格基準】短答は7割程度、論文は合格点存在しないが6割程度 |
【試験科目】短答4科目、論文5科目
【合格基準】短答は総点数の7割程度 論文:52%の得点比率を基準として公認会計士・監査審査会が相当と認めた得点比率 (得点比率が40%に満たない科目が一つでもある場合は不合格となることがある) |
こうして概要だけを比較すると、弁護士よりも公認会計士のほうが合格率が低いため、難易度が高そうだと思われるかもしれません。
ここからは、合格率や勉強時間、受験資格などをもとに両資格の難易度について解説します。
【合格率】を比較
▼弁護士の難易度
司法試験に対して、難易度が高く合格率も低そうという印象を持っている方は多いでしょう。
しかし、実際の司法試験の合格率は例年30~40%程度です。
また、予備試験制度導入以降の合格率は、さらに上昇傾向となっています。
▼公認会計士の難易度
公認会計士の合格率は、例年10%程度です。
特に令和4年(2022年)試験は合格率が低く、7.7%となりました。
【勉強時間】を比較
▼弁護士の勉強時間
司法試験合格に必要な勉強時間は、1,500~2,000時間程度とされています。ただし、これはあくまでも司法試験単体で見た場合の勉強時間です。
実際には、まず司法試験の受験資格を得るために予備試験に合格するか、もしくは法科大学院を終了する必要があります。
予備試験の合格までにかかる勉強時間は、3,000〜8,000時間程度とされています。また法科大学院の修了には、法学既習者で2年、法学未修者で3年が必要です。
▼公認会計士の勉強時間
公認会計士試験合格に必要な学習時間は、3,000~5,000時間程度とされています。
試験単体で見ると、公認会計士のほうが時間がかかるかもしれません。
ただ、前述のとおり司法試験は受験資格を得るまでに非常に長い時間がかかります。トータルで考えると、公認会計士のほうが短い時間で資格を取得できるでしょう。
【受験資格】を比較
▼弁護士の受験資格
司法試験の受験資格を得るには、以下のどちらかを満たす必要があります。
- 予備試験に合格する
- 法科大学院を修了する、もしくは所定の単位を修得し修了見込みとなる(在学中受験資格)
▼公認会計士の受験資格
公認会計士の受験資格は特にありません。
司法試験と比べると、非常に挑戦しやすい資格だと言えるでしょう。
弁護士と公認会計士 将来性がある・稼げるのはどっち?
弁護士と公認会計士は、どちらも法律事務所や会計事務所などに雇用されて働くか、独立開業するかによって収入が変わります。
そのため正確な比較は難しいですが、どちらかといえば弁護士の方が年収は高くなる傾向があると言えるでしょう。
前述のとおり令和4年の「賃金構造基本統計調査」によると、それぞれの年収は弁護士が約971万円、公認会計士が約747万円と推定されます。
しかし、公認会計士であっても給与水準の高い企業や会計事務所に就職したり、将来的に独立開業することで年収を上げたりすることは可能です。
そのためには、ダブルライセンスに限らず知識や得意分野の専門性を高めて、同業者との差別化を図ることが重要だと言えるでしょう。
さらに資格を取得してトリプルライセンス
弁護士や公認会計士の中には、ダブルライセンスにとどまらず、さらに資格を取得を増やしてトリプルライセンスで活躍している人もいます。
トリプルライセンスを目指す場合に役立つ資格や可能となる業務内容、試験概要や合格率などについて解説します。
不動産鑑定士
不動産鑑定士はその名のとおり不動産鑑定のスペシャリストで、土地や建物などの不動産を適正評価し、取引環境の健全化に貢献しています。
不動産鑑定評価は、不動産鑑定士だけに認められた独占業務です。
弁護士・公認会計士・不動産鑑定士のトリプルライセンスを取得すると、M&Aのデューデリジェンス、不動産を含む相続問題や紛争の解決、固定資産減損会計、土地取引や土地の有効活用に関するコンサルティング業務などで役立つでしょう。
不動産鑑定士の合格率は、60〜80%台で推移しています。
また、合格までに必要な勉強時間はおおむね2,000~4,000時間程度とされています。
受験資格は特にありません。
税理士
税理士の仕事は、簡単に言えば「税金の計算をすること」です。
例えば、確定申告書や申請書などの書類を作成する税務、会計帳簿や財務諸表(決算書)などを作成する会計業務や、コンサルティング業務が主な仕事となります。
税務書類の作成・税務代理・税務相談は、税理士のみに認められた独占業務です。
なお、公認会計士か弁護士の資格を取得すれば、試験なしで税理士登録が可能となります。
トリプルライセンスを取得すると、会計業務に加えて税務代理、税務書類の作成、税務相談などがワンストップで行えます。
また税務トラブルや相続問題が発生した際は、弁護士資格を生かした対応も可能です。
税理士試験の各科目の合格率は10〜20%程度で推移しています。勉強時間は選択する科目の組み合わせにより異なりますが、おおむね2,500〜3,000時間程度が必要とされています。
税理士試験の受験資格には「学識」「資格」「職歴」「認定」の4種類があり、いずれか1つでも満たせば受験が可能です。
【あわせて読みたい】税理士試験の受験資格を得るには?令和5年度から条件が緩和
医師
治療や診療といった医療行為は、医師の独占業務として認められています。
弁護士・公認会計士・医師のトリプルライセンスを取得すると、医療紛争が起きた際に、法律の知識と医学的な知見の両方を生かした対応が可能となります。
医師国家試験の合格率は、例年おおむね90%程度です。
勉強時間は一概には言えませんが、まず大学の医学部に合格するまでに必要な勉強時間が5,000時間以上と言われています。
また、大学6年次になると1日10時間程度勉強する人や、試験の直前期は1日12〜15時間勉強に費やす人もいます。
医師国家試験の受験資格は、大学で医学の正規の課題を修めて卒業した者、医師国家試験予備試験に合格した者で、合格後1年以上の診療および公衆衛生に関する実地訓練を経た者などとされています。
【Q&A】弁護士×公認会計士のよくある質問
最後に、弁護士と公認会計士のダブルライセンスに関するよくある質問に解答していきます。
司法試験・公認会計士試験のスケジュールは?
司法試験と公認会計士試験の例年のスケジュールは下記のとおりです。
▼司法試験
7月中旬
▼公認会計士
第Ⅰ回短答式試験:12 月上旬
第Ⅱ回短答式試験:5月下旬(企業法、管理会計論、監査論が各1時間、財務会計論が2時間)
論文式試験:8月中旬(監査論、租税法、企業法、選択科目が各2時間、会計学が5時間)
※最新情報は金融庁のWebサイト等でご確認ください。
司法試験のスケジュールの詳細はこちらの記事をご参照ください。
【あわせて読みたい】令和6年(2024年)司法試験・予備試験の実施日程・試験場(試験会場)
公認会計士と弁護士、先にどちらを取得する人が多い?
公認会計士と弁護士のダブルライセンスを保持している人は、公認会計士になってから弁護士資格を取得した人が多いと言えます。
公認会計士の業界では、ほかの資格を取得してキャリアアップを図る人が少なくありません。
弁護士と比べると、公認会計士の仕事は事務作業が多く、業務内容もかなり限定されています。
一方、弁護士は法律に関するさまざまな業務を担うことが可能です。
そのため、業務範囲を拡大してキャリアアップや差別化を図るために、弁護士資格に挑戦するケースが多いようです。
もちろん、弁護士があとから公認会計士の資格を取得する場合もあります。
この場合は、キャリアアップというよりも最初からダブルライセンスのメリットを意識して取得する人が多いようです。
司法試験は独学で合格できる?
司法試験は、独学で合格するのが難しい試験です。
理由は、教材選びが難しいこと、知識を覚えるだけでは問題が解けないこと、時間内に解答を書き切る技術の習得が難しいことなどが挙げられます。
ただ、独学には費用が抑えられる・生活スタイルに合わせて勉強できるといったメリットもあります。
独学で司法試験合格を目指す場合は
- インプット量を必要最小限にする
- 問題を解く練習に早く移行する
- 論文式試験は合格者の思考を追体験して学ぶ
といったポイントを意識して勉強するのが重要です。
司法試験の独学について、詳しくはこちらの記事をご参照ください。
【あわせて読みたい】司法試験・予備試験の独学は無理?それでも独学したい人の勉強法
まとめ
今回は、弁護士と公認会計士のダブルライセンスについて解説しました。
- ダブルライセンスはM&Aのデューデリジェンスなどで役立つ
- 合格率は公認会計士試験のほうが低いが司法試験は受験資格獲得までに時間がかかる
- ダブルライセンスを取得すれば同業者との差別化や年収アップが狙える
司法試験・予備試験は、非常に難易度の高い試験です。
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