目次
司法試験とは、裁判官や検察官、弁護士になるための国家試験です(司法試験法第1条)。この3つをまとめて法曹三者と呼ばれます。試験は年に1回、7月中旬に合計4日間にわたって実施されます。法律系資格の最高峰の試験です。
![]() |
受験資格は法科大学院修了者・修了見込者または司法試験予備試験の合格者に与えられます。 |
---|
現在は、受験資格取得から5年間、5回まで受験することができます。
法科大学院修了資格は修了した年から、予備試験合格資格は予備試験に合格(予備試験の最終合格発表は例年11月)した翌年から、それぞれの5年間の受験期間がカウントされます(司法試験法第4条)。
2023年試験からは、法科大学院在学中も以下の両要件を満たすことで受験可能になりました。
従来、法科大学院ルートで司法試験を受験する場合は、大学4年間+大学院2~3年間の計6~7年間の期間が必要で、時間的にも経済的にも負担が大きいことがデメリットになっていました。ですが、在学中に受験資格を得られるようになり、このデメリットがやや緩和されたことになります。
法律系資格の最高峰と聞くと、すごく難しいイメージがわいてきますが、司法試験の合格率例年およそ30~40%程度です。
他の国家試験と比べてみますと、人気の宅建士の合格率が15%前後、行政書士が10%前後、社労士が6%前後ですから、それらの資格と比べると合格率は高くなっています。
参考:近年の司法試験合格者数・合格率の推移
全体 法科大学院修了+予備合格者 |
予備合格者のみ | |||
合格者数 | 合格率 | 合格者数 | 合格率 | |
2006年 | 1,009人 | 48.25% | - | - |
2007年 | 1,851人 | 40.18% | - | - |
2008年 | 2,065人 | 32.98% | - | - |
2009年 | 2,043人 | 27.64% | - | - |
2010年 | 2,074人 | 25.41% | - | - |
2011年 | 2,063人 | 23.54% | - | - |
2012年 | 2,102人 | 25.06% | 58人 | 68.24% |
2013年 | 2,049人 | 26.77% | 120人 | 71.86% |
2014年 | 1,810人 | 22.58% | 163人 | 66.80% |
2015年 | 1,850人 | 23.08% | 186人 | 61.79% |
2016年 | 1,583人 | 22.95% | 235人 | 61.52% |
2017年 | 1,543人 | 25.86% | 290人 | 72.50% |
2018年 | 1,525人 | 29.11% | 336人 | 77.60% |
2019年 | 1,502人 | 33.63% | 315人 | 81.82% |
2020年 | 1,450人 | 39.16% | 378人 | 89.36% |
2021年 | 1,421人 | 41.50% | 374人 | 93.50% |
2022年 | 1,403人 | 45.52% | 395人 | 97.53% |
さらに、予備試験が始まってからの司法試験の合格率は上昇傾向にあります。2012~2017年は22~25%ほどの合格率ですが、2018年に30%弱まで上昇し、2022年は約45%まで上がりました。
現在働いている人が、これから法曹界での活躍を胸に司法試験の合格を目指すには、まず受験資格を得る必要があります。司法試験予備試験に合格して受験資格を得るか、法科大学院に入学して修了して受験資格を得るかのどちらかです。
図:司法試験の受験資格を得る2つのルート
この2つの方法のうち、現在働いている多くの人は予備試験を受験するルートを選ばれます。法科大学院に入学し、修了して受験するルートは時間と費用がかかるためです。
参考:国立法科大学院の学費
入学金 282,000円 授業料(年額)804,000円
他方で、予備試験は最終学歴や年齢に関係なく誰でも受験ができる試験です。また、法科大学院に2年ないし3年も通う必要がなく、単位取得のための時間や学費といったコストがかからない点で、予備試験ルートは法科大学院ルートより負担が軽いといえます。社会人として働きながら、司法試験を目指すことも可能です。
また、後述しますが、予備試験に合格すると、その後に受験する司法試験で圧倒的な優位に立つことができます。予備試験合格者は、司法試験において高い合格率を誇るのです。
さらに、予備試験ルート出身者は、難関な予備試験を突破して法曹になったという点で、かつての旧司法試験合格者(合格率3%)と同様に、高い評価と期待が寄せられるため、裁判官や検察官への任官や、年収が高額の大手渉外法律事務所への就職においても、法科大学院出身者よりも厚遇を受けるとの声がよく聞かれます。
そんな予備試験の最終合格率(短答試験の受験から口述試験合格まで)は、例年3~4%前後を推移しており、非常に難関であると言えます。
しかし、予備試験に合格することができれば、その先の展望はがぜん開かれます。
予備試験合格者が次の司法試験に合格する可能性は非常に高く、現に2021年司法試験でも、予備試験合格者の司法試験合格率は93.50%と高い水準であり、法科大学院出身者の司法試験合格率を圧倒しています。
3~4%という予備試験の合格率の低さを見ると思わず身構えますが、ここで合格点を見てみます。
基本7法が各30点×7=210点、一般教養科目が60点で合計270点のうち、おおむね6割強を取れば合格するといわれています。
表:近年の予備試験-短答式試験の合格点
試験年 |
満点 |
合格点 |
得点率 |
2020年 |
270点 |
156点 |
57.8% |
2021年 |
270点 |
162点 |
60% |
2022年 |
270点 |
159点 |
58.9% |
論文式試験では、憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法、行政法という基本7法に加え、法律選択科目(倒産法・租税法・経済法・知的財産法・労働法・環境法・国際公法・国際私法の8科目の中から1つを出願時に選択)、法律実務基礎科目(民事実務、刑事実務、法曹倫理)の知識が問われます。
基本7法及び法律選択科目が各科目50点満点、法律実務基礎科目が民事及び刑事それぞれ50点とし合計100点満点、全て合わせて500点のうち、おおむね5割弱の得点を取れば合格するといわれています。
表:近年の予備試験-論文式試験の合格点
試験年 | 満点 | 合格点 | 得点率 |
2020年 | 500点 | 230点 | 46% |
2021年 | 500点 | 240点 | 48% |
2022年 | 500点 | 255点 | 51% |
口述試験では、法律実務基礎科目のうち、民事実務及び刑事実務の知識が問われます。
口述試験の配点・採点形式は少々複雑ですが、民事実務及び刑事実務に60点を基準点として配点し、合計119点以上で合格となります。
この合格率をみて、「やっぱりやめようかな」、「自分には無理だな」と思われた方も、いらっしゃるかもしれません。
しかし、数値だけ見て、あきらめてはなりません。合格率というのは、あくまでも「受験者数に対する合格者の割合」であるからです。
受験をしている人の状況は様々です。しっかり勉強して試験にのぞんでいる方の他、
・次年度の下見として受験している方
・とりあえず受けてみようという方
・忙しくて勉強時間がなく準備不足の方
・適切な勉強ができないまま受験されている方
など、あまり準備ができていない状況で受験する「本気でない」方も多く受験されています。合格率だけを見てあきらめる必要はありません。
予備試験では、試験範囲となる科目数が多いので、まんべんなく仕上げることが求められます。
しかし、覚えるべきことが多い試験ではありますが、六法全書に掲載されている条文を諳んじられるように暗記するような勉強は求められていません。
試験でも、論文式試験や口述試験(予備試験のみ)では、試験中に司法試験委員会から貸与された試験用六法を参照することができます。
覚えるべきことも、内容を理解した上で問題演習を何度も行えば自然と身につく事柄も多く、力ずくで暗記しなければならない無味乾燥な学習では決してありません。法律は人間社会や日常生活に根差した学問であり、多くの方が興味深く学習しています。近年は法学の教科書も分かりやすく書かれており、学習内容が難解で苦痛だと感じる方はあまりいません。
予備試験の短答式試験は出題科目が法律科目だけでも7科目と多く、それぞれの科目の出題範囲も広範なため、試験直前期に短期集中で一気に詰め込めるものではありません。また、一度勉強したとしても、しばらく放置した分野の問題は解けなくなるのが通常です。
そのため、筋トレやジョギングのように、毎日演習を行い、常に知識の精度が劣化していないかをチェックし、誤答問題の復習を通じて効率よく弱点を潰していく、このような地道な学習を早い段階から日常的に習慣化して行うことが、結果的に短期合格につながります。
試験科目のうち一般教養は、そもそも出題範囲が事実上無制限であり内容も多岐に渡るため、有効な対策を行いにくい箇所です。しかも、短答式試験での配点割合も、一般教養科目よりも法律科目の方が77.8%と圧倒的に大きいです。そのため受験戦略上、一般教養科目に対策のリソースを多く割くことは、そのコストパフォーマンスを考えると妥当ではありません。
予備試験の短答式試験の合格点は、近年において、160点から170点の幅に収まっています。法律科目の合計満点は210点ですから、法律科目で8割を取れれば168点になります。法律科目で8割という得点率は、きちんと対策した受験生であれば取れない点数ではありません。しかも、合格点が最も高い年でも、一般教養で20問中1問(3点)を正答すれば、法律科目と合わせて171点で合格点はクリアできます。
実際には、一般教養は5肢択一の出題形式のため、目をつぶって機械的に選択した20問のすべての解答欄で同じ解答番号をマークすれば3~4問、すなわち9~12点は取れる可能性が高いです。
対策すればした分、得点が伸びる法律科目だけに集中して対策を進めましょう。
論文式試験で最も難しい点は、問われている内容ではなく、試験時間内に答案を書き切ることです。
答案は、全科目で平均点を超えれば、合計で合格点を超えられます。高度な内容の論文を書くというよりも、いずれの科目でも、受験生の平均レベルの答案をどのような出題に対しても常に書き切れるという安定力を身に着けることこそが合格する上で重要な力となります。
合格レベルにある多くの受験生は、出題が予想できる重要基本論点については予め論証パターンを作成し覚えておくことで、答案を書くスピードを上げています。
ただし、この論証パターンの事前準備による学習スタイルについては、出題側が好ましく思っておらず、この学習スタイルでは対応できない新しい出題方法を目指して、試験制度が大きく変更された経緯もあります。
しかし、司法試験の新試験に対応した新しい論証(議論の実益を踏まえて、判例の立場で書き、理由付けは短く、他方であてはめをたっぷり書く)には高い点数が与えられていることは、合格者の再現答案と成績評価から明白になっています。これは新・司法試験に限らず、予備試験の論文式試験も同様です。
時間内に答案を書き切るためには、長文の問題文をいかに早く読んで、論点を的確に抽出できるか、という読解力も重要であり、問題文の読み方や問題文の事案の検討手順、論点の抽出方法等についての実践的な訓練が求められます。
このような一種の高度なスキル、ノウハウはやはり独学では得難く、しかるべき指導者による実演型解説講義を参考としたトレーニングが有効です。
法律選択科目は、法律基本7科目の応用となります。法律基本7科目で合格レベルに到達していれば、独学でも対応可能です。
実際、2021年以前では、法律選択科目は予備試験では出題されておらず、予備試験に11月に合格された方のほとんどが、翌年の5月に実施される司法試験の法律選択科目の対策を6カ月足らずで行っておりました。その内容も、定番の書籍の通読と、試験過去問と再現答案集の検討というものがほとんどです。
予備試験の法律選択科目は司法試験と同じ8科目から1科目を選択しますが、試験時間が司法試験よりも短いことから、司法試験でこれまで出題されてきた問題よりも簡単であるはずです。そうであれば、予備試験の段階からも法律選択科目はこれまで同様に上記のような独学での対策で十分に可能でしょう。
口述試験は、合格率が9割以上であり、落とすための試験ではなく、合格させるための試験と言われております。
その対策は、論文式試験が終わった後も、気を抜かず、実務基礎科目の勉強を定期的に行うことと、試験直前に行われる予備校の口述模試に参加して、口述試験特有の雰囲気に慣れておくことで十分です。
予備試験ルート、法科大学院ルート、司法試験対策等、試験制度自体が複雑で、自分にあう進路を探したり悩んだりして勉強をスタートするのが遅くなる方もいます。
しかし、短期合格者に多く見られる傾向は、とにかく予備試験対策を始めるということです。
なぜなら、出題科目数、試験形式、難易度の点で
という関係があるので、予備試験対策をスタートすれば、その後のいかなる進路を選んだとしても、有利になることはあっても不利になることはなく、早く勉強を始めた分、最終ゴールの司法試験合格の時期も早まるからです。
短期合格者の方は、法律基本7科目の対策に集中します。なぜならば、最終ゴールの司法試験まで含めて、最も多く重なる試験科目が法律基本7科目であり、配点割合も高く、試験対策のコストパフォーマンスが高いからです。
参考:司法試験、予備試験、法科大学院既修試験のそれぞれの試験科目の比較
勉強を始める前から、法律実務基礎科目や口述試験の対策を気にされる方もいますが、実務基礎科目は基本7科目の応用という側面が強く、まずは予備試験の短答式試験が突破できる実力をしっかり身につけることに集中し、その目標をクリアできてから短期集中型の対策講座等で一気に詰めていくのが効率的です。口述試験対策も論文式試験を突破できてからでも十分間に合います。
一般教養科目は、対策のやりようがほとんどないので、試験直前期に市販の過去問集で直近3年分を見ておけば十分でしょう。
短期合格者は、試験対策の効果が高いものは何かを考え、選択と集中で順番に目標をクリアしていきます。
短期合格者の学習に多く共通するのは、いち早く問題演習に入ることです。
予備試験、司法試験は、試験範囲の知識さえ暗記できれば合格できるような単純な試験ではありません。予備試験、司法試験で最も難しいのは、問題を解くこと、答案を書くことです。
したがって、いち早く問題演習を行い、知識以外の問題を解く、答案を書くためのスキル・ノウハウの習得を早く始めることが、早く合格する秘訣です。
そのためには、知識のインプット学習はできる限り短期間に終わらせることが必要です。知識は、量よりも正確性や文章での再現可能性が求められます。極論すれば、100のボンヤリ知識よりも、50のカッチリ(答案に書ける)知識を身につけるのが短期合格の秘訣です。
また、学習単位を細かく区切り復習を何度も行うことで知識の定着を効果的に行っています。短期間で合格する人は、短時間で何度もくり返し復習をしています。1回あたりの勉強時間が短く、復習回数や問題練習の回数が多いのです。最初のインプット学習に時間をかけず、復習や問題練習をすぐに始めます。
復習と問題練習を繰り返しながら覚えていくことで、着実に試験に合格する実力を早く身につけられるのです。
短期で合格する方は、知識が十分に身についていなくても、問題演習中心の学習に早く移行します。そして、問題を解きながら、何が問われ、解けるために必要な知識は何で、知識の応用で解くにはどう考えればよいかを確認しながら、同時に知識のインプットを行っています。
短期で合格する人は、スキマ時間をとことん活用し1日の学習時間を最大化しています。
スキマ時間をなかなか活用できない状態に陥っている理由として、一般的に「勉強は机に座って行うもの」「勉強は机にテキストや問題集、ノートなどを広げて行うもの」、という意識があることがあります。
もう1つには、「物理的に勉強しにくい」という理由があります。例えば、通勤電車で座れなければ、大きなテキストを広げるのは大変です。
また、5分間の空き時間があったとしても、その時に教材を携帯していないと勉強できません。いつも、テキストや問題集を持ち歩いているのは大変です。
さらに「どうやって勉強したらよいか分からない」という理由もあります。細切れの時間に、どのような教材で、どうやって勉強すればよいか分からないので、スキマ時間があっても勉強できないのです。スキマ時間で勉強するには、スキマ時間で勉強できる教材を準備しておく事が重要です。
合格者は最後まで勉強を継続することで、合格の可能性を最大化しています。
試験で公表されているデータは、申込者数、受験者数、合格者数の数字です。しかし、実際には、受験する前に「勉強を途中でやめてしまった人」がたくさんいます。
また、受験した人の中でも「最後まで勉強が終わっていなかった」ため不合格になっている人が多いのです。
もちろん、最後までしっかり勉強をしても、残念ながら不合格になってしまう人もいます(試験は運という要素もあります)。しかし、「途中でやめてしまう人」に比べると、圧倒的に人数は少ないです。最後まで勉強すれば、それだけで合格の確率がかなり高くなります。
司法試験の難易度は、司法試験のことをよく知らないままだと、漠然と「ものすごく難しい」と考えがちです。しかし司法試験も予備試験も、法律に関わるような仕事を経験してきたような人しか受からないわけではありません。まだ社会経験を積んでいない学生が合格していることがその証拠です。予備試験には受験資格がありませんから、未経験でも働きながら学習を積み重ねていければ、決して受からない試験ではありません。
ただし忙しい社会人の方が予備試験に合格しようと考えたら、「平日も毎日10時間勉強する」というようながむしゃらな方法は現実的ではありません。対策すべきポイント、力を抜くポイントを見極め、効果的な学習を積み重ねることが最も合格に近づける方法と言えるでしょう。
他の方がよく読まれている関連記事を紹介!