司法試験とは、裁判官、検察官、弁護士(法曹三者)になるための国家試験です(司法試験法第1条)。
年に1回、7月中旬に合計4日間にわたって実施される、法律系資格の最高峰の試験です。
「法律系資格の最高峰」という言葉からは合格率が非常に低そうな印象を受けますが、実は司法試験の合格率は30~40%程度です。
他の国家試験の合格率は、宅建士が15〜17%程度、行政書士が9〜10%程度、社労士が6〜7%程度ですから、数値だけを比べると司法試験のほうが高い水準となっています。
▼近年の司法試験の合格者数・合格率の推移
全体 法科大学院修了+予備合格者 |
予備合格者のみ | |||
合格者数 | 合格率 | 合格者数 | 合格率 | |
2006年 | 1,009人 | 48.25% | - | - |
2007年 | 1,851人 | 40.18% | - | - |
2008年 | 2,065人 | 32.98% | - | - |
2009年 | 2,043人 | 27.64% | - | - |
2010年 | 2,074人 | 25.41% | - | - |
2011年 | 2,063人 | 23.54% | - | - |
2012年 | 2,102人 | 25.06% | 58人 | 68.24% |
2013年 | 2,049人 | 26.77% | 120人 | 71.86% |
2014年 | 1,810人 | 22.58% | 163人 | 66.80% |
2015年 | 1,850人 | 23.08% | 186人 | 61.79% |
2016年 | 1,583人 | 22.95% | 235人 | 61.52% |
2017年 | 1,543人 | 25.86% | 290人 | 72.50% |
2018年 | 1,525人 | 29.11% | 336人 | 77.60% |
2019年 | 1,502人 | 33.63% | 315人 | 81.82% |
2020年 | 1,450人 | 39.16% | 378人 | 89.36% |
2021年 | 1,421人 | 41.50% | 374人 | 93.50% |
2022年 | 1,403人 | 45.52% | 395人 | 97.53% |
2023年 | 1,781人 | 45.34% | 327人 | 92.63% |
さらに、予備試験が始まってからの司法試験の合格率は上昇傾向にあります。2012~2017年は22~25%ほどの合格率ですが、2018年に30%弱まで上昇し、2022年は約45%まで上がりました。
現在の司法試験の制度では、難易度が高いのは司法試験(本試験)ではなく「司法試験予備試験」(以下、予備試験)のほうです。
法曹界を目指して司法試験に挑戦する場合、まずは司法試験の受験資格を得る必要があります。
受験資格を得る方法は2つあります。予備試験に合格して受験資格を得る「予備試験ルート」と、法科大学院に入学して修了して受験資格を得る「法科大学院ルート」です。
▼司法試験の受験資格を得る2つのルート
この2つのルートのうち、近年では「まずは予備試験にチャレンジしてみる」という流れも増えてきています。
参考:国立法科大学院の学費
入学金 282,000円 授業料(年額)804,000円
予備試験は、最終学歴や年齢に関係なく誰でも受験できる試験です。
予備試験に合格すれば、法科大学院に2年ないし3年も通う必要がありません。単位取得のための時間や学費といったコストがかからないので、法科大学院ルートより負担が軽いといえます。
また、予備試験合格者は、難関な予備試験を突破して法曹になったという点で、かつての旧司法試験合格者(合格率3%)と同様に高い評価と期待が寄せられます。
裁判官や検察官への任官や、年収が高額の大手渉外法律事務所への就職において、法科大学院出身者よりも厚遇を受けるとの声がよく聞かれます。
そんな予備試験の合格率は、例年3~4%前後を推移しており、非常に難関であると言えます。
しかし、予備試験に合格することができれば、その先の展望はがぜん開かれます。予備試験合格者は司法試験に合格する割合が非常に高いのです。
令和元年(2019年)以降の司法試験では予備試験合格者の合格率は80%以上であり、法科大学院出身者の合格率を圧倒しています。
前述のとおり、予備試験の合格率は3〜4%程度と低いです。あなたはこの数字を見て、「やっぱりやめようかな」「自分には無理だな」と思ったかもしれませんね。
しかし実際の難易度は、予備試験の実態をくわしく見てみると、印象が変わるはずです。
まず、予備試験の合格率について、掘り下げて考えてみます。
合格率とは「受験者数に対する合格者の割合」です。しかし一口に「受験生」といってもレベルはさまざまで、必ずしも全員が十分に勉強して試験に臨んでいるわけではないと言えます。
たとえば受験生の中には、次年度の「下見」として受験した人、とりあえず受けてみた人、忙しくて勉強不足の人などもいます。合格率3〜4%の母数は「本気の受験生」だけではないのです。
このように、あまり準備ができていない状況で受験する人も含まれるので、本気度の高い受験生だけを母数とすれば、実質的な合格率は3〜4%よりも高いと考えられます。
次に、合格に必要な「得点率」を見ていきましょう。
司法試験予備試験では、3段階の選抜(短答式試験→論文式試験→口述試験)が行われます。
短答式試験、論文式試験について、「どのくらいの得点率で合格できるのか」を知ると、印象が変わるかもしれません。
(口述試験はほどんどの受験生が合格するため、解説を割愛します)
基本7法が各30点×7=210点、一般教養科目が60点で合計270点のうち、おおむね6割強を取れば合格するといわれています。
▼近年の予備試験の【短答式試験】の合格点
試験年 |
満点 |
合格点 |
得点率 |
2021年 |
270点 |
162点 |
60% |
2022年 |
270点 |
159点 |
58.9% |
2023年 |
270点 |
168点 |
62.2% |
2024年 |
270点 |
165点 |
61.1% |
論文式試験では、憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法、行政法という基本7法に加え、
法律選択科目(倒産法・租税法・経済法・知的財産法・労働法・環境法・国際公法・国際私法の8科目の中から1つを出願時に選択)、法律実務基礎科目(民事実務、刑事実務、法曹倫理)の知識が問われます。
基本7法及び法律選択科目が各科目50点満点、法律実務基礎科目が民事及び刑事それぞれ50点とし合計100点満点、すべて合わせて500点のうち、
おおむね5割弱の得点を取れば合格するといわれています。
▼近年の予備試験の【論文式試験】の合格点
試験年 |
満点 |
合格点 |
得点率 |
2021年 |
500点 |
240点 |
48% |
2022年 |
500点 |
255点 |
51% |
2023年 |
500点 |
245点 |
49% |
続いて、予備試験の学習内容の難易度についても見ていきましょう。
多くの方は「試験勉強=暗記」というイメージを持っているのではないでしょうか。
たしかに予備試験も、予備試験は科目数が多く出題範囲をまんべんなく仕上げる必要があるため、覚えるべきことが多い試験ではありますが、
六法全書に掲載されている条文を諳んじられるように暗記するような勉強は求められていません。
論文式試験(予備試験・司法試験)や口述試験(予備試験のみ)では、試験中に司法試験委員会から貸与された試験用六法を参照できます。
覚えるべきことも、内容を理解した上で問題演習を何度も行えば自然と身につくものも多く、力ずくで暗記しなければならない無味乾燥な学習では決してありません。
法律は人間社会や日常生活に根差した学問であり、多くの方が興味深く学習しています。
近年は法学の教科書も分かりやすく書かれており、学習内容が難解で苦痛だと感じる方はあまりいません。
予備試験の短答式試験は出題科目が法律科目だけでも7科目と多く、それぞれの科目の出題範囲も広範です。
試験直前期に短期集中で一気に詰め込めるものではありませんし、一度勉強したとしても、しばらく放置した分野の問題は解けなくなるのが通常です。
そのため、筋トレやジョギングのように演習を毎日行い、常に知識の精度が劣化していないかをチェックし、誤答問題の復習を通じて効率よく弱点を潰していく必要があります。
このような地道な学習を早い段階から日常的に習慣化して行うことで、結果的に短期合格につながります。
短答式試験の試験科目の1つに「一般教養」があります。
一般教養は、そもそも出題範囲が事実上無制限であり内容も多岐に渡るため、有効な対策を行いにくい箇所です。しかも、短答式試験での配点割合も、一般教養科目よりも法律科目の方が77.8%と圧倒的に大きいです。
つまり、一般教養に対策のリソースを多く割くことは、そのコストパフォーマンスを考えると妥当ではありません。
予備試験の短答式試験の合格点は、近年において、160点から170点の幅に収まっています。法律科目の合計満点は210点ですから、法律科目で8割を取れれば168点になります。
法律科目で8割という得点率は、きちんと対策した受験生であれば取れない点数ではありません。
しかも、合格点が最も高い年でも、一般教養で20問中1問(3点)を正答すれば、法律科目と合わせて171点で合格点はクリアできます。
実際には、一般教養は5肢択一の出題形式のため、目をつぶって機械的に選択した20問のすべての解答欄で同じ解答番号をマークすれば3~4問、すなわち9~12点は取れる可能性が高いです。
対策するほど得点が伸びる法律科目に集中して、対策を進めましょう。
論文式試験で最も難しい点は、問われている内容ではなく、試験時間内に答案を書き切ることです。
答案は、全科目で平均点を超えれば、合計で合格点を超えられます。
高度な内容の論文を書くというよりも、いずれの科目でも、受験生の平均レベルの答案をどのような出題に対しても常に書き切れるという安定力を身に着けることこそが合格する上で重要な力となります。
合格レベルにある多くの受験生は、出題が予想できる重要基本論点については、論証パターンをあらかじめ作成して覚えておくことで、答案を書くスピードを上げています。
ただし、この論証パターンの事前準備による学習スタイルについては、出題側が好ましく思っておらず、この学習スタイルでは対応できない新しい出題方法を目指して、試験制度が大きく変更された経緯もあります。
しかし、司法試験の新試験に対応した新しい論証(議論の実益を踏まえて、判例の立場で書き、理由付けは短く、他方であてはめをたっぷり書く)には高い点数が与えられていることは、合格者の再現答案と成績評価から明白になっています。
これは新司法試験に限らず、予備試験の論文式試験も同様です。
また、時間内に答案を書き切るためには、長文の問題文をいかに早く読んで、論点を的確に抽出できるかという読解力も重要です。
問題文の読み方や問題文の事案の検討手順、論点の抽出方法等についての実践的な訓練が求められますが、独学では習得しにくいため、しかるべき指導者による実演型解説講義を参考としたトレーニングが有効です。
選択科目は、法律基本7科目(憲法、行政法、民放、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法)の応用となります。法律基本7科目で合格レベルに到達していれば、独学でも対応可能です。
実際、2021年以前の予備試験では選択科目が出題されておらず、予備試験に11月に合格された方のほとんどが、翌年の5月に実施される司法試験の法律選択科目の対策を6カ月足らずで行っておりました。
その内容も、定番の書籍の通読と、試験過去問と再現答案集の検討というものがほとんどです。
予備試験の論文式試験の選択科目は司法試験と同じ8科目から1科目を選択しますが、試験時間が司法試験よりも短いことから、司法試験でこれまで出題されてきた問題よりも簡単であるはずです。
そうであれば、予備試験の段階からも法律選択科目はこれまで同様に上記のような独学での対策で十分に可能でしょう。
口述試験は、合格率が9割以上であり、落とすための試験ではなく、合格させるための試験と言われております。
その対策は、論文式試験が終わった後も、気を抜かず、実務基礎科目の勉強を定期的に行うことと、試験直前に行われる予備校の口述模試に参加して、口述試験特有の雰囲気に慣れておくことで十分です。
ここまでの内容をおさらいしておきましょう。
では、司法試験に短期合格したい人は何から始めればいいのでしょうか。
前述のとおり、司法試験には予備試験ルートと法科大学院ルートの2つがあり、自分にあう進路を探したり悩んだりして勉強をスタートするのが遅くなる人もいます。
なぜかというと、「予備試験」「司法試験」「法科大学院入試(既修者)」の3つを比較すると、出題科目数、試験形式、難易度の点で次のような関係にあるからです。
迷っているなら、まずは予備試験対策をスタートすれば、その後に法科大学院ルートに変更しても不利になることはありません。
むしろ法律の勉強を早く勉強を始めた分有利であり、最終目標の司法試験合格にもプラスに働きます。
司法試験・予備試験に短期合格する人には、次のような特徴があります。
1つずつ見ていきましょう。
短期合格を達成する人には、法律基本7科目の対策に集中するという特徴があります。
なぜなら、「予備試験」「司法試験」「法科大学院入試(既修者)」を比較すると、最も重なり合いが多いのは法律基本7科目であり、配点割合も高く、試験対策としてコストパフォーマンスが高いからです。
▼司法試験、予備試験、法科大学院既修試験の試験科目の比較
勉強を始める前から、法律実務基礎科目や口述試験の対策を気にする人もいますが、まずは気にしなくて大丈夫です。
実務基礎科目は、基本7科目の応用という側面が強いです。
学習を効率的に進めるには、まずは予備試験の短答式試験が突破できる実力をしっかり身につけることに集中し、その目標をクリアできてから短期集中型の対策講座等で一気に詰めていくという方法がいいでしょう。
口述試験対策は、論文式試験を突破してからでも十分間に合います。
また、短答式試験の一般教養は、対策のやりようがほとんどないので、試験直前期に市販の過去問集で直近3年分を見ておけば十分でしょう。
短期合格者は「試験対策の効果が高いものは何か」を常に考え、選択と集中で順番に目標をクリアしています。短期合格者は、いち早く問題演習に入ることも特徴です。
これまでにも述べたとおり、司法試験・予備試験は知識の暗記で合格できるような試験ではありません。
最も難しいのは、問題を解くこと、答案を書くことです。
いち早く問題演習を行い、知識以外の問題を解く、答案を書くためのスキル・ノウハウの習得を早く始めることが、早く合格する秘訣となります。
問題を解く学習に早く移行するには、 知識をインプットする学習をできる限り短期間で終わらせることが必要です。
知識は、量よりも正確性や文章での再現可能性が求められます。極論すれば、100のボンヤリ知識よりも、50のカッチリ(答案に書ける)知識を身につけるのが短期合格の秘訣です。
また、学習単位を細かく区切り復習を何度も行うことも、知識の定着に効果的です。
短期間で合格する人は、短時間で復習を繰り返しています。1回あたりの勉強時間が短く、復習回数や問題練習の回数が多いのです。インプット学習に時間をかけず、復習や問題練習をすぐに始めます。
復習と問題練習を繰り返しながら覚えていくことで、着実に試験に合格する実力を早く身につけることができます。
短期合格者は、知識が十分に身についていない段階でも、問題演習中心の学習に移行します。
そして問題を解きながら「何が問われているのか」「解くために必要な知識は何か」「知識の応用で解くにはどう考えればいいか」といった点を意識しながら、解くために必要な知識をインプットしているのです。
短期で合格する人は、スキマ時間をとことん活用し1日の学習時間を最大化しています。
スキマ時間を活用できない場合、いくつかの要因があるでしょう。
まず「勉強は机に向かって行うもの」という思い込みです。確かに机でないとやりにくい勉強もありますが、知識のインプット・復習や軽い問題演習なら場所を問わずできるはずです。
また、スキマ時間は物理的に勉強しにくいシーンも多いでしょう。例えば、通勤電車で座れなければ、大きなテキストを広げるのは大変です。
さらに、1日の中には予想外のスキマ時間が生じることもありますが、手元に教材がないと勉強はできません。かといって、いつ生じるかわからないスキマ時間のためにテキストや問題集を常に持ち歩くのは大変です。
このほか、「たった10分、15分しかないのに、どうやって勉強すればいいのか分からない」というケースもあります。
これらを総合すると、スキマ時間をとことん活用するにはスキマ時間に適した教材を準備しておく事が重要だと言えます。
司法試験・予備試験に合格した人の最大の共通点は勉強を最後まで継続したことと言えます。下記の「合格者のピラミッド」を見てください。
試験実施期間から公表されているデータからわかるのは、申込者数、受験者数、合格者数ですが、実際は「勉強を途中でやめてしまった人」がたくさん存在します。
また、公表されているデータに含まれる人の中にも、最後まで勉強が終わらず不合格になった人もいます
もちろん、最後までしっかり勉強をしても、残念ながら不合格になってしまう人もいます(試験は運という要素もあります)。
しかし、「途中でやめてしまう人」に比べると、圧倒的に人数は少ないです。
最後まで勉強すれば、それだけで合格の確率がかなり高くなるのです。
司法試験の難易度については、司法試験の制度をよく知らないままだと、漠然と「ものすごく難しい」と考えがちです。
しかし司法試験も予備試験も、法律の勉強や仕事をしてきた人しか受からない試験ではありません。
対策すべきポイント、力を抜くポイントを把握し、効果的な学習を積み重ねることが、最も合格に近づける方法と言えるでしょう。
短期合格を目指す方は、スキマ時間の活用と問題を解く学習にこだわった「スタディング 司法試験・予備試験講座」をぜひチェックしてみてください。
他の方がよく読まれている関連記事を紹介!