司法試験合格後の司法修習について、調べてもあまり情報が出てきません。司法修習の期間や内容などについて教えてください。 | |
司法修習は、導入修習、分野別実務修習、選択型実務修習、集合修習などからなり、約1年間の修習期間が設けられています。内容は法曹としての活動に共通して必要とされる法律実務に関する知識や技法などを学んでいきます。 |
司法修習制度の概要
司法試験に合格しても、すぐに法曹(弁護士・検察官・裁判官)になれるわけではありません。最高裁判所の下にある研修所(司法研修所)に採用・所属して1年間の研修を受け、修了試験(二回試験)を受験・合格してはじめて法曹となることができます。司法試験では法律の解釈や判例の知識を実務法曹となるための必要最低限度備えているかが試されましたが、次のステップである司法修習では、それらの知識が備わっていることを前提に、専ら裁判実務としての事実認定に主眼を置いた研修が行われます。すなわち、実際の事件などを題材に、事実をどのように評価して法律にあてはめ、どのような結論を出すか、その結論が本当に妥当かを、実務法曹である研修所教官の指導の下、徹底的に訓練するわけです。また、実際の裁判や取調べに同席することで、実務における手続の流れを身体で理解することも行われます。
司法修習生の立場・身分
司法研修所は最高裁判所という国家機関の付属機関なので、そこに所属する司法修習生は公務員に準じた地位ということになります(準公務員)。公務員である以上、その職務に応じた行動の制限が存在します。たとえば、修習期間中は研修所の許可なく海外渡航することはできず、旅行目的で許可が下りることはありません。
専念義務により兼業・副業は禁止
司法修習生は修習期間中、司法修習に専念しなければなりません(裁判所法(平成29年法律第23号による改正後)67条2項)。この規定を受けて、平成29年8月4日改正後の司法修習生に関する規則の2条は、司法修習生は最高裁判所の許可を受けなければ他の公務員などの職業に就いたり(兼業)、財産上の利益を目的とする業務を行ったり(副業)することができない旨定めています。会社員であれば、原則的には会社を退職してからでなければ司法修習に行くことはできません。
また、司法修習生には守秘義務が課され、実際に取り扱った事件の内容や関係者の個人情報等について外部に漏らしてはいけないことになっています。数年前にも、司法修習生が自身のブログにかなり詳細な事件の内容を書いていたために問題になったことがありました。
給費制復活により経済的負担は緩和
司法修習生65期(2011年11月入所)から70期(2016年11月入所)までの間は、修習期間中の生活費用などを国が貸与する制度が採られていました(貸与制)。返済義務を負うことにより司法修習生の生活は大変苦しいものになり、社会問題になりました。
しかし、2017年4月に裁判所法が改正され、司法修習生に対し月額13万5000円を給付する「給費制」が復活しました。遠隔地での実務修習などによる住居費がかかる場合には、3万5000円を上限に住居手当も加算されます。さらに、申請を行うことで、給費金とは別にこれまで通りの生活資金貸与も受けることができます(改正裁判所法67条の3)。
こうした制度改善により、司法修習生の経済的負担は相当程度緩和されたといってよいでしょう。
司法修習の期間・内容
たとえば第75期司法修習生の場合、2021年11月司法研修所入所~2022年11月頃二回試験という流れになります。一般的には、この期間を司法修習生として過ごすことになります。
(※実際のスケジュールは年度ごとに変動の可能性があります)
導入修習
導入修習は司法研修所に修習生全員を集めて行われる、これからはじまる1年間の修習のガイダンス的なプログラムです。68期(2014年11月入所)修習生から新たにはじまったもので、3週間程度にわたる座学中心の内容となっています。通勤可能な範囲に居住していない修習生については、司法研修所内の寮に居住して修習を受けることになります。
修習生が一同に会する機会は後述の集合修習を除くとほとんどないうえ、集合修習は二回試験目前で大変なため、この導入修習の期間がもっとも友人を作りやすい期間といえます。
分野別実務修習
分野別実務修習は全国各地の裁判所に修習生が配属され、当地の実務家(裁判官、検察官、弁護士)の指導を受けながら実務を体験的に学ぶ修習です。ここでいう「分野」とは①民事裁判②刑事裁判③検察④弁護の4つを指し、それぞれに約2ヶ月が割り当てられています。
民事裁判では、口頭弁論期日や証拠保全等の手続を傍聴させて法律上の問題点を検討させたり、判決書を実際に起案させるなどします。
刑事裁判でも、実際の公判や公判前整理手続を傍聴させたり、判決書を実際に起案したりします。
検察では、被疑者取調べを実際に行わせたり、事実や証拠から被疑者を起訴するか不起訴とするかを自分なりにまとめ、決裁を仰ぐことを行ったりもします。
弁護では、訴状や答弁書を弁護士の指導のもと起案したり、法廷に同行して裁判に立ち会うなどして、弁護実務を体験的に理解します。
選択型実務修習・集合修習
選択型実務修習は、裁判所、検察庁、弁護士会が提供する修習に関するプログラムを司法修習生が自主的に選択する制度です。分野別実務修習を大学学部の必須科目とするならば、選択型実務修習は選択科目のような位置づけです。
たとえば検察庁であれば、科捜研や法務局など検察関連機関を見学するプログラムを提供しています。全国プログラムとして、法テラス事務所の弁護士の業務を体験することもできます。あるいは、自己開拓によって一般企業や地方自治体、国際機関などに行くこともできます。
集合修習は、民事裁判、民事弁護、刑事裁判、刑事弁護、検察実務について、実際の記録を用いた起案を通じて事件処理を総まとめ的に学びます。導入修習同様、和光の司法研修所に修習生を集めて行われますが、二回試験が近いこともあり、この時期の修習生たちは非常に緊張したムードに包まれています。
修習生は修習地によって「A班」と「B班」に分けられ、片方が選択型実務修習を行っている期間はもう片方は集合修習を行います。
二回試験
二回試験は司法修習の卒業試験です。試験科目は民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護の5つですが、その特色は何といっても丸1日かけて1科目の試験を行うという「試験時間の長さ」です。午前9時30分に集合し昼食をとりながら夕方17時30分まで行われるため、体力勝負でもあります。
出題範囲は明言されていませんが、法律上の問題点を論じるという司法試験に似た問題から、事実認定上の問題、判決書の作成といった司法修習で学んだことを活かす問題まで多岐にわたります。
合格発表は、研修所内の掲示板に「不合格者の番号」を掲示する形で行われます。また、合否にかかわらず結果は郵送で送られてきます。
近年は不合格になる割合は少しずつ減ってきてはいます。仮に不合格になった場合、その年の司法修習生としては罷免され、次の年度で再受験することとなります。
*1 司法研修所(裁判所)