法律系資格試験の最高峰と言われる「司法試験」と、その受験資格を得る方法の1つである「司法試験予備試験(以下、予備試験)」。いずれの試験も「短答式試験」と「論文式試験」があり、特に応用力が試される論文式試験に向けて適切な対策が求められます。
この記事では、司法試験と予備試験の問題の特徴と対策について解説します。
司法試験と予備試験の仕組み
司法試験と予備試験は、どのような仕組みで実施される試験で、どんな共通点や違いがあるのでしょうか。
それぞれの試験の流れや科目、試験時間や配点などについて解説します。
予備試験は【短答→論文→口述】
予備試験は、受験資格の制限がなく誰でも受験可能で、短答式試験→論文式試験→口述試験の順に実施されます。
各段階の試験別や科目別の合格制度(翌年免除等)は一切ありません。
仮に最終試験の口述試験で不合格になった場合、翌年は短答式試験から受験し直すことになります。
司法試験は【論文→短答】
司法試験は、予備試験の合格者または法科大学院の修了者などで受験資格を得た人だけが受験できます。
1日目〜3日目(中日1日を挟む)に論文式試験、4日目に短答式試験が実施され、口述試験はありません。
司法試験・予備試験【短答式試験】の問題の特徴
予備試験の短答式試験と司法試験の短答式試験は、毎年同じ日のほぼ同じ時間帯に実施されます。
令和6年試験は、令和6年(2024年)7月14日(日)の実施となっています。
なぜ同時に実施されるのかというと、司法試験と予備試験の一部科目で同一の問題が出題されるからです。
例えば、令和4年(2022年)は、「憲法」の試験で司法試験の第4問と予備試験の第3問が同一の問題でした。
司法試験と予備試験における短答式試験の共通点や違いは、次のとおりです。
- 解答形式はいずれもマークシート方式(基本的に5択以上)
- 予備試験のほうが科目数が多く、総試験時間も長い
予備試験の短答式試験
▼試験時間・問題数・配点
科目 | 試験時間 | 問題数 | 配点 |
民法 | 1時間30分 | 10問〜15問程度 | 30点 |
商法 | 10問〜15問程度 | 30点 | |
民事訴訟法 | 10問〜15問程度 | 30点 | |
憲法 | 1時間 | 10問〜15問程度 | 30点 |
行政法 | 10問〜15問程度 | 30点 | |
刑法 | 1時間 | 10問〜15問程度 | 30点 |
刑事訴訟法 | 10問〜15問程度 | 30点 | |
一般教養科目 | 1時間30分 | 20問
(40問程度の出題から自由に選択) |
60点 |
合計 | 5時間 | 90〜120問程度 | 270点 |
【参考】法務省「司法試験予備試験の試験時間について」、法務省「司法試験予備試験の実施方針について」
【予備試験・短答】問題の特徴
司法試験の短答式試験との最大の違いは科目の数です。
司法試験の短答式試験が憲法、民法、刑法の3科目であるのに対して、予備試験の短答式試験は憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法、行政法、一般教養と8科目もあります。
一方、問題の難易度には大きな違いはありません。
また、憲法、民法、刑法の3科目については、問題数の違いはあれど、各科目数問ずつは同一の問題が出題されています。
【予備試験・短答】対策のポイント
試験対策としては、全8科目のうち一般教養科目を除く「法律基本7科目」を中心に学習します。
この7科目は予備試験の論文式試験や司法試験の出題範囲とも重なっていて、最も核となる学習事項です。
テキストなどで基本的な知識をひととおり学習した後は、過去問を解きます。過去問中心の学習をなるべく早く開始しましょう。
なぜなら「解く」という作業によって知識が記憶に定着しやすくなり、かつ短答式試験でどのように問われるのかがわかり得点力がアップするからです。
できれば、一問一答型の問題よりも本試験型の問題を解きましょう。
本試験においては、手続きを時系列順に答えさせる問題や穴埋め式の問題などが出題されますが、これらは一問一答型の問題では対策できないからです。
そして、過去問の学習のみでは知識に穴ができるので、基本的知識のインプットの段階で理解があいまいな箇所の確認も適宜おこなっておくと理想的です。
司法試験の短答式試験
▼試験時間・問題数・配点
科目 | 試験時間 | 問題数 | 配点 | 最低ライン |
民法 | 1時間15分 | 36問程度 | 75点 | 30点 |
憲法 | 50分 | 20問程度 | 50点 | 20点 |
刑法 | 50分 | 20問程度 | 50点 | 20点 |
合計 | 2時間55分 | 76〜77問 | 175点 | ー |
【参考】法務省「令和6年司法試験受験案内」、法務省「司法試験の方式・内容等の在り方について」
【司法試験・短答】問題の特徴
司法試験の短答式試験では、法律の「条文」、裁判所の「判例」、学者の先生等が唱える「学説」の知識が問われる問題が多く出題されます。
ただし、こうした知識を丸暗記さえしておけば合格できるわけではありません。
合格のためには、判例や学説を暗記するのではなく、その意味まで深く理解しておく必要があります。
【司法試験・短答】対策のポイント
上記のとおり、短答式試験の合格を目指すなら、「条文」「判例」「学説」の意味を理解し、正誤を判断できるようになるのが重要です。
また短答式試験対策としては、予備試験の場合と同じく早めに過去問に挑戦することが有効です。
短答式試験は、出題形式がある程度パターン化していて、重要な知識は問題を変えながら何度も出題されています。
そのため、先に過去問を解いたほうが、その先の学習が楽になるのです。
ただし、短答式試験は出題範囲が広いため、やみくもに過去問を解くだけでは効率が悪くなってしまいます。
出題範囲ごとに体系づけられた過去問集を使いながら、知識を整理していくとよいでしょう。
【あわせて読みたい】司法試験過去問の出題パターン 短答編
司法試験・予備試験の【論文式試験】の問題の特徴
論文式試験は、短答式試験とは異なり、文章を記述して解答する形式の試験です。
司法試験と予備試験における論文式試験の共通点と違いは、次のとおりです。
- 解答形式はいずれも文章記述式。
- 論文式試験を受験できるのは、予備試験では短答式試験の合格者のみだが、司法試験では全員。
- 予備試験では短答式試験の得点は論文式試験以降の合否に影響しないが、司法試験では短答式試験で基準点を下回ると論文式試験は採点してもらえない。
予備試験の論文式試験
▼試験時間・問題数・配点
科目 | 試験時間 | 問題数 | 配点 |
憲法 | 2時間20分 | 1問 | 50点 |
行政法 | 1問 | 50点 | |
刑法 | 2時間20分 | 1問 | 50点 |
刑事訴訟法 | 1問 | 50点 | |
選択科目(※1) | 1時間10分 | 1問 | 50点 |
法律実務基礎科目
(民事・刑事) |
3時間 | 2問 | 1問50点
(計100点) |
民法 | 3時間30分 | 1問 | 50点 |
商法 | 1問 | 50点 | |
民事訴訟法 | 1問 | 50点 | |
合計 | 12時間20分 | 10問 | 500点 |
※1: 選択科目は、倒産法、租税法、経済法、知的財産法、労働法、環境法、国際関係法(公法系または私法系)から1科目を選択。
【参考】法務省「司法試験予備試験の試験時間について」、法務省「司法試験予備試験の実施方針について」
【予備試験・論文】問題の特徴
司法試験の論文式試験が問題文が長く事案も複雑である一方、予備試験の論文式試験は問題文が短く、比較的単純な事案が多いことが特徴です。
しかし予備試験は、問題文にある細かな事情もすべて答案に反映させるパターンが多いため、問題文中の事実の拾い漏れには注意する必要があります。
【予備試験・論文】対策のポイント
予備試験の論文式試験の対策は、三段論法を習得する→各科目の論文の書き方を習得する→過去問を解くという順番で行うと効果的です。
まず、答案の書き方はどの科目においても三段論法が中心となるため、その習得は必須です。
三段論法とは「規範定立」→「あてはめ」→「結論」の順序で説得的に書くことで、法律家が身につけている基本的な思考の枠組みと言えます。
基本的知識を学習した後は、答案を書く勉強になるべく早く移行したいところです。
過去問に着手する前に各科目の論文の書き方を習得しておきましょう。
各科目ごとに特徴的な骨組みが存在しています。
例えば憲法であれば違憲審査基準の定立、民法であれば主張に基づく要件の定立をしてあてはめていく、といったものです。
その後は過去問を解き、知識と書き方を定着させていきます。
過去問を解くときは、テキストで習得した知識や論点をどの場面でどのように論じるのか、しっかりと意識しましょう。
テキストの知識と論文を有機的に結びつけながら学習できます。
また、過去問を繰り返し解くことで「あてはめ」における事実の使い方や認定方法も掴めるようになります。
ちなみに、法律を初めて学ぶ人は写経(模範答案を書き写す勉強法)から始めてみるのもいいでしょう。
なぜなら、最初のうちは答案を0から仕上げることが難しく、勉強の停滞や挫折の原因になりうるからです。
書き写すことなら誰でもできるので、気軽に取り組めます。
効果があるのか疑問を抱く人もいるかもしれませんが、うまい書き方を効率的にインプットでき、さらに知識を身につけることもできるので、実際にやってみると想像以上に収穫の多い勉強法です。
司法試験の論文式試験
▼試験時間・問題数・配点
科目 | 試験時間 | 問題数 | 配点 |
選択科目(※2) | 3時間 | 2問 | 1問50点
(計100点) |
公法系(憲法) | 2時間 | 1問 | 100点 |
公法系(行政法) | 2時間 | 1問 | 100点 |
民事系(民法) | 2時間 | 1問 | 100点 |
民事系(商法) | 2時間 | 1問 | 100点 |
民事系(民事訴訟法) | 2時間 | 1問 | 100点 |
刑事系(刑法) | 2時間 | 1問 | 100点 |
刑事系(刑事訴訟法) | 2時間 | 1問 | 100点 |
合計 | 17時間 | 9問 | 800点 |
※2:選択科目は、倒産法、租税法、経済法、知的財産法、労働法、環境法、国際関係法(公法系または私法系)から1科目を選択。
【参考】法務省「司法試験の方式・内容等の在り方について」、法務省「司法試験の仕組み」
【司法試験・論文】問題の特徴
論文式試験で問われる内容は、短答式試験と同様に「条文」「判例」「学説」がメインとなります。
ただし、覚えてきた知識で解くのではなく「考える」必要のある問題が出される傾向です。
また論文式試験では、結論の妥当性だけでなく結論に至る論理の合理性も問われます。
例えばどれだけ論理が通っていても、結論が常識的に考えておかしな解答であれば、評価は低くなるでしょう。
【司法試験・論文】対策のポイント
論文式試験に合格するには、「条文」「判例」「学説」の意味を理解し、期待されている事項を記載する必要があります。
また、明確な正解がなく自分の考えを書く試験ではありますが、求められているのは自由論述ではありません。
問題の意図に合わせて整合性のある論述をしましょう。
論文式試験に合格できるのは、知識や論点を多く持っている人ではありません。
(1) 未知の論点に対しても
(2)既存の知識を組み合わせて
(3)限りある時間の中で
(4)一定水準の事案処理がこなせる
合格できるのは上記の要素を備えた人です。
この視点を持った上で、各科目の出題パターンを分析していくとよいでしょう。
【あわせて読みたい】司法試験過去問の出題パターン 論文編
まとめ
今回は、司法試験・予備試験の短答式試験・論文式試験について、それぞれの特徴や対策をご紹介してきました。
司法試験・予備試験は非常に難易度の高い試験ですが、オンライン通信講座の「スタディング 司法試験・予備試験講座」では、短期での合格を目指せるカリキュラムを用意しています。
ご自分の知識レベルやライフスタイルにあった学習方法をとりいれて、まずは予備試験対策から始めてみてください。