司法試験の採点実感とは
司法試験の採点実感とは、司法試験委員がその年の試験問題の出題趣旨、採点にあたってどのような点を重視しているか、高い評価を与える例などをコメントしたものです。
司法試験の合格を目指す人にとっては、合格へのヒントが詰まった貴重な資料となります。
採点実感の構成
司法試験の採点実感は、「公法系科目」「民事系科目」「刑事系科目」「選択科目」の4種類が公表されます。
科目別に内容を見てみると、例えば令和5年の「公法系科目」の第2問は次のような構成となっています。
1 出題の趣旨
2 採点方針
3 答案に求められる水準
4 採点実感
5 今後の法科大学院教育に求めるもの
採点実感を読む方法は?
採点実感は、法務省のWebサイトの司法試験の結果に関するページで公開されています。
【参考】法務省「司法試験の結果について」>各年の「採点実感」
採点実感を得点アップに役立てる!3つのポイント
採点実感の文章は1年分だけでもかなりのボリュームがあり、効率的な活用法について悩んでいる受験生も多いのではないでしょうか。
そこで、司法試験の採点実感を得点アップに役立てる3つのポイントを、スタディング司法試験・予備試験講座で講師を務める現役弁護士・漆原照大氏が解説します。
【監修者情報】
監修者:弁護士 漆原 照大 埼玉県庁で働きながら弁護士を目指し、2020年に司法試験に合格。自身の受験経験から、忙しい社会人が合格するには「完璧な答案」よりも「現実的な合格答案」を書く必要性に気づき、受験生に知識とテクニックを伝えるため講座開発に参画。「スタディング 司法試験・予備試験講座」2025年版より「論文対策講座・予備試験実践編」の一部を担当。 |
下記のポイントについて、1つずつ見ていきましょう。
- 採点の方針を確認する
- 合格に必要なレベルを把握する
- 形式面をチェックする
ポイント(1)採点の方針を確認する
採点実感では、まず冒頭で採点方針を示しています。
採点方針を読むことで、どのような能力が求められているのか、どのような答案が高く(あるいは低く)評価されるのか、という採点の全体的な方針を掴めます。
例えば、令和5年民事系科目第1問の採点実感では、「2 採点方針」において次のように述べられています。
採点項目ごとの評価に加えて、答案を全体として評価し、論述の緻密さの程度や構成の適切さの程度に応じても点を与えることとした。
【引用】法務省「令和5年司法試験の採点実感(民事系科目第1問)」
受験生は、答案全体として評価されることを意識しなければなりません。
つまり、論理の一貫性、文章の構成、検討順序なども評価対象になりうるということがわかります。
また、論点に関する解説も触れられていることがあるので、できれば出題趣旨も手元に用意しておくことが望ましいといえます。
【参考】法務省「司法試験の結果について」>各年の「論文式試験出題の趣旨」
ポイント(2)合格に必要なレベルを把握する
採点実感における答案の水準をよく読みましょう。
採点実感では、答案の水準として「優秀」「良好」「一応の水準」「不良」の4段階に分けて評価をしていることが多いのですが、いわゆる合格答案と呼ばれるものは「一応の水準」以上の答案です。
そのため、合格を目指すのであれば一応の水準がどの程度の答案のレベルなのか把握しましょう。
言い換えれば、優秀な答案に求められる事項が記載されていなくても、まったく気にする必要はないということです。
出題趣旨を読むと、すべての論点に触れていないと合格できないように錯覚しそうになりますが、いくつかの論点を落としていても一応の水準をクリアできることがあります。
私自身、出題趣旨上では要求されていた論点を1〜2点落としていましたが、結果としてはA評価でした。
司法試験は相対評価の試験です。受験生全体の出来が悪ければ、出題趣旨に合致していなくてもそれなりに点数は入ってきます。
素晴らしい合格答案を目指すよりも、落ちない答案で守り抜く意識がとても大切になってきます。
日頃から、完璧な答案を目指すのではなく、すべての科目において一応の水準以上の答案を揃えることを目標にしましょう。
そのためには、採点実感で各科目の一応の水準を確認し、合格に最低限必要なレベルを把握することが大切です。
ポイント(3)形式面をチェックする
採点実感では、例年誤字・脱字、文字の大きさをはじめ、形式面に関する意見が記載されています。
また、下記のように用語の使い方に関する指摘もあります。
字の巧拙は別として、「蓋し」,「思うに」など一般に使われていない用語や略字(中略)などが散見される点については、大いなる反省を求めたい。
【引用】法務省「平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事訴訟法)」
このような形式面での減点は、論点での減点とは異なり、日頃から対策ができる部分です。非常にもったいないミスであるといえます。
司法試験では1点の差が合否を分けることもあります。形式面が理由で合格点に達しなかったということがないよう、細部まで気を配りましょう。
さらに、令和4年刑事系科目第1問の採点実感では、次のような指摘もあります。
規範定立と当てはめを明確に区別することなく、問題文に現れた事実を抜き出しただけで、その事実が持つ法的意味を特段論じずに結論を記載する答案も少なからず見られた。
【引用】法務省「令和4年司法試験の採点実感(刑事系科目第1問)」
採点実感には、答案の書き方に関する意見も記載されています。併せてチェックしておきましょう。
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【Q&A】司法試験の論文対策のよくある質問
最後に、司法試験の論文対策に関するよくある質問にお答えします。
論文式試験の各科目の特徴は?
▼選択科目
試験時間は3時間ですが、意外に時間的余裕はありません。
まず第1問、第2問のボリュームを確認し、それぞれに割く時間をあらかじめ決めてから、問題文を本格的に読み込むようにしましょう。
▼公法系
問題文中に「誘導」(ヒント)が存在する点が特徴です。
問題文中の当事者の主張に注目することで、試験委員が書いてほしい事柄が浮かび上がります。
行政法については参考資料が存在し、その中の指示に従う形で答案の骨格を組み立てることになります。
▼民事系
民事系の特徴は何といっても事案の複雑さです。
訴訟が複数提起されていることもあれば、当事者が多数出てくることもあります。
正確に把握するには関係図を書いて整理する必要があります。
▼刑事系
配点が明示されていないという点が特徴で、各論点についてどのようなバランスで論じたかについても評価の対象になるということを意味します。
また、受験生の多くが論証を正確に書き出してくるため、あてはめ部分の説得力で点数に差がつきます。
各科目の特徴と対策については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
【あわせて読みたい】5分でわかる司法試験論文式試験科目の分類と特徴
論文式試験の基本フォーム「三段論法」とは?
多くの合格者が取り入れていることは、ごくごく一般的な書き方(三段論法)に従うことです。
三段論法を活用した論証の流れは、下記のとおりです。
問題提起
↓
規範(大前提)
↓
具体的事実のあてはめ(小前提)
↓
結論
三段論法を含めた答案作成のコツについて、こちらの記事で解説しています。
【あわせて読みたい】司法試験 論文式問題はどう学習し対策する?
まとめ
今回は、司法試験の採点実感を得点アップに役立てる3つのポイントについて解説しました。
- 採点の方針を確認する
- 合格に必要なレベルを把握する
- 形式面をチェックする
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