近年の予備試験の合格率は3〜4%程度です。一般的な感覚では「一握りの天才しか合格できない試験だ」と感じてしまうでしょう。
しかし、予備試験を構成する「短答式試験」「論文式試験」「口述試験」のそれぞれの合格率に目を向けると、次の図のとおりです。
短答式試験と論文式試験の合格率はいずれも20%程度で、最後の口述試験にいたっては100%に近い数値です。
他の一般的な資格試験と同じように、正しい学習方法できちんと努力を積めば合格可能な試験に思えてくるのではないでしょうか。
1〜2年の勉強期間で合格している方も、毎年相当数います。
では、各試験についてより詳しく見ていきましょう。
短答式試験の合格率は20%程度です。
合格率から考えると、合格者は「5人に1人」となりますが、これは実態を正しく捉えているとは言えません。
なぜなら、短答式試験は予備試験の最初に行われ、出願すれば誰でも受験できる試験であり、「勉強が不十分だけど受けるだけ受けてみよう」という人も含まれているからです。
実質的な合格率は20%よりも高いと考えられます。
▼近年の予備試験短答式試験の結果
短答受験者数 | 短答合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
2021年 | 11,717人 | 2,723人 | 23.2% |
2022年 | 13,004人 | 2,829人 | 21.8% |
2023年 | 13,372人 | 2,685人 | 20.1% |
2024年 | 12,569人 | 2,747人 | 21.9% |
論文式試験の合格率も20%程度です。
数字の上では短答式試験と同じ水準ですが、論文式試験は予備試験の最大の難関です。
どのような問題が出されても、常に合格レベルの答案を試験時間内に書き切るスキルが求められます。
合格率の数字から、合格者を「上位20%の成績優秀者」だとイメージする人もいるかもしれません。
しかし実際は全科目で「平均の答案」が書ければ、全体で合格点を超えることが可能です。
「平均の答案」と聞けば、合格をぐっと近くに感じられるのではないでしょうか。
この仕組みについては後ほど詳しく解説します。
▼近年の予備試験論文式試験の結果
論文受験者数 | 論文合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
2021年 | 2,633人 | 479人 | 18.2% |
2022年 | 2,695人 | 481人 | 17.9% |
2023年 | 2,562人 | 487人 | 19.0% |
口述試験の合格率は90%を超えていて、「落とすためではなく合格させるための試験」と言われています。
もちろん気を抜かずに対策する必要はありますが、3つの試験を比較すると、やはり論文式試験が「天王山」であることがわかります。
▼近年の予備試験口述試験の結果
口述受験者数 | 口述合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
2021年 | 476人 | 467人 | 98.1% |
2022年 | 481人 | 472人 | 98.1% |
2023年 | 487人 | 479人 | 98.4% |
予備試験の論文式試験で出題されるのは、下記の科目です。
配点は、各科目50点で500点満点となります(法律実務基礎科目は民事・刑事が各50点の100点満点)。
合否は全科目の合計点のみで判定され、科目ごとの合格基準点は設けられていません。
では、近年の論文式試験の合格点を見てみましょう。
▼近年の予備試験論文式試験の合格点
論文合格点 | |
---|---|
2021年 | 240点 |
2022年 | 255点 |
2023年 | 245点 |
令和4年(2022年)予備試験の論文式試験の合格点は、直近3年間では最も高い255点でした。ここから合格に必要な1科目あたりの点数を逆算してみましょう。
255点を10科目で割ると25.5点。つまり、すべての科目で「25.5点」以上を取れれば合計点が合格ラインを超え、予備試験の合格がほぼ確実となるのです。
1科目あたり50点満点なので、満点の半分の点数が取れればいいということになります。
論文式試験の実態が、少し見えてきたのではないでしょうか。
次は、「25.5点」という点数が受験生全体で見るとどのあたりに位置するのかを考えてみましょう。
論文式試験の採点においては、下記のような目安があります。
▼予備試験論文式試験の採点おおまかな分布の目安
割合 | 得点 | |
優秀 | 5%程度 | 50点から38点 |
良好 | 25%程度 | 37点から29点 |
一応の水準 | 40%程度 | 28点から21点 |
不良 | 30%程度 | 20点から0点 |
【参考】法務省「司法試験予備試験の方式・内容等について 令和1年11月18日司法試験予備試験考査委員会議申合せ事項」
上記については「一応の目安」との留保はありますが、この分布を踏まえると、先ほどの計算で出てきた「25.5点」は、すべての科目で「一応の水準」の真ん中あたりの点数となります。
受験生全体で見ると、「優秀(5%程度)」「良好(25%程度)」に続く上から3番目の区分(40%程度)の真ん中あたりです。
つまり、すべての科目で25.5点以上を取るということは、受験生全体では上位50%以内にギリギリ入るあたりに位置するということです(50%=5%+25%+20%)。
論文式試験の合格率は20%程度ですが、これが「上位20%が合格できる」という意味ではないのは、上記のような理由からです。
結論として、論文式試験に合格するにはどの科目でも平均的な答案が書けるようにするという戦略をとるのが正解となります。
「平均的な答案が書ければいい」となると、予備試験の論文式試験の合格がぐっと身近に感じられるのではないでしょうか。
ただし、平均的な答案を全科目で死守する必要があり、苦手科目は作れません。
受験生なら誰もが知っている常識的な知識を正確に身につける必要があります。
そしてどんな問題が出題されても答案を手堅くまとめるスキルを身に着けることも意識しましょう。
ここからは、予備試験論文式試験に合格する勉強方法を解説していきます。
試験対策は、次のようなステップを踏んで進めていくと効果的です。
【Step1】三段論法を習得する
↓
【Step2】各科目の論文の書き方を習得する
↓
【Step3】過去問を解く
三段論法とは「規範定立」→「あてはめ」→「結論」の順序で説得的に書くことで、法律家が身につけている基本的な思考の枠組みと言えます。
論文式試験の答案の書き方は、どの科目においても三段論法が中心となるため、その習得は必須です。
大部分の合格者は、意識的あるいは無意識的に三段論法に従った書き方をしています。
三段論法など答案を書くための基本的なフォームは、早い段階で身につけておきましょう。
なぜなら、答案の書き方を学ぶと、テキストなどで知識を学ぶ際に「答案を書くにはどの知識が重要か」という観点が加わり、学習効率が飛躍的に上がるからです。
ただし、大学、法科大学院、予備校などでは三段論法をていねいに指導しているケースは少ないようです。
法律を初めて学ぶ人に向けて基本的なフォームの習得法をわかりやすく解説している教材を選びましょう。
三段論法など基本的なフォームを学び、テキストで各科目の基本的な知識を学習した後は、答案を書く勉強へ移行しましょう。
注意したいのは、過去問に着手する前に各科目の論文の書き方を習得しておくことです。
例えば、答案を書く際、法律の「規範」について趣旨(なぜそうなったのか)から規範を導く過程をどのように扱うかは科目ごとに異なります。
「こういう趣旨でこの決まりができている。だからこの規範はこう解釈すべきだ」という説明を、どれくらい書くか、ということです。
刑法ではあまり書かないことが多いですが、行政法では大きな配点が振られている場合があります。
このような科目ごとの書き方の違いをおさえておきましょう。
各科目の書き方を学んだら、過去問を解き、知識と書き方を定着させていきます。
過去問を解くときは、テキストで習得した知識や論点をどの場面でどのように論じるのか、しっかりと意識しましょう。
テキストの知識と論文を有機的に結びつけながら学習できます。
また、過去問を繰り返し解くことで「あてはめ」における事実の使い方や認定方法も掴めるようになります。
論文式試験の対策を進めていくと、思考力、論述力、知識などさまざまな力がバランスよく必要になることを痛感するでしょう。
しかし、試験までにすべての力を完璧に仕上げることは、かなり難しいと言わざるを得ません。
現実的には「落ちない」答案を作成できることを目標にするといいでしょう。
難しいこと、高度なことに深入りせず、基本的な内容の正確な理解を示すよう心がけるということです。
学習がすすんでも、原則として三段論法を踏まえる、当たり前の要件も極力省力しないで認定するといった基本的な書き方を忘れないようにしましょう。
ちなみに、法律を初めて学ぶ人は写経(模範答案を書き写す勉強法)から始めてみるのもいいでしょう。
なぜなら、最初のうちは答案を0から仕上げることが難しく、勉強の停滞や挫折の原因になりうるからです。書き写すことなら誰でもできるので、気軽に取り組めます。
効果があるのか疑問を抱く人もいるかもしれませんが、うまい書き方を効率的にインプットでき、さらに知識を身につけることもできるので、実際にやってみると想像以上に収穫の多い勉強法です。
ここからは予備試験論文式試験における科目別の勉強法を解説します。
まず法律基本7科目(憲法、行政法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法)です。
憲法は学問上、「人権」と「統治」の分野に分かれています。
人権は個々人の権利に関する規定で、統治は国家の制度設計に関する規定です。
予備試験論文式試験の憲法では、人権の分野がメインテーマとなります。
問題は、原告・被告・私見に分けて検討させる問題が多く出題されます。
こうした問題はそれぞれの立場における事案整理が複雑化しやすく、難易度も高い傾向です。
憲法の対策としては、旧司法試験の過去問を解くのがおすすめです。
旧司法試験の問題は、問題文が短く、私見を論ずることだけが求められるため、私見部分の練習や論点の習得、対立をイメージする練習などができます。
まずは旧司法試験の過去問を使って、こうした基礎固めをするとよいでしょう。
実際に予備試験に合格した人の中でも、旧司法試験の問題を活用していた人は少なくありません。
行政法とは、行政に関する法を総称するものであり、「行政法」という名称の法典が存在するわけではありません。
行政に関連する法律は非常に多いため、試験までにすべてを理解し記憶することはほとんど不可能です。
試験本番では、初見の法令を解釈して要件を検討したり、行政の行為が違法であるとの主張を組み立てたりすることが求められます。
予備試験論文式試験の行政法では、事例問題が出題されます。
対策としては、予備試験の過去問を解いておくとよいでしょう。
司法試験の行政法は誘導などがかなり複雑ですが、予備試験ではそれほど複雑ではなく、司法試験と比べると解きやすい印象です。
法律は、私人間の法律関係を規制する「私法」と私人と国家との法律関係の規制を規制する「公法」に分けられます。
民法は、ここでいう私法となります。
予備試験論文式試験の民法で出題されるのは、事例問題がほとんどです。
なお、司法試験よりも予備試験のほうが「論点」を直接聞かれやすい傾向にあります。
予備試験の問題は、以前は司法試験と比べて「知識」寄りでしたが、最近は司法試験でも知識を聞く問題が増えてきていることで、両者が似通ってきています。
対策は、司法試験・予備試験ともに変える必要はありません。
民法は、とにかく範囲が広く事案が複雑なため、事案処理に時間がかかります。
こうした問題に慣れるには、過去問などを使って初見の問題に多く触れるのがおすすめです。
初見の問題に対し、頭の中で法律構成をするスピードを上げていきましょう。
刑法は、個人の生命や財産といった法益の保護と個人の基本的人権の保障が目的で、両者の調和が必要とされています。
予備試験論文式試験の刑法では、長い事例1つに甲、乙(場合によっては丙)の罪責を論じさせる問題が出題されます。
なお、令和以降の司法試験論文式試験の刑法では、事案処理に加えて理論を書かせる問題が出題されるようになりました。
予備試験論文式試験の刑法は、従来からそれほど大きな傾向の変化は起きていませんが、司法試験と同様に理論を書かされる可能性がないとは言い切れません。
予備試験合格から司法試験までは、さほど時間がありません。
例えば令和5年(2023年)の場合、合格発表は2月で、次の司法試験が前年と同様の日程と仮定すると、準備期間は5カ月程度です。
予備試験の段階から、ある程度、司法試験を見据えた対策をとるとよいでしょう。
学説は、短答式試験の対策である程度おさえることができます。
予備試験と司法試験の短答式試験の問題は、内容が重複するため、司法試験短答式試験の過去問を解いておくとよいでしょう。
商法は平成17年(2005年)ごろに大きな改正が行われ、その時に会社関係の規定が「会社法」として独立した法律となりました。
会社法が規定されたときに、それまで論点とされていた部分や、判例法理が条文に明記されるなどしているため、条文が非常に重要です。
予備試験論文式試験の商法では、事例問題が出題されます。出題されるのは会社法が中心で、基礎的な出題が多い傾向にあります。
会社法は苦手意識を持っている受験生も多く、とにかく条文を知らなければお手上げになってしまう科目です。
ただ、司法試験よりは予備試験の問題のほうが解きやすい印象です。
商法は、条文に当てはめることができればある程度処理できます。とにかく条文を見つけて、事案処理ができるようになることを目指しましょう。
判例と論点は、ごく基本的なもので構いません。
民事訴訟法とは、狭い意味では法典としての民事訴訟法そのものを意味しますが、広い意味では民事訴訟の手続きと作用を規律する法令一般を意味します。
これまで民事訴訟法では、論証が必要と言われてきました。
しかし近年は、徐々に論証よりも具体的事実に基づく記載を求める傾向にシフトしてきています。
そのため民事訴訟法の問題では、自分の答案の完成形から逆算して、しっかり答案構成をすることが重要です。
まずは配点から個々の設問や論点の配分を決定し、個々の論点ごとに「具体的事実に基づく記載がどれくらいあるか」を逆算して、「抽象論にどれくらいかけるか」を決めましょう。
予備試験論文式試験の民事訴訟法では、事例問題が多く出題されます。内容は、司法試験の問題と比べると、論理性よりも基礎知識を要求されるケースが多くあります。
刑事訴訟法は、刑法を実現するための手続きを定めた法律です。
刑事事件については、真実の発見と個人の人権保障の双方が要請されるので、法律の定める手続きによることが必要です。
刑事訴訟法の問題は、司法試験では理論面も聞かれるようになりつつありますが、予備試験では現状オーソドックスな事例問題が中心となっています。
ただし、予備試験では絶対に理論面が聞かれないとは言いきれません。
また予備試験で理論面が聞かれなかったとしても、司法試験では出題される可能性が高いため、対策しておくとよいでしょう。
他の科目と比べると、刑事訴訟法の理論面は比較的予想しやすく、対策をすればするほど有利になりやすいかと思います。
続いて、法律実務基礎科目の科目別勉強法です。
民事実務は、学問としての名称ではなく、民法・民訴の両方にまたがる問題の総称です。
なお実務とは呼ばれていますが、合格すればすぐに実務に出られる、実務の内容を網羅しているという科目ではありません。
民事実務では、要件事実や二段の推定に関する問題が中心に出題されます。
要件事実については、民法と同時に勉強を進めていけばよいでしょう。
特別な科目ととらえて、別で勉強をする必要は特にありません。
二段の推定に関する議論は難解ですが、一度きちんと理解できれば十分です。
また、民事執行・民事保全の出題もあり得るため注意しましょう。
刑事実務も学問としての名称ではなく、刑法・刑訴の両方にまたがる問題の総称です。
これまでの試験では、事実認定に関わる問題、供述の信用性、公判前整理手続に関する問題がよく出題されています。
事実認定に関わる問題については、従来の刑法や刑訴法の教科書にはほとんど記載がありません。
そのため、特に意識して学習する必要があると言えるでしょう。
供述の信用性については、抽象論はわかりやすいですが、実際の検討は難易度が高いため、結論の正誤にとらわれず、慎重に検討するプロセスが重要です。
公判前整理手続については、条文が最重要となります。こちらは比較的最近制定された条文なので、読み方をおさえておきましょう。
事実認定、供述の信用性検討については、いずれも過去問や模擬問題の検討などが有効です。
ただし結論が微妙な問題では、結論が肯定か否定かによって合否がわかれることは少ないと思われます。
「どの事実を」「どの程度」「どんな理由で」「積極か消極かどちらに」評価したのかという評価のプロセスが採点されると考えたほうがよいでしょう。
【あわせて読みたい】司法試験・予備試験の選択科目の選び方は?科目別勉強法も解説
今回は予備試験の論文式試験について解説しました。
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