
「在野法曹」と呼ばれる弁護士。
その使命として、市民のために法律的な事務を引き受け、市民の側に立って公権力に立ち向かう法律家です。
しかし、昨今は法律を巡るニーズも多様化し、弁護士活動の領域は広がりを見せています。
その一例が、地方自治体の職員として働く「自治体内弁護士」です。
今回は、自治体内弁護士として働くことの意義について考えてみます。
自治体内弁護士とは?
自治体内弁護士とは、自治体(都道府県庁・市役所・町村役場およびその関連機関)の職員として主に法務部門などで働く弁護士のことです。
多様化する住民ニーズに対応すべく、各自治体で弁護士を雇用する動きが広がっています。2004年度における自治体内弁護士は、東京都で2名のみ。
それが近年大幅な増加をみせ、2016年時点で44自治体・計45名、さらに2020年10月時点では129自治体・計199名の弁護士が行政サービスの枠組みの中で活躍しています。
自治体内弁護士の勤務の勤務形態は大きく分けて4つあります。
- 通常の採用試験を受けて合格し、職員となる
- 非常勤の職員
- 特定もしくは一般任期付職員
- 任期付短時間勤務職員
公務員として働く弁護士の任期は、法律および条例によって定められており、最長5年。
多くの場合、2年もしくは3年の任期で採用され、その後延長となるようです。
また、基本的に公務員は兼業が禁止ですが、自治体の許可をえれば公務員として働きながら弁護士活動が可能です。
ちなみに非常勤職員や任期付短時間勤務職員の場合、許可をえずに弁護士業務を行っても問題ありません。
自治体内弁護士の主な業務内容
自治体内弁護士が勤務する場所は、各自治体の法務部・総務部のほか、児童相談所や障がい者センター、教育委員会や労働委員会などです。
配属される部署や自治体が抱える課題に応じて、さまざまな職務が与えられます。
自治体内弁護士の具体的な職務内容は次のとおりです。
- 条例や規則、要綱などの策定
- 職員を対象とする法律相談
- 行政訴訟や民事訴訟などの訴訟案件の処理
- 行政機関に対する不当要求への対応
- 児童や女性、障がい者を守るための取り組み支援
- 自治体が抱える未回収権の回収および管理
- 行政代執行における近隣住民への対応
- 職員研修
自治体内弁護士の業務は、条例や規則の策定から各種法律相談、住民対応まで多岐にわたります。
昨今は情報公開制度やマイナンバー制度などの行政サービスが充実し、住民の関心も高まりを見せると同時に、行政訴訟も多様化・複雑化する傾向です。
こうした自治体を巡る動きが変化をみせる中、組織の一員として働く法律のプロフェッショナルの役割は大きいといえるでしょう。
自治体内弁護士はどうやってなれる?
弁護士資格者を募集する自治体は、それぞれのWebサイトの採用情報で確認できます。
それよりも有効な探し方は、日弁連ホームページにある「ひまわり求人・求職ナビ」の活用でしょう。
ここには、自治体内弁護士を含む求人情報が網羅されており、お住まいの地域で自治体内弁護士を募集する行政機関がないか、容易に検索が可能です。
日弁連は、弁護士の自治体職員登用をバックアップすべく、シンポジウムの開催などさまざまな活動を行っています。
日弁連が発行するメールマガジン「任期付公務員等キャリア・マガジン」に登録すると、自治体の求人情報はもちろん、各種シンポジウムや自治体内弁護士のセミナー情報など、有益な情報が手に入ります。
弁護士資格を取得して自治体職員として勤務を希望の方は、このようなサービスを有効活用するとよいでしょう。
弁護士と公務員、どちらを目指すべきか
弁護士と公務員、どちらを目指すべきか迷う方もいるでしょう。
いずれも難関試験を突破しなければならない点は共通していますが、試験制度や合格後のキャリアには大きな違いがあります。
まず公務員試験は、国家公務員・地方公務員など職種ごとに試験内容や試験日程が異なります。
そのため試験日が重ならなければ複数の職種を併願できる点は大きな魅力です。
ただし、公務員試験に合格しても必ず希望する省庁や自治体に配属されるわけではなく、最終的にどこにも採用されないケースもあります。
一方、司法試験は合格すればほぼ確実に弁護士登録が可能です。
合格後には、司法修習を経て弁護士・裁判官・検察官といった法曹としてのキャリアが開けます。

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そして本記事でご紹介している通り、弁護士資格を取得した後に「自治体内弁護士」として公務員の立場で働くという選択肢もあります。
つまり、司法試験に合格すれば「在野法曹」として独立開業や法律事務所勤務を目指すだけでなく、公務員として自治体に所属し、行政に法律の専門家として関わる道も拓けるのです。
法律に対する興味・関心が強く、かつ国・地域に貢献したいという思いがある方は、自治体内弁護士を目指すのも一つの選択肢になるでしょう。
自治体内弁護士としてのやりがいは?
日弁連が行ったアンケート調査によると、地方公共団体の職員として働く弁護士のやりがいは、公の職務をこなすことによって多くの職員や住民から感謝されることにあるようです。
行政運営をサポートすると同時に、市民の要望にも耳を傾け、両者が満足するかたちで政策を前に進めていかなければなりません。
これは、市井の弁護士としてはなかなかえられない体験ではないでしょうか。

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自治体内弁護士としての任期を終えた後は、勤務地域の自治体で独立開業したり、自治体の顧問弁護士として活躍したり、あるいは中央省庁の任期付職員としてリーガル活動に携わるなど、さまざまな活躍シーンが用意されています。
行政現場を肌で感じた経験は、その後の弁護士人生において大きな財産となるでしょう。