司法試験論文式試験の過去問を勉強していても、出題範囲が膨大で毎年まったく違う問題が出ているので、いざ自分の受験本番になっても未知の問題に対応できる気がしません。論文式試験に出題パターンはあるのでしょうか。 | |
論文式試験は、出題範囲は広く、毎年違う問題が出ていますが、「問題を通して試験委員が求めているもの」「答案を通して試験委員が見たい受験生の能力」は毎年同じといえます。過去の出題データを分析して、それが何なのかを学び取りましょう。 |
試験委員が求めるものは毎年同じ?
したがって、答案を通して受験生がアピールすべき能力も、上記①から④ということになります。そのような視点のもとで、各科目の出題パターンを分析していきましょう。
公法系の出題分析
憲法
憲法の出題形式は、平成18年度第1回の司法試験からほとんど変わっていません。やや長文の事例を読んで、当事者から依頼を受けた弁護人の立場に立って憲法上の主張を組み立て(設問1)、これに対する相手方当事者の反論を踏まえながら私見を論じる(設問2)というものです。平成27年度のみ配点が明示されました(設問1が50点、設問2が50点。ただしこの年は設問1が小問(1)原告の主張で40点、小問(2)被告の反論のポイントで10点という問題構成でした)。毎年出題形式がほぼ同じであることを考えると、配点のない年の問題も、平成27年度とほぼ同じような点数配分が試験委員の間では行われていたと推測されます。
出題内容としては、憲法上の主張をする前提としての訴訟形式を問うことがあるので注意が必要です(平成24年度・地方自治法242条1項の住民監査請求及び242条の2第1項第4号の住民訴訟など)。具体的な憲法上の主張として頻出なものはやはり表現の自由(平成18年度、20年度、23年度、25年度、27年度)です。次いで多いのがプライバシー(平成21年度、23年度、28年度)、信教の自由(平成19年度、24年度)、などです。こうした自由権ばかりではなく、社会権の制約も出題されます(生存権について平成22年度)。ほかにも、平等原則違反(平成22年度、25年度、27年度)、適正手続(憲法33条・31条について平成29年度)なども出題されます。
採点実感を読む限り、憲法の答案で重要なのは、「表現の自由を侵害する」「学問の自由を侵害する」などと憲法上の文言をただあげつらうことではなく、具体的に依頼者のどのような自由が侵害されているかを挙げ、それがいかなる理由で侵害されているといえるのかを自分の言葉で説明する、ということです。
行政法
近年の行政法は他の科目よりも、設問の形としてはパターン化してきています。
・訴訟要件(例:「提起すべき抗告訴訟を挙げ、その要件を満たすかについて検討しなさい」)
・処分の適法性(例:「本件命令は適法と認められるか。関係する規定の趣旨及び内容に照らして検討しなさい」
・損失補償(例:「費用について損失補償を請求することができるか」)
民事系の出題分析
民法
民法は例年、長文の事例問題について、設問3つ程度が出題されます。民法は範囲が広く、毎年バリエーションに富んだ出題がされるため、個別の論点を頻出論点と位置づけることは難しいです。もっとも、出題形式としては、平成26年度試験あたりから問い方の固定化傾向が見られ、答案が書きやすくなっています。たとえば、以下のようなものです(※説明のため問題文を一部改変しています)。
このような問い方に忠実に答える答案を作成するためには、問題文中の事実を読み、①誰が誰に対してどのような請求をしているか、②それに対する反論はどのようなものが考えられるか、③これらの請求や反論が認められるために必要な法律要件は何か、④そのような法律要件を満たす事実は問題文中のどの事実か。これら①から④を、要件事実にしたがって整理することで、比較的わかりやすい形に組み立てることができます。
商法
商法も民法同様、かなりの長文の事例問題について、設問3つ程度の出題がされます。議決権行使書面(平成21年度)、貸借対照表(平成22年度、23年度、27年度)、履歴事項全部証明書(平成23年度、26年度)、定款(平成25年度)など、会社実務に関する書類が資料として付されることも多く、問題文のみならずこれら資料を読み解いて必要な事実を抽出し、答案に書き表すことも求められています。
出題パターンとしては、取締役などの役員のした行為についての会社法上の適法性(利益相反取引、多額の借財など)や株主総会・取締役会の瑕疵(説明を欠いて行われた株式の有利発行、特別利害関係人の決議参加など)と、それを争うための会社訴訟手続(株主代表訴訟、株主総会取消しの訴えなど)とを組み合わせて問うものがメインです。会社法では裁量棄却などにより、瑕疵のある行為でも取消事由にあたらないという結論が導かれることも多いため、「瑕疵があるか」という問題と「取消・無効事由にあたるか」という問題を区別して論じる必要があります。
平成29年度現時点まで、司法試験では商法総則・商行為法や手形・小切手法からの出題はありません。しかし、予備試験では既に平成24年度に商法や手形法の条文を引くことを求められる出題がされました。そのため、この先の司法試験で出題がないとは言い切れません。これらの法律からの出題がないとしても、会社法という1000条近くある条文を手繰って解く必要があるため、他の科目以上に条文に慣れておくことが求められる科目です。
民訴法
民訴法の出題形式は近年ではほぼ固定されています。民事紛争が生じている事例について、その事例にかかわっている法律家(弁護士あるいは裁判官)と修習生の2人による会話を読み、法律家が修習生に課題として出している2~3つの設問に答えるというものです。民訴法は、民事系の他の2問に比べて、判例の知識があることが前提となっている出題が多いです。そのため、判例集を用いた判例学習の重要性が民法、商法よりも高いです。もっともその分、問題文中のあてはめに用いる記述は民法や商法に比べて多くありません。一見難しい問題が出ても落ち着いて、問われていることに対してのみ淡々と答えるだけで、一応の水準の答案を書くことができる科目です。採点実感にあるとおり、①基本的な原理原則を正しく理解し、②問題文をよく読み、聞かれていることにだけ正面から答え、③ある程度具体的なあてはめを書くことを心がけましょう。
出題内容としては、訴訟要件に関するもの、裁判所の審判対象に関するもの、判決の効力に関するもの、当事者が複数いる場合の訴訟手続に関するものなど、幅広く出題されます。ほぼ毎年出題される既判力を筆頭に、裁判上の自白(平成19年度、21年度、23年度)、弁論主義(平成21年度、24~25年度、29年度)、複雑請求訴訟(平成18年度、20年度、23年度、24年度、28年度)などがよく問われています。もっとも、民訴法は概念を理解するのに時間がかかる科目であるため、こうした頻出の論点にヤマを張ることなく、民事訴訟手続全体の流れの中で各概念を理解し、万遍なく学習することが必要です。