
法的三段論法は、司法試験論文式試験に合格するために必ず習得しておくべき文章の型です。
「規範定立」→「あてはめ」→「結論」の順序で文章を構成するもので、法律家にとって基本的な思考の枠組みと言えます。
この記事では、スタディング 司法試験・予備試験講座の講師で現役弁護士である漆原照大弁護士が、法的三段論法について解説します。

弁護士 漆原照大
漆原法律事務所 代表弁護士/スタディング司法試験・予備試験講座 講師
埼玉県庁で働きながら弁護士を目指し、2020年に司法試験に合格。自身の受験経験から、忙しい社会人が合格するには「完璧な答案」よりも「現実的な合格答案」を書く必要性に気づき、受験生に知識とテクニックを伝えるため講座開発に参画。「スタディング 司法試験・予備試験講座」2025年版より「論文対策講座・予備試験実践編」の一部を担当。
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司法試験の論文の勉強は「法的三段論法」の理解からはじめよう
司法試験の論文の勉強をする中で、最初に知って起きたいことの1つに「法的三段論法」があります。
法的三段論法とは?
「三段論法」とは論理学における基本的な推論方法で、「大前提」と「小前提」から一定の「結論」を導く方法です。代表的な例としては、次のような命題があります。
(1)大前提 | すべての人間は死ぬ |
(2)小前提 | ソクラテスは人間である |
(3)結論 | ゆえに、ソクラテスは死ぬ |
この三段論法を法的な判断方法に応用したものが、法的三段論法です。
法的三段論法では、「規範」(大前提)と「当てはめ」(小前提)を用いて、結論を導き出します。具体的な事例で見てみましょう。
AはVに対し、刃渡り20センチの包丁を使って、Vの心臓部を突き刺した結果、Vは死亡した。
AにはVに対する殺人罪が成立するという結論を、法的三段論法を使って導くと、次のようになります。
(1)規範 | 殺意を持って人を殺した場合は殺人罪が成立する(刑法199条) |
(2)当てはめ | ・Aは刃渡り20センチの包丁を使って、Vの心臓部を突き刺している。 ・刃渡り20センチと長く殺傷性の高い凶器を使って、人体の枢要部である心臓部を突き刺すという行為は、Vを死亡させる危険性が極めて高い行為であり殺意があるといえる。 |
(3)結論 | したがって、Aは殺意をもってVを殺したといえるため、AにはVに対する殺人罪が成立する。 |
(1)「規範」とは?
規範とは、当てはめの対象になる法的判断のルールや決まり事を意味しています。このルールや決まり事というのが「条文」や「判例」です。
今回の事例のように条文がそのまま規範になることもあれば、条文の文言だけでは一義的に明らかでない場合など、法解釈が必要な場合は、判例などを用いて当該文言に法解釈を加える必要があります。
(2)「当てはめ」とは?
当てはめとは、(1)で定立した規範に対応する生の事実があるかどうかを判断することをいいます。
今回の事例において「暴行を加えた者は暴行罪となる(208条)」と規範を定立した場合、暴行の生の事実は「AはBを殴った」ということになります。
ただし、規範と生の事実は必ずしも対応しません。刃物で刺したからといって常に殺意があるということにはならないのです。
そこで、このように当てはめする事実が直接規範に結びつかない場合は、経験則に基づく「評価」が必要です。
この事例では、生の事例を次のように評価しています。
生の事実 | 評価 |
---|---|
刃渡り20センチの包丁 | 刃渡り20センチと長く殺傷能力が高い凶器 |
心臓部を突き刺した | 人体の枢要部である心臓部を突き刺すという行為は、Vを死亡させる危険性が極めて高い行為である |
このように、生の事実を具体的に評価することで初めて、論理飛躍のない、規範に対応した事実の当てはめになります。
(3)「結論」とは?
結論とは、(2)のあてはめの結果、規範に対応する事実があるかないかを判断し、その上で、最終的に導きたい結論を示すものです。
結論があって初めて法的三段論法が完成するので、忘れずに記載しましょう。
司法試験の論文の勉強はどう始めればいい?
司法試験の論文の勉強は、とにかく答案を書いてみることが重要です。
ただ、勉強を始めたばかりの時期は「何から書けばいいのか、どう書けばいいのかわからない」と悩む受験生も多いでしょう。
まずは、参考となる問題及び答案を用意し、参考答案を書き写すことで答案作成のイメージを掴んでみましょう。
答案作成者の思考回路が分かり、どのような流れで検討しているのかという感覚を掴めます。
また、どこが設問に対する答えなのか、法的三段論法の適用箇所はどこに当たるのかという、答案作成に必要な要素を分析することができます。
スタディング司法試験・予備試験講座では、論文対策講座(基本フォーム編及び論文実践編)において、答案の書き方を学べるだけでなく、講師が作成した参考答案も見ることができます。
こうした参考答案を利用し、答案を書き写すことで、まずは答案の全体像を掴んでいただきたいと思います。
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論文の勉強の始め方については、こちらの記事で詳しく解説しています。

司法試験 論文式問題はどう学習し対策する?
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【Q&A】司法試験論文式試験に関するよくある質問
最後に、司法試験論文式試験に関するよくある質問に回答します。
司法試験論文式試験の科目は?
▼科目(全8科目)
- 公法系(憲法、行政法)
- 民事系(民法、商法、民事訴訟法)
- 刑事系(刑法、刑事訴訟法)
- 選択科目(倒産法、租税法、経済法、知的財産法、労働法、環境法、国際公法、国際私法の8科目の中から1つ)
論述式はすべて筆記形式で行われます。専門的な学識だけでなく、法的な分析や構成ができるかどうかなどの論述の観点も評価されます。
なお、司法試験全体の配点割合は「短答:論文=1:8」となっています。つまり合否の鍵を握るのは配点が圧倒的に高い論文式試験であり、受験勉強は論文対策が中心になるでしょう。
論文式試験の選択科目はどう選べばいい?
科目選択の成功のポイントは、次の2つです。
▼興味が持てる内容で選ぶ
長期間にわたって勉強することになるため、意欲的に取り組めるかどうかは重要なポイントです。
▼総学習時間の目安・試験対策のしやすさで選ぶ
選択科目だけに多くの時間や労力を費やすわけにはいきません。効率よく対策できるかという観点も重要です。
一方で、「実務に役立つか」という観点は、科目選択においてはあまり重要ではありません。まずは試験に合格することを最優先に考えましょう。
選択科目の選び方の詳細や具体的な科目名については、こちらの記事で解説しています。

【講師解説】司法試験・予備試験の選択科目の選び方と科目別勉強…
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司法試験の「採点実感」はどう活用すればいい?
司法試験の採点実感とは、司法試験委員がその年の試験問題の出題趣旨、採点にあたってどのような点を重視しているか、高い評価を与える例などをコメントしたものです。
司法試験の合格を目指す人にとっては、合格へのヒントが詰まった貴重な資料となります。
司法試験の採点実感を得点アップに役立てるポイントは、次の3つです。
- 採点の方針を確認する
- 合格に必要なレベルを把握する
- 形式面をチェックする
詳しくはこちらの記事で解説しています。

講師が解説!司法試験の採点実感を得点アップに活用する方法
司法試験の論文式試験対策としてチェックしておきたいのが「採点実感」です。司法試験委員が受験生に何を求めていて、どんな答案なら合格できるのかを知る重要な手がか…
司法試験の論文式試験対策としてチェックしておきたいのが「採点…
まとめ
今回は、司法試験論文式試験の基本の型となる法的三段論法について解説しました。
- 法的三段論法では、「規範」(大前提)と「当てはめ」(小前提)を用いて結論を導く。
- 規範とは、当てはめの対象になる法的判断のルールや決まり事(条文、判例)のこと。
- 当てはめとは、規範に対応する生の事実があるかどうかを判断すること。
スタディング司法試験・予備試験講座では、論文対策講座(基本フォーム編及び論文実践編)において、答案の書き方を学べるだけでなく、講師が作成した参考答案も見ることができます。
法的三段論法をしっかり身につけたい方は、ぜひ活用してみてください。