法曹三者(弁護士、検察官、裁判官)を目指すのであれば、司法試験に合格しなければなりません。
この司法試験の受験資格を得るには、次の2つのルートがあります。
予備試験ルートでは、法科大学院に進学せずに法曹三者を目指すことができ、合格すると次の年から5年が経過するまでの期間に司法試験を受験できます。
法科大学院ルートと比較すると、予備試験ルートには次のようなメリットとデメリットがあります。
▼誰でも受験できる
予備試験は、最終学歴や年齢に関係なく、誰でも、何度でも受験することが可能です。
大学生が学部在学中に受験したり、社会人が働きながら挑戦したりすることができます。
▼時間的・金銭的負担が少ない
法科大学院ルートの場合、大学院を修了もしくは修了見込みとなった段階で、初めて司法試験の受験資格が得られます。
なお、修了までは、法学既習者は2年、法学未修者であれば3年の期間が必ずかかります。
法科大学院ルートだと、こうした時間や学費がかかりますが、予備試験ルートであれば、そういったコストを抑えることができます。
社会人で働きながら合格を目指したい人や、法科大学院には通わず独学で学びたい人にとっては、大きなメリットと言えるでしょう。
▼司法試験の合格率が高い
予備試験対策の勉強には、司法試験対策と共通する内容が多くあります。
のちほど詳しく説明しますが、そのため、予備試験ルート出身者は、法科大学院ルート出身者よりも、司法試験の合格率が高い傾向にあります。
▼就職・キャリアに有利
予備試験ルートの出身者は、難関な予備試験を突破しています。
そのため、司法試験合格後の就職やキャリアにおいて、法科大学院出身者よりも有利になったり、よい待遇を受けられたりするケースがあります。
▼合格率が非常に低い
予備試験の最終合格率(短答式試験受験から口述試験合格まで)は、例年3〜4%前後で推移しています。合格率から考えると、予備試験の難易度は非常に高く、勉強すれば誰もが合格できるレベルの試験ではありません。
▼法科大学院ルートより時間がかかることもある
予備試験は非常に難易度が高く、合格率の低い試験です。そのため、何年も勉強しているのに合格できず、司法試験の受験資格を得られない人もいます。
法科大学院ルートの場合、大学院を修了または修了見込みで司法試験の受験資格が手に入ります。
予備試験合格までに多くの年数がかかってしまうのであれば、法科大学院ルートを選んだほうが、早く受験資格を得られるかもしれません。
ここからは、司法試験予備試験における科目ごとの合格率や難易度について、詳しく見ていきましょう。
また、予備試験合格者と法科大学院出身者の司法試験合格率についても比較します。
まずは、法務省が公開している例年の司法試験予備試験の合格率を見てみましょう。
▼司法試験予備試験の合格率
試験実施年 | 短答 | 論文 | 口述 | 最終 |
令和6(2024) | 21.86% | ー | ー | ー |
令和5(2023) | 20.01% | 19.01% | 98.36% | 3.58% |
令和4(2022) | 21.75% | 17.85% | 98.13% | 3.63% |
令和3(2021) | 23.24% | 18.19% | 98.11% | 3.99% |
令和2(2020) | 23.84% | 19.02% | 95.67% | 4.17% |
令和元(2019) | 22.89% | 19.15% | 96.36% | 4.04% |
平成30(2018) | 23.90% | 17.99% | 94.96% | 3.89% |
平成29(2017) | 21.40% | 21.32% | 94.67% | 4.13% |
平成28(2016) | 23.23% | 18.44% | 94.41% | 3.88% |
平成27(2015) | 22.20% | 19.38% | 92.27% | 3.81% |
平成26(2014) | 19.50% | 20.49% | 91.05% | 3.44% |
平成25(2013) | 21.87% | 19.72% | 92.61% | 3.81% |
予備試験の合格率は、例年3~4%前後で推移しており、非常に難関であることがわかります。
ただ、最終目標である司法試験の合格率を見ると、法科大学院ルートよりも予備試験ルートのほうが高い傾向にあります。
以下は、予備試験合格者と法科大学院出身者の司法試験合格率の比較です。
▼司法試験の合格率
試験実施年 | 予備試験
合格者 |
法科大学院
出身者 |
全体 |
令和5(2023) | 92.63% | 40.67% | 45.34% |
令和4(2022) | 97.53% | 37.65% | 45.52% |
令和3(2021) | 93.50% | 34.62% | 41.50% |
令和2(2020) | 89.36% | 32.68% | 39.16% |
令和元(2019) | 81.82% | 29.09% | 33.63% |
平成30(2018) | 77.60% | 24.75% | 29.11% |
平成29(2017) | 72.50% | 22.51% | 25.86% |
平成28(2016) | 61.52% | 20.68% | 22.95% |
平成27(2015) | 61.79% | 21.57% | 23.08% |
平成26(2014) | 66.80% | 21.19% | 22.58% |
平成25(2013) | 71.86% | 25.77% | 26.77% |
【参考】法務省「司法試験の結果について」
予備試験合格者の司法試験合格率が高い理由は、いくつかあります。
まず、予備試験の難易度が非常に高いことが挙げられます。
司法試験関連の試験の難易度は「予備試験 > 司法試験 > 法科大学院入試(既修者)」と言えます。
予備試験に合格するための勉強をすることで、結果として司法試験でも通用する内容の知識やスキルも身につくのです。
また、予備試験の試験制度は司法試験と似た設計になっています。
例えば、短答式・論文式の試験があることや、論文式試験の採点が相対評価であることが共通点で、予備試験の延長線上に司法試験があるイメージです。
上記の理由から、予備試験合格者の中には、特別な対策をせずとも司法試験に合格できる人が少なくないのです。
令和3年(2021年)の予備試験の大学別合格者数・合格率は下記のとおりです。
▼予備試験の大学別【合格者数】
▼予備試験の大学別【合格率】(合格者数3名以上の大学を記載)
【あわせて読みたい】司法試験に合格する大学とは?大学別合格者ランキングで考える
司法試験予備試験では、3段階の選抜(短答→論文→口述)が行われ、大まかな日程の流れは下記のとおりです。
試験は土日に行われるので、社会人の受験も十分可能です。
▼司法試験予備試験の日程(目安)
試験形式 | 試験日程 | 試験日数 | 合格発表 |
(1)短答式試験 | 7月 | 1日 | 8月 |
(2)論文式試験 | 9月 | 2日 | 12月 |
(3)口述試験 | 1月 | 2日 | 2月 |
試験別の合格や、科目別の合格(翌年免除等)といった制度は、一切ありません。
旧司法試験とは異なり、口述試験で不合格になっても翌年は短答試験から全科目を受験し直さなければなりません。
令和6年(2024年)司法試験予備試験の日程は、下記のとおりです。
前年までと大きく異なるのは、短答式試験の日程は前年より、約2カ月後ろ倒しに変更された点です。
▼令和6年(2024年)の司法試験予備試験の日程
試験形式 | 試験日程 | 合格発表 |
(1)短答式試験 | 令和6年7月14日 | 令和6年8月1日 |
(2)論文式試験 | 令和6年9月7日・8日 | 令和6年12月19日 |
(3)口述試験 | 令和7年1月25日・26日 | 令和7年2月6日 |
【あわせて読みたい】司法試験と予備試験の実施日程・試験場(試験会場)
令和6年(2024年)司法試験予備試験の試験会場(試験地)は、下記のとおりです。
東京都またはその周辺
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ここからは、司法試験予備試験の短答・論文・口述の各試験について、試験科目、内容、合格点、合格率などについて詳しく解説します。
短答式試験はマークシート式で、判例や条文に関する知識を問われる試験です。六法全書の貸与はなく、持ち込みも不可です。
短答式試験で出題されるのは、下記の科目です。
司法試験の短答式試験が3科目(憲法、民放、刑法)だけであることと比べると、科目数はかなり多いです。
配点は、法律基本7法が各30点×7科目=210点、一般教養科目が60点で、合計270点満点となります。
合格するには、得点率にして6割強程度が必要です。
以下は、近年の短答式試験における合格点や合格率をまとめた表です。
▼司法試験予備試験【短答式試験】の結果
試験実施年 | 合格点 | 合格点の得点率 | 合格率 |
令和6(2024) | 165点 | 61.11% | 21.86% |
令和5(2023) | 168点 | 62.22% | 20.01% |
令和4(2022) | 159点 | 58.89% | 21.75% |
令和3(2021) | 162点 | 60.00% | 23.24% |
令和2(2020) | 156点 | 57.78% | 23.84% |
令和元(2019) | 162点 | 60.00% | 22.89% |
平成30(2018) | 160点 | 59.26% | 23.90% |
論文式試験は、司法試験予備試験用法文を参照しながら事例問題に文章で回答する形式の試験です。
論文式試験で出題されるのは、下記の科目です。
近年の変更点として、令和4年から一般教養科目が廃止されて、新たに選択科目が導入されました。
配点は、各科目50点で500点満点となります(法律実務基礎科目は民事・刑事が各50点の100点満点満点)。
合格するには、得点率にして5割強程度が必要です。以下は、近年の論文式試験における合格点や合格率をまとめた表です。
▼司法試験予備試験【論文式試験】の結果
試験実施年 | 合格点 | 合格点の得点率 | 合格率 |
令和5(2023) | 245点 | 49.00% | 19.01% |
令和4(2022) | 255点 | 51.00% | 17.85% |
令和3(2021) | 240点 | 48.00% | 18.19% |
令和2(2020) | 230点 | 46.00% | 19.02% |
令和元(2019) | 230点 | 46.00% | 19.15% |
平成30(2018) | 240点 | 48.00% | 17.99% |
口述試験は、面接の形式で、民事実務と刑事実務の問題に口頭で答える試験です。
口述試験では、法律実務基礎科目のうち、民事実務及び刑事実務の知識が問われます。
口述試験の配点・採点形式は少々複雑ですが、民事実務及び刑事実務に60点を基準点として配点し、最高点が63点となるため、2科目あわせて126点満点となります。
そのうち、合計119点以上で合格です。以下は、近年の口述試験における合格点や合格率をまとめた表です。
▼司法試験予備試験【口述試験】の結果
試験実施年 | 合格率 | ||
令和5(2023) | 98.36% | ||
令和4(2022) | 98.13% | ||
令和3(2021) | 98.11% | ||
令和2(2020) | 95.67% | ||
令和元(2019) | 96.36% | ||
平成30(2018) | 94.96% |
【あわせて読みたい】5分で読める!予備試験の仕組みへの理解を深める
ここからは、司法試験予備試験に独学で合格することの難易度や、科目ごとの勉強方法について解説します。
予備試験に独学で合格することは可能ですが、以下の理由から難易度はかなり高くなっています。
▼法律を正確に理解するのが難しい
予備試験に合格するには、法律に関する正確な理解と知識が必要となります。
独学で勉強する場合、大学教授が書いた基本書や予備校が出版したテキストなどを使って法律を学ぶことになります。
ただ、それらの書籍は基本的にどれも難解で、初心者が理解できる内容のものはほとんどありません。
独学の場合、自分で専門用語の意味を調べるだけでも時間がかかってしまい、なかなか学習が進まないといったことにもなりかねません。
▼論文対策がネックになる
予備試験に合格するには、論文式試験の対策が非常に重要です。
論文式試験では、ただ法律の知識を身につけるだけでなく、それらを応用したり、問題を分析したりして、合格レベルの文章に落とし込むスキルが必要となります。
スクールなどでは、添削を受けながらスキルを向上させることができますが、独学では具体的にどこを直せばいいかわからず、伸び悩みの原因となります。
▼モチベーションを保ちづらい
予備試験は、ただでさえ難易度が高い試験です。独学で勉強をするとなると、教材選びや学習スケジュールなども、
すべて自分で調べたり決めたりしなければならず、大変な思いをすることもあるでしょう。
また、一人で勉強していて質問や相談をする相手もいない、一緒に合格を目指せる仲間もいないとなると、孤独を感じやすくなります。
そのため、独学ではモチベーションを維持できず、挫折してしまう人も少なくありません。
短答式試験は、出題科目が法律科目だけでも7科目と非常に多く、出題範囲もかなり広くなっています。
短期集中で一気に詰め込めば合格できるような試験ではありません。
また勉強の「回数」も重要で、一度勉強しただけでは内容が定着せず、試験を受ける頃には忘れて解けなくなってしまいます。
短答式試験に合格するには、毎日少しずつでも演習を繰り返し、学んだ知識を定着させる必要があります。
学んだ内容に関する問題を定期的に解いて、誤答があれば復習をして弱点を克服していきましょう。
こうした地道な繰り返しの学習が、結果として合格への近道となるのです。
【あわせて読みたい】予備試験の一般教養科目の対策は不要?
論文試験で難しいのは、問題の内容よりも時間内に答えを書き切ることです。
論文試験は、相対評価で採点されます。そのため、得意科目で高度な論文を書くのではなく、どの科目でも受験生全体の平均レベルの答案を時間内に書けるようになる必要があるのです。
かつて、重要基本論点については、出題内容がある程度予想できたため、あらかじめ論証パターン(事例ごとの論点をパターン化した文章)を作成し、それを覚えてきて書く受験生が多くいました。
しかし、現在はそのような対応ができないように、試験制度が変更されています。
現在、新試験に対応した新しい論証は配点が高い傾向にあるため、これに対応できるノウハウが予備試験の論文対策でも有用とされています。
また、時間内に合格レベルの答案を書き切るには、長文の問題文を早くみ、論点を抽出できる読解力も重要となります。
加えて答案の文章は、本人はうまく書けているつもりでも、採点者から見ると論旨がわかりづらかったり、誤解を招く表現になっていたりする場合も多いため、論述のスキルも必要です。
こうしたスキルを合格レベルに引き上げるには、実演型解説講義を参考にトレーニングすることが有効です。
口述試験は合格率が9割以上で、落とすための試験ではなく、合格させるための試験と言われます。
口述試験に合格するには、論文式試験が終わった後も、気を抜かず、実務基礎科目の勉強を続けることが重要です。
予備校の場合、直前に口述模試が実施されるため、そちらで口述試験特有の雰囲気に慣れておくこともできます。
司法試験の合格(予備試験+本試験)に必要な勉強時間は、受験生一人ひとりの勉強経験などによってまったく異なります。
「これだけ勉強すれば確実に合格できる」という基準は存在しませんが、あえて目安を示すとすれば下記のようになります。
▼予備試験ルートで司法試験を目指す場合の勉強時間
予備試験 | 司法試験(本試験) | 合計 | |
一般的な勉強法 | 6,000〜8,000時間 | 1,800〜2,000時間 | 7,800〜1万時間 |
短期合格者の勉強法(※) | 3,000〜5,000時間 | 1,500時間 | 4,500〜6,500時間 |
※:勉強を徹底的に効率化した場合
上記のとおり、司法試験予備試験の合格に必要な勉強時間は3,000~8,000時間が目安とされています。
このうち、短答・論文・口述の対策の時間配分は下記のとおりで、受験生は論文式試験を中心に勉強することになります。
短答式試験では、法律の知識を単体で問われます。
法律科目のインプットを始めたら、並行して短答式試験対策として、アウトプットの練習も始めましょう。
アウトプットを後回しにしてしまうと、合格レベルのスキルが身につくまでに時間がかかってしまいます。
たしかに、法律全体を体系立てて理解することは重要です。
しかし、短答式試験はそこまでの理解が追いついていなくても、単体の知識があればある程度正解できます。
また、短答式試験の問題をどんどん解いていけば、覚えた知識を定着させられます。
ただ、短答式試験は毎年2割程度の受験生が合格をしています。
また、初学者にとっては、次に解説する論文式試験が難関となるため、短答式試験の対策は、全体の2〜3割にとどめておくのがよいでしょう。
論文式試験は、試験の形式に慣れることが難しく、一番対策に時間をかける必要があります。
例えば、1年学習をして、翌年の予備試験合格を目指す場合、年内には法律科目のインプットと短答式試験の対策をある程度終えます。
その上で、年明けから9月の試験本番までは、論文式試験対策に絞って勉強をするといったイメージです。
論文式試験は、それほど難易度の高い試験なのです。
口述試験は合格率が9割程度と非常に高く、論文式試験に合格できるスキルがあれば、落ちる可能性は低いと言えます。
そのため、口述試験単体の対策は、論文式試験が終わってから始めれば十分間に合います。
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司法試験予備試験は、司法試験(本試験)と試験科目・出題形式がかなり重なり合っています。
もし途中で予備試験ルートをやめて、法科大学院ルートに変更したとしても、予備試験のために勉強をした経験は、司法試験対策として大いに役立ちます。
「法科大学院ルートにするか、予備試験ルートにするか」と悩んでいる人は、まずは予備試験の勉強を始めましょう。
今回は、司法試験予備試験の試験概要や合格率、科目ごとの勉強方法などをご紹介してきました。
予備試験は難しい試験ですが、合格できれば司法試験の合格にもかなり近づくことができます。
ご自分の知識レベルやライフスタイルにあった学習方法をとりいれて、合格レベルのスキル習得を目指しましょう。
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