弁護士になってから、いずれは独立開業をしたいと考えています。独立したての弁護士が多く取り扱うことのある業務の種類と、開業費用について教えてください。 | |
弁護士の業務は多種多様ですが、特に登録してすぐ独立した弁護士は国選刑事事件や一般民事事件への従事が多い傾向にあります。 開業費用は弁護士会費などの関係で他士業より少し多くかかりますが、現在では開業支援の各種制度も充実しています。 |
司法試験合格後、弁護士になるまでの道
司法試験に合格した者は、「最高裁判所司法修習生」の採用選考を受ける資格を得られます。身上報告書や健康診断書などの各種書類を提出し、問題がなければ採用が決定し、年末から司法修習が開始します。
約1年間の修習期間を経て、「二回試験」と呼ばれる研修所の修了試験に合格すれば、晴れて弁護士バッジが交付されます。そして自分が働く地域の弁護士会に登録することで、弁護士として働くことができるのです。
近年の司法修習生の具体的な修習スケジュールについては、以下のようになっています。
独立開業した弁護士が取り扱う主な業務
即独弁護士は「何でもできる」ことを強みに
研修所を修了してから、既存の法律事務所に勤務することをしないでそのまま自分の事務所を立ち上げる弁護士は「即独弁護士」と呼ばれています。
即独弁護士の場合、最初から事務所が抱えている業務に携わるわけではないので、自分の足で仕事を見つけてくる必要があります。一方で、生活費のほかに事務所の維持費用もかかるので、自分でやりたい仕事を選んでそれに没頭するということは難しいです。
しかし、それは裏を返せばこだわりなく何でも挑戦できる環境にあるということでもあります。自分の事務所の看板を背負っているというプレッシャーを上手に味方につけて責任感のある仕事をすれば依頼者からの信用も得ることができますし、何より幅広く仕事をしていくことで、自分が得意だと思える専門業務分野を見つけることができます。自分だけの専門性を見つけて磨くことができたときの喜びは、何ものにも代えがたいものがあります。
即独してすぐの弁護士が行う業務は、国選の刑事事件(国が弁護士費用を負担して弁護士を選び、選ばれた弁護士が法廷に立って弁護活動を行うこと)、一般民事事件(金銭トラブルや交通事故の解決、訴訟だけではなく、当事者同士の和解や保険会社との交渉の席につくこともある)、家事事件(離婚調停、任意後見契約など)が多いようです。
事務所勤務を経ての開業は業務の幅も広がる?
新人弁護士の就職状況が改善されつつある近年では、即独弁護士は以前よりは少なくなりました。既存の法律事務所に数年勤務して、専門性を磨いてから独立するというケースが主流になりつつあるようです。
勤務弁護士を経て独立する場合、独立当初はもといた事務所で取り扱った業務をそのまま専門性として掲げる弁護士が多いようです。即独弁護士と異なり、一般企業法務(M&A、ベンチャー企業のスタートアップなど)や知的財産業務(著作権、特許、商標に関する紛争など)、労働事件(労働審判、団体交渉など)などの業務を行うことも特徴の一つです。また、大手法律事務所に勤務した弁護士の場合は、勤務弁護士時代の顧客がそのまま独立してからも仕事を回してくれるということもあるようです。
関連資格を手に入れて業務分野の拡大も
特に企業法務の分野では、弁護士資格以外の資格が活かせる業務が多く存在します。たとえば、中小企業の経営に対するより専門的な助言を行う業務としての中小企業診断士があります。企業法務に携わる弁護士には、中小企業診断士の資格を取得する方も多いです。
それ以外にも、特許の出願などの業務を行うために、弁理士の資格を取る弁護士も少なくありません。もっとも、弁理士は中小企業診断士と異なり、弁護士の資格をもっていれば申請するだけで無試験で取得することができます。
ほかにも、弁護士の資格をもっていれば、社会保険労務士、司法書士、行政書士、税理士としての登録も可能です。この制度を利用して専門性を高め、同業他者との差別化を図ることも一つの選択肢です。
気になる開業費用は?
弁護士登録にかかる費用
弁護士登録にかかる費用の計算は地方によって様々ですが、概ね登録時の費用負担が6~20万円、1年間の負担金が50~80万円前後で推移しているようです。
*1 登録5年目の弁護士の毎月の負担 (法務省)
事務所設立・維持にかかる費用
事務所
弁護士も自宅開業することは一応可能ですが、事務所を持たない弁護士にはなかなか依頼しにくい、仕事をきちんとこなしてくれるかが心配だという声があることも事実です。
そこで、事務所を賃貸することが一般的となります。もっとも、最近では事務所の設備費用を節約する観点から、「レンタルオフィス」を利用する弁護士もいます。レンタルオフィスは契約者同士で設備を共有する形になるので、敷金・礼金といった高額な初期投資が不要になるほか、FAXやコピー機の導入・利用に関する費用を節約することが可能です。
広告・宣伝
仕事を呼びこむためには、何をおいても宣伝が必要です。
事務所を開設したらすぐに、旧知の方や同業者に名刺や挨拶状を配ることになりますので、そうしたものを作るための費用も必要です。
加えて、事務所のホームページも必要です。法律事務所に相談しようと思う依頼者は、まずはインターネットで弁護士の名前や評判などを調べます。そのときに自分のホームページがあると、インターネットを使った集客が可能になります。
最近では独立開業する弁護士を対象にした専門ホームページ作成代行サービスも存在します。htmlやワードプレスを0から学ぶよりは、20万円前後で専門家に代行してもらうほうが結果的に節約になるかもしれません。
パソコン等
弁護士は書面を作る仕事の割合が大きく、パソコンは必要不可欠です。数本から数十本の案件を同時進行で抱える多忙な弁護士にとっては移動の時間も仕事にあてなければならなりません。そこでパソコンもデスクトップ型ではなく、持ち運びが可能なノート型・モバイル方のパソコンが必要になります。
また、守秘義務の課される仕事はデータ漏洩などがあってはならず、各種ウイルス対策ソフトなどの導入も不可欠です。
近年は独立支援サービスも充実
ここまで説明してきた費用を総合すると、自宅開業なら概ね50万円程度、事務所を賃貸するのであれば100~300 万円程度がトータルの開業費用となり、毎月の経費としては30~50万円程度がかかることになります。業務が拡大して事務員を1人雇うことになれば、これに20~30万円程度上乗せされることになります。
したがって事務所経営を黒字化するためには、この額より多くを1ヶ月で稼ぐ必要があります。一見難しいことにも思えますが、最近では、日本弁護士会連合会により、弁護士の数がまだ足りていない地方で開業する弁護士に対する経済的支援や、新人弁護士の独立に対する援助の制度も充実しており、こうした制度を活用すれば黒字化は十分に可能です。
*2 独立開業支援について(日弁連)
*3 偏在対応弁護士等経済的支援、新人弁護士等準備養成等援助について(日弁連)
これ以外にも、弁護士の独立開業を支援するサービスを展開する法律事務所というのも存在します。独立開業を考える際に気になったら、調べてみるのもいいかもしれません。
参考資料
*1 登録5年目の弁護士の毎月の負担 (法務省)
http://www.moj.go.jp/content/000077010.pdf
*2 独立開業支援について(日弁連)
https://www.nichibenren.or.jp/recruit/lawyer/dokur…
*3 偏在対応弁護士等経済的支援、新人弁護士等準備養成等援助について(日弁連)
https://www.nichibenren.or.jp/activity/resolution/…