税理士の受験資格とは
税理士試験の受験資格には「学識」「資格」「職歴」「認定」の4種類があり、いずれか1つでも満たせば受験資格が認められます。
令和5年度税理士試験より受験資格が緩和
令和5年度(2023年度)税理士試験より、受験資格が緩和されました。
緩和されたのは以下の事項です。
- 簿記論・財務諸表論の受験資格の制限が撤廃
- 税法科目の履修科目要件が緩和
▼簿記論・財務諸表論の受験資格の制限が撤廃
簿記論・財務諸表論の受験資格の制限が撤廃され、誰でも受験できるようになりました。
撤廃される以前は受験資格に制限があったため、大学の3年次以降か、もしくは日商簿記1級を取得してから受験するのが一般的でした。
しかし、この受験資格の制限が撤廃されたことにより、誰でも税理士試験に挑戦できる機会が得られるようになったのです。
税理士試験は科目合格制で合格すれば生涯有効なので、早いうちに試験に挑戦できればより早期の全科目合格が達成しやすくなるでしょう。
▼税法科目の履修科目要件が緩和
税法科目の履修科目要件が緩和され、法律や経済分野以外の履修でも受験が可能となりました。
従来は、法律学または経済学に属する科目を1科目以上履修しなければ税法科目は受験できませんでした。
しかし、令和5年度(2023年度)より科目要件の「法律学または経済学」が「社会科学」という広範囲の学問に拡充されます。
法律学や経済学に属する科目を履修するには法学部や経済学部に進学しなければ難しいため、緩和する前は法学部や経済学部の学生以外は試験にチャレンジしにくい状況でした。
しかし、社会科学は法律・経済・政治・行政・社会・経営・教育・福祉・情報などの学問分野なので、学部に関係なく履修しやすい科目です。
つまり文学部や理工学部など、法律や経済学に関連しない学部の大学生でも受験資格を得やすくなったのです。
以下は受験資格の詳細です。
税理士試験に必要な受験資格①:学識
受験資格 |
提出書面 |
大学・短大又は高等専門学校の卒業者で、社会科学に属する科目を1科目以上履修した者 | 成績証明書(卒業年月の記載がないものは卒業証明書も必要) |
大学3年次以上で、社会科学に属する科目を1科目以上含む62単位以上を取得した者 | 成績証明書(大学3年次以上であることが確認できるもの)
(年次の記載がないものは大学3年次以上であることが確認できる書類として、年次の記載がある在籍証明書等も必要) |
専修学校の専門課程(1:修業年限が2年以上かつ、2:課程の修了に必要な総授業時数が1,700時間以上に限る)を修了した者等で、社会科学に属する科目を1科目以上履修した者 | 成績証明書
(卒業年月の記載がないものは卒業証明書も必要)および 課程証明書 (当該専門課程が左欄の1および2の要件を満たす課程であることについて都道府県知事等が発行した証明書を専修学校が原本証明したもの) |
司法試験に合格した者 | 所管官庁の合格証明書 |
旧司法試験法の規定による司法試験の第二次試験または旧司法試験の第二次試験に合格した者 | 所管官庁の合格証明書 |
公認会計士試験短答式試験合格者(平成18年度以降の合格者に限る) | 公認会計士・監査審査会会長発行の「公認会計士試験短答式試験合格通知書」または「短答式試験合格証明書」のコピー |
公認会計士試験短答式試験全科目免除者 | 公認会計士・監査審査会会長発行の「公認会計士試験免除通知書」または「免除証明書」のコピー |
税理士試験に必要な受験資格②:資格
受験資格 |
提出書面 |
日本商工会議所主催簿記検定試験1級合格者 | 日本商工会議所発行の合格証明書 (合格証書は不可) |
公益社団法人全国経理教育協会主催簿記能力検定試験上級合格者(昭和58年度以降の合格者に限る) | 公益社団法人全国経理教育協会発行の合格証明書 (合格証書は不可) |
会計士補 | 日本公認会計士協会発行の登録証明書 |
会計士補となる資格を有する者 | 公認会計士・監査審査会発行の旧公認会計士試験第二次試験合格証明書または同試験の免除科目が全科目に及ぶことを証する書面 |
税理士試験に必要な受験資格③:職歴
受験資格 |
提出書面 |
弁理士・司法書士・行政書士・社会保険労務士・不動産鑑定士等の業務に通算2年以上従事した者 | 登録証明書および当該業務に2年以上従事したことを証する書面(同業者2人以上の証明) |
法人または事業を営む個人の会計に関する事務に通算2年以上従事した者 | 職歴証明書 |
税理士・弁護士・公認会計士等の業務の補助の事務に通算2年以上従事した者 | |
税務官公署における事務またはその他の官公署における国税もしくは地方税に関する事務に通算2年以上従事した者 | |
行政機関における会計検査等に関する事務に通算2年以上従事した者 | |
銀行等における貸付け等に関する事務に通算2年以上従事した者 |
税理士試験に必要な受験資格④:認定
受験資格 |
提出書面 |
国税審議会より受験資格に関して個別認定を受けた者 | 国税審議会会長発行の受験資格認定通知書のコピー |
「学識」による受験資格について
税理士資格の取得を目指して「学識」資格で受験する方のほとんどは、以下のいずれかに該当するでしょう。
・大学、短大または高等専門学校を卒業した者で、社会科学に属する科目を1科目以上履修した者
・大学3年次以上の学生で社会科学に属する科目を含め62単位以上を取得した者
・専修学校の専門課程(1:修業年限が2年以上かつ、2:課程の修了に必要な総授業時数が1,700時間以上に限る)を修了した者等で、社会科学に属する科目を1科目以上履修した者
【出典】国税庁「受験資格について」
現役の大学生の方
現役の大学生であれば、自分が62単位以上取得していて、その中に「社会科学」に属する科目が含まれているかを確認する必要があります。
社会科学に属する科目の例
社会科学に属する科目の例は以下の通りです。
▼改正前(令和4年度の税理士試験以前)の「法律学に属する科目」に該当していた科目
法学、法律概論、日本国憲法、民法、刑法、商法、行政法、労働法、国際法等
▼改正前(令和4年度の税理士試験以前)の「経済学に属する科目」に該当していた科目
(マクロまたはミクロ)経済学、経営学、経済原論、経済政策、経済学史、財政学、国際経済論、金融論、貿易論、会計学、簿記学、商品学、農業経済、工業経済等
▼そのほかの科目
社会学、政治学、行政学、政策学、ビジネス学、コミュニケーション学、教育学、福祉学、心理学、統計学等
履修した科目が社会科学に属する科目かどうか判定できない場合、授業内容が記載されている学生便覧や担当教授の専門分野等がわかるものを取り寄せた後、最寄りの国税局または沖縄国税事務所の人事課税理士試験担当係へ照会しましょう。
【参考】国税庁「受験資格について」
既に大学を卒業されている方
既に大学を卒業されている方で、働きながら資格取得を目指す方であれば、「卒業証明書」「課程証明書」を取り寄せた上で、これら資格を満たしているかをしっかりと確認するようにしてください。
「資格」による受験資格について
日商簿記1級合格者や、会計士補の方がこの受験資格に該当します。
分かりやすい受験資格なので、該当する場合は、「合格証明書」を発行してもらえば受験できます。
「職歴」による受験資格について
特に、以下の職歴をご自身の受験資格とされる方が多いのではないかと思います。
- 法人又は事業を営む個人の会計に関する事務
- 税理士・弁護士・公認会計士等の業務の補助の事務
- 税務官公署における事務又はその他の官公署における国税若しくは地方税に関する事務
- 行政機関における会計検査等に関する事務
- 銀行等における貸付け等に関する事務
提出書類として「職歴証明書」が要求されている場合、その様式には注意するようにしてください。
(画像出典:「税理士試験Q&A」問20)
「認定」による受験資格について
「学識」「資格」「職歴」の3つの受験資格は、内容が明確に決まっています。
日本国憲法では職業選択の自由を国民に保障しているので、これらの受験資格がない場合一切受験できないとすると、税理士という職業への参入規制として憲法上の問題が生じる可能性があります。
そこで、税理士試験を行っている国税審議会から、上記受験資格にある者と同等の資格があると個別認定を受けた者については、税理士試験の受験資格を付与しています。
具体的には海外の大学で法律学や経済学を履修して卒業した者などが挙げられます。
税理士試験の受験資格早見表
税理士の資格取得を目指す方に多い学歴・職歴ごとに、受験資格の有無を確認できる大まかな早見表を用意しました。
ご自身に税理士試験の受験資格があるか、確認するための参考にしてください。
属性1 |
属性2 |
受験資格の有無 |
大学2年生以下 | 日商簿記1級の資格なし | ▲(簿記論・財務諸表論のみ受験可能) |
日商簿記1級の資格あり | ○ | |
大学3年生以上 | 社会科学に属する科目を含めて62単位以上を取得 | ○ |
放送大学の科目を履修 | 大学、短大は高等専門学校を卒業した者で、社会科学に属する科目を1科目以上履修 | ○ |
日商簿記3級・2級合格者 | ― | ▲(簿記論・財務諸表論のみ受験可能) |
日商簿記1級合格者 | ― | ○ |
会計士補 | ― | ○ |
税理士事務所で働く者 | 2年以上従事 | ○ |
2年未満従事 | ▲(簿記論・財務諸表論のみ受験可能) | |
銀行で貸付事務に従事する者 | 2年以上従事 | ○ |
2年未満従事 | ▲(簿記論・財務諸表論のみ受験可能) |
税法科目の受験資格がない場合はどうすればいいか?
税理士試験の税法科目を受ける際「大学を出ていない」「もしくは大学を出たが「社会科学」に属する科目を履修していないので学識による受験資格を満たしていない」という方もいらっしゃると思います。
しかし、税理士試験の受験を諦めるのはまだ早いです。
【理系大学出身の方】「社会科学」に関する科目を放送大学などで1科目だけ履修・単位取得する
「社会科学」に属する科目を履修しないまま大学を卒業した方は、「社会科学」に関する科目を1科目だけ履修・単位取得する方法があります。
放送大学は通信制で1科目から履修でき、社会科学の単位が取得できれば、学識による受験資格を得られます。
大学での半年間の受講と試験を受ける負担はありますが、日商簿記1級の取得によって受験資格を得るよりは、難易度は低いといえるでしょう。
なお、上記の方法で受験資格を得られるのは「大学・短大・高専の卒業者」または「大学3年次以上で62単位以上を取得した者」のみです。
たとえば理系の大学出身者の方であれば可能ですが、一方で高卒の方の場合は学識の要件を取得することはできません。
【高卒・大学1・2年生の方】①実務経験を積む
高卒、大学1・2年生の方でも、以下のような実務経験を2年以上積めば税理士受験の資格を得られます。
- 税理士・弁護士・公認会計士等の業務の補助の事務
- 税務官公署における事務、またはその他の官公署における国税、もしくは地方税に関する事務
- 行政機関における会計検査等に関する事務
- 銀行等における貸付け業務や運用に関する事務
通算2年以上従事すれば職歴の受験資格と認められるので、たとえ複数の業務に従事した期間が短くても、合計で2年以上となれば問題ありません。
実務経験を積む時間はかかりますが、大学を卒業しなくても受験資格が得られる方法です。
【高卒・大学1・2年生の方】②日商簿記1級を取得する
高卒の方や大学1・2年生の方でも、日商簿記1級を取得すれば税理士受験が可能です。
令和5年度(2023年度)より会計科目は受験資格の制限が撤廃されて、誰でも受験できるようになりましたが、税法科目には「大学3年次以上で社会科学に属する科目を含めて62単位以上を取得している」という制限があります。
「では高卒や大学1・2年生は受験できないのか?」と言えばそうではありません。「日商簿記1級」を取得すれば、学識の要件を満たしていなくても税法に属する試験科目を受験できるのです。
日商簿記1級は取得難易度の高い資格ですが、税理士試験科目の「簿記論」と出題範囲が重なる部分があるため、勉強すれば税理士受験にもプラスに働きます。
高卒で税理士を目指す方は、日商簿記1級の取得を目指してみてはいかがでしょうか。
税理士になる方法
税理士になるには、以下の3つの方法があります。
- 税理士試験に合格して2年以上の実務経験を積む
- 「弁護士」か「公認会計士」の資格を取得する
- 税務署で23年以上勤務する
試験合格後に2年以上の実務経験を積むのが一般的な方法ですが、税理士試験に合格しなくても税理士になる方法があります。
税理士試験に合格して2年以上の実務経験を積む
税理士になるルートとしてメジャーなのが、【試験合格(5科目)】+【実務経験】の組み合わせで要件をクリアする方法です(前述データの「試験合格」に該当)。
税理士試験は科目合格制となっていて、試験に合格するには会計2科目+税法3科目の計5科目の合格が必要となります。
1回の受験で5科目すべてに合格する必要はありません。科目単位の受験も可能で、1年に1科目のみでも受けることができます。
一度合格した科目は生涯有効なので、自分のペースで試験合格を目指せることが特徴です。
5科目合格を達成するには早い人で2年、一般的には3〜5年が目安です。
そして、税理士になるには試験の合格だけではなく、2年以上の実務経験も必要です。
「弁護士」か「公認会計士」の資格を取得する
「弁護士」もしくは「公認会計士」の資格があれば、税理士試験を受けなくても税に関する業務を行えます。
これらの資格を取得すれば、税理士資格も得られるわけです(前述のデータの「公認会計士」「その他」に該当)。
司法試験や公認会計士試験も、法律や会計処理に関する知識が問われるため、この分野で十分な資質と技量が認められれば、税理士になる道が開かれます。
ちなみに、弁護士法3条2項には、「弁護士は、弁理士及び税理士の事務を行うことができる」と規定されており、弁護士が税理士業務を行える法的根拠となっています。
税務署で23年以上勤務する
税理士になるルートの1つに、所定の要件を満たせば税理士試験の全科目が免除されるというものもあります。
税務署で23年以上勤務し、指定の研修を修了すれば、試験を受けずに税理士となる資格を得ることができるのです(前述のデータの「試験免除」に該当)。
税務署を退職後に税理士として活動する方は、実際にたくさんいます。
セカンドキャリアとして、あるいは定年後も働き続けることを見据えているケースが多いでしょう。
なお、勤務年数が10年または15年以上の国税従事者が税理士を目指す場合は、税理士試験の税法に関する科目のみが免除されます。
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税理士試験の免除制度とは
税理士試験には試験科目の免除制度が設けられており、「学位による免除」と「国税従事者における免除」に分けられます。
▼学位による免除
修士または博士の学位を取得すれば、試験の一部が免除されます。
大学院に進学したのが平成14年(2002年)4月以降かどうかで、免除される条件や科目が変わります。
対象 |
条件 |
免除科目 |
平成14年(2002年)3月までに大学院に進学した方 | 商学で修士、もしくは博士の学位を取得 | 会計系の科目(簿記論、財務諸表論) |
法学、または経済学のうち財政学で修士、もしくは博士の学位を取得 | 税法系の科目(選択必修および選択科目) | |
平成14年(2002年)4月以降に大学院に進学した方 | 会計学あるいは税法に属する科目等で修士の学位を取得し、税理士試験を1科目以上合格 | 得た学位、合格した科目以外の残りの科目 |
会計学に属する科目等で、博士の学位を取得 | 会計系の科目(簿記論・財務諸表論) | |
税法に属する科目等の博士の学位を取得 | 税法系の科目(選択必修科目・選択科目) |
▼国税従事者における免除
税務署に10年、または15年以上勤務した国税従事者は、税法に属する科目が免除され、税務署に勤務して経験した職域と期間に応じて、免除される科目は段階的に増えていきます。
また、23年または28年以上税務署に勤務して指定研修を修了した国税従事者は、会計学に属する科目が免除されます。
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税理士試験の科目合格制とは
税理士試験は、科目ごとに試験が行われます。会計学に属する科目と、税法に属する科目があります。
税理士試験に採用されている科目合格制度では、決められた科目のうち、5科目で合格点を取れば合格とされます。
税理士試験の出題科目は全部で11科目です。その中の5科目を集中的に勉強し、合格すれば税理士の資格が取得できます。
一度合格した科目は、永久に有効です。
科目ごとに勉強して合格点を取っていくため、税理士試験に合格するには年単位の時間がかかります。
なお、受験(合格)する順番に制限はありませんので、どの科目から受験しても構いません。
税理士試験の試験概要とは
税理士試験の試験概要について詳しく知りたい方は、以下のページをご参照ください。
【引用】国税庁「令和5年度(第73回)税理士試験実施スケジュールについて」
税理士試験の合格基準とは
まず、公式な合格基準点は各科目とも満点の60%です。
ただし、実際は上位10〜15%程度が合格する競争試験といわれています。
本来なら60%以上の得点ができれば全員合格もあり得るルールですが、「傾斜配点」と言って、合格者の人数を調整する配点調整が行われているようです。
税理士試験は問題の細かな配点が公表されないのであくまでも予想ですが、これから受験される方は「事実上の競争試験」と思っておくのが良いでしょう。
税理士試験の合格率とは
税理士試験の合格率について詳しく知りたい方は、以下のページをご参照ください。
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まとめ
今回取り上げた税理士試験の受験資格のポイントをおさらいしましょう。
- 税理士試験は「学識」「資格」「職歴」「認定」のいずれかの要件を満たせば受験資格が得られる
- 受験資格制限の撤廃により、簿記論・財務諸表論は誰でも受験が可能
- 履修科目の緩和により、法学部や経済学部以外の方でも受験しやすくなる
- 「社会科学」を履修しないまま大学を卒業しても、放送大学で単位を取得すれば受験できる
- 高卒・大学1・2年でも、実務経験2年以上、もしくは日商簿記1級の資格があれば受験できる
令和5年度(2023年度)の受験資格緩和により、受験資格を持つ対象者は大きく広がり、税理士試験は挑戦しやすくなったといえるでしょう。
税理士試験に合格するには、必要最低限のカリキュラムで効率的に勉強する方法がおすすめです。
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