【現役税理士が回答】税理士はAIでもなくならない? 受験前に知るべきこと

「税理士はAIに仕事を奪われる」「AIで税理士の仕事がなくなる」と聞いて不安に思ったり、受験勉強を始めて本当にいいのか、もう遅いのではないかと悩んだりしていませんか?

税理士を目指すべきか知りたい方に向けて、現役税理士・公認会計士の柳澤令先生にお話を伺いました。

結論からお伝えすると、税理士の仕事はAIによってなくなりません。AIで税理士の仕事がどう変わったか、それでも仕事がなくならない理由や受験勉強で意識すべきポイント、AI時代で働く税理士のやりがいなど、リアルで役立つ情報を解説します。

この方に聞きました

柳澤 令
税理士、公認会計士

税理士、公認会計士として、税務・監査両方の業務に携わる。特に税務については、スタートアップから上場準備企業まで、幅広い企業の日常業務・税務業務をサポートしている。

講師としては、公認会計士試験合格後、大手資格学校にて公認会計士、税理士、日商簿記検定、不動産鑑定士等の幅広い講義を担当。最小限のインプットで最大限の応用を可能にする、徹底的な本質理解型の講義を展開する。

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AIは税理士の仕事をどう変えたか?3つの変化とは

――AI時代に、税理士の仕事はどのように変化しましたか?

AIによって、税理士の仕事には主に3つの変化が起きています。

  • 専門的な判断業務への変化
  • 入力・記帳業務の自動化
  • 提案・相談のアイデア出しにAI活用

不安に思う方もいるかもしれませんが、悪い話ばかりではありません。

専門的な判断業務への変化

AIの影響を受けた点として、仕事の柱が作業から専門的な判断に移っていることが挙げられます。

これはAIが普及し、お客様の行動が変わったことに起因します。

以前は、税務のご相談があるお客様というのは、「ここに関して教えてください」「これについてはどのような見解ですか?」といったように、”◯◯について知りたい”という質問が中心でした。

それが近年「AIに聞いたらこう言っているのですが……」といったご相談内容に変わり、お客様自身がAIで調べた情報も参考にしながら、専門的な判断を行うことが増えました。

これは私も想定していなかった変化で、お客様が情報を前もって収集されているため、より建設的なお話ができるようになったと感じています。

入力・記帳業務の自動化

入力・記帳作業が自動化されたことで、いわゆる記帳代行の仕事はAIによって代替されています。

最近では、会計ソフトにもAIが組み込まれています。

例えば、領収書やレシートをスマートフォンのカメラで撮影すると、会計ソフトのAIが仕訳を予測して、自動で入力してくれるのです。

数年前までは、AIは実務に耐えられる精度ではなかったため、現場では扱いづらかったのですが、今は作業代替できるようになりました。

提案・相談のアイデア出しにAI活用

お客様への提案・相談業務にAIを使うようになったことも、変化の一つです。

私たち税理士は、お客様からの相談事にお答えしたいときに、専門家として回答の候補が5〜6つ浮かびます。

その際に、守秘義務に違反しない範囲でAIを使い、別の回答の候補を確認するという使い方をしています。

例えば、融資を考えている法人のお客様がいた場合、そのお客様の業績や規模、過去の融資の実績などから、どのような選択肢があるかを考えます。

通常はその会社のメインバンクから考えがちですが、他の銀行や国の機関、地場の金融機関など、様々な選択肢があり得ます。

それをAIに「このケースの場合、他の融資の選択肢は?」と問いかけると、一瞬で情報をリストアップしてくれます。

もちろん、お客様の機密情報を扱うため、必ず抽象化して特定できないようにしたり、オプトアウトの設定(AIの学習利用を拒否すること)を行ったりします。

実際に調べようとすると大変なことですから、考えるときの補助手段としてAIを活用できるのは、便利であり、税理士にとって親和性の高い使い方です。

それでも税理士の仕事がAIでなくならない4つの理由

――「AIの進化・普及で税理士の仕事はなくなる(AIに奪われる)」という意見もあります。柳澤先生のご見解をお聞かせいただけますか?

税理士の仕事はなくならないと思います。その理由は4つあります。

  • 日本の税制では税理士という専門家が必要
  • AIは税法の条文を正しく解釈・判断できない
  • 租税訴訟の判例が少なく、機械学習が進みにくい
  • お客様はAI以上の相談相手を求めている

日本の税制では税理士という専門家が必要

税理士の仕事がなくならない理由の一つに、日本の税理士という資格が独特なものだという点があります。

世界的に見ると、実は税理士という職業が法律で制度化されている国はとても少なく、日本やドイツ、韓国などに限られていて、公認会計士が税務も行うケースが多いのです。

日本の場合は、税法の種類と数が多く、税務が複雑であるために、税理士という専門家がいるのです。

つまり、日本の税制の仕組み上、税理士の役割は当面なくならないと言えます。

AIは税法の条文を正しく解釈・判断できない

皆さんが普段よく使う汎用的なAIは、税法の条文を理解して、その条文に従って判断することはまだできません。

AIに「この処理に関して、どういう方法が税務上で認められますか?」と問いかけても、その回答の正しさは怪しいのです。

AIはインターネット上にある膨大な情報を参考にしており、その中には正しい情報も、間違っている情報もあります。

それが原因でAIの回答は正確ではなく、税法の解釈・判断については、税理士のほうが勝るのです。

実際に私がAIに簡単な税務の質問をしても、「こういう理由で認められます」と間違った回答を返してくることが少なくありません。

さらに私が「この条文にこう書いてあるじゃないですか」と指摘すると、AIが「ごめんなさい。さすが専門家ですね」と答えます。

日本の税法に対応するという点で、税理士が判断する意義はまだまだ大きいのです。

租税訴訟の判例が少なく、機械学習が進みにくい

他の士業と比較して、税理士の領域ではAIの機械学習が進みにくい構造があります。

これがAIによって税理士の仕事がなくならない理由の一つです。

税務に関しては、租税訴訟の判例がそもそも少ないため、インターネット上にもあまり情報が出てきません。

AIが学習するための材料が少なく、精度の高い回答を出しづらいのです。

したがって、税理士が過去の経験や事例から判断するという部分は、この先もまだ多いのだと思います。

お客様はAI以上の相談相手を求めている

お客様が税理士に求めるニーズが変化し、より深い話ができる相談相手を求めていることも、AI時代に仕事がなくならない理由です。

最近の傾向として、お客様自身がAIやインターネットを使い、そこから得た情報で「こういうことはできませんか?」といったご相談が増えています。

それ自体には良い面もある一方、偏ったご提案をいただくことがあります。

そのようなケースでは、税理士はAIを超える専門家として、お客様にとってプラスになる意見を伝えることが使命です。

「確かに、そのご提案を実現することもできますが、同時にこういうリスクがあります」

「御社のケースでは少々やりすぎかと思いますので、やめておいたほうがいいと思います」

実際に私も、実務でこのような意見をお客様に伝える機会は増えました。今後の税理士は、リスクやビジネスについて話ができる相談役として信頼されるでしょう。

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AI時代の税理士は何が強みになるのか

――AI時代の税理士は、何が強みになりますか?

AI時代の税理士にとって、強みは2つあります。

  • 言語化されない情報を感じ取り、引き出すコミュニケーション能力
  • 税法の細かい規定を理解し、間違いなく処理できる能力

これからの税理士には、AIやコンピューターにはできないことが一層求められます。

以上の2つは、今のAIにはできないことで、これを強みとして力を発揮できる人が税理士として生き残ると考えます。

言語化されない情報を感じ取り、引き出すコミュニケーション能力

AI時代の税理士の強みとして、顧客の言語化されない情報を感じ取り、さらに引き出すコミュニケーション能力が挙げられます。

例えば、私が普段接するお客様というのは、会社の社長や経理・財務の部長クラスの方々です。

その方たちが、先月と今月で同じことを言っているのに少し口調が違ったり、ニュアンスが違ったりすることがあります。

他にも、会社訪問をしたときに、一瞬見た執務室の様子がいつもと違うと感じるときがあります。

「今月は何かあったんですか?」と質問すると、「実は……」と話が出てくることは珍しくありません。

これは税理士に限らない話で、相手の懐に入って心を開き、コミュニケーションを通して情報を引き出すということができるのは、人間が得意とする領域です。

その能力を存分に生かすことが、これからより重要になってくると思います。

税法の細かい規定を理解し、間違いなく処理できる能力

AI時代の税理士の強みとして、税法の細かい規定を理解し、間違いなく処理できる能力もその一つです。

例えば、税務の中でも、資産税・相続を専門にしている税理士の方は多くいらっしゃいます。

その領域では、専門知識を持っていることや、非常に細かい税法の規定をしっかりと押さえて、正確に処理できる能力が求められます。

真面目さや細かさが取り柄だという方は、強みとして力を発揮できるでしょう。

将来は専門領域特化型の税理士として、活躍する方も現れるかもしれません。

税理士・公認会計士 柳澤令 氏

これから税理士を目指すなら、受験勉強で何を意識すべきか

――AI時代にこれから税理士を目指す人が、今知っておくべき心構えは何でしょうか?

税理士を目指す方に、受験勉強での心構えとして伝えたいことは2つあります。

  • 受験勉強では本質を理解することが重要
  • 暗記と理解の2つのアプローチを使い分ける

AI時代も、受験勉強でやることは変わりません。試験での出題のされ方も変わりませんから、その点に関してはご安心ください。

勉強する際には「より本質を見てほしい」ということに尽きます。

なぜなら、本質を見る意識を持って勉強できた人が、これからの時代を生き抜く税理士になれるからです。

受験勉強では本質を理解することが重要

学んだ知識を仕事で使っていくのであれば、なぜそのようなルールになっているのか、なぜこういう条文なのか、と本質を理解していることが非常に重要です。

税法の条文は広い意味を持つため、実務上で個々のケースに対応するには判断が必要です。

「条文にはこう書いてあります。この条文の立法趣旨はこうです。したがって、このケースではこう考えるべきですよね」と専門的な考え方ができる能力が求められます。

なぜ本質理解をアドバイスするのかというと、私が受験生時代に、暗記がとても苦手だったためでもあります。

「根本を理解してしまえば、10暗記するところを3の暗記で済むだろう」という怠け根性から思いついたのが、この勉強法でした。

実際に税理士になったあとも、このやり方は間違っていなかったと思っています。

受験勉強にも、その後の仕事にも間違いなく生きてくるため、ぜひ皆さんも本質を理解する意識を持ってください。

暗記と理解の2つのアプローチを使い分ける

税理士試験の受験勉強では、暗記と理解、2つのアプローチをうまく使い分けることをおすすめします。

税理士試験の範囲は広いため、膨大な学習量をこなすために暗記は必須です。かといって、暗記だけに偏った学習はおすすめしません。

暗記しながら、それがなぜそうなのか、背景をきちんと考える癖をつけましょう。

暗記と理解の両軸で学ぶことで、2つが互いに強化され、一番良い状態で実力が身についていきます。

柳澤先生が語る、税理士という仕事のやりがい

――最後に、柳澤先生は税理士の仕事にどのようなやりがいを感じていますか?

私もこの業界で仕事を続けて長いのですが、皆さんに「税理士の仕事は面白いですよ」とぜひお伝えしたいと思います。

その面白さというのは、税理士試験の合格後に、実際に税理士として働きながら実感できる大変さ・苦しさの先にあるものです。

仕事では自分で色々と調べる場面もありますし、お客様の難しい課題に対応できたことによって成長する機会にも恵まれます。

情報が日々アップデートされていきますから、それについていくことも欠かせません。

常に何かを吸収し、前進している充実感に溢れていますから、そこが面白いと思える人には向いています。

皆さんも税理士として活躍する未来に向かって、一歩を踏み出してみませんか。

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