
税理士試験への挑戦を考えるとき、気になるのは税理士という職業の将来性でしょう。いま業界では税理士の将来性に影響するさまざまな変化が起こっていて、それらをネガティブに捉える意見もありますが、大きなチャンスの時でもあります。
この記事では、変化を活躍のチャンスとするにはどうすればいいのかを考えていきます。
税理士の将来性に関わる業界の3つの変化
いま税理士業界では、税理士の将来性にかかわる下記のような変化が起こっています。
(1)AIなどテクノロジーの発達
(2)税理士の高齢化
(3)税理士に求められる役割・専門性の変化
変化が起こるところには新しいニーズが生まれます。
これから税理士を目指す方にとって、事業環境の変化はチャンスの兆しといえるでしょう。
上記3つの変化について、1つずつ見ていきます。
税理士業界の変化(1)AIなどテクノロジーの発達
1つめは、AIなどテクノロジーの発達です。
税理士業務について「将来的にはAIなどのテクノロジーに代替されるのではないか」という懸念の声があります。
事実、記帳代行など税理士の仕事の一部ですでにテクノロジーの活用が進んでいます。
野村総合研究所が2015年度にオックスフォード大学と実施した共同研究でも、テクノロジーを活用すれば
すでに税理士に頼ることなく税の申告ができるとし、税理士について「自動化可能性が高い」と述べられています。
【参考】野村総合研究所「日本におけるコンピューター化と仕事の未来」
変化をチャンスとするには?
税理士業界にとって、AIなどのテクノロジーの発達の影響は大きいといえます。
このような事業環境の変化をチャンスとするために大切なのが、AIとライバル関係になるのではなく、協力して業務することです。
AIは、大量のデータを元に機械学習し、自律的・自動的にタスクを進めることに優れています。
専門性の高い業務だとしても、パターン化された業務は人間よりもAIの方が早く正確にこなせます。
一方、現時点では、AIは人の感情を読み取ったり、物事を判断したりすることは苦手と言われています。
データだけでの判断ではなく顧客の気持ちにも寄り添ったアドバイスを行うなど、的確なコンサルティングができる点は、人間にしかできない価値です。
また、自動化されやすい業務の1つに仕訳がありますが、経費が発生した背景を理解していないと最適な仕訳ができないケースもあります。ここでも人間の判断が不可欠です。
自動化できるタスクはテクノロジーに任せ、税理士は働ける時間の大部分をコンサルティングなど人間ならではの業務に使う、といったようにうまく役割分担をすることが期待されています。
税理士業界の変化(2)税理士の高齢化
2つめは、税理士業界全体で高齢化が進んでいることです。
日本税理士会連合会が2014年(平成26年)に実施した「第6回税理士実態調査報告書」によると、全国の税理士の年齢分布を見ると60歳代以上が過半数を占め、20~30歳代の税理士は1割程度しかいません。
また、税理士になる方法としてもっとも一般的なルートは税理士試験に合格すること(+実務経験)で、合格者(5科目到達者)の6割程度は40歳以下の若手が占めていますが、近年は受験者数が減少傾向です。
2010年度は約5万名の受験者がいましたが、2022年度の受験者数は約3万7,000名と、受験者が約4分の1減少しました。
受験者が減る一方で、税理士全体の登録者は増加傾向なのですが、これは国税庁や税務署のOBなどが試験免除のうえ税理士資格を取得していることが影響していると考えられ、登録者が増加傾向でも「業界に若手がどんどん入ってきている」という状況ではありません。
変化をチャンスとするには?
税理士の高齢化によって、若手にはネガティブな影響もありますが、業界全体や組織の課題として危機感を持って対応しようとする動きがみられます。
たとえば、税理士法人にとって若手人材の確保は組織の将来に関わる重大な課題ですが、大手税理士法人の中には、採用の基準を緩和したり、採用後は仕事と試験勉強を両立できるよう配慮したりと、若手獲得に手厚い施策を行っているところもあります。
また、これから税理士を目指す若手にとっては、受験資格要件の緩和が追い風となります。
令和5年(2023年)4月から、会計科目の受験資格が不要化されるなど、より多くの人が試験に挑戦しやすいよう変更されることになりました。
若い世代をはじめ、デジタル化などの社会の変化に対応できる税理士を増やしていくことなどが狙いです。
こういった動きを見ると、若手にチャンスが到来している時代といえるでしょう。
また、税理士になった後は「若手には仕事がなかなか回ってこない」という意見もありますが、すべての顧客がベテラン税理士を希望しているわけではありません。経営者の中には若手税理士を望む人もいます。
たとえば自分のアイデアで勝負するベンチャー企業の経営者は、最先端のビジネスに精通した方に資金周りのアドバイスを求めたいと考えています。
どちらかといえばキャリア数十年のベテランよりも若手のほうが明るい分野と言えるでしょう。
ニーズが高く、かつベテラン税理士では担い手が少ないジャンルで専門性を高めていけば、将来にわたって活躍できるでしょう。
税理士業界の変化(3)税理士に求められる役割・専門性の変化
3つめは、税理士に求められる役割や専門性です。
かつての税理士はいわば「税務の外注先」でしたが、今は会社経営に関する相談に応じる「経営コンサルタント」としての役割がますます求められるようになっています。
税理士の主な顧問先は中小企業であり、国内の多くの中小企業が近年直面している課題の1つが事業承継です。
経営者が高齢化して後継者がいない場合、業績が好調であっても廃業を選択し、貴重な雇用の機会や技術・ノウハウが失われるおそれがあります。
中小企業庁委託の調査によると、中小企業の多くが、日頃から企業の経営状態をよく知っている顧問税理士等を事業承継の相談相手としています。
中小企業の事業承継やこれに伴うM&A・相続のサポートは、近年の税理士にますます求められている役割と言えるでしょう。
また、グローバル化が進む現代においては、国際税務もニーズが高いジャンルです。
国境を越える取引で二重に課税されないよう取り計らうなど、諸外国とのビジネスで起こりうるさまざまな税のリスクを回避することなどが求められます。
国際税務は専門性が非常に高く、ニーズに対して担い手が少ないのが現状です。
変化をチャンスとするには?
時代が変わっていっても、その時々の顧客のニーズを満たせる税理士には、必ず活躍の場があります。
将来性のある税理士を目指すなら、ニーズのあるジャンルで専門性を高めることが大切です。
専門性は一朝一夕に身に付くものではないので、キャリアプランが重要になります。
たとえば国際税務のプロフェッショナルを目指すなら、国際税務を扱う大手税理士法人やグローバル企業の税務部門へ就職するなど、経験を積める環境に身を置ければ理想的です。
また、事業承継や相続といったテーマは、高齢化社会でニーズが高まっているほか、当事者の思いや人間関係を尊重しながら進める必要があるため、AIなどのテクノロジーだけでは対応しきれないという特徴があります。
税理士にとって将来性のあるジャンルと言えるでしょう。
経験を積んで対応力やコミュニケーション力を高めて、人間にしかできないことを磨いていけば、それも立派な専門性となります。
【Q&A】税理士に関するよくある質問
最後に、税理士という職業に関するよくある質問にお答えいたします。
- 税理士の年収は?
- 税理士が活躍できる場は?
- 税理士になるメリットは?
税理士の年収は?
税理士の働き方は1つではありません。自分のライフスタイルや目指す年収に合わせてチャレンジすることが可能です。
税理士の主な働き方と年収の違いについて、以下の3つのパターンを詳しく見ていきましょう。
- 開業税理士の場合
- 社員税理士の場合
- 補助税理士の場合
開業税理士の場合
日本税理士会連合会が、2014年(平成26年)に実施した「第6回税理士実態調査報告書」によると、開業税理士の平均年収(総所得/給与収入)は744万円となっています。
開業税理士は、自分の経験やスキル次第で高い収入が得られる可能性があります。
法人に所属している税理士とは違い、自分の判断でより報酬の高い仕事を受けることも可能です。また、健康やスキルに問題がなければ、定年がないため長く働き続けることもできます。
こうした働き方や、仕事の進め方を自分で決められるのが、開業税理士の魅力と言えるでしょう。
社員税理士の場合
前述の「第6回税理士実態調査報告書」によると、社員税理士の平均年収(総所得/給与収入)は886万円という調査結果となっています。
開業税理士がその事務所を法人化する場合は、「最低2人の社員税理士が必要」と税理士法で定められています。
社員税理士は、一般企業での「役員」に相当します。ただの社員とは異なり、社内での立場は高くなるでしょう。
また、税務だけではなく、法人の経営や事業展開を考える仕事も発生します。
責任は重くなりますが、そのぶん平均年収も高い傾向にあります。
補助税理士の場合
前述の「第6回税理士実態調査報告書」によると、補助税理士の平均年収(総所得/給与収入)は597万円となっています。
補助税理士は、税理士事務所や税理士法人に雇用されて仕事をします。
企業でいうと、役職のない一般社員のようなポジションです。
そのため、開業税理士や社員税理士に比べると年収額は低い傾向にあります。
補助税理士の場合、業務は事務所や法人への依頼をもとに振り分けられるので、営業力に自信がない人でも仕事ができます。
また、開業税理士や社員税理士を目指す人も、まずは補助税理士になると、業務を通して経験を積んだり、知識を深めたりできるでしょう。
【引用】第6回税理士実態調査報告書
【あわせて読みたい】税理士の年収はどのくらい?
税理士が活躍できる場は?
税理士の資格を取得すると、税理士事務所や会計事務所をはじめ、税務署、市区町村役場、一般企業など、幅広いフィールドで活躍できるようになります。それぞれの就職先には、異なる役割やキャリアパスがあり、自分に合った働き方を選ぶことが可能です。
税理士事務所・会計事務所
最も代表的な就職先が、税理士事務所や会計事務所です。税理士試験に合格しても、税理士として登録するには2年以上の実務経験が必要となります。そのため、多くの人はまず税理士事務所に「補助者」として就職し、経営者や先輩税理士のもとで実務を学びながら、資格登録に必要なキャリアを積んでいきます。
なお、「会計事務所」と「税理士事務所」は呼び方が異なるだけで、基本的な業務内容はほぼ同じです。いずれも税務代理、申告書作成、税務相談など、税理士業務全般を行っています。
官公省庁・自治体
税務署や市区町村役場といった公的機関も、税理士資格を持つ人材の活躍の場です。税務署には、個人・法人を問わず多くの納税相談が寄せられるため、税務知識を持つ専門職の存在が欠かせません。
また、市役所や町役場でも、定期的に税務相談を実施しており、税に詳しい職員が必要とされる場面は多くあります。そのため、国家資格を持つ税理士が行政機関で勤務するケースも少なくありません。
一般企業
税理士の活躍は、一般企業の経理・財務部門にも広がっています。税法だけでなく、会計や簿記の知識を備えた税理士は、企業の節税対策や財務戦略の立案において重要な存在です。
また、企業での勤務経験は、将来的に独立開業を目指す場合にも大きな財産となります。現場での業務を通じて、市場動向や経済の流れに触れることで、民間の立場に沿った実践的なアドバイスができる税理士としての力が養われていきます。
税理士になるメリットは?
税理士になるメリットには、次のようなものがあります。
- 定年がなく60歳代以降も働ける
- 独立開業できる
- さまざまな人に出会える
- どこへいっても働ける
- 自分のライフプランに合わせて働ける
まず、税理士という資格には一般企業のような定年がありません。
独立開業に適していて、60歳代以降も継続して働ける点は、経済的に安定した老後を迎え、プライベートも豊かな人生を送りたい人にとって大きなメリットといえます。
また、飲食業やIT業界など担当する業界が幅広いため、さまざまな人に出会えることも魅力です。
中小企業では社長と直接やり取りすることも珍しくないため、知見が広がるでしょう。
働きやすさという点では、税務の仕事は日本国内のどこでも存在するため、場所に縛られない自由さが特徴です。
「地元に戻りたい」「結婚して転居した先で働きたい」といった自分のライフプランに合わせて働けます。
【あわせて読みたい】税理士になるとどんなメリットがある?
まとめ
今回の記事では、税理士の将来性にかかわる変化について見ていきました。
税理士の将来性を懸念する声もありますが、重要なのは変化をチャンスととらえて、今後求められる税理士像に適応していくことではないでしょうか。
税理士は定年がなく、プライベートとの両立もしやすく、高年収も期待できる仕事なので、ぜひ合格に向けて頑張ってください。