税理士登録をした後に独立開業して自分の税理士事務所を持った場合、どのような仕事をすることになるのでしょうか。 | |
独立開業して税理士事務所(会計事務所)を立ち上げた税理士は、企業の経営者をサポートする税理士であると同時に、自身も1人の経営者といて事務所を経営することになります。税理士本来の仕事だけではなく、事務所の営業活動や資金繰り、自分だけではなくスタッフへの給与の支払いなど、経営者としての仕事も求められます。もっとも、「一国一城の主」としての責任とやりがいがあることも事実です。 |
税理士事務所は会計事務所、税理士法人とどう違う?
税理士事務所と同じような意味で使われる言葉として、会計事務所と税理士法人があります。
まず、税理士事務所と会計事務所は、名称の違いだけで業務内容や経営形態に違いはありません。どちらも1人の税理士(及びスタッフ)による個人事業としての経営です。
一方、税理士法人は業務内容こそ税理士事務所と同じですが、経営形態が「法人」である点に違いがあります。
2人以上の税理士が一緒になり、法人として事務所を経営することにより、支店を展開できる、税制上の優遇を受けられるなどのメリットがあります。
税理士の独立形態としては、はじめは税理士事務所(会計事務所)として開業し、経営が軌道に乗って業務が拡大し、パートナーとなる税理士が見つかってから法人化するというのが一般的な流れです。
税理士と経営者、2つの顔を使い分ける
税理士事務所で働く税理士は、税理士と同時に経営者としての側面も有しています。自身の足を使って仕事を取ってきて、スタッフに手伝ってもらうことで仕事をこなして報酬をいただく。
こうして積み重ねた売上の中から、事務所経営のための諸経費やスタッフへの給与を支払い、残った分から自身の給与を取る。
その中でさらなる業績向上を目指さなければならないので、税理士としての能力だけではなく、経営者としての能力も必要です。
独立開業した税理士の一般的な仕事
中小企業の顧問税理士
日本の企業の99%は中小企業であると言われています。
また、企業の経営者は個人としての税金と会社としての税金の納税を行わなければなりませんが、税金に関する法令は複雑です。
経営者としての仕事を抱えて毎日忙しい中で、税金の知識をつけて確実に納税することは非常に難しいことです。
こうした背景から、特に中小企業では納税業務の外注先、つまり顧問税理士の存在が求められています。
税理士は税務に関する専門知識を活用して、税務署に提出する申請書・申告書を納税者である経営者に代わって作成したり、納税手続を代行します。
会社経営を税務・財務の面からサポート
税理士の出番は、納税手続にとどまりません。
めまぐるしく動く経済の中で、中小企業の経営者も資金繰りや事業再生の問題などに直面することが多々あります。
そうした局面に立つ経営者に、税務・財務の面から的確なアドバイスを送ることが、税理士に求められます。
具体的には、従業員の勤務状況や給与の支払いなど、企業の内部事情について客観的・第三者的な視点を持って調査し、節税効果を期待できる対策がないかなどを分析し、改善策を提言することなどが挙げられます。
また、税理士も士業です。業務独占資格の関係で自分自身が行うことのできない仕事(登記手続や、民事訴訟の訴訟代理人など)に直面した場合には、自身の信頼できる弁護士や司法書士など、他士業を顧問先に紹介することも求められています。
書籍の出版や各種セミナー開催の道も!
顧問税理士として経験を積み、他の事例にも対応可能な程度に実務の知識が身についてくれば、自身の経験に基づいた書籍(実務書・自己啓発書など)を出版することも現実味を帯びてきます。通常業務が忙しい税理士からは少々敬遠されがちですが、書籍の出版は税務のプロとしてのあなたの存在を世間にアピールし、個人のブランド力を底上げするために有効な営業活動でもあります。
また、実務書籍を出版したことで「頼れるコンサルタント」としてのあなたの存在が経営者や他士業に周知されれば、自身に関係の深い業界を対象としたセミナーを開催したときにも、多くの集客が見込めます。
税理士資格を個人の営業能力や各種資格・スキルなどと組み合わせることで、さらに営業活動が加速化し、あなたのところに仕事が舞い込むことにつながるのです。
経営者としての税理士の仕事
事務所の営業活動
税理士法人でアソシエイトとして働く税理士と異なり、独立開業した税理士はボスや上司から勝手に仕事が割り当てられることはありません。
そのため自分自身で仕事を獲得する必要があります。
自分で仕事を獲得するために、多くの税理士は自分の足で営業活動を行います。
税理士としての自分の存在やスキルを売り込み、仕事を任せてもらうようになるのです。
もっとも、飛び込み営業的にいきなり企業などに出向いても、なかなか仕事はもらえません。
「異業種交流会」などの交流の場に参加して名刺を配り歩き、顔と名前を知ってもらうことはもっとも初歩的な営業活動といえます。
また近年はスマートフォンなど通信手段が発達しているので、いつでもどこでも仕事を受注できるフットワークの軽さをセールスポイントに売り込み、仕事を獲得する税理士も増えています。
ただデスクに座って電話を受け、書類を作るだけが税理士の仕事という時代ではないのです。
税理士事務所にも資金繰りが必要?
事務所を立ち上げる際に融資を受けていた場合、融資の際に金融機関に提出した事業計画書に沿って事業を維持・拡大させていくことになります。
しかし、必ずしも事業計画の通り順調にいくわけではありません。時には売上が伸びず、事務所の維持費やスタッフへの給与の支払いのために臨時の資金繰りをする必要が出てくることもあります。
融資による資金繰りを行う場合には、利息を含めた将来の返済計画を作成・提出する必要なども出てきます。こうした業務を普段の仕事と併行して行うことも、事務所を経営する税理士には求められます。
スタッフの採用や給与の支払い
営業活動が少しずつ実を結び、仕事が徐々に増えてくるようになると、事務所の全ての業務を税理士1人で回すことが困難になってきます。
そうした場合、電話対応や会計ソフトを使用した試算表の打ち込みなどを自分に替わり行ってもらうスタッフを採用することになります。
スタッフの採用にあたっては、あなたの事務所が今後、クライアントにどのような価値を提供できるような事務所に発展していけるかという展望に合致したビジョンを持ち合わせている人を採用すると、長く付き合える良きパートナーになってくれることでしょう。
スタッフを採用したら、給与の支払いももちろんですが、正社員登用制度をどうするか、福利厚生をどうするかといった、労働環境の整備も必要になります。
また、一緒に働く仲間として、お互い気持ちよく働く環境の整備や気配りで、お互いのパフォーマンスが上がるよう、マネージメント術も必要なスキルとなります。
自分の事務所を持つことは「一国一城の主」になること
このように、税理士事務所を立ち上げて税理士として働くということは、税理士本来の業務に加え、経営者としての仕事もこなしていくことになります。
しかし、それは「何もかもを全て自分ひとりで背負い込む」ことを意味しません。仕事が増えてくればスタッフを雇用して仕事をこなしてもらうことになりますし、資金繰りが上手くいかない場合には金融機関に相談したり、交流のある他士業からよい相談先を紹介してもらうこともできます。
あなたの税理士事務所を「城」とするなら、あなた自身はその「城主」です。勤め人だった頃よりも自由に使えるようになった時間をフルに活用して、クライアントから「ぜひ訪れてみたい!」と思ってもらえるような立派なお城にしていきましょう。