税理士試験の出題範囲と科目選択のコツ|実務で役立つ組み合わせとは

税理士試験を突破するには、会計科目(2科目)と税法科目(3科目)の合計5科目に合格する必要があります。

ポイントは、税法科目は選択必須または選択科目となっており、どの科目で勝負するのか受験生が各自で判断することになっている点です。

試験の出題範囲は膨大で、合格率も科目ごとに差があります。科目によっては勉強量が比較的少なくて済むものもありますが、

税理士となって実務に出たときのことを考えて、将来性を視野に入れた試験科目を選び取ることが大事です。

この記事では、税理士試験の受験範囲と科目選択について解説します。

科目選択の仕組みと科目別出題範囲

税理士試験は科目合格制となっていて、試験に合格するには【会計2科目】+【税法3科目】の計5科目の合格が必要となります。

会計科目の「簿記論」「財務諸表論」は必須科目です。一方、税法科目は各自が選んで受験します。

法人税法または所得税法はいずれかの合格が必須(選択必須)で、その他の税法科目とあわせて3科目の合格を目指します。

▼税理士試験の科目

必須科目
2科目とも合格が必要
会計科目簿記論、財務諸表論
選択必須科目
どちらか1科目以上合格が必要
税法科目法人税法、所得税法
選択科目
残りの科目から選び、合計で5科目になることが必要
相続税法、消費税法または酒税法、国税徴収法、住民税または事業税、固定資産税

▼令和6年度税理士試験の科目別合格率と出題範囲

科目区分科目名合格率出題範囲
必須科目簿記論17.4%複式簿記の原理、その記帳・計算及び帳簿組織、商業簿記のほか工業簿記を含む。ただし、原価計算を除く。
財務諸表論8.0%会計原理、企業会計原則、企業会計の諸基準、会社法中計算等に関する規定、会社計算規則(ただし、特定の事業を行う会社についての特例を除く。)、財務諸表等の用語・様式及び作成方法に関する規則、連結財務諸表の用語・様式及び作成方法に関する規則
選択必須科目所得税法12.6%当該科目に係る法令に関する事項のほか、租税特別措置法、国税通則法など当該科目に関連する他の法令に定める関係事項を含む。
法人税法16.4%
選択科目相続税法18.7%
消費税法/酒税法10.3%12.1%
国税徴収法13.0%
住民税/事業税18.2%13.7%当該科目に係る地方税法、同施行令、施行規則に関する事項のほか、地方税法総則に定める関係事項及び当該科目に関連する他の法令に定める関係事項を含む。
固定資産税18.0%
【参考】国税庁「令和6年度(第74回)税理士試験結果表(科目別)」

【必須・選択必須・選択】税理士試験の科目選択

税理士試験の選択必須科目と選択科目では法人税法、相続税法、消費税法を選択する人が多い傾向です。

必須科目とあわせると、簿・財・法・相・消の5科目となります。

なぜこの5科目で受験する人が多いかというと、税理士になってから実務で特に役立つからです。

ここからは、選択科目を選ぶ前に知っておきたい「法人税法と所得税法はどちらを選ぶか」と「科目のボリュームと難易度の関係」の2点について解説します。

法人税法と所得税法はどちらを選ぶ?

選択必須科目の法人税法と所得税法ですが、受験者数を見ると法人税法を選択する受験生が圧倒的に多い傾向です。

実際に税理士として働く場合、多くの税理士事務所や会計事務所で、法人税法の知識が必須とされています。

どのような企業や事務所に就職するとしても、法人税と消費税の知識は日々必要となるでしょう。

そのため、毎年法人税法を選択する人のほうが多いのです。

科目選択の基本的な考え方について、こちらの記事でも解説しています。

科目のボリュームは科目選択で考慮すべき?

税理士試験の対策には多くの学習が必要です。受験生の中には「ボリュームが少ない科目を選択したほうが効率よく対策できるのでは?」と考える人もいるのではないでしょうか。

しかし、税理士試験は事実上、相対試験です。例年どの科目も合格率はおおむね1割程度のため、「上位1割に入れるかどうか」で考えると学習ボリュームはあまり関係ないと言えます。

つまり、税理士試験において、「学習ボリュームの多少」と「科目の難易度」は単純に直結しているわけではないのです。

こちらの記事でさらに詳しく解説しています。

独学でも効率的に学べた
\スタディング 合格者インタビュー/

税理士試験の各科目の性質と出題傾向

続いて、税理士試験の各科目の性質と出題傾向を解説しています。

選択する人が多い科目については、科目ごとの記事で詳しく解説していますので、そちらも参考にしてみてください。

【必須】簿記論

簿記論では、複式簿記の原理や記帳・計算などについて、ほとんどが計算問題の形式で出題されます。

学問的な内容も、実務的な内容も出題があり、総合的に見て非常にボリュームが多い科目です。

過去には減価償却(第63回)などの基本的な問題から、予測していなかった退職者があった場合のストック・オプションを発行した側における処理(第65回)などといった発展的な問題まで、幅広く出題がされています。

【必須】財務諸表論

財務諸表論は全体の合格率は簿記論と比べて若干高めですが、公認会計士試験と異なり理論問題だけではなく計算問題も出されるため、手を抜くことができません。

理論問題では、企業結合会計に関する規定の穴埋め問題(第58回)や、評価性引当金と減価償却累計額との類似点や相違点(第60回)など、財務に関する深い理解を問う問題が出題されています。また、ストック・オプション(第64回)など比較的新しい制度からの出題も見られます。

計算問題では、貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書(第66回)、注記事項を含めた計算書類等(第65回)などの作成が出題されています。

試験時間が非常にタイトなため、資料を正確かつ横断的に読み取ることが何よりも求められています。

【選択必須】法人税法

法人税法は標準的な学習時間として600時間を要するウェイトの大きい科目です。

同時に、22条の所得の計算絡みの問題(第66回)を筆頭に、受験生の誰もが一定程度のレベルで抑えてくる重要問題が多く、比較的ミスが許されない試験です。

【選択必須】所得税法

所得税法は条文の数がとにかく多く、法人税法に劣らないほどの勉強量を要します。

出題は「事業所得と雑所得の所得区分の違い」(第64回)など、抽象的な出題がされることもあり、かなり深いレベルの理解を問われることになります。

【選択】相続税法

相続税法は条文数こそ少ないものの、理論が難解で覚えにくい上、計算方法も異なる相続税と贈与税という2つの税目を勉強しなければならないことから(1科目2税目)、実質的な難易度は選択必須科目の法人税法や所得税法と大差ないともいわれています。

もっとも、相続実務は今後も相談件数は多く見込まれ、開業後も高収入につながりやすいことから、人気のある科目でもあります。

【選択】消費税法

消費税法は上記科目に比べると、難易度は高くないと言われています。

理論問題では「課税資産の譲渡等」「課税資産の譲渡等の対価の額」(第63回)、計算問題では消費税の納付税額又は還付税額の計算(第66回)などの基本的事項の出題もあります。

もっとも、受験生の数が他の科目と比べても圧倒的に多く、その分実力のあるライバルが多いため、比較的ミスが許されにくいということに留意する必要があります。

【選択】酒税法

酒税法は暗記量も少なく、短期集中で合格したいという人が多く受験します。

また、アルコールの性質や特徴から酒類を判定するなどのユニークな出題があり、お酒が好きな人にとっては勉強が楽しいことも特徴の1つです。

出題も輸出免税の趣旨、要件、手続(第64回)など、基本的事項が多いです。

【選択】国税徴収法

国税徴収法は計算の要素が少なく、理論主体の出題がされます。

そのため計算が苦手な方の選択が多いですが、こうした方はその分理論問題が得意なので、かえって合格へのハードルは高い傾向にあります。

また、前提として民法の知識を要するため、1000条以上ある民法の規定から合格に必要な知識を選り分ける必要があり、その作業には一定の法的センスを要します。

【選択】住民税

住民税は受験生が最も少ない科目です。

所得税の基礎知識があれば、学習がより効率的に進みます。

もっとも実際の試験では、税額の算出過程における所得税の取扱いとの差異などを意識した出題(第65回)がされるので、所得税との相違点を意識した学習が必要になります。

【選択】事業税

事業税は消去法的に選択されることも多い科目ですが、決して簡単ではありません。

法人税の知識があれば用語の理解の助けになりますが、実際の試験では、税額の算定(標準税率、制限税率)や手続規定の理解を問う問題など、幅広い出題がされます。

また、特に理論問題においては大量の記述量を要求されます。

そのため記憶力や文章表現力以前の問題として、文字を書くスピードが遅い方にとっては苦しい選択になります。

【選択】固定資産税

固定資産税はボリュームが少ないことから受験生に人気の科目です。

実際の出題も、固定資産税の課税客体となる償却資産の範囲及びその評価方法(第66回)、家屋に係る固定資産税の賦課及び徴収、納期限に完納しない場合の督促及び滞納処分の内容(第63回)などについて、理解を伴った条文の暗記が出来ていれば得点が取れます。

もっとも、特に計算問題でほとんど満点近くが合格のボーダーとなるため、ミスの許されない科目という意味で難易度は高いといえます。

まとめ

今回は、税理士試験の出題範囲と科目選択についてご紹介しました。

  • 税理士試験に合格するには会計2科目と税法3科目の計5科目の合格が必要
  • 必須科目の簿記論・財務諸表論に加え法人税法、相続税法、消費税法を選ぶ人が多い
  • 法人税法を選ぶ人が多いのは実務で必須となる場合が多いことが理由
  • 税理士試験は実質相対試験のため学習ボリュームの少ない科目が簡単というわけではない

税理士試験対策をするにあたって、受験科目の検討は非常に重要です。ご自分が税理士としてどんなキャリアを歩んでいきたいか、そのためにどの科目を学ぶ必要があるかをぜひ考えてみてください。

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