税理士試験の出題範囲と、どのような科目を選択すべきかを教えてください。 | |
税理士試験の出題範囲は膨大で合格率も科目ごとに差があります。科目によっては勉強量が比較的少なくて済むものもありますが、税理士となって実務に出たときのことを考えて、将来性を視野に入れた試験科目を選び取ることが大事です。 |
税理士試験の科目別出題範囲と、令和4年度(2022年度)の科目別合格率を表にまとめました。
科目区分 |
科目名 |
令和4年度合格率 |
出題範囲 |
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必須科目 |
簿記論 |
23.0% |
複式簿記の原理、その記帳・計算及び帳簿組織、 |
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財務諸表論 |
14.8% |
会計原理、企業会計原則、企業会計の諸基準、会社法中計算等に関する規定、 |
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選択必須科目 |
所得税法 |
14.1% |
当該科目に係る法令に関する事項のほか、 |
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法人税法 |
12.3% |
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選択科目 |
相続税法 |
14.2% |
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消費税法/酒税法 |
11.4% |
13.2% |
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国税徴収法 |
13.8% |
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住民税/事業税 |
17.2% |
14.1% |
当該科目に係る地方税法、同施行令、施行規則に関する事項のほか、 |
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固定資産税 |
18.4% |
それでは、実際の税理士試験でどのような出題傾向になっているか、出題範囲の区分ごとに見ていきましょう。
必須科目では、簿記論、財務諸表論の2科目どちらも必ず合格しなければなりません。
簿記論では、複式簿記の原理や記帳・計算などについて、ほとんどが計算問題の形式で出題されます。
学問的な内容も、実務的な内容も出題があり、総合的に見て非常にボリュームが多い科目です。
過去には減価償却(第63回)などの基本的な問題から、予測していなかった退職者があった場合のストック・オプションを発行した側における処理(第65回)などといった発展的な問題まで、幅広く出題がされています。
財務諸表論は全体の合格率は簿記論と比べて若干高めですが、公認会計士試験と異なり理論問題だけではなく計算問題も出されるため、手を抜くことができません。
理論問題では、企業結合会計に関する規定の穴埋め問題(第58回)や、評価性引当金と減価償却累計額との類似点や相違点(第60回)など、財務に関する深い理解を問う問題が出題されています。また、ストック・オプション(第64回)など比較的新しい制度からの出題も見られます。
計算問題では、貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書(第66回)、注記事項を含めた計算書類等(第65回)などの作成が出題されています。
試験時間が非常にタイトなため、資料を正確かつ横断的に読み取ることが何よりも求められています。
選択必須科目は、法人税法又は所得税法のいずれかを必ず受験し合格しなければなりません。
法人税法は標準的な学習時間として600時間を要するウェイトの大きい科目です。同時に、22条の所得の計算絡みの問題(第66回)を筆頭に、受験生の誰もが一定程度のレベルで抑えてくる重要問題が多く、比較的ミスが許されない試験です。
所得税法は条文の数がとにかく多く、法人税法に劣らないほどの勉強量を要します。出題は「事業所得と雑所得の所得区分の違い」(第64回)など、抽象的な出題がされることもあり、かなり深いレベルの理解を問われることになります。
7科目のうち消費税法と酒税法、住民税法と事業税はどちらか1科目しか選択できません。
相続税法は条文数こそ少ないものの、理論が難解で覚えにくい上、計算方法も異なる相続税と贈与税という2つの税目を勉強しなければならないことから(1科目2税目)、実質的な難易度は選択必須科目の法人税法や所得税法と大差ないともいわれています。
もっとも、相続実務は今後も相談件数は多く見込まれ、開業後も高収入につながりやすいことから、人気のある科目でもあります。
消費税法は上記科目に比べると、難易度は高くないと言われています。理論問題では「課税資産の譲渡等」「課税資産の譲渡等の対価の額」(第63回)、計算問題では消費税の納付税額又は還付税額の計算(第66回)などの基本的事項の出題もあります。もっとも、受験生の数が他の科目と比べても圧倒的に多く、その分実力のあるライバルが多いため、比較的ミスが許されにくいということに留意する必要があります。
酒税法は暗記量も少なく、短期集中で合格したいという人が多く受験します。また、アルコールの性質や特徴から酒類を判定するなどのユニークな出題があり、お酒が好きな人にとっては勉強が楽しいことも特徴の1つです。出題も輸出免税の趣旨、要件、手続(第64回)など、基本的事項が多いです。
国税徴収法は計算の要素が少なく、理論主体の出題がされます。そのため計算が苦手な方の選択が多いですが、こうした方はその分理論問題が得意なので、かえって合格へのハードルは高い傾向にあります。また、前提として民法の知識を要するため、1000条以上ある民法の規定から合格に必要な知識を選り分ける必要があり、その作業には一定の法的センスを要します。
住民税は受験生が最も少ない科目です。所得税の基礎知識があれば、学習がより効率的に進みます。もっとも実際の試験では、税額の算出過程における所得税の取扱いとの差異などを意識した出題(第65回)がされるので、所得税との相違点を意識した学習が必要になります。
事業税は消去法的に選択されることも多い科目ですが、決して簡単ではありません。法人税の知識があれば用語の理解の助けになりますが、実際の試験では、税額の算定(標準税率、制限税率)や手続規定の理解を問う問題など、幅広い出題がされます。また、特に理論問題においては大量の記述量を要求されます。そのため記憶力や文章表現力以前の問題として、文字を書くスピードが遅い方にとっては苦しい選択になります。
固定資産税はボリュームが少ないことから受験生に人気の科目です。実際の出題も、固定資産税の課税客体となる償却資産の範囲及びその評価方法(第66回)、家屋に係る固定資産税の賦課及び徴収、納期限に完納しない場合の督促及び滞納処分の内容(第63回)などについて、理解を伴った条文の暗記が出来ていれば得点が取れます。もっとも、特に計算問題でほとんど満点近くが合格のボーダーとなるため、ミスの許されない科目という意味で難易度は高いといえます。
科目別合格率をデータとして見てしまうと、合格率の高い科目を選択したくなってしまうのは、受験生心理としては理解できる部分もあります。また、スタンダードな選び方として、選択必修科目では法人税法を、選択科目では相続税法と消費税法を選ぶことも一般的ではあります。
しかし、科目別合格率はあくまで受験生全体のデータであり、1人の受験生であるあなたにとっての合格率とイコールではありません。その意味で、全体合格率で受験科目を選ぶことは、実はあまり合理的な選択とはいえないことになります。
受験生の多くは将来を見据え、今後自身の目指す税理士の実務において需要のある、あるいは役に立つ科目を選択をしています。
重要なのは、どのような税理士としてどのような仕事をしたいのか、きちんと仕事をもらえる税理士になるために何が必要かという視点を持つことです。そのような観点から、受験科目を選択することを強くおすすめします。