税理士になる(税理士登録を行う)ための要件は、基本的には「税理士となる資格」+「実務経験」です。
このうち「税理士となる資格」を得るには、いくつかのルートがあります。
(1)【試験合格(5科目)】+【実務経験】
(2)【大学院+試験合格(一部免除)】+【実務経験】
(3)弁護士・公認会計士
(4)税務署で23年以上勤務
社会人が税理士になるには、(1)税理士試験合格(5科目)ルートがもっとも一般的で、近年は(2)大学院ルートもよく利用されるようになってきました。
今回は、この2つのルートについて解説します。
社会人が税理士になるルートとしてメジャーなのが、【試験合格(5科目)】+【実務経験】の組み合わせで要件をクリアする方法です。
税理士試験は科目合格制となっていて、試験に合格するには会計2科目+税法3科目の計5科目の合格が必要となります。
▼税理士試験の科目
必須科目
2科目とも合格が必要 |
会計科目 | 簿記論、財務諸表論
※まとめて「簿財(ぼざい)」と呼ばれる |
選択必須科目
どちらか1科目以上合格が必要 |
税法科目 | 法人税法、所得税法 |
選択科目
残りの科目から選び、合計で5科目になることが必要 |
相続税法、消費税法または酒税法、国税徴収法、住民税または事業税、固定資産税 |
1回の受験で、5科目すべてに合格する必要はありません。科目単位の受験も可能で、1年に1科目のみでも受けることができます。
一度合格した科目は生涯有効なので、何年でも受験にチャレンジでき、自分のペースで試験合格を目指せることが特徴です。
科目ごとの合格率は、年度によりばらつきがありますが10〜20%程度で推移しています。5科目合格を達成するには、早い人で2年、一般的には3~5年が目安です。
【あわせて読みたい】税理士試験の難易度・合格率は?
(1)に近い形として、【大学院+試験合格(一部免除)】+【実務経験】の組み合わせで税理士になる人もいます。
税理士試験は原則として5科目の合格が必要ですが、大学院出身者を対象に一部科目を免除する制度があります。
この大学院ルートの場合、たとえば税法科目で一部免除が認められると、3科目中1科目だけ合格すればいいことになります。
大学院での研究は決して楽なものではありませんが、科目合格率が10〜20%程度とそれほど高くはないことを考えると、最大2科目の受験を回避して試験合格に近づける点には一定のメリットがあると言えます。
このため、すでに大学院を卒業した人だけでなく、科目免除を目的に新たに大学院に進学し、税理士を目指す人もいます。
税理士試験の免除については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【あわせて読みたい】税理士試験が免除されるって本当?免除の条件を分かりやすく解説
(1)と(2)のルートには、(通算)2年以上の実務経験も必要だと述べました。
実務経験は、税務官公署(税務署や市役所の財務課など)での勤務のほか、一般企業での規定業務も含まれます。
税理士を目指す社会人は、税理士事務所で働きながら受験勉強に励むケースも多いでしょう。
実務経験となる具体的な業務内容や、税理士となる資格を得るルートの「(3)弁護士・公認会計士」「(4)税務署で23年以上勤務」については、こちらの記事で解説しています。
【あわせて読みたい】税理士資格を取得する方法は?受験資格の要件緩和でチャンスが拡大!
社会人が税理士になるための(1)〜(4)のルートのうち、(1)税理士試験合格(5科目)ルートや(2)大学院ルートでは税理士試験を受験することになります。
試験を受けるには、まずは受験資格の要件を満たす必要があります。令和5年度(2023年度)から大幅な変更が加わっているので、変更点を中心に解説します。
▼税理士試験の受験資格(令和5年度〜)
【参考・画像引用】日本税理士会連合会「税理士試験の受験資格要件の緩和」
税理士試験は、令和4年税理士法改正により、令和5年度(2023年度)試験から受験資格の要件が大幅に緩和されています。ポイントは2つです。
▼(1)会計科目は誰でも受験可能に
前述のとおり、税理士試験は「会計科目」と「税法科目」で構成されていますが、令和5年度からは「会計科目」の受験資格要件が撤廃され、誰でも受験可能になりました。
▼(2)税法科目の「学識」の対象者を拡大
一方、税法科目は、改正前と同じく受験資格が設けられています。
「学識」「資格」「職歴」の3つの区分のうち、いずれか1つの要件を満たせば受験資格を得られるのですが、令和5年度からは「学識」の対象者が拡大されました。
これまでは「法律学又は経済学」に属する科目を少なくとも1科目は履修しなくてはなりませんでしたが、今回の要件緩和で「社会科学(※)」の履修まで範囲が広がりました。
※法律や経済に加えて、政治、経営、教育、情報なども含む。
税法科目の受験資格の「資格」においては、日商簿記1級合格者や全経簿記上級合格者などは要件を満たしています。
また、税法科目の受験資格の「職歴」を利用できるのは一定の会計・法律事務の経験者で、通算2年以上の従事が求められます。
受験資格に関する詳しい情報や、受験資格がない場合にどうすればいいかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
【あわせて読みたい】税理士試験の受験資格を分かりやすく解説
結論から述べると、社会人が働きながら税理士試験に合格することは可能です。
「スタディング 税理士講座」の受講生からも、仕事や家庭と両立しながら官報合格や科目合格を果たしたという声が多く寄せられています。
職種が経理であることもあり、日商簿記1級・全経簿記上級を取得したことを契機に税理士試験の受験を思い立ってから今日この日まで6年かかりましたが、これまでの努力が報われ、うれしく思います すでに50歳を超えている身としては大量の条文の暗記はかなりしんどいものがありましたが、スタディングの暗記ツールがうってつけで、3日で1回転するペースで暗記の精度を高めました。
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仕事と乳幼児2人の育児を抱えており、なかなかまとまった時間を確保することは難しい環境下にありました。 机に向かうことが難しい日々が続いても、通勤や、子どもの寝かしつけ時間などを活用して、着々と勉強を進めることができました。 理論は、初見時は覚えられる気が全くしなかったのですが、スタディングの教材で音声を毎日聞いていると、不思議と頭の中で再生されるようになり定着しました。紙のテキストだけで勉強するよりも圧倒的によかった点です。
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私は業務量が多く、残業時間は多い方かと思います。土日は家族との時間を大切にしたいので、勉強は朝の2時間程度しか確保できませんでしたが、試験に合格することができました。 時間を確保できない私にとって、スタディングは勉強範囲を絞ってくれる点が最大の魅力でした。
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では、社会人が税理士になるには、どのようなスケジュールで受験すればいいのでしょうか。
ここからは、税理士試験に短期合格したい社会人に向けて、具体的な受験プランを紹介します。
受験に専念するのではなく、働きながら勉強して2年半や3年という短い期間で5科目合格を目指すプランです。
また、近年注目されている大学院ルートにおいて、科目免除のために大学院に進学することも含めた受験プランも紹介します。
受験プランの前提として、科目別の勉強時間について知っておきましょう。
税理士試験は科目によって学習のボリュームが異なります。
各科目で必要とされる勉強時間は、一般的に以下の表のように言われていますが、あくまでも目安であり確固たる基準ではありません。
▼税理士試験の科目別合格率・勉強時間
科目 | 合格率
令和4年度 |
配点(例年) | 勉強時間(目安) | ||
理論 | 計算 | ||||
必須 | 簿記論 | 23.0% | 0% | 100% | 450時間 |
財務諸表論 | 14.8% | 50% | 50% | 450時間 | |
選択必須 | 所得税法 | 14.1% | 50% | 50% | 650時間 |
法人税法 | 12.3% | 50% | 50% | 650時間 | |
選択 | 相続税法 | 14.2% | 50% | 50% | 450時間 |
消費税法 | 11.4% | 50% | 50% | 300時間 | |
酒税法 | 13.2% | 40% | 60% | 150時間 | |
国税徴収法 | 13.8% | 0% | 100% | 150時間 | |
住民税 | 17.2% | 50% | 50% | 200時間 | |
事業税 | 14.1% | 50% | 50% | 200時間 | |
固定資産税 | 18.4% | 50% | 50% | 250時間 |
1年目:相続税法(450時間)or 国税徴収法(150時間)
2年目:簿記論(450時間)+財務諸表論(450時間)
3年目:法人税法(600時間)+相続税法(450時間)or 国税徴収法(150時間)
学習開始年に多くの学習時間が取れない方におすすめのプランです。
1年目は比較的学習量が多くない税法科目から始め、2年目は簿財2科目、3年目は残りの税法2科目を取得し、2年半での合格を目指します。
1年目:簿記論(450時間)+財務諸表論(450時間)
2年目:法人税法(600時間)
3年目:相続税法(450時間)+国税徴収法(150時間)
毎年安定した学習時間を確保できる方におすすめのプランです。
必須科目である簿財2科目からスタートし、2年目以降で税法3科目をそろえていきます。
5科目合格を目指す受験プランの立て方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【あわせて読みたい】税理士試験の勉強時間・勉強法は?2〜3年で合格する受験プラン
1年目:簿記論(450時間)+財務諸表論(450時間)
2年目:税法1科目(150〜600時間)+大学院受験
3〜4年目:大学院
大学院に進学して税法科目で科目免除を受ける方向けのプランです(受験は簿財2科目と税法1科目のみ)。
1年目は必須科目である簿財に取り組み、学習の土台ができたところで、2年目から税法を上積みしていきます。
3年目以降は大学院で研究をすることになりますが、代わりに最大で2科目の免除を受けられます。
なお、税法1科目を受験するタイミングは大学院修了後でもOKです。
次に、科目の選び方の注意点やコツについて解説します。
税理士試験の勉強を始めたばかりの人は、つい国税徴収法(目安150時間)などの勉強時間が少ない科目を選びがちですが、これには注意が必要です。
こうした科目には「勉強時間が短くて済む科目のほうが楽そう」と考えた受験生が集まりやすいからです。
税理士試験の合格基準は各科目とも「満点の60%」となっていますが、実質的には相対評価による競争試験で、上位10〜15%程度の受験者しか合格できません。
勉強時間が少なくて済む科目は、他の受験生たちもしっかり勉強してくるため、とりこぼしが許されないというリスクがあります。
そのため、必ずしも「勉強時間が少ない科目が狙い目」とは言えないのです。
科目選択のコツは、勉強時間よりも税理士になってから役立つかどうかを考えることです。
選択した科目は、税理士になってからの専門分野となります。
一般に、税法は法人税・相続税・消費税の組み合わせを選択する人が多い傾向にあります。
これは、受験時の学習のボリュームと、実用性のバランスがよいからです。
特に独立を目指す人は、選択必須科目(法人税法と所得税法)で法人税法を選択するとよいでしょう。
法人税が専門の税理士になれれば、顧客も法人が中心となります。
法人との顧問契約が増えれば、報酬が高額となり事務所の運営を安定させやすくなります。
【あわせて読みたい】税理士試験の科目選択をどうするか|簡単な科目は何?
【あわせて読みたい】税理士の受験科目選択はどのように選べば良いか?
前述のとおり、税理士試験は、出題範囲が広く難解で、合格までに何年もかかる試験です。
しかし、社会人でも勉強のコツをつかめば短期合格を目指すことはできます。
ここからは、税理士試験に短期合格したい社会人の方に向けて、勉強方法のコツを解説します。
仕事にプライベートに忙しい社会人が、税理士試験の合格を目指す場合、勉強時間の確保が大きなハードルとなります。
たしかに、机に向かって問題集やノートを開くことだけが勉強なのであれば、毎日のように時間を確保するのは難しいでしょう。
もちろん、合格するには机に向かっての勉強が必要となります。
しかし、わざわざ机に向かわなくても、スキマ時間を使ってできる勉強方法もあるのです。
例えば、理論の理解や暗記、ちょっとした計算問題や解法の確認などであれば、短い時間で場所を問わずに行えます。
こうしたスキマ時間でできる勉強は、通勤中などに済ませてしまえば、時間を有効活用できます。
そうすれば、忙しい社会人でも勉強を継続しやすくなるでしょう。
税理士試験は、試験の出題範囲が非常に広く、必要な知識量も膨大です。
しかも、制限時間内にすべてを解ききれないほど、多くの問題が出題されます。
そのため、試験本番では知識の幅広さよりも、限られた時間で正確に計算するスキルや、理論を使って的確に解答するスキルが求められます。
やみくもにすべての範囲を勉強をするよりも、合格に必要な範囲を狭く濃く勉強し、確実に解けるようになったほうが得点力を上げられるでしょう。
また、問題は一度解いたら終わりではなく、時間がたってからも解けなければ、知識が身についたとは言えません。
記憶を確実に定着させるためには、復習も重要です。
例えば、学んだ内容に関する問題を解いたら、1週間後、 1カ月後にも、解けるかどうかを確認しましょう。
こうしたサイクルを繰り返すことで、知識が定着していくのです。
どれだけ知識を詰め込んでも、試験本番で問題が解けなければ、意味がありません。
そのため、基本的な知識のインプットは早めに終えて、問題を解く練習をたくさん行うことが重要です。
特に試験の直前には、本番と同じ形式の問題をたくさん解くといいでしょう。
税理士試験は、問題数が非常に多く、知識がある人でも時間内に全問解くのは難しい試験です。
難しい問題や解けない問題は一旦飛ばして、簡単で確実な問題から解いていったほうが、得点を上げられるでしょう。
このような問題を見極める感覚をつかむには、時間を決めて、本番同様の試験問題を解く練習を繰り返す必要があります。
「スタディング 税理士講座」は、上記の3つのコツをカバーした学習ツールです。「スタディング 税理士講座」には
などが用意されているため、忙しい社会人でも効率的に、短期での税理士試験合格を目指せます。
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税理士試験で選ばれやすい科目は、必須の簿財に加えて、税法は法人税法、消費税法、相続税法という組み合わせです。
ここからは、「スタディング 税理士講座」がおすすめする、科目ごとの短期合格を目指せる勉強法を解説します。
簿記論で問われるのは、計算力です。
下記の3つをテーマごとに繰り返した上で、再び問題を解いて、知識と計算力が定着しているかを確認するとよいでしょう。
簿記論は、テキストを読んでいるだけで身につく科目ではありません。
繰り返し計算練習をして、知識と計算力を積み上げていくのが合格への近道です。
【あわせて読みたい】簿記論とは|税理士試験
財務諸表論は、理論学習が重要です。
勉強の進め方で重要なのは、以下の2点です。
理論を先に勉強しようとすると、覚えづらくて苦労するでしょう。
そのため、先に計算で具体的な事例を学んだほうが、「この処理はこういう理由でこう計算するんだ」とイメージできて、覚えやすくなります。
また、一度学んだら終わりではなく、繰り返し学習をして、知識を定着させるのが重要です。
【あわせて読みたい】財務諸表論とは|税理士試験
法人税法では、幅広い理論を正確に理解した上で、素早く計算と集計をできるスキルが必要となります。
理論
計算
上記のように繰り返し練習をして、理論を正確に理解し、計算や集計に関するスキルを積み上げていくのが重要です。
【あわせて読みたい】法人税法とは|税理士試験
消費税法では、理論を正確に理解した上で、素早い計算や解答力が必要となります。
下記の3つをテーマごとに繰り返した上で、再び問題を解いて、知識と計算力が定着しているかを確認するとよいでしょう。
他の税法科目と同様に、理論をしっかりと理解しておけば、計算も解答しやすくなります。
また、さまざまな事例の計算問題にあたっておくと、理論も理解しやすくなるでしょう。
【あわせて読みたい】消費税法とは|税理士試験
相続税法では、幅広い理論を正確に理解した上で、素早く財産評価と集計を行えるスキルが必要となります。
理論
計算
上記のように繰り返し練習をして、理論を正確に理解し、計算や集計に関するスキルを積み上げていくのが重要です。
【あわせて読みたい】相続税法とは|税理士試験
最後に、税理士を目指している社会人の方からよくある質問について、解説をしていきます。
雇用される税理士の年収については、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」から推計できます(なお同調査では、税理士と公認会計士が1つの職種としてまとめられています)。
令和3年(2021年)のデータによると、雇用されて働く税理士の平均年収は、623万5,400円(44.9歳、勤続年数7.6年)です。
また、日本税理士会連合会が、2014年(平成26年)に実施した「第6回税理士実態調査報告書」によると、税理士の平均年収(総所得/給与収入)については、下記のような調査結果がでています。
開業税理士 | 744万円 |
社員税理士(※1) | 886万円 |
補助税理士(※2) | 597万円 |
※1:社員税理士:一般企業における「役員」に相当するポジション。会社員のように「雇用されている」という意味ではない。
※2:補助税理士:現在は「所属税理士」に名称変更されている。
【あわせて読みたい】税理士の年収はどのくらい?
国税庁が公開している「令和4年度(第72回)税理士試験結果」を見ると、受験者の年齢分布は以下のようになっています。
▼令和4年度(2022年度)税理士試験の受験者の年齢構成
年齢 | 受験者数 |
41歳以上 | 10,805人 |
36〜40歳 | 4,407人 |
31〜35歳 | 4,581人 |
26〜30歳 | 4,131人 |
25歳以下 | 4,929人 |
受験者の年齢層は20〜40代と幅広いですが、最も多いのは41歳以上です。
【あわせて読みたい】税理士試験とは?資格試験概要と科目合格制度の活用方法教えます
今回は、社会人が税理士になる方法、受験資格、短期合格を実現する受験プランや勉強法について解説してきました。
税理士試験は簡単ではありませんが、勉強の進め方を工夫すれば、忙しい社会人でも短期合格を目指すことは可能です。
ぜひ自分に合った勉強方法や、学習ツールなどを探してみてください。