税理士の独占業務とは何か?税理士以外が行うと税理士法に引っかかる?

税理士の独占業務とは何か?税理士以外が行うと税理士法に引っかかる?

税理士には「税務書類の作成」「税務代理」「税務相談」という3つの独占業務があります。

この記事では税理士の独占業務に加えて「税理士以外が独占業務を行うとどうなるのか?」「税理士と同じく独占業務を持つ資格、社労士(社会保険労務士)の違いとは?」という疑問に答えていきます。

税理士の独占業務とは?

税理士の仕事が「税務の専門家」であることは、税理士法 第一条によって定められています。

税理士法 第一条(税理士の使命)
税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
(e-Gov 税理士法 *1より)

しかしこれだけでは、納税義務者の信頼にこたえるとはどういうことなのか、納税義務の適正な実現はどのように達成されるのか、イメージをつかみにくいですよね。そこで税理士法 第二条が、税理士の具体的な業務内容を列挙しています。

税理士法 第二条(税理士の業務)
税理士は、他人の求めに応じ、租税(印紙税、登録免許税、関税、法定外普通税(地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第十条の四第二項に規定する道府県法定外普通税及び市町村法定外普通税をいう。)、法定外目的税(同項に規定する法定外目的税をいう。)その他の政令で定めるものを除く。第四十九条の二第二項第十一号を除き、以下同じ。)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 税務代理(税務官公署(税関官署を除くものとし、国税不服審判所を含むものとする。以下同じ。)に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法(平成二十六年法律第六十八号)の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立て(これらに準ずるものとして政令で定める行為を含むものとし、酒税法(昭和二十八年法律第六号)第二章の規定に係る申告、申請及び審査請求を除くものとする。以下「申告等」という。)につき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること(次号の税務書類の作成にとどまるものを除く。)をいう。)
二 税務書類の作成(税務官公署に対する申告等に係る申告書、申請書、請求書、不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき、作成し、かつ、税務官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下同じ。)で財務省令で定めるもの(以下「申告書等」という。)を作成することをいう。)
三 税務相談(税務官公署に対する申告等、第一号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等(国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)第二条第六号イからヘまでに掲げる事項及び地方税(森林環境税及び特別法人事業税を含む。以下同じ。)に係るこれらに相当するものをいう。以下同じ。)の計算に関する事項について相談に応ずることをいう。)
(e-Gov 税理士法 *2より)

申請・申告手続の代理

個人や法人などの一般の納税義務者に代わって、税金の申請・申告を行う業務です。
納めるべき税金の種類は住民税、所得税、贈与税、法人税、相続税など対象者によって様々です。しかし一方で税金に関する法令は複雑で、加えて法改正が頻繁に行われます。そのため自分の仕事を抱えている多くの納税義務者にとって、税金の申請・申告を適切に行うことは難しいのです。
そこで税理士が税務の専門知識を活用して、彼ら納税義務者の手続を代行して行うのです。納税者は自らの納税義務を適切に果たすことができ、手続に時間や労力をかけない分、自分の仕事に打ち込むことができるようになります。

税務書類の作成

上記の申請・申告手続の前に、申請書・申告書を作成する必要があります。税理士はこうした税務に関する書面を作成することをも、独占業務として行うことができます。
たとえば毎年2月から3月にかけて行われる確定申告のために、税務署に提出する申告書を税理士が納税義務者に代行して作成することができます。
ほかにも、相続を行った場合には相続税が発生するので、その際に必要とされる相続税申告書を税理士が作成・提出することもできます。

税金に関する税務相談の業務

普段は税務にあまり関わりのない一般の社会人が、突然税務処理を求められるイベントが確定申告です。
確定申告が近づくと、各所で税理士による税務相談会などが開かれます。所得の具体的な算出方法や贈与に関する事柄など、税の様々な相談に応じて適切に指導することが、ここでの税理士の業務内容となります。

税理士の独占業務以外の仕事

税理士の仕事には独占業務以外にもさまざまな業務があります。

主に挙げられる業務は、以下の3つです。

  • 記帳代行
  • コンサルティング業務
  • 金融機関・保険会社との折衝

税理士の独占業務以外の仕事①:記帳代行

記帳とは、収入や支出に関する日々の取引を、仕訳帳や総勘定元帳といった帳簿に記帳する経理業務です。

記帳代行そのものは独占業務ではありませんが、税理士があわせて請け負うケースが多い傾向にあります。

記帳代行サービスを利用する場合、注意したいのは毎年の決算申告です。

決算申告は税理士の独占業務なので、無資格者のみで構成された記帳代行サービスに依頼すると違法となる恐れがあります。

代行を依頼する場合は、業務が独占か否か、税理士がいるのかどうかの確認が必要です。

税理士の独占業務以外の仕事②:コンサルティング業務

税務や経営に関するコンサルティングも税理士の独占業務以外の仕事です。

コンサルティング業務とは、決算書をもとに会社経営や資金作りについて助言することで、具体的には以下のような内容を指します。

  • 決算書や申告書からの経営分析
  • 税務、財務、経営などに関する課題の解決
  • 経営計画や予算作成の支援
  • M&Aについてのアドバイス

独占業務ではありませんが、専門知識を持つ税理士だからこそ可能な高度なコンサルティングは需要があります。

会計ソフトでも代用可能になりつつある事務作業より、コンサルティングに力を入れている税理士も存在しています。

なお、節税コンサルティングは独占業務の税務相談にあたり、資格を持たずに行うと税理士法に抵触するので注意が必要です。

税理士の独占業務以外の仕事③:金融機関・保険会社との折衝

金融機関との折衝や保険代理といった仕事は独占業務ではないので、税理士の資格がなくても従事できます。

▼金融機関との折衝

企業が資金調達のために行うのが、金融機関との折衝です。

金融機関は、企業の業績や財政面の現状を見て融資可能か判断します。

折衝の際、税理士は決算書や経営計画で業績と収益力を提示し、融資を得るための交渉をします。

▼保険代理業務

節税対策として保険契約を紹介する機会があることから、保険代理業務を行う税理士もいます。

保険会社と代理店契約を結び、主に企業経営者に節税となる保険商品を勧めて成約につなげる仕事です。

税理士にとってのメリットは、保険会社から報酬を獲得でき、なおかつ具体的な節税対策として依頼人に商品を提示できることです。

税理士の独占業務を税理士以外が行ったらどうなる?

税理士の資格を持たないまま独占業務を行うと、税理士法違反で罰せられます。

罰則の法的根拠は、税理士法第59条に記載されています。

第五十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 税理士となる資格を有しない者で、日本税理士会連合会に対し、その資格につき虚偽の申請をして税理士名簿に登録させたもの
二 第三十七条の二(第四十八条の十六において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
三 第三十八条(第五十条第二項において準用する場合を含む。)又は第五十四条の規定に違反した者
四 第五十二条の規定に違反した者

【引用】税理士法第59条

違反すると「2年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる」可能性があり、業務の際に報酬を受け取ったかどうかに関係なく適用されます。

税理士とよく似た資格「社労士(社会保険労務士)」とは?

税理士とよく似た資格に、社労士(社会保険労務士)があります。

税理士と社労士は主に給与計算の業務が重なりますが、それぞれの士業にしかできない独占業務を持ちます。

社労士と税理士との業務範囲の違いについて、以下の項目に沿って解説します。

  • 社労士とは
  • 社労士は税理士の独占業務を行うことができない
  • 税理士も社労士の独占業務を行うことができない

社労士とは

社労士(社会保険労務士)は、社会保険労務士法にもとづいた国家資格を持つ人材の専門家で、労務管理や社会保険に関する指導を行います。

労働や公的年金の分野で唯一の国家資格で、需要の高い職業といえるでしょう。

社労士は、主に以下のような業務を行います。

  • 労働社会保険の手続き業務
  • 労務管理の相談指導業務
  • 年金相談業務
  • 紛争解決手続代理業務
  • 補佐人の業務

人事のスペシャリストである社労士は、従業員の採用から退職までに生じる社会保険等の手続きや諸問題に応じる専門家で、業務は広範囲にわたります。

事業の健全な発展と労働者への適切な待遇、福祉の向上に貢献するのが社労士の仕事です。

社労士は税理士の独占業務を行うことができない

社労士は、税理士の独占業務を行えません。

社労士と税理士の業務が重なるのは給与計算であり、両者ができる業務をまとめると以下のとおりです。

給与計算に関わる業務
業務可能な士業
給与計算の代行税理士・社労士
労働保険の申告・月額変更届の提出社労士(独占業務)
年末調整税理士(独占業務)

社労士は給与計算や社会保険等の手続きを行えますが、年末調整は税理士の独占業務にあたり、社労士が行えば税理士法違反です。

たとえ社労士が無償サービスで年末調整をしても、違法行為となる可能性があります。

社会保険等の手続きは社労士へ、年末調整は税理士に依頼して、業務と依頼者を明確に区別しましょう。

税理士も社労士の独占業務を行うことができない

税理士も、社労士の独占業務を行ってはなりません。

社労士には社会保険労務士法第2条1号・2号・3号の業務があり、3号は独占業務ではないので注意が必要です。

業務区分
独占業務か否か
社労士の業務内容
1号業務独占業務

(ただし無償であれば無資格者でも遂行可能)

・法にもとづいた申請書の作成

・作成した書類の提出代行業務

・委託により行政機関等への提出・主張・陳述を行う事務代理

2号業務独占業務

(ただし無償であれば無資格者でも遂行可能)

法にもとづいた帳簿書類等の作成3号業務‐労務関係のコンサルタント業務

「労働・社会保険関連法にもとづく手続きの代行」「帳簿作成に必要な労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の作成代行」といった業務は、社労士の独占業務のため税理士は行えません。

【あわせて読みたい】税理士の仕事内容はどんなもの?

まとめ

最後に、今回取り上げた税理士の独占業務をおさらいしましょう。

  • 税理士の独占業務は「税務書類の作成」「税務代理」「税務相談」の3つである
  • 「記帳代行」「コンサルティング業務」「金融機関との折衝や保険代理」は税理士資格がなくてもできる
  • 独占業務を税理士以外が行うと、2年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる可能性がある
  • 社労士は、税理士の独占業務「年末調整代行」ができない
  • 税理士は、社労士の独占業務「労働・社会保険関連法にもとづく手続きの代行」ができない

税務の専門家である税理士は、独占業務がある将来性の高い職業です。

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