日本税理士会連合会が2014年(平成26年)に発表した「第6回税理士実態調査報告書」によると、開業税理士の年間の総所得金額(平均)は744万円となっています。
税理士登録の区分ごとの金額は下記のとおりです。
登録区分 | 年間総所得額の平均(※1) |
開業税理士 | 744万円 |
社員税理士(※2) | 886万円 |
補助税理士(※3) | 597万円 |
※1:社員税理士と補助税理士は給与収入金額。
※2:社員税理士とは、税理士法人の役員に相当する税理士。
※3:補助税理士とは、税理士法人や税理士事務所に勤務して税理士業務を行う税理士。現在は「所属税理士」に名称が変更されている。
上記はいずれも、民間給与所得者の平均である420万円(国税庁「平成27年分民間給与実態統計調査」)を大きく上回っており、開業税理士は1.8倍程度となっています。
開業税理士について、年収ごとの分布を見てみましょう。
年間総所得 | 開業税理士 |
300万円以下 | 31.4% |
500万円以下 | 16.7% |
700万円以下 | 12.0% |
1,000万円以下 | 13.5% |
1,500万円以下 | 11.0% |
2,000万円以下 | 5.0% |
3,000万円以下 | 3.4% |
5,000万円以下 | 1.5% |
5,000万円以上 | 0.5% |
無記入 | 5.0% |
開業税理士のうち、年間総所得が1,000万円を超える人は全体の2割程度となっています。
前述のとおり、独立開業すれば努力次第で1,000万円を超える高収入を得ることができます。
一方で、独立開業は必ずうまくいくとは限りません。失敗の主な例としては、以下の3つが考えられます。
このような失敗をしないためにはどうすればいいのか、解説します。
まず、営業や集客がうまくいかないと、独立開業で成功するのは難しいでしょう。
税理士は新規参入が簡単ではないため、効果的な営業や集客をしないと収入を得られません。
新規参入が難しい原因は、税理士と企業が結ぶ長期的な税務顧問契約にあります。契約が結ばれると担当税理士の変更はめったに行われません。
そのため、開業直後は顧客の新規獲得に苦戦を強いられるでしょう。
独立開業で成功するには、顧問料が毎月安定的に得られる顧問契約の獲得が欠かせません。
成果の出る営業や集客活動を模索して、事務所運営を成功させましょう。
価格設定を安くしすぎることも、独立開業が失敗する原因の1つです。
安くすれば受注数を増やせますが、利益率は低下するので十分な収益は得られません。
増収するには業務量を増やさなければならず、営業にかける時間が削られたり、業務に追われて仕事の質が落ち顧客に不満を与えてしまったりと、事務所運営に悪影響が及ぶ可能性もあるでしょう。
事務所を円滑に運営するには、市場に合った適正な価格設定が重要です。
競合他社と比較・分析をして、自身が提供するサービスの価値や品質、顧客ニーズに合わせた価格を設定しましょう。
起こる可能性としてはそう高くないかもしれませんが、顧客から損害賠償請求を受けて事務所の経営状況が悪化するケースも考えられます。
税理士が顧客との契約上で果たすべき義務に違反したり、一般的に要求される程度の注意義務を怠ったりしたことで顧客の損害を生じさせた場合、損害賠償請求を受け、請求額によっては事務所の経営が難しくなる場合があります。
損害賠償請求を受けるリスクを軽減するには、書類の徹底的なチェック、契約書の明確化、保険加入の検討など、常に「もしも」の事態を想定して備えておきましょう。
では、税理士として独立開業するには、具体的にどのようなステップがあるのでしょうか。次の4つの項目に沿って順に解説します。
独立開業に先立ち、まずは税理士になる必要があります。
一般的には【税理士試験に合格】+【実務経験】で税理士になる人が多いです。
税理士試験は科目合格制となっていて、試験に合格するには会計2科目+税法3科目の計5科目の合格が必要となります。
1回の受験で5科目すべてに合格する必要はありません。1年に1科目のみでも受けることができます。
科目ごとの合格率は、科目や年によってばらつきがありますが10〜20%程度で推移していて、5科目合格を達成するには、早い人で2年、一般的には3~5年が目安です。
なお、税理士になるには試験合格の他にもルートがあります(例:弁護士や公認会計士の資格を有する場合、税務署で23年以上勤務した場合など)。
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税理士になるには通算2年以上の実務経験を積んで税理士登録の要件を満たす必要があります。
実務に従事した時期は試験合格前でも後でもかまいません。
実務経験と認められるのは租税に関する事務と会計に関する事務です。
▼租税に関する事務
企業や税務署、その他の官公署の税務です。
書類作成や数値の打ち込みといった知識不要の作業は実務経験とみなされません。
▼会計に関する事務
企業でおこなう会計帳簿の作成や決算手続きといった会計に関する業務です。
合格前の勤務も実務経験とみなされるため、資格試験勉強と並行して働くのが一般的です。
登録時は在籍証明書を求められるので、正規の雇用関係を結んで勤務しましょう。
実務経験を積んだら税理士登録をおこないましょう。
登録には、税理士登録申請書、履歴書、身分証明書などの必要書類をそろえて登録申請をします。
次に税理士会の支部等の調査員により面談を含む調査がおこなわれ、申請書類に関するヒアリングの他、志望動機や業務経験、今後の展望に関して質問される場合があります。
調査が終わると税理士登録が認可され、一般的に2〜3カ月程度で税理士証票や税理士バッジが交付されるでしょう。
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税理士登録後は、すぐに独立開業せず税理士法人や事務所で経験を積むのがおすすめです。
実務を身につけるだけでなく、所長などの仕事ぶりから事務所の運営方法について学んだり、顧客とのコミュニケーション方法や営業の仕方を習得したり、職場外の人脈を積極的に広げたりすることも意識しましょう。
上司の指導を受けながら、将来の独立開業に向けてしっかりと経験を積み、独立開業後に成功するための基盤を作ります。
また、この期間に開業資金をためることも大切です。
事務所開業の必要経費だけでなく、軌道に乗るまでの数カ月分の生活費も備えておくと安心です。
独立開業を目指してこれから受験する人は、独立開業向きの試験科目を選ぶことをおすすめします。
税理士試験の試験科目の概要と、独立開業向きの科目を解説します。
税理士試験では全11科目のうち、必須科目2科目と、選択必須科目1科目以上を含む、合計5科目を選択して受験します。
▼税理士試験の「必須」「選択必須」「選択」
必須科目
2科目とも合格が必要 |
会計科目 | 簿記論、財務諸表論
※まとめて「簿財(ぼざい)」と呼ばれる |
選択必須科目
どちらか1科目以上合格が必要 |
税法科目 | 法人税法、所得税法 |
選択科目
残りの科目から選び、合計で5科目になることが必要 |
相続税法、消費税法または酒税法、国税徴収法、住民税または事業税、固定資産税 |
試験科目を選択する際は、「合格できる」「独立開業時に役立つ」の2つが両立する科目を選びましょう。
独立開業向きで、かつ多くの受験生に選ばれている試験科目の組み合わせは、次のとおりです。
このうち、法人税法、消費税法、相続税法についてさらに解説します。
▼法人税法
選択必須科目(法人税法、所得税法)のうち、独立志向の人は法人税を選択しておくと合格後の仕事に役立つでしょう。
なぜなら、所得税は個人にかかる税金であるのに対し、法人税は企業にかかる税金であり、一般的に法人税を扱う仕事のほうが報酬が高額になり、事務所運営を安定させやすいと言えるからです。
選択必須科目は2科目とも選択することも可能ですが、いずれも税法の全科目の中で学習のボリュームが格段に大きいので、どちらか一方を選択するほうが現実的です。
▼消費税法
消費税法は、商品購入時に消費者に課される身近な税に関する科目です。
先に述べたとおり、独立開業後の安定的な事務所運営には企業の顧問契約が重要であり、企業の会計において消費税に関する知識は必須となります。
なお、消費税法を選択した場合は酒税法は選択できません。
▼相続税法
相続税法は相続税や贈与税に関する科目で、相続にかかわる実務に必要な知識です。
高齢化や平成27年(2015年)の基礎控除額の改正などを背景に相続税を課される人が増えていて、税理士の活躍が求められています。
独立開業した場合、安定収入を得るには企業との顧問契約が重要となりますが、企業オーナーの相続や事業承継を担う際には相続税の知識が必要です。
税理士試験に合格し、実務経験の要件も満たして、晴れて税理士となったあとは、独立に向けて準備を進めていきましょう。
税理士が独立開業前に準備すべき5つのことを解説します。
スムーズな事務所運営のため、しっかりと準備をして開業しましょう。
独立開業すると、新規顧客を自ら獲得しなければなりません。税理士本来の業務だけでなく営業・集客も行う必要があります。
各種分析を行い、ターゲット設定したうえで提供するサービスを決定するなど、マーケティングの基本的な流れを学んでおきましょう。
また、独立開業したことやサービス内容を消費者や同業者に知ってもらうには、一般的に下記の施策が挙げられます。
開業前に資金計画を立てることは非常に重要です。
必要な費用を把握しつつ調達のめどを立て、資金不足に陥るリスクを軽減しましょう。
資金計画は、独立して何をしたいか考え優先順位を付けて割り振りを決めるのがポイントです。
資金に余裕がある場合は、Webサイト制作といった集客に役立つ部分にコストをかけましょう。
開業資金の調達方法は、以下のものが考えられます。
必要金額を把握できたら可能な限り細かく資金計画を立てて、自分に合った方法で資金調達しましょう。
独立開業するには事務所が必要になります。事務所を持つ方法としては、以下の選択肢があります。
▼自宅開業
コストがかからず、家賃の一部を経費計上できるメリットがあります。独立する税理士の多くは自宅開業からスタートしています。
▼レンタルオフィス
デスクやネット環境が整っていて、賃貸事務所よりも初期投資や維持費を抑えて開業できます。駅前にある場合が多いので、顧客との面談に便利です。
▼賃貸事務所
開設費用が最もかかるのは賃貸事務所で、立地の良い物件ほど高額です。事務所を持っていると顧客の信用を得やすいメリットがあります。
これは独立開業する方に限ったことではありませんが、これから税理士になる人はクラウド会計への対応が必須です。
クラウド会計とはオンラインの会計ソフトのことで、利用者はブラウザやアプリを通じてアクセスし、データ入力や帳票作成をおこないます。
データの共有やバックアップが簡単で会計処理の手間も大幅に削減できるため、多くの企業や個人事業主が導入しています。
クラウド会計の知識を身に付け、顧客に合わせた業務をおこないましょう。
顧客が利用するクラウド会計を理解し、ソフトの導入サポートやアフターフォロー、連携した税務署類の作成ができれば、税理士として重宝されます。
独立開業の準備としてもうひとつ大事なことは、事務所の将来のビジョンを描いておくことです。
「地元企業の支援を中心に取り組みたい」「系列事務所を増やして大規模に事業展開したい」など、目指す姿は税理士によって異なるはずです。
開業前に経営理念や運営方針を明文化しておけば、具体的な行動計画を策定しやすくなります。
長期的な目標を定めたら、中期・短期的な目標に落とし込みましょう。
長期的な目標を達成するには、1年後、3年後、5年後といった各段階でどこまで進めておく必要があるのか、逆算して考えます。
小さなステップに分けて考えることで、まず何をすればいいのかが見えてきます。
税理士の独立開業には、以下の費用がかかります。
1つずつ詳しく見ていきましょう。
まず、新しく税理士になる際は、(1)税理士登録と(2)税理士会への入会・所属に費用がかかります。
(1)は全国一律で11万円です(登録免許税6万円+登録手数料5万円)。
(2)は全国の大きなブロックごとの税理士会と、さらに小さな単位の支部のそれぞれに発生し、金額は税理士会や支部によって異なります。
例えば東京税理士会とその支部に入会する場合、かかる費用は下表のとおりで、初年度に30万円程度、次年度以降は毎年10万〜15万円程度が目安です。
費目 | 金額 | |
登録免許税 | 6万円 | |
登録手数料 | 5万円 | |
東京税理士会 | 入会金 | 4万円 |
会館建設費 | 2万円 | |
年会費 | 8万1,000円
(年度途中の入会は月割で計算) |
|
各支部 | 年会費 | 3万6,000〜6万5,000円
(支部により異なる) |
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東京で事務所を開設する場合、下記の費用が目安です。
▼レンタルオフィス
▼賃貸事務所
PCや周辺機器、会計ソフトの導入費用の目安は以下のとおりで、合計15〜20万円程度です。
顧客獲得のための営業や集客にかかる費用は25万円程度で、以下の経費が考えられます。
Webサイトは自作すればコストが下がり、印刷代は紙質やサイズによって金額が変わります。
可能な部分は工夫して費用を抑えましょう。
資金を確保して周到に準備したら、いよいよ開業です。独立開業には、以下のメリットがあります。
自由に仕事ができてやりがいがあるのは、独立開業の大きなメリットです。
組織から制約を受けず自分の裁量で働けるので、「どのような事務所を目指すのか」を決めてミッションを実現しましょう。
経営が軌道に乗れば契約を結ぶクライアントや引き受ける仕事の種類を選択できるので、高いモチベーションを維持したまま仕事ができます。
生涯現役で、やりがいを優先した働き方ができるのは独立開業の大きな魅力と言えるでしょう。
独立開業のメリットは、努力次第で大きな成果を得られることです。
組織に属する税理士のように勤続年数などに左右されず、実力次第で高い収入を獲得できる可能性があります。
高い収入を得るには、顧客の期待に沿う品質の高いサービスを提供し、顧客の利益や企業の業績に貢献する必要があります。
そのためには、常に自身の業務スキルや提供するサービスの品質を向上させ、顧客満足度を高めることが大切です。
独立開業すれば、働く時間の調整がしやすく、ある程度は自分のペースで業務を進められるので、仕事とプライベートを両立しやすくなります。
育児や介護があっても、業務量や稼動時間を調整すれば対応できるでしょう。
また、働く場所を自由に選べるのも開業税理士の魅力です。
全国どこでも働けるので、例えば出身地にUターンして開業することも可能になります。
メリットがある一方で、独立開業には以下のようなデメリットがあります。
独立開業のデメリットは、勤務税理士と比べると収入が不安定な点です。
勤務税理士は毎月の給料やボーナスで安定的な収入が見込めますが、独立開業した税理士は自分で仕事を獲得し収益を出さなければなりません。
税理士本来の業務だけでなく営業活動も行わないと、収入が不安定になりやすいでしょう。
安定のためには営業に力を入れて優良顧客を獲得し、年間の顧問契約といった収入源を得る必要があります。
セミナーや異業種交流会に参加したり、WebサイトやSNSを運用したりするのも効果的です。
価格は業務量に見合うように設定し、バランスを取りながら収入の安定を目指しましょう。
独立開業したら、税務知識のアップデートなどの勉強を自力で行う必要があります。
税法や会計基準は時代に合わせて変化するので、最新の情報や知識を持っていないとクライアントに適切なアドバイスができません。
勤務税理士なら、仲間の税理士と情報交換をしつつ組織の人材育成プランに沿って知識を磨けます。
しかし、独立開業した税理士は自分から情報を収集する必要があり、セミナーや研修に参加して自己学習に取り組まなければなりません。
継続的な勉強と情報ネットワークの構築は、税理士として成功するために欠かせない要素です。
独立開業したら、税理士本来の業務以外にも多くの仕事が発生します。
営業や経理、人事といった業務をすべて自分でこなさなければならず、マルチな能力が求められます。
税務と並行して、事務所運営にかかわるあらゆる業務をおこなうには、時間や労力も必要です。
業務が追いつかない場合は、アウトソーシングを視野に入れましょう。
事務処理や広告宣伝といった業務を外部の専門家に任せれば、本来の仕事に集中できます。
また、デジタルツールを導入して事務や顧客管理のプロセスを最適化できれば、時間とコストをさらに削減できるでしょう。
ここまで、自分で事務所を立ち上げるという一般的な独立開業について述べてきました。
一方、税理士事務所の後継者候補の求人から独立開業するケースも、少数ながら存在します。
後継者候補の求人が発生する背景と、後継者となって独立開業する場合のメリット・デメリットを解説します。
後継者が募集される背景には、税理士の高齢化があります。
日本税理士会連合会が平成26年(2014年)に実施した「第6回税理士実態調査」の結果によると、
年齢別の人数と比率は以下のとおりです。
【参考・画像引用】日本税理士会連合会「税理士って? 〜一生の仕事を探すなら〜」
年齢別に見ると、税理士の人数が最も多いのは60歳代です。比率としては50歳以上の年代が全体の70%以上を占めています。
税理士は顧客と長年にわたって信頼関係を築くケースが多く、業務継続を望まれれば簡単に引退できません。
クライアントのために事業を継続したい開業税理士が、事務所を任せられる人材を探すことがあるのです。
後継者候補求人から独立開業するメリットは、既存のクライアントを引き継げることです。
クライアントだけでなく、事務所運営のノウハウや人脈、業務に慣れた従業員等も引き継ぐことができるため、ゼロから開業するよりもスムーズに事業を開始できるでしょう。
知名度のある事務所なら、新規顧客の獲得や業務範囲の拡大もしやすくなります。
後継者候補求人から独立開業するデメリットは、クライアントが離れる危険性があることです。
後継者の税理士がクライアントと信頼関係を築けず、事務所との関係を見直される事態が起こりえます。
契約を打ち切られないように、引き継ぎは円滑に行い、事業継承について丁寧な説明を心がけてください。
事前に契約条件をよく確認して継承の説明に臨み、クライアントの状況によっては契約の更新や再契約を提案してもよいでしょう。
クライアントに親身に寄り添って丁寧な対応を心がけることで、後継者としての信頼を得られます。
今回は税理士の独立開業までの流れや必要な費用、独立開業のメリット・デメリットを紹介しました。
税理士は独立開業向きの資格です。
試験を受験する場合、合格まで3〜5年程度はかかる難関資格ですが、将来的に一国一城の主として自由なキャリアを描くことも夢ではありません。
独立開業に興味がある方は、ぜひ税理士という選択肢を検討してみてください。