
宅建の勉強を進めていると必ず出てくる「錯誤」という言葉。
権利関係の1テーマとして頻出されるものの、イメージしにくく苦手に感じている方もいるでしょう。
それに加え、令和2年の民法改正によって古いテキストを使っていると誤って覚えてしまう可能性もあります。
この記事では、宅建における錯誤について意味や重要ポイントを解説します。
「錯誤」とは?
はじめに錯誤とはどんな概念なのか、宅建試験ではどの分野で出題されるのか、基本的な内容を解説します。
一般的な意味は「勘違い」のこと
錯誤の一般的な意味は「勘違い」です。錯誤を用いた熟語に「試行錯誤」や「時代錯誤」といった言葉があります。
試行錯誤とは何回も実行し失敗を重ねながらも次第に目的にせまっていくこと、時代錯誤はいわゆる「時代遅れ」や、時代の異なるものを混同して考えることを意味しています。
このように錯誤は、客観的な事実と認識のズレや間違いを表す言葉です。
宅建では「権利関係」で出題される概念
錯誤は宅建の「権利関係(14問)」において出題される概念です。
権利関係の問題は難問が多く、合格に近付くために1問でも確実に得点できそうな分野を作っておくことが大切です。
民法における錯誤は「思い違い」のこと(民法第95条)を指しています。
私たちは生活するうえでさまざまな契約を結ぶことがありますが、場合によっては間違った情報によって間違った判断をすることもあるでしょう。
小さな勘違い程度では契約をするかどうかの判断に影響を与えないかもしれません。
しかし、「この間違いがなければ契約をしなかった」というような契約の根本にかかわる重要な間違いを錯誤といい、契約の取消しができることがあります。
不動産の売買契約のなかでも錯誤が起こり得るため、宅建の権利関係で出題されるというわけです。
なお、令和2年に民法の改正があり、錯誤に関する問題もよく出題されているので、しっかりと理解しておきましょう。
民法上知っておきたい2つの錯誤
錯誤にはさまざまなケースが考えられますが、大きく分けて2種類が存在します。ここでは、民法上知っておきたい2つの錯誤を解説します。
- 表示の錯誤
- 動機の錯誤
錯誤の問題が出題されたときには、どちらのケースに該当するか、判断できるようにしておきましょう。
表示の錯誤
「表示の錯誤」とは、意思を決定してから表示行為に至るまでに起きた思い違いのことです。
例えば以下のような誤りが表示の錯誤に該当します。
- 所有していた土地を2,000万円で売却するつもりが、200万円と伝えてしまった
- 売却する土地の面積100坪を、100平方メートルと表示してしまった
- A土地を購入するつもりだったが、間違ってB土地を購入したいと伝えてしまった
すなわち本人の実際の意思とは異なった意思表示がされた場合を指しています。
うっかり勘違いをして、事実と違うことを伝えてしまうことは誰でも起こり得ることでしょう。
勘違いは本人の責任ですが、不動産のように大きな金額が動く取引では多大な損失を招く可能性も考えられます。
そのようなケースから表意者を守るため、民法では表示の錯誤を取消可能としています。
動機の錯誤
動機の錯誤とは、意思を決定するための前提段階で起きた思い違いのことです。
例えば以下のような誤りが動機の錯誤に該当します。
- 再開発が行われるという情報によって通常よりも高い価格で土地を購入したが、実際には再開発という話自体がデマだった
- 駅から近いと言われていたマンションを購入したが、実際には駅から徒歩15分以上かかる距離にあることが判明した
- 地盤が強いという情報を信じて購入した土地が、実は埋立地で軟弱な地盤であることが後から判明した
不動産を購入するときは、その物件をほしいと思った理由があるでしょう。
もしその理由が勘違いであったと後で判明したのであれば、取消できないのはあまりに酷といえます。
そのため、基本的に動機の錯誤があった場合は、取消可能としています。
錯誤の重要ポイント!取消できる条件・できない条件
宅建試験に出題される錯誤で重要なポイントになるのが、契約を取り消しできる条件です。
錯誤の有無にかかわらず、申込みと承諾があれば原則として契約は成立します。
しかし、錯誤が認められる場合には、原則として契約を取り消すことが可能です。
ただし、錯誤があったからといって、常に契約取消ができるわけではありません。
そこで、錯誤があった契約について取消できる条件とできない条件を解説します。
- 相手に表示されている錯誤は意思表示を取り消しできる
- 表示者に重要な過失があった場合は取り消しできない
- 相手が表示者の錯誤を知っていた場合や同じ錯誤に陥っていた場合は取り消しできる
- 善意無過失の第三者がいる場合には取り消しできない
①相手に表示されている錯誤は意思表示を取り消しできる
原則として上で解説した2つの錯誤が認められる場合には、意思表示を取り消すことが可能です。
また、契約などの法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものである場合も取消可能です。
ただし「相手に表示されていること」が条件となっています。
そのため、動機の錯誤の場合、契約を決めた動機が明らかになっている必要があり、心の中で考えていた動機では取消できません。
たとえば不動産売買の場合、売主や仲介業者に対し「海の近くの物件に住みたい」と伝えていながら、実際に購入した物件が海から離れていたのであれば取消可能です。
しかし、海の近くに住みたいことを心の中で思っていただけで、実際に相手に伝えていなかった場合、動機の錯誤は成立せず取消できません。
②表示者に重要な過失があった場合は取り消しできない
表示者の錯誤(勘違い)であれば取消できますが、重要な過失(重過失)があった場合には取消ができなくなります。
重要な過失とは、すなわち不注意などのために生じた失敗(過失)のうち、不注意の度合いが極めて大きいものを指します。
たとえば土地の建蔽率や容積率を誤って説明した場合、建物の構造や設備について誤って説明した場合、法令上の規制について誤って説明した場合などは重要な過失といえるでしょう。
勘違いは誰にでもあることなので、万が一、大きな取引をしてしまった場合でも取消ができるよう民法で保護しています。
しかし、大きな不注意があったのならば、本人にも問題があるため、保護の対象には値しないだろうという考えに基づいていています。
③相手が表示者の錯誤を知っていた場合や同じ錯誤に陥っていた場合は取り消しできる
取引の相手が表示者の勘違いに気づいていたり、同じように勘違いしていたりする場合には、錯誤の取消が可能です。
たとえば実際には100坪の土地でありながら、表意者が勘違いして1000坪と言っており、相手がその錯誤に気づいていた場合、あるいはお互いに1000坪と勘違いしていた場合などです。
また、民法改正前は表意者に重要な過失があった場合は、取消できないとされていました。
しかし改正後、相手が表示者の錯誤を知りながら契約を結んだ場合、表意者は重大な過失があったとしても錯誤を理由に取消できるようになりました。
相手が表意者の錯誤に気づかなかった場合や、相手方も同じように勘違いしていた場合も同様に取消可能です。
④善意無過失の第三者がいる場合には取り消しできない
錯誤がありながら売買契約をした土地を第三者に転売した場合など、錯誤の事実を知らない第三者がいる場合には取消不可です。
錯誤の事実を知らず過失もない状態を「善意無過失」といいます。
たとえば売主A(表意者)が1,000坪の土地を100坪と勘違いして、買主Bに売却し、その後、第三者(買主C)に土地を転売したとします。
この場合、売主Aの錯誤が認められますが、もし第三者が善意無過失であれば、売主Aは取消できません。
たとえ錯誤があったとしても、取引を取消することによって、善意無過失の第三者が損失を被るのは常識的に考えても酷であると考えられます。
ただし、第三者に悪意や有過失が認められる場合には、取消は可能となるので注意しましょう。
宅建試験では次のように実際に錯誤に関する問題が出題されています。
難しい用語がたくさん出てきて混乱しがちなテーマですが、過去問を見て理解度をチェックしてみましょう。
【あわせて読みたい】権利関係-意思表示 平成23年 第1問
まとめ
最後に宅建試験で出題される「錯誤」の意味、重要ポイントをおさらいしておきましょう。
- 錯誤とは一般的に勘違いのことを指す
- 民法上知っておきたい2つの錯誤として「表示の錯誤」「動機の錯誤」がある
- 宅建試験に出題される錯誤で重要なのは、契約を取消できる条件である
- 相手に表示されている錯誤、相手が表示者の錯誤を知っていた場合または同じ錯誤に陥っていた場合は取消できる
- 表示者に重要な過失があった場合、善意無過失の第三者がいる場合は取消できない
以上、権利関係の勉強方法を解説してきました。
宅建試験は法律の改正によって、知識を更新する必要があります。
年々難易度も上がっているので、独学で学習するのはとても大変だといえます。
また、200~300時間程度の学習時間が必要とされているので、忙しい社会人の方はスキマ時間を活用することが大切です。
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