不動産の売買では、大きなお金が動きます。そこで問題となるのが、顧客が宅建業者に不動産を売却する際、宅建業者の経営が悪化して代金を払えないような事態への対応です。
宅建業法のもっとも大きな目的は、購入者等の利益を保護することです。
購入者(アマチュア)は宅建業者側(プロ)よりも知識や経験が少なく、対等に取引をすることが難しいため、保護するべきだと考えられています。
そこで宅建業法では、宅建業者が代金を払えない事態に備えるために保証金制度を定めています。
保証金制度には営業保証金制度と弁済業務保証金制度の2つがあります。
これらは宅建業者側にとっては大きな違いがある制度ですが、顧客にとってはいずれの制度も支払いを受けることができるものです。
まず、保証金制度の大まかな仕組みを解説します。保証金制度では、宅建業者側はまとまったお金を供託所にあらかじめ預けておきます。
このため顧客は、宅建業者から代金の支払いを受けられない場合でも、代わりに供託所から支払いを受けることができるのです。
この制度のおかげで、顧客は不測の事態が起こるというリスクがあっても安心して取引ができます。宅建業者側にとっても、業界の信頼を守れるというメリットがあります。
不動産の売買においては、売主も買主も宅建業者であるという状況が少なくありません。
このようなケースでは、もし売主の宅建業者の経営が悪化して買主の宅建業者に代金が払えなくなっても、買主は支払いを受けることができません。
不動産のプロである宅建業者同士であれば、保証金制度によって保護する対象にはなりません。
では、宅建業法の保証金制度の2種類はどのように違うのでしょうか?
ひとことで言えば、営業保証金制度は宅建業者単独の保証であるのに対し、弁済業務保証金制度は、宅建業者が集まって保証する団体保証の制度です。
▼営業保証金制度
営業保証金制度では、宅建業者が供託所へ自らお金を供託します。このお金を営業保証金と呼びます。
宅建業者が払う営業保証金の金額は、本店が 1,000万円、支店ごとに500万円と高額です。顧客は供託所から代金の支払い(還付)を受けます。
▼弁済業務保証金制度
一方、弁済業務保証制度においては、宅建業者はまず保証協会(宅建業者が集まった団体)に弁済業務保証金分担金(略して分担金)を預け、
これを受けて保証協会が供託所に弁済業務保証金を供託します。
宅建業者が払う分担金の金額は、本店が60万円、支店ごとに30万円で、営業保証金制度よりもかなり少額となっています。
どちらの制度を利用するかは、宅建業者側が選べます。
また、宅建業者が営業を開始するには、免許を取得した後に営業保証金または分担金を支払っておかなければなりません。
ここからは、宅建業法における営業保証金の出題ポイントを見ていきましょう。
ポイントは次の6つです。弁済業務保証金との違いを比較しながら勉強しましょう。
この先、太字で示した箇所は特に重要なポイントです。引っかけ問題や問題文の読み間違いで失点しないよう、よく整理して覚えてください。
営業保証金とは、宅建業者が免許取得後に預ける供託金のことです。営業保証金制度においては、宅建業者が自ら供託所に営業保証金を供託します。
宅建業者の経営が悪化して代金が支払えない事態になった場合には、供託所に預けられた保証金から顧客に対して代金が弁済されます(還付)。
営業保証金の供託先、金額、届出については、以下のように定められています。
▼供託先
供託先は、本店(主たる事務所)の「最寄り」の供託所です。「管轄」ではない点に注意しましょう。
▼金額
本店:1,000万円
支店(事務所ごとに):500万円
営業保証金は、金銭(現金)以外の方法での供託が可能です。有価証券での供託、金銭と有価証券を組み合わせた供託も受け付けてもらえます。
ただし、有価証券によっては、すべて額面金額で評価されるわけではありません。
有価証券の種類 | 評価額 |
国債証券 | 額面の100% |
地方債証券、政府保証債証券 | 額面の90% |
その他の有価証券 | 額面の80% |
▼届出
宅建業者が業務を開始するには、供託するだけでなく、免許権者への届出が必要です。
もし届出をせずに業務を行うと、監督処分や罰金の対象となります。また、支店を増やした場合は追加の供託と届出も必要です。行わない場合、業務を開始できません。
営業保証金の場合の供託先は「本店の最寄りの供託所」のため、もし本店の移転で最寄りの供託所が変更となった場合には、新たな供託所に営業保証金を供託しなければなりません。
このように新たな供託先に営業保証金を預け替えることを、営業保証金の保管替えと言います。
▼保管替えの請求
営業保証金を金銭のみで供託していた場合は、それまで供託していた供託所に対し、遅滞なく、移転先の新たな供託所に供託金を移すように請求しなければなりません。この請求を保管替えの請求と言います。
▼保管替えができるケース・できないケース
注意が必要なのは、営業保証金の保管替えができるのは金銭のみで供託していた場合だけという点です。
有価証券のみ、もしくは金銭と有価証券を併用して供託していた場合には、保管替えはできません。
有価証券のみ、もしくは金銭と有価証券を併用のケースでは、まず主たる事務所の移転を行い、新たな最寄りの供託所に営業保証金を供託します。
その後、移転前の最寄りの供託所に供託していた営業保証金を取り戻すという流れになります。つまり、一時的に二重に供託することになるのです。
営業保証金の取戻しとは、営業保証金の供託をする必要がなくなった場合に、供託所から営業保証金の全部または一部を返還してもらうことです。
たとえば宅建業者の免許の失効、取消、廃業などのケースが考えられるでしょう。
▼取戻しができる場合
宅建業者の免許が無効になってしまっても取戻しは可能である点をおさえておきましょう。
▼取戻し手続きと公告
営業保証金の取戻しには所定の手続きが必要です。まず、原則6ヶ月以上の期間を定め、その期間内に取戻しを行なう旨を官報で公告することになります。
さらに、公告した場合は免許権者に届出も必要ですが、次の3つのケースのように、取戻しをしても顧客に迷惑がかからない場合は公告は不要です。
営業保証金の還付とは、宅建業者の経営が悪化した場合など顧客に代金が支払われなくなったときに、供託所に預けた営業保証金から顧客に支払い(弁済)が行われることです。
▼還付の対象になるもの
還付の対象となるのは、宅建業者と宅建業に関する取引をしたことによって生じた債権です。
▼還付の対象にならないもの
宅建業に関する取引で生じた債権ではないため、還付の対象となりません。債権を有する者が宅建業者である場合にも還付は受けられません。
▼還付の請求
還付においては、顧客は還付の請求を供託所に直接行うことがポイントです。代金は供託所から顧客に還付される形になります。
▼営業保証金に不足が生じた場合
還付が行われたことは、供託所→免許権者→宅建業者という流れで通知されます。還付が行われると営業保証金に不足が生じるので、宅建業者は下記の手続きを行う必要があります。
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次は、保証協会・弁済業務保証金の出題ポイントです。出題ポイントは大きく分けて次の6つです。
この先、太字で示した箇所は特に重要なポイントです。引っかけ問題や問題文の読み間違いで失点しないよう、よく整理して覚えてください。
宅地建物取引業保証協会(保証協会)とは、宅建業者で構成される団体です。
設立の背景には、高度経済成長期に宅地建物取引をめぐるトラブルが増加したことがあります。
当時の営業保証金の額では、消費者の保護として十分ではなかったため、多額の保証金に備える制度が必要となったのです。
「塵も積もれば山となる」というように、多くの宅建業者が少しずつ保証協会にお金を出し合えば、保証協会は多額の保証金を備えることができます。
保証協会には「公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会」と「公益社団法人不動産保証協会」の2つがあります。
どちらも宅建業者のみで構成され、どちらか一方の保証協会にしか加盟できません。加入した宅建業者のことを社員と呼びます。
保証協会の業務は弁済業務(宅建業者が宅地建物取引上の債権を有する者に対し不履行があった場合に弁済する業務)だけではありません。
さまざまな業務が必須業務と任意業務のいずれに当たるのか、おさえておきましょう。
▼必須業務
▼任意業務
弁済業務保証金制度とは、宅建業者と取引したことにより生じた債権を有する者が損害を被った場合に、被害者を弁済業務保証金の還付によって保護するという制度です。
細かな違いはありますが、大枠としては「営業保証金制度の保証協会バージョン」と考えてください。
営業保証金制度が宅建業者単独の保証であるのに対し、弁済業務保証金制度は保証協会という団体で保証する制度になっています。
宅建業者は、保証協会に加入する際に弁済業務保証金分担金(分担金)を納付します。
そして、分担金を納付された保証協会は、分担金と同額を弁済業務保証金として供託所に供託します。
名前が似ていますが、「分担金」と「弁済業務保証金」の違いに注意してください。
弁済業務保証金は、一定の有価証券による供託が認められています。
弁済業務保証金分担金(分担金)とは、宅建業者が保証協会に加入する際に納付する金銭のことです。
▼納付先
分担金を納付する先は保証協会であり、供託所ではありません。
▼金額
本店:60万円
支店(事務所ごとに):30万円
▼納付方法
納付できるのは金銭のみで、有価証券等での納付はできません。
納付先、金額、納付方法は、営業保証金や弁済業務保証金との違いに注意しましょう。
弁済業務保証金の還付の流れは、次のようになります。
営業保証金制度の場合、顧客は供託所に直接請求します。しかし弁済業務保証金の還付を受ける場合、まず保証協会の認証が必要な点に注意しましょう。
なお限度額は、宅建業者が社員でなかった場合に供託すべきであった営業保証金の総額となります。分担金の額ではありません。
弁済業務保証金の場合、還付によって不足した額を一旦、保証協会が供託所に供託します。
宅建業者は、保証協会から通知を受けた日から2週間以内に、還付充当金を保証協会に納付しなくてはなりません。
期限内に納付しない場合、社員の地位を失います。ただし社員の地位を失っても1週間以内に営業保証金を供託所に供託し、免許権者に届出をすれば営業保証金制度に加入できます。
もしこの期限内にも供託しない場合は監督処分の対象となります。
保証協会は供託所に弁済業務保証金を供託しますが、その弁済業務保証金を返還してもらえるケースがあります。これを、弁済業務保証金の取戻しと言います。
取り戻しについて、以下の2つのケースで対応が異なります。また、試験では営業保証金の取戻しと異なる点も問われるので、きちんと整理して覚えたいところです。
▼社員の地位を失った場合
営業保証金の場合と同様に、6カ月以上の期間を定めて官報で公告し、その期間終了後に分担金と同額を取戻すことができる
▼事務所の一部を廃止した場合
官報の公告は不要。宅建業者が納付した分担金が法定額を超えることになるので、超過額に相当する額を取戻すことができる
とくに後者の「公告が不要」である点は重要です。
また、取戻しは、宅建業者ではなく保証協会が行う点も、ひっかけ問題として出題されることがあるので注意しましょう。
今回は、宅建業法の営業保証金について、特に弁済業務保証金との違いを解説しました。
宅建業法は、満点近くまで得点できなければ合格は難しいとされている分野です。
営業保証金と弁済業務保証金に関する問題では、2つの違いに注目しながら勉強することで、確実な得点を目指しましょう。