宅建士が独立開業するには、宅建士の資格はもちろんですが「宅地建物取引業免許」も取得しなければなりません。
そのほか、事務所の設置や保険協会への加入など、いくつかの準備や手続きが必要になります。
宅建士の独立開業に必要となる手続きの流れを、順を追って解説していきます。
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まずは試験に合格して宅建士(宅地建物取引士)の資格を取らなければなりません。
宅建士は不動産取引を行うことができる国家資格で、不動産取引の実務を行う場合はこの資格が不可欠です。
この資格を取るための試験が宅建試験で、その試験内容は「宅建業法」「権利関係」「法令上の制限」「税・その他」という4分野で構成されています。
出題は全50問(1問1点)で、例年の合格ラインは35問点前後です。分野によって難易度が大きく異なり、短期合格には戦略的な学習が必須です。
宅建試験は例年10月の第3日曜日に実施され、合格率は15〜17%です。
合格率の数字だけを見るとかなりの難関のようにも感じられますが、受験資格に制限がなく、誰でも受験できる資格であることも合格率が低い理由の一つのようです。
宅建試験に合格しただけでは、まだ宅建士を名乗ることはできません。
晴れて国家資格の宅建士として仕事をするには、いくつかの手続きを経る必要があります。
ここで、宅建合格→資格登録→宅建士証交付の流れを確認しておきましょう。
合格後の最初のステップは、資格登録です。
資格登録は任意ですが、宅建士として働きたい場合は宅建士証の交付を受ける必要があり、そのためには資格登録が必須となっています。
実務経験が2年未満の人は、登録実務講習を修了する必要があります。
その後、宅建士証の交付申請を行い、交付を受けます。資格登録から1年を超えて申請する場合は法定講習を受講します。
こうして宅建士証の交付を受けてはじめて、宅建士として働くことができるのです。
宅地建物取引業免許を取得するには、個人開業・法人開業にかかわらず事務所の設置が必要となります。
なぜなら、次のステップ「4.」で免許を申請する際には、事務所の所在地を記入しなければならないからです。
法人として開業する場合は、事務所を設置するだけでなく法人登記(会社設立登記)も行う必要があります。
個人で開業する場合、自宅の一部を事務所として利用することも可能ですが、注意したいのは建物のレイアウトです。
「住居用とは別に事務所用の出入り口を設ける」や「独立した事務所スペースを設ける」といったルールに沿って事務所を設置しなければなりません。
事務所の設置には、他にもさまざまな決まりがありますので、ご自身の状況と照らし合わせ、条件など事前によく確認するといいでしょう。
また、事務所を設置する前には、事業のターゲットは誰か、ターゲットをふまえて最適な立地はどこか、家賃や駐車場代など毎月発生する固定費はいくらまでなら許容できるのかなども考えなければなりません。
事業を成功させるために、慎重に計画しておきたい部分です。
宅地建物取引業免許とは、宅建業を営むために必要な免許です。
その免許の区分は2種類あり、1つの都道府県内に事務所を設置する場合は「都道府県知事免許」が必要となり、複数の都道府県に事務所を設置する場合は「国土交通大臣免許」が必要となります。
開業からいきなり複数の都道府県にまたがって事務所を設置するというケースは、すでに他業種を展開していて新たに宅建業に参入するという場合がほとんどでしょう。
個人での独立開業においては、1カ所の事務所設置が通常です。
また、この免許を受けるためには、下記のような要件があります。
欠格事由には「免許を受けられない事由」と「5年間免許が受けられない事由」があり、それぞれいくつかの項目が決められています。
法人の場合は、代表者だけでなく役員も欠格事由に該当しないことが求められます。
ここまで準備が進んだら、次に営業保証金の供託です。まず、営業保証金制度について説明しておきましょう。
不動産取引では、大きなお金が動きます。
顧客が宅建業者に不動産を売る場合、万が一、業者が経営悪化の影響で代金を支払えなくなってしまったら、顧客が不利益を被るだけでなく、業界全体も信用を失ってしまいます。
このような事態を防ぐために作られたのが、宅建業法の保証金制度です。
保証金制度では、宅建業者側はあらかじめ保証金を供託所に預けておきます。そして、万が一代金を支払えなくなってしまったら、供託所に預けたお金から顧客に支払いが行われるというものです。
保証金制度には、宅建業者が供託所に直接供託するの単独の保証(営業保証金制度)と、宅地建物取引業保証協会(保証協会)を利用する団体保証(弁済業務保証制度)の2つがあります。
これら2つの制度では、宅建業業者が負担する金額に違いがあります。
営業保証金制度の場合、供託する金額は1,000万円とかなり高額です(本店の場合)。一方、保証協会を利用する場合は、保証協会に納付する金額は60万円となります(弁済業務保証金分担金と呼ばれる)。
不動産業界の2つの団体に、それぞれの系列の保証協会があります。
団体 | 保証協会 |
全国宅地建物取引業協会連合会 (通称「全宅」・ハトマーク) |
全国宅地建物取引業保証協会 (全宅保証) |
全日本不動産協会 (通称「全日」・ウサギマーク) |
不動産保証協会 |
【あわせて読みたい】宅建業法の営業保証金とは?弁済業務保証金との違いをわかりやすく解説
宅建士が独立開業するには、様々な手続きも必要ですが、それにかかる費用も考えなくてはなりません。
ここでは、宅建受験のための勉強費用から合格後の資格登録、事務所開設、保証協会にかかる費用まで確認しておきましょう。
▼勉強にかかる費用
宅建の勉強で、もっとも費用を抑えやすいのは独学です。かかる費用は市販のテキストや問題集などの教材費だけなので、1万〜1万5,000円程度でしょう。
通信講座や資格スクールを利用する方法もあります。費用は、通信講座が主に1万円台〜10万円程度。資格スクールは10万円程度からで、一般的にはもっとも費用がかかる勉強方法と言えます。
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▼受験費用
宅建受験の費用は、令和6年度(2024年度)現在で8,200円となっています。
▼資格登録・宅建士証交付にかかる費用など
試験に合格した後は、資格登録に進みますが、実務経験が2年未満の方は「登録実務講習」を受講する必要があり、費用は2万円程度です。資格登録手数料が3万7,000円です。
宅地建物取引士証の交付申請手数料は4,500円ですが、試験合格後1年を超えて申請する場合は法定講習の受講が必要です(1万2,000円)。
また、取引士証は5年ごとの更新が必要で、その都度更新費用が発生します。
事務所開設時には下記のような費用がかかります。
このほか、法人として開業する場合は、会社設立費用(株式会社で約20万円程度から)も必要です。
事務所開設費用の中でもとくに高額になるのは、物件にかかる費用でしょう。
敷金だけを見ても、事務所を借りる場合(法人契約)は家賃6〜12ヶ月分が相場と言われており、まとまった資金が必要になります。
独立開業の手続きの流れで説明したとおり、開業するには営業保証金を供託する必要があります。
金額の負担を抑えるには、保証協会を通じて供託する仕組み(弁済業務保証制度)があるので、保証協会に弁済業務保証金分担金として60万円を納付します。
これを利用するには、まずハトマーク系の全国宅地建物取引業保証協会か、ウサギマーク系の不動産保証協会に加入します。
それぞれの保証協会を運営する団体への加入も必要となります。
団体 | 保証協会 |
全国宅地建物取引業協会連合会 (通称「全宅」・ハトマーク) |
全国宅地建物取引業保証協会 (全宅保証) |
全日本不動産協会 (通称「全日」・ウサギマーク) |
不動産保証協会 |
どちらの団体も、都道府県により料金が異なるので、独立開業する地域の団体をしっかり確認するようにしましょう。ここでは東京都を例に、それぞれの保証協会の入会金と年会費をご紹介しておきます。
▼全国宅地建物取引業保証協会東京本部(ハトマーク系)
入会金:20万円
年会費:6,000円
▼不動産保証協会東京本部(ウサギマーク系)
入会金:8万円
年会費:1万2,000円
実際に加入する際には、他に各団体への加入料と年会費も必要になりますので注意してください。
【参考】全国宅地建物取引業保証協会東京本部「開業までの流れと費用」
宅建士として独立開業する際に、おすすめのダブルライセンスはこちらです。
不動産や法律と関係が深い宅建士と相性のいい資格を取得することで、強みを打ち出し活躍の場を広げていけるでしょう。
では、それぞれどのような資格なのか、詳しくみていきましょう。
▼どんな資格?
FP(ファイナンシャルプランナー)は、ひとことで言えば暮らしのお金の専門家です。
ライフプランニング、資産運用、相続、不動産といった、私たちの生活に密着したお金に関わる知識がベースとなっている資格です。
▼ダブルライセンスのメリット
不動産の取引には大きなお金が動き、顧客の資産運用にも密接に関係します。
宅建とFPのダブルライセンスで、不動産取得で資産運用を目指す個人・団体に有益なアドバイスができる人材を目指せます。
また、FPの試験科目には「不動産」があります。宅建合格者であれば経験を活かして比較的簡単に学習を進めることができるでしょう。
【あわせて読みたい】宅建とFPはダブルライセンスがおすすめ!どっちが先?難易度は?
▼どんな資格?
行政書士は、ひとことで言えば身近な街の法律家です。書類作成のプロであり、官公署に提出する様々な書類を代行して作成できる国家資格です。
行政書士の独占業務は、官公署に提出する書類および事実証明・権利義務に関する書類の作成代理です。
「飲食店営業許可申請書」や「NPO法人許可申請書」などの許認可申請に関する書類や、「遺産分割協議書」や「内容証明」などの権利義務または事実証明に関する書類の作成代行を行うことができます。
▼ダブルライセンスのメリット
宅建と行政書士の両方を取得していると、不動産に詳しい行政書士であることを打ち出せるため、よりクライアントを獲得しやすくなったり、専門性の高い仕事を任されやすくなったりするでしょう。
また、不動産取引とそれに付随する法律・制度面での相談や書類の作成のニーズにまとめて応じることもできます。
【あわせて読みたい】どっちが難しい?宅建と行政書士の違いを比較!ダブルライセンスの活かし方も
▼どんな資格?
マンション管理士は、マンションで起こる様々なトラブルを住民(管理組合)側に立ち解決へと導く、マンション管理のアドバイザーであり、
マンション管理業者をチェックする役割も担います。宅建と同じく国家資格のひとつです。
▼ダブルライセンスのメリット
宅建とマンション管理士のダブルライセンスがあれば、マンション管理にも強い宅建士として不動産業界において重宝されるでしょう。
ふたつの資格を持つことで専門分野が広がり、不動産業界への就職、あるいは同業他社への転職もしやすくなり、任される仕事の幅も広がります。
マンション管理士は、宅建と同じく独立開業が可能な資格です。
宅建とマンション管理士のダブルライセンスで独立開業することで、不動産取引からマンション管理業務までワンストップで行える事業を展開することもできます。
【あわせて読みたい】宅建とダブルライセンスで取っておきたいおすすめ資格6選
宅建士の独立開業の魅力は、自分の頑張りがダイレクトに収入に反映されることにあると言えるでしょう。
人によっては、会社員時代の2倍、3倍を稼ぐことも夢ではありませんし、うまくいけば年収1,000万円も目指せます。
しかし、集客や営業が上手くいかなければ、会社員時代よりも収入が低くなってしまうということもありえます。
独立開業して成功するには、経営戦略が重要です。特に、個人で独立開業する場合はポイントを押さえた戦略が必要でしょう。
たとえばエリアを絞り地域密着で人脈を増やしたり、リノベーション物件やペット可物件などのようにジャンルを特化して競合他社と差別化を図ったりするという戦略が考えられます。
【あわせて読みたい】宅建士の年収は?国の調査や求人情報をチェック!収入を上げる方法も解説
独立開業で失敗する例として、よくある3つのケースがこちらです。
いざ独立開業しても、思うように収入を得られず、廃業に至ってしまうということも少なくありません。どのようなことが原因で失敗を招いてしまうのかを、しっかりと確認しておきましょう。
宅建士が独立開業で失敗する理由として多いのは、集客での苦戦です。
会社員時代は「会社の看板」で多くの顧客を獲得できていたものの、独立開業したとたんに集客ができなくなるということは、どんな業界・業種でもよくあります。
不動産ポータルサイトや自社のWebサイトを活用する、人脈を使って営業するなど、有効な集客方法を見つける必要があります。
同業者や地域での人脈づくりも顧客獲得につながります。
ただし、人間関係の構築には時間がかかるものと考え、独立前から社外の人との交流を増やしたり、独立初期に集客がうまくいかない期間を乗り切る資金を用意したりしておくといいでしょう。
独立開業するとなれば、事務所開設費用だけでなく、売上にかかわらず毎月必要になる運転資金(固定費)についても考えておかなければなりません。
独立開業後、運転資金に苦しめられることも多くあります。
まず、金額が大きなものとしては事務所の賃料が挙げられます。特に都市部では賃料が高く、立地を重視しすぎると毎月の負担が大きくのしかかります。
次に大きくかかる経費は人件費です。一時的に軌道に乗ったからといって、すぐに人を雇うのはリスクが大きくなります。
収入が安定し軌道に乗るまでは、運転資金を最小限に抑えるのが賢いやり方です。忙しい場合には外注などを使い、しばらくは様子をみるのがいいでしょう。
独立開業を考えるとき、開業場所を誤ってしまい失敗するケースもあります。
収入源となる仲介手数料は、物件の価格や賃料に比例します。
仲介手数料は、過疎化などで土地価格が下がっている地方より都市部のほうが高いのが通常です。また、取引がより活発に行われているのも都市部のほうです。
しかしその分、都市部は競合他社が多くなり、また強い競合他社がいれば、押されて苦戦する場合もあります。どこで開業するのか、その開業場所についてもしっかり考慮すべきでしょう。
独立開業のメリットは、先ほど挙げた「会社員以上の高収入を目指せる」という点以外にもあります。
まず、働く上でさまざまな「自由」が手に入ることです。
会社勤めでは、働く時間や場所、人間関係などを自分で決めることはできません。こうした要素は独立開業で100%自由になるわけではないですが、コントロールできる範囲は確実に広がります。
会社勤めのデメリットから解放されることは、独立開業するメリットと言えるでしょう。
その分大変なことも出てきますが、自分の裁量で働くことができる環境なら、随分とストレスから解放されるのではないでしょうか。
宅建士が独立開業する場合、仲介業をメインに行えば在庫を抱えずにすむため、他の業種に比べてリスクが少ないということもメリットの1つです。
費用面はもちろんのこと、精神的にも負担が少なくて済みます。
宅建士として独立開業する場合、制度に則った準備が必要で、まとまった費用も準備しなければなりません。
それなりにハードルがあると言えますが、しっかり準備すれば越えられないものではないでしょう。リスクもありますが、その分、大成功のチャンスもあります。
ぜひ、宅建資格の取得に挑戦してみてください。