「法律系の国家資格に挑戦してみたい!」と思ったとき、まずは宅建と行政書士が気になったという人は多いでしょう。宅建と行政書士、どちらに挑戦しようか迷っていませんか?
この記事では、両資格の難しさや特徴、向いている人などについて比較していきます。また、宅建と行政書士のダブルライセンスを取得した場合の活かし方や、トリプルライセンスとして相性のいい資格についても解説します。
宅建と行政書士はどっちが難しい?
宅建と行政書士は、どちらの方が難しいのでしょうか?
結論から言うと、資格取得の難易度が高いのは行政書士、合格しやすいのは宅建士です。
ただ、「これから資格を取りたいけれど、宅建と行政書士のどっちを選べばいいんだろう?」という人には、難易度だけで決めず、資格や試験について詳しく知ってから検討するのがベターです。
宅建と行政書士の二つの資格について解説し、比較していきます。
宅建士とは
まず宅建、すなわち「宅建士」とはどんな資格なのか、そして資格取得の難易度や試験内容について、見ていきましょう。
どんな資格?
宅建士は、ひとことで言えば不動産取引のプロになる国家資格です。
正式名称は「宅地建物取引士」といい、一般的には宅建士や宅建という略称で呼ばれることが多いです。
宅建士になると、独占業務として下記の3つを行うことができます。
- 重要事項の説明
- 重要事項説明書への記名・押印
- 契約書(37条書面)への記名・押印
また、宅建業法では、宅地建物取引業者の事業所において、従業員5人に1人以上の割合で宅建士を設置することを義務付けています。
就職先・仕事内容
宅建合格後の就職先として代表的なものは、もちろん不動産業界です。
宅建士の独占業務や設置義務から、宅建士は不動産業者にとってとても貴重な存在であると言えます。不動産関係の会社に入社すると、宅建の取得を薦められるケースが多いです。
宅建の有無が昇進や昇給などに影響がある会社も多く、社員の宅建取得率100%を目指す企業もあるほどです。
仕事内容としては、宅建士の独占業務とされている不動産契約締結時の重要事項説明や、契約書類への署名や押印のほか、
宅建士の知識を活かして不動産売買のサポートや不動産運用のコンサルティングなどを行うケースもあります。
独占業務でない仕事は宅建士でなくても可能ですが、宅建士資格を持っていることはクライアントからの信頼感にもつながるため、業績アップを目指しやすいといえるでしょう。
難易度
宅建の合格率は、令和6年度(2024年度)試験までの5年間は13.1~18.6%で推移しています。宅建は、法律系国家資格の中ではそれほど難易度が高くない位置付けです。
宅建合格に必要な勉強時間は個人差がありますが、目安は200〜300時間程度と言われています。
行政書士や社会保険労務士など他の法律系国家資格と比べると、宅建は比較的短期間の学習での合格が可能な国家資格です。
【あわせて読みたい】宅建の合格率・難易度の実際は?勉強時間や関連資格との比較を解説
試験概要
次に、宅建試験の概要について見ていきましょう。
▼試験形式
全50問の筆記試験で、四肢択一式(マークシート回答方式)
▼試験日
例年10月の第3日曜日
▼試験時間
2時間
▼出題分野・出題数・配点
出題分野 | 出題数 | 配点 |
宅建業法 | 20問 | 20点 |
権利関係 | 14問 | 14点 |
法令上の制限 | 8問 | 8点 |
税・その他 | 8問 | 8点 |
出題数を見ると、宅建業法と権利関係だけで全体の7割近くを占めていることがわかります。
宅建試験は相対評価方式なので合格ラインは毎年変動しますが、おおむね7割(35点)です。つまり、この2分野に注力して効率的に勉強することが合格へのカギになります。
【あわせて読みたい】宅建の試験内容は?科目別の目標点・攻略法と5点免除制度を解説!
行政書士とは
次は行政書士について見ていきましょう。
行政書士とはどんな資格なのか、そして資格取得の難易度や試験内容について、解説していきます。
どんな資格?
行政書士は、ひとことで言えば身近な街の法律家です。書類作成のプロであり、官公署に提出する様々な書類を代行して作成できる国家資格です。
行政書士の独占業務は、官公署に提出する書類および事実証明・権利義務に関する書類の作成代理です。
行政書士が取り扱える書類の数は1万点以上と言われていて、たとえば下記のような書類の作成代行を行うことができます。
- 飲食店営業許可申請書やNPO法人許可申請書などの許認可申請に関する書類
- 遺産分割協議書や内容証明などの権利義務または事実証明に関する書類
就職先・仕事内容
行政書士資格を取った方の多くは独立開業を目指します。
行政書士は他の士業と比べて低コストで開業しやすいため、独立志向のある方に人気の資格となっています。
一方、行政書士として開業せず、法人に就職して組織内で法律の専門家として活躍するという働き方もできます。
法務事務所(弁護士以外の法務関係者が開業する事務所によく使われる名称)で働く行政書士である「使用人行政書士」という働き方のほか、
弁護士事務所のパラリーガル(法律事務員)になったり、一般企業の法務部門に就職して法律知識を活かして働いたりする人もいます。
難易度
行政書士の平成27年度(2015年度)試験以降の合格率は10~15%台を推移しています。
合格に必要な勉強時間は、こちらも宅建と同様に個人差は大きいですが、目安は500~1,000時間程度と言われています。
試験概要
ここでは行政書士とはどういう試験なのかをみていきましょう。
▼試験形式
全60問の筆記試験で、五肢択一式・多肢択一式・記述式の3種類の問題形式で出題
▼試験日
例年11月の第2日曜日
▼試験時間
3時間
▼出題分野・出題数・配点
出題分野 | 出題数 | 配点 |
【法令等】 憲法 行政法 民法 商法(会社法) 基礎法学 |
46問 | 244点 |
【一般知識等】 政治・経済・社会 情報通信・個人情報保護 文章理解 |
14問 | 56点 |
行政書士は業務が多岐にわたるため、試験で法律知識だけでなく一般知識等も問われる点が特徴的です。
合格するには、下記の3つを満たす必要があります。
- 「法令等」の得点が122点(50%)以上
- 「一般知識等」の得点が24点(40%)以上
- 全体の得点が180点(60%)以上
配点が大きい行政法と民法を重点的に学習することが、合格への近道です。
【徹底比較】宅建と行政書士 どっちを選ぶ?
「宅建と行政書士、どちらを受けようかな?」と迷われている方も多いでしょう。
ここでは難易度などさまざまな視点から宅建と行政書士を比較していきます。
あなたが今取るべき資格はどちらなのか、一緒に考えていきましょう。
難易度が高いのは【行政書士】
難易度は、宅建よりも行政書士の方が高いと言えます。
合格率の観点から見ると、宅建は15~17%台で推移していることに対し、行政書士は10~15%台を推移しています。
また、合格に必要な勉強時間の観点からも、宅建は200〜300時間程度と言われている一方、行政書士の場合は500〜1,000時間程度と言われています。
このように、行政書士の方が宅建よりも多くの勉強時間が必要で、合格も難しい試験と言えます。
就職・転職に資格を活かすなら【宅建士】
「資格を取って、就職や転職に活かしたい」と考えている方なら、行政書士よりも宅建士の方がオススメです。
宅建士の資格は不動産業界への就職・転職に有利です。この要因は、前述の「宅建士の設置義務」にあると言えるでしょう。宅建業者は既定の人数以上の宅建士がいないと事業を行えません。
宅建士を雇えるかどうかが宅建業者にとっての死活問題となるため、宅建士は貴重な存在であると言えます。
一方、行政書士は、一般企業への就職に直接的には活かしづらい資格です。
これはインハウス(企業内)の行政書士は認められていないことに要因があります。つまり、行政書士として企業に雇われ、企業内で行政書士としての業務を行うことはできません。
一般企業への就職・転職に資格を活かすとしたら、行政書士資格は、あくまで就職・転職活動時の自己アピールや、法務部門への配属を希望する際の補強材料として使うことになります。
開業を目指すなら【行政書士】
独立開業をしやすい人に向いている資格は、行政書士です。
ただし、一般的な起業と同じように、開業すれば必ず成功するという保証はありません。
開業した行政書士のライバルは、同じように開業している行政書士や他の士業ということになります。
「◯◯分野に精通している」などの強みを持った行政書士であれば、個人でも事業を成り立たせることができると言えます。
【共通点】試験科目に民法
宅建と行政書士には共通点も多くあります。まず挙げられる大きな共通点は、試験科目に民法があるということです。
宅建の出題範囲に「権利関係」があります。この科目は民法からの出題が中心です。一方、行政書士の出題範囲にも「民法」があります。行政書士は民法と行政法の攻略が重要な試験です。
つまり、どちらかの資格を先に合格しておくと、民法は学習済みのため、2つ目の資格の勉強は進めやすくなります。
【共通点】受験資格に制限なし
宅建も行政書士も受験資格に制限はありません。どちらの資格も、年齢、学齢、実務経験などの制限がなく、誰でも受験できます。
宅建はこんな人におすすめ
▼不動産業界への転職を目指す社会人
宅建は不動産業界の転職に有利です。
一般企業への転職においては、行政書士の資格は「法律知識のアピール材料」であるのに対し、宅建は企業側が「資格を持っている人を積極的に採用したい」という傾向です。
資格の取得が転職に直結しやすいため、「資格を取って不動産業界に転職したい!」と宅建に挑戦される方が多くいます。
▼不動産業界への就職を目指す学生
これから社会人になる大学生なら、宅建資格を持っているとライバルと差をつけることができます。
不動産業界への就活を考えている学生は、就職してから宅建の勉強を始めるよりも、勉強時間を確保しやすい学生のうちに宅建資格を取っておくことをおすすめします。
学生のうちに資格を取得しておくことで、就職してからは仕事に集中でき、より高いパフォーマンスを発揮することができるでしょう。
令和5年度(2023年度)においては、合格者のうち学生の占める割合は10.9%でした。30代の受験者が多い中、就職に対する意欲の高い学生も負けずに頑張っている様子がうかがえます。
行政書士はこんな人におすすめ
▼自分の強みを活かした独立開業を目指したい人
行政書士は比較的、開業しやすい資格です。行政書士の中には、自宅を事務所とし自分のペースで働いている方や、平日は会社員をしていて副業として週末だけ法務・法律事務所の仕事を受託しているという方もいます。
ただし、ただ行政書士資格を持っているというだけでは、なかなか仕事は舞い込んでこないのが現実です。
行政書士として事業を成り立たせるには、自分の専門分野を持つことが重要です。
これまでの社会経験から得られた知識や営業力などの強みを活かせる方なら、クライアントを増やし、事業を成り立たせることができるでしょう。
▼法律の知識を資格という形にしたい人
行政書士では幅広い法律知識が求められます。一方で、難易度は司法書士や弁護士と比べると高くはありません。
「法律知識を持っていることをアピール材料に就職活動や転職活動を行いたい」という方に行政書士資格はおすすめです。
一般企業の法務部で仕事をしたいという方は、行政書士は法律知識を保証する資格として評価されるポイントになります。
宅建と行政書士のダブルライセンスの活かし方
宅建か行政書士かで迷うなら、両方とも取得してしまう、つまりダブルライセンスを目指すという道もあります。
前述の通り、行政書士として稼いでいくには専門性が必要です。そこで、宅建資格と行政書士の両方を取得していると、
不動産に詳しい行政書士であることを打ち出せため、よりクライアントを獲得しやすくなったり、専門性の高い仕事を任されやすくなったりするでしょう。
また、不動産取引とそれに付随する法律・制度面での相談や書類の作成のニーズにまとめて応じることができるでしょう。
宅建士においても行政書士においても「いずれは独立して……」と考えている方は、ダブルライセンスで取得しておくことをオススメします。
宅建と行政書士のダブル受験
では宅建と行政書士の「ダブル受験」、すなわち同じ年に受験して合格することは可能でしょうか。
ここではダブル受験の実現性についてみていきます。
ダブル受験(同時受験)でダブル合格できる?
結論から言うと、宅建と行政書士を同じ年に受験して合格するのはなかなか難しいと言えます。
宅建士の試験日は10月の第3日曜日、行政書士の試験日は11月の第2日曜日です。両者の間には1ヶ月弱の時間しか空いていません。
両方とも簡単な試験ではないため、すでに相当の知識を持っている方以外は、同じ年のダブル受験は難しいと言えるでしょう。
おすすめの順番は宅建→行政書士
別の年に受験して合格するとして、おすすめの順番は、まず宅建、次に行政書士です。
その理由は、宅建の方が行政書士よりも難易度が低いからです。
民法のように両資格で共通する科目もあるため、宅建に合格してから行政書士の勉強を始めるほうが、いきなり行政書士の勉強を始めるよりもスムーズに理解を進めることができるでしょう。
宅建の勉強方法
宅建の勉強では、過去問に取り組む際「この問題ではなぜこの答えなのか?」ということを深く理解することが重要です。
宅建試験は過去問の類題が出されることが多く、過去問練習にしっかり取り組むことが合格への近道です。
勉強熱心な方は繰り返し過去問を解くのですが、このとき無意識のうちに答えそのものを暗記してしまうと、本番で引っかけ問題に足をすくわれてしまいます。
宅建合格には、本質的な理解をこころがけた勉強が重要です。
行政書士の勉強方法
行政書士の試験では、配点の高い民法と行政法を重点的に学習しつつ、他の法律からの出題や一般知識問題などにも対応できるようにバランスよく知識を吸収していく勉強スタイルが理想です。
行政書士試験は選択式問題のほか、40文字で解答を作成する記述式の問題も出題されます。記述式というと難しそうに感じますが、
対策としては基本的には択一式の勉強と同様に条文、判例、学説の意味を理解すること、さらに問題の意図に応じたキーワード(法律用語)を盛り込んで簡潔にまとめられるようになることを意識しましょう。
「+α」でトリプルライセンスの道もある
宅建、行政書士、そしてもう一つ資格を取得するトリプルライセンスという道もあります。
ここでは、宅建と行政書士に加えたトリプルライセンスにおすすめの資格を紹介していきます。
司法書士
▼司法書士とは
司法書士は、登記または供託に関する手続きの代理、裁判所への訴状や告訴状の作成、簡易裁判所での代理人業務などを独占業務に持つ国家資格です。
合格率は3~4%で推移しており、法律系の国家資格の中では難易度がかなり高いです。
司法書士試験では、行政書士試験の法律科目である憲法・民法・刑法・商法のほか、不動産登記法、民事訴訟法、商業登記法、供託法などの法律が出題されます。
▼トリプルライセンスで備わる強み・できること
現実的には、この3つの資格を同時に使って仕事をするケースは少ないとみられます。
しかしこの3つの資格は扱う業務の関連性が高く、たとえば宅建士として持っている不動産に関する知識が、司法書士として行う不動産登記に活用できるといったメリットがあります。
行政書士の許可申請や書類作成と、司法書士の登記業務も関連性が高いです。トリプルライセンスで横断的な視点を得ることができ、業務の質が高まります。
社会保険労務士
▼社会保険労務士とは
社会保険労務士(社労士)は、健康保険・雇用保険・年金などの社会保険関係の手続き代理を専門とする国家資格です。
合格率は5~6%程度で、難易度は行政書士よりも少し高いと言えます。
▼トリプルライセンスで備わる強み・できること
社会保険労務士と行政書士資格をあわせて持つことで、会社や団体の立ち上げをワンストップで請け負う事業を展開できます。
また立ち上げ時は事務所の土地や建物が必要になり、そのニーズには宅建士として応えることができるでしょう。
社労士としては、給与計算や労務トラブルへの対応など、会社経営に常に寄り添う業務も引き受けることができるでしょう。
FP(ファイナンシャルプランナー)
▼FPとは
FP(ファイナンシャルプランナー)とは、ひとことで言えば「お金に関するエキスパート」の資格です。不動産の取引には大きなお金が動き、顧客の資産運用にも密接に関係するため、宅建とのダブルライセンスで取得している方は少なくありません。
FPには1級~3級までの種類がありますが、宅建とのダブルライセンスを狙う場合、取っておきたいのは2級です。
ただし2級を受験するには一定の要件が設けられているため、初めてFPを勉強する際はまずは3級からチャレンジする方が多いです。
合格率は、3級は学科が70〜80%程度、実技が80〜90%程度、2級は学科が40〜50%程度、実技が50〜60%程度となっています。
難易度は宅建や行政書士よりも低いといえます。
▼トリプルライセンスで備わる強み・できること
宅建とFPのダブルライセンスで、土地取得で資産運用を目指す個人・団体に有益なアドバイスができる人材を目指せます。
これに行政書士を加えたトリプルライセンスになることにより、不動産と金融という2つの専門性を持った行政書士として働けます。
【あわせて読みたい】宅建とダブルライセンスで取っておきたいおすすめ資格6選
まとめ
今回のポイントをおさらいしておきましょう。
- 宅建と行政書士では、宅建のほうが合格しやすい。
- 宅建は就職・転職、行政書士は独立開業に有利。
- 将来的に独立したいなら、宅建と行政書士のダブルライセンスや、さらに「+α」で資格を取得するトリプルライセンスがおすすめ。
士業として独立するのは自由に仕事が出来る魅力もある反面、ライバルが多いのも現実です。
事業を成功させるにはダブルライセンス、トリプルライセンスで専門性を高めることは、有効な戦略の一つとなるでしょう。
資格取得でキャリアの可能性を広げたいなら、まずは宅建から挑戦してみることをおすすめします。