民法とは?基本原則や構成
民法とは、日常生活における市民社会のルールを定めた法律です。
私たちが自由な経済活動を行うためには、さまざまなルールが必要となります。
企業や個人がビジネス上締結する契約も、すべて民法が原則です。
ここでは、宅建の勉強を始める前に知っておきたい、民法の基本を解説します。
- 民法における3つの基本原則
- 民法を構成する5つのパート
民法における3つの基本原則
民法には次の3つの基本原則があります。
- 権利能力平等の原則
- 私的自治の原則
- 所有権絶対の原則
「権利能力平等の原則」とは、すべての人が階級・職業・年齢・性別等によって差別されることなく、平等に権利と義務の主体となる能力(能力)を有するという原則です。
生まれたばかりの子供でも未成年者でも、成人と同じように所有権の主体となることを定めています。
「私的自治の原則」とは、個人の自由な意思を認め、個人の私法関係をその意思によって自由に規律させる原則であり、「契約自由の原則」と「団体設立の自由」という2つから成り立ちます。
宅建試験において特に重要なのは契約自由の原則です。
この原則によって、個人は法律に反しない限り、自由に契約を締結し、その内容を定めることが可能となっています。
「所有権絶対の原則」とは、所有権は誰に対しても排他的に支配する権利であり、所有者はその所有物を自由に使用・収益・処分することができるという原則です。
たとえば、土地の所有者は、その土地を許可なく占拠する者に対し、出ていくように請求する権利を有していることなどを指しています。
民法を構成する5つのパート
民法は「総則」「物権」「債権」「親族」「相続」の5つのパートから成り立ちます。
それぞれの内容を解説します。
・総則
民法全体の基本的な考え方を定めたパートです。
出題例:権利能力、法律上の行為、意思表示、自然人と法人など
・物権
物に対する権利(物権)を定めたパートです。
出題例:所有権、地上権、抵当権、賃借権、留置権など
・債権
人に対する権利(債権)を定めたパートです。
出題例:債権の種類、契約、債務不履行など
・親族
家族関係に関する権利義務を定めたパートです。
出題例:婚姻、親子、嫡出子、養子など
・相続
人が亡くなった後の財産の移転に関する権利義務を定めたパートです。
出題例:法定相続、遺言、遺留分など
また、上記5つのパートを「財産法」と「家族法」という2つにグループに分けることもできます。
総則は共通とし、財産法は物権と債権、家族法は親族と相続が該当します。
財産法は所有や売買、賃貸借などの財産関係を規律するもの、家族法は夫婦や親子、兄弟姉妹、死んだ後の相続などの身分関係や相続の関係を規律するものと考えられています。
宅建試験における「民法」とは
宅建試験における「民法」は、合否を分けるテーマです。
民法は難しすぎるといわれていて、多くの受験生が苦戦します。
しかし、毎年必ず出題される問題で、出題数も多い傾向にあります。
宅建試験における民法の位置づけや、なぜ民法を勉強することが重要なのかを解説します。
- 「権利関係」のなかで最もよく出るメインテーマ
- 毎年多く出題される頻出項目
- 「捨て問」と呼ばれるほどの難問
民法の規定や判例の正誤問題がほとんどですが、応用力を問われる問題が多く、暗記だけで乗り切るのは難しいでしょう。
「権利関係」のなかで最もよく出るメインテーマ
宅建試験には、宅建業法・権利関係・法令上の制限・税その他という4つの分野があります。
4つの分野すべてが同じ割合で出題されるのではなく、問題数には違いがあります。
それぞれの問題数をまとめると、以下の通りです。
分野 | 出題数 |
宅建業法 | 20問 |
権利関係 | 14問 |
法令上の制限 | 8問 |
税その他 | 8問 |
権利関係の出題数14問は、宅建業法の出題数20問についで数が多いことがわかります。
法令上の制限、税その他を合計しても16点なので、宅建試験では上記2つの分野のボリュームが大きいといえます。
なかでも民法は権利関係においてもっとも多く出題されるテーマなので、しっかりと時間をかけ、理解度を深めておく必要があります。
毎年多く出題される頻出項目
民法は例年10問出題されます。
権利関係の問題数は14問なので、そのうちの約7割は民法から出題されることになります。
なお、その他の分野も含めた権利関係の問題数は次の通りです。
分野 | 出題数 |
民法 | 10問 |
借地借家法 | 2問 |
区分所有法 | 1問 |
不動産登記法 | 1問 |
宅建試験は合計50問なので、民法は全体の2割程度に当たります。
合格点が例年35~40点であることを考えると、民法の理解度は合否を左右するポイントといえるでしょう。
「捨て問」と呼ばれるほどの難問
民法に対して苦手意識がある受験生が多いといわれています。
その他の分野と違い、暗記だけで回答できる問題がほとんどなく、応用力を求められることが理由としてあげられます。
問題の難易度も例年とても高いため、この分野を得点源にできる受験生は少ないのが実態です。
また、難問が多いことから、かつては「捨て問」と呼ばれ、民法は捨ててほかの分野を集中的に勉強したほうがよいとされていました。
しかし現在、宅建試験の合格基準点が上昇傾向にあり、民法を完全に捨ててしまうと合格するのは非常に難しくなってしまいます。
もちろん、民法分野を完璧にするのは困難ですが、しっかりと対策して一定以上の点数を取る必要があります。
民法が「難しすぎる」といわれる理由
民法が「難しすぎる」といわれている理由は、主に3つあります。
法律を学んでいたり法律を扱う業務に携わっていたりする人以外は、同じように民法の勉強に苦手意識を持つはずです。
- 法律用語が難しいから
- 問題文が長く意味がわかりにくいから
- 民法の考え方がわかりにくいから
法律用語が難しいから
民法では難しい法律用語が頻出します。
日常的に使用されない用語がほとんどなので、民法を初めて学ぶ方は、まず法律用語を覚えることからスタートしなければなりません。
たとえば難しい法律用語の代表例として「制限行為能力者」や「債務不履行」などがあります。
制限行為能力者とは、法律上一部の行為に制限がある人を指す言葉です。
たとえば未成年者や成年後見人制度の対象者などは、契約などの特定の行為が制限されています。
債務不履行とは、法律上行わなければならない義務を果たしていないことを指す言葉です。
債務不履行があったときは、債権者は債務者に対して損害賠償請求ができます。
この他にも多くの法律用語がありますが、一つひとつの用語の意味を正しく理解していなければ、問題を解くのは困難です。
また、問題中にこうした法律用語が多数出てくるので、全体的に読みにくく、取っつきにくい印象を与えるでしょう。
そのため、覚えるべき法律用語の多さに戸惑い、学習意欲を失い、挫折してしまう方も少なくありません。
問題文が長く意味がわかりにくいから
民法分野では、1問当たりの問題文がかなりの長文になります。
特に判例問題では非常に長い文章を読まなければなりません。
問題文が長いため、まず問題の意味を理解するだけで頭を使う必要があります。
法律用語も頻出するため、何が問われているのかわかりにくく、2度3度読まなければ理解できないこともあるでしょう。
宅建試験の問題数は50問で試験時間は2時間なので、1問を2.4分程度で答えなければなりませんが、文章が長い民法の問題を短時間で回答するのは困難です。
しかし、民法分野で時間を取られれば、他の問題まで手が回らなくなってしまうので、問題文のポイントをつかみ、できるだけ早く理解できるように訓練することが大切です。
民法の考え方がわかりにくいから
民法の考え方がわかりにくいと感じる方も多いでしょう。
仕事などで日常的に法律知識を活用することが少ない方は、民法の問題文や解答を読んでも、なぜそうなるのかを理解できないかもしれません。
基本的に民法は立場の弱い方や、悪意のない方を守るための規定が多い傾向にありますが、慣れないうちはその区別もつきにくいので戸惑いがちです。
民法の考え方がわかりにくいと感じる方は、とにかく問題を解き、民法に慣れていくことを心がけるようにしましょう。
合格するために!民法の勉強方法
宅建試験に合格するためには、民法を攻略することが大切です。
難しすぎて手が出せないという受験生のために、民法の問題を得点源にできるようになる勉強方法4つをご紹介します。
- 6~7割程度の正答率を目指そう!
- 優先順位を考えて勉強しよう!
- 登場人物を整理して図を描こう!
- 条文の趣旨を理解しよう!
6~7割程度の正答率を目指そう!
民法は条文の数が多く範囲が広い分野です。
覚えなければならないものが多いので、すべてを完璧に記憶するのは困難といえます。
問題自体も難しく、解くのに時間もかかるため、民法は6~7割を得点できればよいと考えて勉強をすることが大切です。
捨て問にしてはいけませんが、権利関係の出題数14問のうち、8問前後の点数が取れれば、合格点に達するのは十分可能になります。
民法の出題数は10問なので、他の権利関係の問題を落とさなければ、4問正解するだけでも合格点に近づくことでしょう。
あまり時間をかけすぎず、出題数の多い宅建業法などに勉強時間を割くことも重要なので、計画的に学習することを心がけましょう。
優先順位を考えて勉強しよう!
民法の試験範囲は広いので、すべてを完璧に覚えるのではなく、出題されやすいポイントを把握して、効率的に学習することが大切です。
民法で出題されやすい分野・項目は次の通りです。
- 制限行為能力者
- 意思表示
- 代理
- 時効
- 不動産物権変動
- 抵当権
- 債務不履行と解除
- 賃貸借
- 相続
これらの分野を重点的に学習し、そのうえで余裕があれば他の分野に移る、というように優先順位を考えて民法の勉強をすることがおすすめです。
登場人物を整理して図を描こう!
民法の問題は、長文の問題文のなかに複数の登場人物が出てくることがあります。
特に物権変動や相続分野では、多くの人物が登場する傾向にあるので、注意深く問題文を読まなければなりません。
しかし、問題が長文になればなるほど状況を理解するのが大変になります。
頭の中だけで考えていても、登場人物がごちゃごちゃになり、解けるはずだった問題まで落としてしまう可能性があります。
頭の中だけで考えるのではなく、登場人物を整理して図を描くと、理解しやすくなるのでおすすめです。
実際に過去問などを解くとき、図を描いて解く練習をすれば、コツがつかめるようになるでしょう。
たとえば相続分野においては、実際に家系図を書いて考えるとイメージしやすくなります。
事例を具体的にイメージしよう!
民法分野では事例に関する問題が多い傾向にあります。
条文を理解することも大切ですが、実際の事例に当てはめて判断する力が求められるので、暗記だけで乗り切るのは困難な分野です。
また、民法は条文の暗記に力を入れるよりも、事例を具体的にイメージした方が理解が深まるので、過去問を解くときには頭の中で状況をイメージしながら学習するようにしましょう。
ただし、事例を具体的にイメージするためには、条文もある程度暗記していなければなりません。
もちろん、宅建に関係する民法の条文すべてを覚えようとすると膨大な量になるので、その必要はありませんが、最低限暗記しておくべき条文も存在します。
そのため、やみくもに問題を解くのではなく、頻出する条文を把握して、抑えるべき事項はしっかりと覚えながら学習することをおすすめします。
まとめ
最後に宅建試験における民法が捨て問と呼ばれる理由や権利関係の勉強方法について、ポイントをおさらいします。
- 権利関係の民法は毎年10問程度が出題されるので、捨て問にはできない
- 法律用語が多く問題文がわかりにくいのが、民法が難しい理由である
- 民法は捨て問にしてはいけないが、6~7割程度の正答率を目指せば良い
- 試験範囲が広いので、優先順位を考えることが大切
- 登場人物が多いときは、図をかきながら問題を解くのがコツ
以上、権利関係の勉強方法を解説してきましたが、宅建試験は年々難易度が上がっているので、独学で学習するのは大変でしょう。
また、200~300時間程度の学習時間が必要とされているので、忙しい社会人の方はスキマ時間を活用することが大切です。
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