司法書士と弁護士は共通している点もありますが、業務内容の範囲に違いがあります。
それぞれの仕事内容の違いを見ていきましょう。
司法書士とは主に次のような業務を行います。
依頼主の権利と財産を守る業務が多いことなどから「身近な法律家」ともいわれます。
さらに、法務省の認定を受けた「認定司法書士」は、簡易裁判所における少額の債権執行代理が可能です。
少額の債権執行代理とは、以下のような業務です。
身近な法律問題の解決だけでなく、簡易裁判所の訴訟代理といった業務が可能で、司法書士の活躍の場は広がっています。
一方、弁護士は事件やトラブルに対して、法律を通じて依頼主の権利を守る法律家です。
高度な法律知識を備えている弁護士は、「弁護士法第3条」により以下の業務範囲が規定されています。
弁護士は法律に関する業務全般の取り扱いが可能で、業務に制限はありません。
個人が顧客の場合は、金銭問題や相続、交通事故等のトラブル解決といった法務を行います。
法人が顧客の場合は、契約書の作成や労務管理、債務整理といった業務で企業の課題を解決します。
つまり、司法書士は争いごとのない業務が多いのに対し、弁護士は民事や刑事に関する争いごとやトラブルに関わるケースが多く、問題を解決するのが弁護士の役割です。
司法書士と弁護士は、どちらも独立開業のできる資格です。
資格取得後の働き方には、どのような違いがあるのかを見ていきましょう。
司法書士と一言で言っても、働き方はさまざまです。
例えば、以下のような働き方があります。
司法書士の資格取得後に司法書士の資格を活かして働く場合は、司法書士事務所に就職するのが一般的です。
司法書士として勤務して一定の経験を積んだ後は、最終的に多くの方が独立を目指します。
弁護士も、司法書士と同様にさまざまな働き方をしている方がいます。
例えば、以下のような働き方があります。
弁護士の資格取得後は、弁護士事務所に就職するのが一般的です。
司法書士と同じように、ある程度経験を積んだ後に独立・開業して自分の法律事務所を設立する方も多くいらっしゃいます。
なかには、国や地方自治体、国際機関などの職員として働く方もいます。
次は司法書士試験と司法試験の難易度を比較します。
▼司法書士試験と司法試験・予備試験の比較
司法書士 | 弁護士 | ||
予備試験 | 司法試験 | ||
受験者数(令和4年度) | 12,727人 | 13,004人 | 3,082人 |
受験資格の有無 | なし | なし | あり |
合格率 | 4〜5% | 3%前後 | 30〜40%前後 |
必要な勉強時間 | 約3,000時間 | 約3,000〜1万時間 | 予備試験合格者:約1,000時間
法科大学院修了者:約2,000〜3,000時間 |
結論からお伝えすると、司法書士試験の方が短い期間で合格できる可能性があります。
まず確認したいのが、試験を受験するために受験資格が設けられているか否かという点です。
司法書士試験は受験資格が設けられておらず、誰でも受験することができます。
一方、弁護士になるための司法試験は、誰でも受験できるというわけではなく、受験するためには受験資格を得る必要があります。
司法試験の受験資格を得るためには、一般期には「法科大学院課程の修了者」と「司法試験予備試験の合格者」の2つのルートがあります。
「法科大学院課程の修了者」となるには、法科大学院の未修コースに3年間、もしくは既修コースに2年間通って修了することが必要です。
もう一方の「司法試験予備試験の合格者」となるルートは、例年7月実施の短答式試験に合格し、9月実施の論文式試験に合格し、さらに翌年の1月の口述式試験に合格して、予備試験の最終合格者となる必要があります。
次は、学習時間の点から検討していきます。
司法書士試験の合格までに必要な勉強時間の目安は、約3,000時間といわれています。
一方で司法試験は、法科大学院修了者の場合は約2,000〜3,000時間、予備試験合格者の場合は約1,000時間が目安といわれています。
ただ、司法試験の受験資格を得るために法科大学院を修了する場合は、未修コースに3年間、もしくは既修コースに2年間通うことが必要となり、予備試験に合格するには約3,000〜1万時間が必要といわれています。
そのため、司法試験の合格までの時間は、受験資格を得るまでの勉強時間に加えて、司法試験そのものの勉強時間も考えなければなりません。
合格までの学習時間は一概に言えるものではありませんが、目安とされる勉強時間を軸に比較すると、司法書士試験の方が短い時間で合格できる可能性があるといえます。
司法書士試験も司法試験も、法律系国家資格の中で特に難しい試験です。
それぞれの合格率は司法書士試験が例年4〜5%、司法試験が30〜40%、予備試験が3〜4%前後です。
合格率を比較すると「司法試験よりも司法書士試験の方が難しいの?」と思ってしまうかもしれません。
ただし、司法試験には受験資格がありますが、司法書士試験には受験資格がありません。
そのため、司法書士試験の受験者の中には、法律系科目初学者の方もたくさんいるでしょう。
法律に詳しい方も、あまり勉強したことがない方もさまざまな方が挑戦しやすい背景が、試験の合格率にも反映されています。
予備試験も司法書士試験と同様に受験資格がないため、受験生の法律の習熟度はさまざまであり、合格率にはそういった背景が含まれています。
一方で、司法試験の受験生は法科大学院で勉強したり、予備試験に合格できるほどの知識を身に付けていたりと、それぞれの難関を突破してきた方々です。
そのため、合格率を比較する際は、司法試験の受験生は法律に関して知識を深めたうえで受験している方ばかりであることを差し引いて考える必要があります。
司法試験は受験するまでに法科大学院を修了したり、予備試験に合格したりしなければいけない点を踏まえると、司法試験の合格率が30〜40%というのは、司法書士試験と比較して決して高いとはいえないでしょう。
次は司法書士試験と司法試験の仕組みを比較します。
司法書士は試験合格後に研修を受けて司法書士登録すると、司法書士として活動できます。
一方で、弁護士は司法試験を受験するために予備試験に合格、もしくは法科大学院を修了しなければいけません。
司法書士の試験と比較すると、弁護士の方が試験を受験するまでのハードルが高くなっています。
それぞれの試験の違いを具体的に見ていきましょう。
司法書士試験は年に一度、全国各地の指定会場で実施されます。
試験の出願から最終合格までのおおまかなスケジュールは、下記のとおりです。
▼司法書士試験の日程
受験申請受付期間 | 4月下旬〜5月中旬 |
筆記試験日 | 7月の第1週目(第2週目)の日曜日 |
筆記試験の合格発表日 | 10月上旬〜中旬頃 |
口述試験日 | 10月下旬頃の平日 |
最終合格発表日 | 11月上旬〜中旬 |
司法書士試験に合格した後は新人研修を受けて、日本司法書士連合会に登録すると司法書士として業務を開始できます。
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・受験資格
筆記試験には受験資格がありません。
そのため、学歴や年齢、性別に関係なく受験できます。
受験回数の制限も設けられていないため、合格するまで何度でも受験可能です。
ただし、口述試験は筆記試験合格者しか受けられません。
・出題科目・出題形式
司法書士試験の出題科目は、合計11科目です。
また、筆記試験の出題形式は択一式と記述式の2通りがあります。
▼司法書士試験の出題科目と配点
出題科目 | |
午前の部・択一式
(計35問) |
憲法〔3問〕 民法〔20問〕 刑法〔3問〕 商法(会社法)〔9問〕 |
午後の部・択一式
(計35問) |
民事訴訟法〔5問〕 民事執行法〔1問〕 民事保全法〔1問〕 司法書士法〔1問〕 供託法〔3問〕 不動産登記法〔16問〕 商業登記法〔8問〕 |
午後の部・記述式
(計2問) |
不動産登記法〔1問〕 商業登記法〔1問〕 |
筆記試験はそれぞれに基準点と合格点が設けられており、いずれも規定の点数に満たないと合格できません。
令和4年度の司法書士試験を例に挙げると、筆記試験の合格点は満点280点中216.5点以上です。
また、基準点は下記のとおりです。
上記の合格点は、午前の部・択一式、午後の部・択一式、記述式の総得点280点をもとに設定された基準です。
つまり、司法書士試験に合格するには約8割の点数を獲得する必要があります。
筆記試験に合格すると、口述試験を受験できます。
弁護士になるための司法試験は、司法書士試験と同様に年に一度試験が実施されています。
大まかなスケジュールは下記の通りです。
出願期間 | 3月中旬〜4月上旬 |
司法試験日 | 7月中旬の4日間 |
短答式試験成績発表 | 8月 |
合格発表日 | 11月 |
ただし、司法書士試験と比較すると、弁護士になるための試験の仕組みは複雑です。
受験資格の観点から司法試験の仕組みを見ていきましょう。
・受験資格
司法試験を受験するには受験資格が必要です。
司法試験の受験資格を得るための要件として、以下の3つが挙げられます。
予備試験とは、司法試験を受験するために法科大学院修了程度の知識・能力があることを証明するための試験です。
予備試験には受験資格がありません。
年に一回実施される短答式試験と論文式試験、口述試験に合格すると司法試験の受験資格を得られます。
また、法科大学院の未修コースに3年間、もしくは既修コースに2年間通って修了した場合も、司法試験の受験資格を取得可能です。
2023年からは法科大学院在学中も、以下2つの要件を満たすと司法試験を受験できるようになりました。
ただし、予備試験に合格または、法科大学院を修了して5年以内に合格しなければ、司法試験の受験資格が失効する点には注意が必要です。
このように司法書士試験と比較すると、司法試験は受験するまでのハードルが高くなっています。
・出題科目・出題形式
司法試験の出題科目は、法律基本科目と呼ばれている憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法です。
司法試験の短答式試験と論文式試験で出題される科目は、表のとおりです。
▼司法試験の出題科目
試験の種類 | 科目 |
短答式試験 |
憲法 民法 刑法 |
論文式試験 |
公法系科目(憲法及び行政法に関する分野の科目) 民事系科目 (民法、商法及び民事訴訟法に関する分野の科目) 刑事系科目 (刑法及び刑事訴訟法に関する分野の科目) 選択科目 (倒産法、租税法、経済法、知的財産法、労働法、環境法、国際関係法〔公法系〕、国際関係法〔私法系〕のうち受験者のあらかじめ選択する1科目) |
司法書士試験と共通する科目が多く、憲法や民法、刑法、商法、民事訴訟法はどちらの試験でも出題されます。
一方で、刑事訴訟法は、司法書士試験では出題されません。
また、司法試験には合格点があり、合格するには基準以上の点数を獲得する必要があります。
令和4年度の司法試験を例に挙げると、総合点の合格点は750点でした。
短答式試験の合格点は96点で、各科目の配点の40%(民法が30点、憲法・刑法が20点)が合格基準点です。
1科目でもこのラインを下回ると、司法試験には合格できません。
なお、論文式試験の合格点は公表されていません。
ただし、合格基準点は、各科目の配点の25%(民事系が75点、公法系・刑事系が50点、選択科目が25点)です。
司法試験に合格した後は、司法研修所で1年間法律実務を学んだ司法修習生に対して司法修習生考試(二回試験)が実施されます。
弁護士になるには、司法修習生考試(二回試験)にも合格しなければいけません。
ここまで司法書士と弁護士の特徴を比較してきて、「どちらを目指したらいいのだろう」と迷っている方もいるでしょう。
司法書士に向いているのは、以下のような方です。
司法書士の業務は登記や供託手続きの代理、法務局・裁判所・検察庁に提出する書類の作成などがメインです。
司法書士の業務は、トラブルを未然に防ぎ、依頼者の権利・財産を守ることを目的としたものが中心であることから平和産業といわれています。
一方で、弁護士に向いているのは、以下のような方です。
弁護士の仕事には法律相談や書類作成だけでなく、相続問題や離婚問題、交通事故トラブルなどの民間のトラブルを解決する業務もあります。
また、刑事事件では被疑者や被告人の代理人として、裁判に立つこともあるでしょう。
このように司法書士と比較すると、さまざまなトラブルに関わる仕事です。
既に発生した紛争やトラブルを解決するため、大きくプレッシャーや責任がのしかかるでしょう。
弁護士は司法書士ほど、穏やかな気持ちで仕事ができるとは言えません。
司法書士と弁護士の違いをおさらいしましょう。
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この記事を監修した人 山田 巨樹 講師(司法書士・スタディング 司法書士講座 主任講師) 司法書士試験合格後、1998年から大手資格学校にて司法書士試験の受験指導を行う。その後、大手法律事務所勤務を経て独立し、東村山司法書士事務所を開設。2014年、「スタディング 司法書士講座」を開発。実務の実例を交えた解説がわかりやすいと好評。 |