司法書士は独立開業しやすい
実際のところ、独立開業の道を選ぶ司法書士の数は多いです。
資格を取得したばかりの頃は、どこかの事務所に勤務する方が多いですが、いずれ多くの司法書士は自ら事務所を開業して一国一城の主となります。
独立するケースが多いということは、それだけ司法書士が独立しやすいことを意味します。
独立しやすい理由はいくつかありますが、もっとも大きいものは、資格ひとつで食べていける点です。
司法書士は、登記や供託などの専門家です。
資格があれば、一般人には難しい法的手続きに関する業務を引き受け、報酬が得られます。
信頼をつかみ取れば、定期的に仕事を獲得でき、地域にしっかりと根を下ろして活動できるようになります。
また、がんばった分だけ稼げる点も独立司法書士の魅力であり、独立開業を後押しするポイントです。
勤務司法書士では、いくら頑張っても報酬は事務所の給与システムの範囲内です。
それに比べ、独立司法書士の収入に限界はありません。なかには、年収1,000万円を超える人たちもいます。
そのような環境も独立を生みやすい面は否定できません。
関連記事:司法書士の平均年収はどれぐらい?働き方別の年収や年収アップの方法を紹介
司法書士として独立開業するメリット・デメリット
司法書士として独立開業して失敗しないためには、メリットとデメリットの両方を確認することが大切です。
ここでは独立開業するメリット・デメリットを紹介します。
メリット
司法書士として独立開業するメリットは、以下の3つです。
- 高年収を稼げる可能性がある
- ライフステージに合わせて仕事量を調整できる
- 独立開業後の廃業率が低い
3つのメリットを具体的に見ていきましょう。
▼高年収を稼げる可能性がある
司法書士の中でも、高年収を稼ぎやすいのは独立開業した司法書士です。
司法書士白書2021年版の調査結果によると、経営者司法書士の売上(収入)金額として、最も多いのが1,000〜4,999万円(全体の35%)の方でした。
経営者司法書士の売上は平均すると、1,683.5万円です。
以前の司法書士白書の調査結果でも、売上(収入)金額1,000〜4,999万円の人が44.8%と最も多い結果となっていました。
確定申告では売上金額から広告宣伝費や接待交際費、賃金、家賃などが差し引かれるため、もう少し低い金額で所得が算出されるでしょう。
司法書士白書2021年版の調査結果では、「事務所内のただ一人の経営者司法書士である」と回答している方が、経営者司法書士全体の80%を占めています。
つまり、一般的に経営コストの中でも、負担の大きい人件費がかかっていない方が多いということです。
したがって、経営者司法書士の売上の中でも手元に残る金額は、比較的多いのではないでしょうか。
▼ライフスタイルに合わせて仕事量を調整できる
司法書士に限った話ではありませんが、独立開業すると事務所の運営方針や働き方はすべて自分で決定できます。
取り扱う分野の種類や数も自分次第です。
もし結婚や子育てなどのライフスタイルの変化により、仕事よりも家庭を優先したときは、仕事量を調整してワークライフバランスを考慮した働き方も可能です。
休日や就業時間も自分で設定できるため、勤務している場合と比較すると理想の生活を実現しやすいでしょう。
また、司法書士には定年がないため、独立開業すると会社や事務所の規定によって、定年退職の時期が決められることもありません。
司法書士白書2022年版によると、司法書士の平均年齢は54歳で、最年長は100歳とされています。
▼独立開業後の廃業率が低い
司法書士は、他の業種と比較すると独立開業後の廃業率が低いのが特徴です。
司法書士の廃業率を司法書士会会員数と登録取り消し数から算出しました。
4月1日時点の会員数 |
登録取消者数 |
廃業率 | |
平成30年度 | 22,488 | 642 | 2.8% |
令和元年度 | 22,632 | 628 | 2.7% |
令和2年度 | 22,724 | 585 | 2.5% |
司法書士の登録者数は年々増加傾向にありますが、登録取消者数は例年600人前後のため、結果として廃業率は減少しています。
一方で、令和2年の国内全体の廃業率は3.3%です。
日本全体の廃業率は欧州や米国と比較すると低い水準ですが、司法書士の廃業率は国内全体の廃業率よりもさらに低い水準です。
デメリット
次は司法書士として独立開業するデメリットを見ていきましょう。
- 資金面でリスクを負う
- 自ら仕事を取りにいかないといけない
独立開業は魅力的ですが、良いことばかりではありません。
独立開業する前に、デメリットも確認しておくことが大切です。
▼資金面でリスクを伴う
独立を志す司法書士の中で大きな懸念事項と言えば、資金です。
先立つものがなければ、独立したくてもできません。
一般的に、独立開業には以下のコストがかかります。
- 事務所のテナント費用
- パソコン、プリンター、デスク、応接セットなどの事務所設備品
- ホームページ費用
- 広告代
- 名刺費用
もちろん、水道代や電気代などの光熱費、インターネットや電話などの通信コストも考慮しなければなりません。
さらに、事務員や秘書を雇えば人件費がかかるでしょう。
事務所開業には、上記の初期投資や事務所を維持するためのランニングコストが発生し、経営者である司法書士が負担しなければなりません。
独立したばかりの頃は、顧客も少なく、売上も限られます。
収入がなくても、維持コストは毎月発生するため、無収入が続けばあっという間に経営状況はひっ迫します。
リスクを最低限に抑えるため、家賃がかからない自宅開業を目指す人も多いですが、それでも50万円程度は必要です。
開業するからには、ある程度の資金準備が前提となるでしょう。
▼自ら仕事を取りにいかないといけない
独立開業した司法書士は自ら営業して仕事を取りにいかなければ、収入を得られません。
仕事を獲得するには人脈を築いたり、営業力を身に付けたりする必要があります。
オフラインでも営業が苦手な方は、SNSやホームページを使って集客する手段もあります。
いくら司法書士としての能力が高くても、マーケティング力がなければ仕事を受注できないのがデメリットです。
廃業率が低いとはいえ、仕事を受注できなければ存続の危機に陥ってしまうため、経営者としての腕が試されるでしょう。
司法書士試験合格後、独立開業までの流れとタイミング
司法書士は、資格取得後すぐに独立開業が可能です。
ただし、実務経験がない状態でいきなり独立開業するのは、あまり現実的とはいえません。
独立するには司法書士としての知識だけでなく、仕事を受注するスキルやお客様と良好な関係を構築するスキルなどを培う必要があります。
したがって、まずは司法書士事務所や法律事務所などに就職して、司法書士としての実務経験を積んでから独立開業した方が良いでしょう。
ここでは、司法書士が試験に合格後に独立開業するまでの流れを紹介します。
研修を受講して司法書士会に登録する
司法書士試験に合格後は、司法書士会に登録するには新人研修を受講する必要があります。
新人研修には、以下の3つがあります。
- 中央新人研修
- ブロック新人研修
- 司法書士会新人研修
地域ごとに開催時期は異なりますが、試験の合格発表が行われた後の12月に始まるのが一般的です。
約4ヵ月間に渡って、司法書士の仕事に必要な知識やスキル、姿勢などを身に付けるための濃いプログラムが実施されます。
新人研修をすべて受講すると、必要書類の提出や面談などを行って司法書士会に登録できます。
司法書士事務所などで経験を積む
司法書士会に登録すると、晴れて司法書士の仕事をスタートできます。
司法書士事務所などに就職し、司法書士として活躍していくために必要な知識やスキル、経験を積んでいきましょう。
司法書士の仕事には不動産や商業、債務整理などさまざまな分野があります。
事務所によって主要な分野や業務内容が異なるため、専門分野にしたい業務に強い事務所で経験を積む、もしくは大規模な事務所でさまざまな業務を経験すると良いでしょう。
独立開業する
準備ができたらいよいよ事務所を退職して、独立します。
独立開業するには、開業予定の事務所がある地域の司法書士会に、登録申請手続きをしなければいけません。
また、税務署への開業届の提出も必要です。
司法書士として独立開業するための準備
次は、司法書士として独立開業するために必要な準備を紹介します。
独立するための計画を立てる
具体的な開業準備を始める前に、司法書士事務所で経験を積みながら、事業計画を立てることが大切です。
以下の項目のような計画・準備を進めていきます。
- 事務所のコンセプト
- 取り扱う分野
- お客様のターゲット層
- 事務所を開業する立地
- 開業する時期
- 開業する場所
- 開業資金
司法書士が取り扱える分野はさまざまありますが、「何でもできます」と言っていては競合他社と差別化できません。
特に最初のうちは、依頼者に何が得意な事務所なのかを明確に伝えるためにも、強みとする分野を考えたほうが良いでしょう。
また、開業資金は開業にかかる費用と、開業後に事務所の収益が安定するまでの事務所運営費用とご自身の生活費を合わせた金額を用意する必要があります。
人脈作りをする
司法書士として独立開業するには、人脈作りも欠かせません。
例えば、住宅を購入して司法書士に登記を依頼する際は要望がない限り、不動産会社から司法書士事務所を紹介されます。
また、不動産関係だけでなく、会社を設立する際に税務を依頼しようと税理士事務所と契約すると、会社設立登記のために司法書士を紹介されるケースもあるでしょう。
このように司法書士の仕事は、依頼者が自分で事務所を探して問い合わせするだけでなく、知り合いからの紹介によって受注するケースが多くあります。
特に開業初期は知名度が低く、依頼者から突然問い合わせがくることはほとんどないので、人脈を作っておいたほうが仕事を獲得しやすいでしょう。
人脈を作る方法として、士業同士の交流会や異業種交流会などが挙げられます。
事務所や自宅など開業する場所を決める
司法書士事務所を開業する場所の準備も必要です。
司法書士が事務所を開業する場所は、テナントやオフィスマンション、シェアオフィス、自宅などが挙げられます。
利便性の良い場所にあるテナントは、人通りが多いことから集客効果が期待できますが、賃料は高額です。
一方で、自宅で開業する場合は、開業費用を最低限に抑えられます。
開業する立地は、以前は法務局や裁判所などの近くに司法書士事務所が集中していましたが、最近はオンラインでできる業務が増えて、その必要はなくなってきました。
来客型や訪問型といった事務所の運営方針や賃料などを考慮して、決めると良いでしょう。
業務に必要なものを揃える
開業する場所を決めたら、次は事務所の運営に必要なものを揃える必要があります。
具体的には、以下のものが必要です。
- インターネット環境
- パソコンや電話などの通信設備
- プリンター
- 椅子と机
- 応接セット
- 文房具や名刺などの消耗品
- ホームページ
- 事業用の銀行口座を開設 など
その他にも、司法書士電子証明書や登記情報登録サービスなどへの申請も必要です。
準備が整うまでに時間がかかるものもあるため、計画的に揃えたほうが良いでしょう。
挨拶状を送付する
司法書士事務所を開業したら独立を知らせるために、知り合いや今までお世話になった方に挨拶状を送ることも大切です。
挨拶状を送ったことがきっかけで、疎遠になっていた知り合いと再び連絡を取り合うようになり、仕事につながるかもしれません。
また、同じ業界の方からはアドバイスをもらえる可能性もあります。
まずは司法書士として開業したことを知ってもらわないと、仕事を獲得できません。
独立開業に失敗する司法書士の特徴
次は、独立開業後に失敗しがちな司法書士の特徴を紹介します。
独立後に同じミスをしないように確認しておきましょう。
低価格を売りにしている
司法書士の報酬は自由に決められますが、集客したい思いから低単価を売りにすると、結果として自分の首を絞めてしまいます。
司法書士事務所を運営するにはさまざまな経費がかかるため、報酬を安く設定すると赤字になってしまうでしょう。
また、一度安い価格で引き受けると、後から報酬を上げるのが難しくなり、低価格で続けないといけなくなります。
さらに安さだけで勝負すると、もっと安い事務所が現れたときに顧客が流れていく恐れがあります。
そのため、価格は安くしすぎず、安さ以外の強みを持つことが大切です。
1人で仕事を抱えすぎる
独立後しばらくは、司法書士の実務や経理、営業など全ての業務を1人でこなす必要があります。
仕事を数多く受注して、経営を安定させたい気持ちから1人で業務を抱え込んでしまう方もいるでしょう。
仕事を多く抱えると売上は伸びるかもしれませんが、業務過多となって体調を崩し、仕事を続けられなくなるリスクもあります。
仕事が多くなってきたときは、事務スタッフを雇うなどして、業務過多にならないように対策することが大切です。
司法書士として独立開業後に成功するコツ
独立後、司法書士事務所をうまく軌道に乗せられるように成功するコツも確認しておきましょう。
競合事務所と差別化できる強みがある
司法書士事務所を開業し、数多く競合他社がある中で生き残っていくには、差別化できる強みを明確にすることが大切です。
司法書士会に登録している司法書士の数は、2014年は21,366人だったのに対し、2023年には23,059人に増加しています。
そのうえ、全員が司法書士試験に合格して一定以上の知識を持っている以上、法律知識だけで差別化できません。
そうはいっても開業初期は、強みを見いだすのが難しいでしょう。
そこで例えば、「不動産登記に強い」「中小企業の経営に強い」などを専門分野を明確にすることも、他の事務所を差別化するポイントの1つになります。
集客するために行動している
司法書士として独立し成功するには、集客力が必須です。
司法書士事務所が集客する方法には、ホームページの作成やWEB広告の活用、オンライン・オフラインでの交流などが挙げられます。
そして、どこの場にいってもコミュニケーション力が大切です。
他士業と関わりを持ち、仕事を紹介してもらった際に円滑に業務を進められると、その後も自然と紹介される回数が増えていくでしょう。
また、顧客に丁寧な対応をして良い口コミが生まれると、さらに集客効果が期待できます。
司法書士のやりがいや魅力
司法書士を目指す目的は、人それぞれです。
「独立して儲けたい!」という人もいれば、「困っている人を助けたい」という思いで勉学に励む人もいるでしょう。
司法書士になれば、そのいずれも叶えられます。
ここでは司法書士のやりがいや魅力に焦点を当てて、紹介していきます。
困っている人を助けられる
独立すれば、年収1,000万円も夢ではありません。
こんな話をすると、稼ぐことだけが司法書士になる目的と思われるかもしれません。
しかし、それはちょっと違います。
司法書士は高度な知識と実務スキルを生かして、多くの困っている市民をサポートできる職業であり、そこにやりがいを覚えて目指す人も多いです。
遺産相続の相談や、障害を抱えた人の消費生活を支える後見人制度、借金トラブルや債務整理の相談など、司法書士事務所に足を運ぶ依頼者は難しい問題を抱えて困っている人ばかりです。
解決方法がわかっていても、一般の市民は法律の知識がないため、動けません。
書類作成や申請手続きを代行すると、困っている人たちの手助けができるのもやりがいの1つです。
プロボノ活動で社会貢献もできる
業務以外でも、司法書士はさまざまな場面で社会や市民生活に役立つ取り組みを行っています。
最近では、「プロボノ」という社会貢献活動が注目されています。
プロボノとは、司法書士や弁護士などの法律家が、公益に資する事業や活動を無報酬で行うことです。
司法書士や弁護士は公的施設や各種イベント会場などで、法律の無料相談会を実施することがありますが、これなどは典型的なプロボノ活動の一環でしょう。
無料で法律相談できる機会が増えれば、それだけ法的トラブルに悩む人々の手助けとなります。
努力して身につけた知識とスキルを公共の目的のために活用する。
そんな思いで活躍する司法書士もたくさんいることに、もっと目を向けていきたいです。
まとめ
司法書士の独立についてお伝えしました。
- 司法書士は独立しやすい資格である
- 独立すると高年収を狙えて、働き方を自由に決められる
- 仕事を獲得できないと収入を得られないデメリットもある
- 独立するとしてもまずは司法書士事務所で実務経験を積むと良い
- 司法書士が仕事を獲得するには士業や他業種の方との人脈が大切である
司法書士が独立後、仕事を受注し経営を安定させるには、さまざまな方とのつながりを持ち、他事務所と差別化できる強みを明確にすることが大切です。
司法書士試験合格を目指す方の中にも、将来的に独立開業を考えている方はいらっしゃるでしょう。
これから司法書士を目指す方には「スタディング 司法書士講座」がおすすめです。
司法書士試験の膨大な範囲をスキマ時間を活用して、効率よく学習できるカリキュラムで、無理なく合格を目指せます。
まずは無料講座と無料セミナーをお試しください。