無料お試し

令和4年度(2022年度) 司法書士試験 総評と令和5年度(2023年度)の対策

スタディング 司法書士講座
講師 山田 巨樹

令和4年7月3日(日)に令和4年度の司法書士試験が行われました。

一昨年、昨年と同様にコロナ禍での実施でしたが、例年通りの日程で行われました。まずは、令和4年度の司法書士試験を受験された皆様、お疲れさまでした。

早速ですが、令和4年度の司法書士試験について感じたことを述べさせていただきます。


1.午前多肢択一式

(1)憲法(第1問~第3問)

第1問は、肢エを除き、司法書士試験の対策として通常は学習してない判例が出題されましたので、落としてもいい問題かと思います。第2問と第3問は得点しなければならない問題でした。

(2)民法(第4問~第23問)

第4問~第15問の民法総則と物権・担保物権からの出題は、すべての選択肢の正誤がわからなくても、基本的な条文・判例の知識から正解を導くことができた問題でした。

続いて、第16問~第19問の債権法は、2019年以降に改正された規定からの出題も混じっていましたが、改正されてからしばらく経つため、令和4年度の試験では得点してほしい問題でした。

第20問と第21問の親族法からの出題は、基本的な条文の知識で正解を導くことができた問題でした。とはいえ、第21問の成年後見監督人については、合格レベルにある方でも手が回っていなかった方も多かったのではないかと思います。

第22問と第23問の相続法からの出題では、第23問で配偶者居住権が出題されました。条文の知識で解ける問題でしたが、まさか午後の部の記述式でも、配偶者居住権に関する知識が問われるとは、この時点では思いもしませんでした。

(3)刑法(第24問~第26問)

第24問~第26問は、すべての選択肢の正誤がわからなくても、基本的な条文・判例の知識から正解を導くことができた問題でした。第24問の正解の根拠となる肢イは、平成25年度第24問肢オで出題されていますので、当然知っていなければならない知識であり、これを基に正解を導けたと思います。

(4)会社法・商法(第27問~第35問)

会社法第27問ですが、肢アを検討した際、発起設立から考えるのか、募集設立から考えるのかの判断が付かなかったという方もいたかと思います。本試験では、このようにあいまいな問題文になっている場合もありますので、いったん飛ばして、次の選択肢を読み進めるべきです。

そして、肢オが正しいとなると、肢アは発起設立に立って考えるのかもしれないとの判断で解答を出し、次の問題に進むことが得策です。

その他の問題ですが、第32問を除き、基本的な条文の知識からの出題でした。第31問は「判例の趣旨に照らして」という出題でしたが、条文からの出題である肢ア~肢エの判断で回答を出せた問題でした。

もっとも、条文の知識からの出題も、条文を単に覚えれば解けるかといえばそうではなく、条文のどの部分がどのように問われるのかを把握しながら身につけておかなければ問題は解けるようにはなりません。そのため、条文の知識からの出題の方が他の受験生と差が付きやすいといえます。

対策としては、過去問を通して出題箇所を把握しながら知識を身につけ、確実に得点できるよう仕上げておく必要があります。

(5)まとめ

昨年と比べると、全体的に少し難易度が上がったと思います。合格基準点は昨年より上がることはないと思われます。

毎年同じ話になりますが、過去の司法書士試験で出題されている知識以外からの出題があった場合、合格レベルにある受験生でも得点することは難しいです。合格できるか否かは、過去の司法書士試験で出題されている知識が正確かつ横断的に入っているか否かです。

令和4年度の司法書士試験の合格を目指して勉強をしてきた方は、試験直前期である5~6月を過ごしてみて、多くのことをこなすことはできないということに気づかれた方も多いと思います。
こなすことができるのは、過去の司法書士試験で出題されている知識と講義で紹介された改正で加わった知識程度だと思います。

勉強をしていると、細かな知識が気になってしまうものですが、まずは過去の司法書士試験で出題されている知識を正確に覚えること、そして横断的に整理することを目指して勉強を進めていくことが大切です。

2.午後多肢択一式

(1)民事訴訟法(第1問~第5問)

記述式もある午後の部では、民事訴訟法から供託法までは、できれば10分程度でサクサク解くことが望ましいと考えているのですが、いきなり第1問をみてびっくりした受験生が多かったのではないかと思います。

訴訟告知については、過去に問われている知識程度は覚えていたでしょうが、それを超える知識が問われていたからです。そして、第2問では、訴訟記録の閲覧等が出題されましたが、これについてもおさえさらに、第5問の控訴の分野も学習が手薄になりがちな分野です。

第1問、第2問及び第5問は得点できなくても差はつかないと思われます。このような出題がなされたときに、自信をもって「周りもできないはずだ」と思えるか否かが重要となります。このような気持ちになるためには、過去問をしっかりとこなしておくことが重要となります。。

(2)民事保全法、民事執行法、司法書士法、供託法(第6問~第11問)

民事保全法、民事執行法、司法書士法及び供託法は、過去に出題されていた知識から大きく外れた出題はなかったと思われます。

(3)不動産登記法(第12問~第27問)

不動産登記法は、昨年に比べ、かなり易しくなった印象です。
細かな知識が問われたことのみに気を取られ、過去に出題された知識のみでは足りないのではないかと考える方がいるのですが、合否は多くの合格者が正確に覚えている知識、つまり、過去の司法書士試験で出題された知識で決まります。
不動産登記法の多肢択一式は、記述式を解くために必要な知識よりも、より細かな先例の知識等が問われます。

しかし、より細かな先例の知識等を理解しつつ覚えるためには、記述式で問われる知識の理解が必要となります。

そのため、記述式の対策をしつつ、多肢択一式の過去問を通して、より細かな先例の知識等を身につけるようにしましょう。


(3)商業登記法(第28問~第35問)

例年になく、易しくなったと思います。

不動産登記法よりは得点しやすかったという方も多いのではないでしょうか。
商業登記法の多肢択一式で必要とされる知識も、記述式の対策で身につく知識で多肢択一式も解答を導き出せる問題が多いので、記述式の対策を通して知識を身に着けていくようにしていけばいいと思います。

(4)まとめ

午後の部は、不動産登記法と商業登記法の多肢択一式が、例年よりも易しかったとはいえ、民事訴訟法の難易度が上がっていることから、全体的には昨年とおおきく変わらないないのではないかと思います。

不動産登記法と商業登記法は、出題数が多く、実際に試験で細かな知識が問われることが多々あります。
そのため、受験生としてはそれらの知識を入れておきたいところです。ただ、それに時間をかけすぎると、本来押さえておくべき、基礎的な知識が抜けてしまいがちです。細かな知識を追求しすぎて、過去の司法書士試験で問われている知識が抜けてしまうようではよくありません。
午後の部の不動産登記法、商業登記法の多肢択一式の対策としては、いきなり細かな先例を覚えていくのは得策ではありません。
まずは、記述式(申請書の雛形)の学習を通じて、不動産登記法及び商業登記法の基本的な仕組みを理解し、基本的な知識を身に付けることが大切です。
そして、基本的な仕組みの理解と知識が身につけば、細かな先例も覚えやすくなっていますし、知らない先例が出た場合も、解答を導き出せることも増えるからです。

スタディングの受講生の方は、「スマート問題集」と「セレクト過去問集」を解けるようにすることは当然として、解説まで覚えるくらいまで繰り返すようにしてください。これにより、過去に出題されている知識はしっかりと身につきます。
そして、このレベルに到達しますと、自ずと何をすべきかわかってくるはずですので、各自で足りないと思うところの学習を進めていけば大丈夫です。

3. 記述式

(1)不動産登記法(第36問)

記述式の問題を解く手順は、各々、解答手順を確立されていると思います。
私は、
① 問1~問4を読む
② 答案用紙のチェック
③ (答案作成にあたっての注意事項)の確認
④ 別紙の登記事項証明書の確認
⑤ 【事実関係】の確認
⑥ 〔事実関係に関する補足〕の確認
をさっと行い、各問で検討すべき【事実関係】と資料を確定し、解答を作成していきます。この手順は、毎年変わりません。

さらに私が上記の手順で問題を確認していくときに、心がけていることは、「名義変更」に注意すること、法人が出てきた場合は「利益相反取引」を疑うことです。この点については、スタディングの「記述式対策講座」の中でもお伝えしています。
「名義変更」は実務でも重要ですし、司法書士試験でも頻繁に出題されています。「利益相反取引」についても頻繁に出題されているからです。
また、根抵当権が出題された際には、「元本確定の登記」を入れる必要があるか否かに注意が必要となります。登記件数に影響があるからです。
実際に、令和4年度の試験でも「名義変更」が問われていました。また、「元本確定の登記」を入れるか否かを判断させる出題もありました。
今年の問題は、問1~問4までありましたが、各設問が関連しているというよりは、それぞれが独立した出題のような作りになっていましたので、資料を検討するに際しても迷わなかった方も多いのではないかと思います。
では、具体的に各設問を簡単にですが、検討していきたいと思います。
問1は、別紙2-3で露骨に戸籍の附票の写しがついていることから、「名義変更」を問うているのだろうと予測しやすかったと思います。なお、「名義変更」については、平成31年度(根抵当権者)、平成29年度(所有権者)、平成28年度(所有権者)、平成26年度(所有権者)、平成25年度(所有権者)、平成21年度(所有権者)、平成20年度(根抵当権者)で問われています。
問2については、相続に絡む案件で、1件で登記申請が可能か否かの判断をさせる出題でした。配偶者居住権については、初めての出題でしたが、雛形自体は覚えていたという方も多いと思いますので、解答できたのではないかと思います。
問3では、「元本確定の登記」を入れるか否かが問われていました。平成26年度でも「元本確定の登記」を入れるか否かを判断出せる出題がなされており、平成26年度の問題をしっかりと分析していた方は、気付くことができた問題だと思います。
問4は、登記記録を見て「委任の終了」に気付けるか否かでした。出題数を増やすためにとってつけたような出題でした。
全体としての感想は、「元本確定の登記」を入れなくてもいいとの判断ができたか否かがポイントだったように思えますが、例年に比べて解きやすい問題だったのではないかと思います。

(2)商業登記法(第37問)

私は、
① 問1~問4を読む
② 答案用紙のチェック
③ (答案作成に当たっての注意事項)を確認
④ 別紙1と別紙9の会社の登記記録を確認
をさっと行い、各問で確認すべき資料を確定するとともに、各問の解答を作成していきました。
問題文をさっと読み終えた後の感想としては、第1欄の勝負になるということでした。合同会社に関する登記は、多肢択一式の知識としては知っていると思いますが、実際に書いたことはないという方がほとんどだったではないでしょうか?
司法書士試験では、合格レベルになるまで勉強した方でも書いたことがない分野から出題されることがあります。
しかし、書いたことがない分野については、合格する方でも書けている人は多くありません。
過去問及びその周辺知識以外からの出題があった場合は、動揺せずに、他の受験生もできないと考えて、問題を解き進めていく姿勢も大切です。

(3)まとめ

毎年言っておりますが、来年度以降の司法書士試験合格を目指す方は、まずは、設例を通して基本的な雛形を覚えることと、雛形に関連する知識を覚えることです。
その後、令和4年度から平成20年度の過去問を何度も繰り返して知識を身につけることと、資料の読み方などを学んでください。
これだけで合格するために必要な知識は十分身につきます。

令和4年度司法書士試験 今後の日程

  • 令和4年8月15日(月)午後4時
    法務省ホームページに試験問題、多肢択一式問題の正解及び基準点が掲載されます。
  • 令和4年10月11日(火)午後4時
    筆記試験の結果発表等
    筆記試験を実施した法務局又は地方法務局において、当該法務局又は地方法務局で受験した筆記試験の合格者の受験番号を掲示されます。
    法務省ホームページにも、筆記試験の合格者の受験番号が掲載されます。

  • 令和4年10月24日(月)
    口述試験
  • 令和4年11月11日(金)午後4時
    最終合格発表
    筆記試験を実施した法務局又は地方法務局(筆記試験免除者については、口述試験を実施した法務局)において、当該法務局又は地方法務局で受験した最終合格者の受験番号を掲示されます。

    法務省ホームページにも、最終合格者の受験番号が掲載されます。

  • 令和4年11月30日(水)
    官報への公告

    令和4年11月30日(水)の官報に最終合格者の受験番号及び氏名が掲載されます。
山田 巨樹 プロフィール

1974年山口県生まれ。明治大学法学部法律学科卒業。司法書士試験合格後、1998年から大手資格学校にて司法書士試験の受験指導を行う。教材制作、講義、受講相談、質問回答など司法書士の受験指導に関わるあらゆる業務を担当。多くの合格者を輩出する。
その後、大手通信教育会社に入社し、教材の企画・制作、情報誌の編集等を担当する。
大手法律事務所に勤務し、幅広い業務を担当。その傍ら、宅建の養成講座の制作・指導も担当し、多くの宅建の合格者も輩出。
さらに、司法書士事務所を開設し、独立開業の夢を実現。債務整理、相続・成年後見、交通事故、登記など、地元密着型で信頼される事務所として実績を積む。
2014年、「スタディング」を開講していた「KIYOラーニング株式会社」と出会い、同社のノウハウに自らの司法書士合格法を融合させた「スタディング 司法書士講座」を開発。2014年12月末の開講以来、驚異的なスピードで受講者を増やす。「スタディング」で、合格者を多数輩出するために講座の開発に燃えている。