司法書士試験合格後のキャリアパス
一昔前まで、司法書士が目指す道といえば、「独立開業」一択でした。
しかし、昨今は社会構造の変化にともない新しい制度や技術の導入が進み、加えてニーズも多様化しています。
司法書士を取り巻く環境も変化の波にさらされ、独立開業以外にも勤務司法書士や企業内司法書士など、選択肢が増えてきたという現状があります。
事務所の形態としても、単独より複数の有資格者が在籍する司法書士法人も増加し、かつてのように「一国一城」の事務所運営がすべてとはいえません。
それぞれ専門分野を持つ司法書士が、同じ組織で活動する働き方も珍しくないのです。
将来的に独立開業するにしても、まずは司法書士法人への就職、もしくは個人事務所にアシスタントとして入って実務経験を積み、人脈を広げてから独り立ちするという流れが、現在もスタンダードです。
その意味では、試験合格後の最初のスタートラインは、就職活動にあるといえるかもしれません。
司法書士の主な就職先
司法書士の主な就職先として、次の4つが挙げられます。
- 司法書士事務所
- 合同事務所
- 法律事務所
- 一般企業の法務部
ひとつずつ詳しく解説していきます。
司法書士事務所
司法書士事務所は、登記業務を中心とする司法書士業務を取り扱う事務所です。
業務内容は不動産・商業に関する登記手続、供託の手続き、裁判所などへ提出する書類の作成などです。
この他にも身近な法律のトラブルを解決すべく、日常生活における法律相談など多岐にわたり、近年では簡易裁判所での訴訟代理など業務範囲が拡大しています。
事務所によって、取り扱う業務の比重が変わってくるので、自分が身に付けたい業務を扱っているかどうかを事前に調べておくとよいでしょう。
合同事務所
合同事務所とは、司法書士や土地家屋調査士、行政書士、税理士など複数の専門家が、同一の事務所を共有して運営する法律事務所のことです。
複数の専門家が相互に連携し、一貫して業務にあたるため、顧客に対してワンストップでサービスを提供できるという強みがあります。
将来、他士業の資格取得も視野に入れている場合は、合同事務所への就職を検討してみてもよいでしょう。
法律事務所
法律事務所とは、弁護士が法律事務を行う事務所のことを指します。
法律に関する専門知識を持つ司法書士は、法律事務所でも重宝されます。
例えば訴額140万円以下の民事案件や登記の業務は、弁護士だけでなく司法書士も業務の範囲内です。
特に司法書士の専門分野といえる登記業務は弁護士よりも司法書士のほうが詳しいことも多く、弁護士と連携を取りながら司法書士の強みを発揮して活躍できるでしょう。
一般企業の法務部
一般企業の法務部は、契約書のチェックや作成、知的財産権の管理、労働問題の解決など多様な法的業務を担い、企業運営が問題なく進むようサポートする部署です。
自社に法務部をもつ企業でも、司法書士の採用が行われることがあります。
この場合、司法書士としてではなく、司法書士資格を持っている一社員という採用形態になります。
司法書士が自身の有する専門的な知識や技能をうまく活用できれば、企業の法務部において重要な役割を果たせるでしょう。
司法書士が就職活動をする方法
司法書士が一般企業に応募する場合は、通常の一般的な就職活動と同じ流れになりますが、司法書士として事務所などへの就職を目指す場合、以下のような方法があります。
- 各都道府県の司法書士会の求人情報に応募する
- 各事務所などが主催する合同説明会に参加して、応募する
- 就職エージェントに登録し、希望の合った求人先に応募する
- 気になる事務所のホームページなどから求人情報を探し、直接応募する
- ハローワークに登録し、求人情報に応募する
例えば、東京司法書士会のホームページを確認すると、求人情報のページがあります。
司法書士にまつわる求人ばかり掲載されているので、閲覧してみると良いでしょう。
ただし、求人数がそこまで多くないといった懸念点があります。
その他にもインターネットで司法書士の求人を探したり、司法書士に強い転職エージェントに登録したりと、就職活動する方法はさまざまあります。
自分に合った方法で、求人を探してみると良いでしょう。
司法書士の就職活動をスタートする時期
司法書士の就職活動をスタートする時期は、早ければ早いほどよいといえます。
なぜなら、司法書士事務所は一般企業と違い、採用枠が少ないからです。
また、司法書士の就職活動は一般企業の就職活動とは違い、就職活動の開始時期が決まっていないため、早く動けばそれだけライバルたちとの競争に巻き込まれにくくなります。
具体的な時期としては、10月上旬の筆記試験合格発表後に就職活動を始めるのがよいでしょう。
司法書士が就職活動を成功させるコツ
少しでも採用確率を高めるためにも、計画・準備を綿密に行ったうえで就職活動をスタートしてください。
活動の準備段階として、司法書士事務所や業界のリサーチは最低限行いたいところです。
また、自己アピール効果を高めるための履歴書・職務経歴書の作成にも、力を注ぎましょう。
司法書士資格を生かしてどんな貢献ができるか、採用担当者の心に響くアピールが大切です。
コンサルタントのいる人材紹介サービス会社に登録するのも、ひとつの方法です。
キャリアプランから自己分析、相性のよい事務所探しまで、トータルで就職活動をプロデュースしてくれます。
自力での事務所探しが困難な方、計画・準備に時間を割く余裕のない方は、人材紹介サービス会社の利用を検討してみると良いでしょう。
司法書士事務所に就職できる人の特性
資格があったとしても、司法書士事務所に就職するのは簡単ではありません。
そんな中でも、登記関係の実務経験や不動産・金融機関などで働いた経験を持つ方は、就職できる確率も比較的高いといえるでしょう。
司法書士補助者からの昇進
司法書士補助者として働いてきた方は、資格取得後に司法書士チームの一員として昇格が許されるかもしれません。
法務局への書類提出や、クライアントへ提出する書類作成を任されているだけに、登記・供託業務の事務処理スキルも身に付いていることでしょう。
また、司法書士補助者は電話対応や接客など秘書が担当する事務も担います。
雇用者としては、現場の空気を知っていて、かつクライアント情報にも精通している人材に業務を引き継がせるほうが安心もできるでしょう。
試験に合格後、勤務先の司法書士事務所からそのまま採用となってもおかしくありません。
不動産会社・金融機関出身者
不動産会社や、銀行・信用金庫などの金融機関を顧客に抱える司法書士事務所も少なくありません。
不動産会社に対しては登記の手続き代理、金融機関に対しては相続時の戸籍収集の代行や銀行員向けセミナーの開催などのサービスを提供することが多いでしょう。
地元の企業・関係機関を中心に、これらの業種と密接な関わりを持つのが司法書士という専門家の特徴でもあります。
これらの企業・関係機関で働く中でも、とくに営業マンの方は司法書士と交流したり、取引したりする機会に恵まれるため、資格取得後は司法書士事務所への転職が有利となってもおかしくありません。
事務所としても不動産会社・金融機関の関係者に顔の広い新人がいれば、新たな業務提携やサービスの継続利用につながるメリットも生まれます。
そのうえ、これらの業種出身者は公的機関を相手にする仕事にも慣れていますので、すんなり実務に慣れてくれる可能性も高いといえます。
行政書士や宅建、土地家屋調査士などの資格も持っている
行政書士や宅建、土地家屋調査士など司法書士と親和性の高い資格を同時に持っていれば、就職活動に弾みがつくでしょう。
法律系や不動産系の専門資格は司法書士と必要知識が重複する部分もあるため、戦力として認められる公算も高いといえます。
以下は、司法書士とのダブルライセンスでおすすめの資格です。
- 行政書士
- 宅建士
- 土地家屋調査士
- 社会保険労務士
行政書士と司法書士は、相続や遺言書作成、帰化申請に関する書類作成代行などの業務分野が共通しています。
宅建士は不動産関連の法律に精通しており、司法書士との関連性も高いといえます。
また、土地家屋調査士は司法書士と同じく登記の専門家です。
司法書士とのセットで、不動産登記の知識を強化できるところがメリットです。
社会保険労務士は成年後見業務や相続登記など、司法書士業務と共通点も少なくありません。
特定社会保険労務士は、認定司法書士と同じく、簡易裁判所が処理する訴訟事案を担当できます。
司法書士の平均年収
司法書士の平均年収は、働き方によって大きく異なります。
働き方は主に2つあり、司法書士事務所に勤務する「勤務型」と、独立して司法書士事務所を構える「開業型」です。
勤務型の場合、年収は事務所の規模や勤務地、勤務先の報酬体系によってさまざまです。
次のグラフは、勤務型の司法書士の年収分布を表しています。
※日本司法書士会連合会「司法書士白書2021年版」の調査結果をもとに作成
日本司法書士会連合会「司法書士白書2021年版」によると、経営者司法書士ではない司法書士の年収は300~600万円が最も多いことがわかります。
開業型の司法書士の平均年収は約454万円です。
一方で、1割以上の方(無回答を除く)が年収1,000万円以上を得ています。
勤務型、開業型ともに、実力次第では高額所得を目指すことが可能だといえるでしょう。
【合わせて読みたい】司法書士の平均年収はどれぐらい?働き方別の年収や年収アップの方法を紹介
将来司法書士として独立したい方の就職活動のポイント
司法書士として将来独立したい場合、就職活動で押さえるべきポイントが2つあります。
1つ目は、独立を目指していたとしてもいきなり独立するのではなく、就職を経て経験やノウハウを積んでからの方が現実的だということです。
いきなり独立するといっても、司法書士として独立開業するには、事務所開業地の選定、準備資金の確保、仕事に必要な申請手続きなど最低限必要な準備をしなければなりません。
最初の頃は人脈が少なく、仕事を獲得するまでには時間もかかるでしょう。
たとえ運よく仕事を獲得できたとしても、一定の知識やスキルが身に付いていなければ、お客様からの信頼を得ることは難しく、実務経験ゼロでの開業は予想以上に厳しいものとなります。
2つ目は、就職活動において「将来的には独立したい」という意思を正直に伝えることです。
面接の場で、「将来独立する考えはありますか?」「うちの事務所に何年くらい勤務するつもりですか?」といった質問を投げかけられることがあるかと思います。
心の中では独立すると決めていても、就職したいがためにウソをついてしまうと、後からトラブルに発展する可能性があるので注意しましょう。
【合わせて読みたい】司法書士に合格!独立・開業のためにやるべきこと
まとめ
司法書士の就職先や就職活動のポイントなどについてご紹介しました。
重要なポイントをおさらいしておきます。
- 司法書士の就職先は、司法書士事務所が最も一般的
- 司法書士の就職活動は、一般的な就職活動と同じ流れ・方法で行う
- 就職活動の開始時期は、10月上旬の筆記試験合格発表後がおすすめ
- 今までの職歴や資格が司法書士の就活に役立つケースもある
- いきなり独立開業を目指すのではなく、就職して実務経験を積むのがベター
司法書士の資格は、年齢や学歴、性別に関係なく誰もが受験可能な資格です。
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